11.閑話:商人バートのゆううつ
なぜあんな男にオレのソフィア姫は惚れたんだろうか……。
オレがソフィア姫と出会ったのは、中二の冬休みだった。
そのころオレは、リズムゲームにハマっていて、いつもゲーセンでパフォーマンスを行なっていた。
黒い革手袋をつけ、踊るかのごとく画面を叩いていく。するとオレの周りには人だかりができるのだ。
オレは今、他人の視線を集めている!
この快感がたまらなくてどんどんテンションが上がっていた。
曲の最後でオレを見ているであろう観客に向かって決めポーズを見せようと目をつむりながら、くるりと振り返った。
両腕を前に出し、空から降るナニカをつかむように指を広げ、手の甲を見せるポーズをとった。
その瞬間、音が消えた。
異変に気付いて目を開けるとそこにはオレよりも少し幼い翡翠色の髪をした美少女が立っていた。
「とてもカッコいいポーズね」
美少女は少しだけ首を傾げていたが、そう言って笑みを浮かべた。
頭まで血が一気に走り抜け、顔が赤くなるのがわかった。
アニメだったら、雷に打たれてるようなシーンだろうな。
オレはその美少女に一目惚れした。
「あたくしの言葉がわかるかしら?」
耳に聞こえてくるのは全く違う単語なのだが、脳内で自動変換されて意味のある言葉として受け取っているという不思議な感覚だった。
話しかけられたことが嬉しくて、頭をブンブン振りながら頷くと美少女もコクリと頷いた。
「では、あなたの名前を教えてくださる?」
「ば……と……!」
「バートというのね。良い名前ね」
緊張のあまり声がかすれてそれしか言えなかったのだが、美少女は間違ったまま覚えてしまった。
本当は馬場俊明と言おうとしていたんだが、バートという名もカッコいいからいいか。
オレは今日からバートだ、バート。
「あたくしは、パマグラニッド帝国第一皇女ソフィア・タルクィーニ・パマグラニッドよ」
ソフィア姫はその場でスカートの端をちょこんと摘み軽くかがんだ。
これはあれか! アニメで見たお姫様っぽいキャラがする礼というやつか!?
そうなるとオレはここで騎士っぽいポーズをとらねばなるまい!
オレはすぐにソフィア姫の前で跪き、アニメの中の騎士が行う「手の甲にキス」というのをやってみせた。
「まあ! ステキ! あたくしだけの騎士様みたい」
「オレは今日このとき、ソフィア姫に生涯を捧げると誓います」
うろ覚えだったが、たしかこんなようなセリフを言ってアニメの騎士はお姫様を陥落させてたはずだ。
ソフィア姫はオレの言葉を聞き、ほんのりと頬を赤らめていた。
ふっ! 決まったな。
これでソフィア姫はオレのものだろう!
その後、話を詳しく聞いたところ、オレは異世界に召喚されたらしい。
ゲーセンから見慣れない豪華な部屋に変わった時点でそうじゃないかと思っていた。
家に帰れないと聞いたときは驚いたが、ソフィア姫に呼び出されたんならまあいいかとそのときは思った。
マンガやアニメみたいに「勇者として召喚」というわけではなかったのは救いだった。リズムゲームは得意だが、運動は苦手だからな。魔王を倒す体力も筋力もない。
ソフィア姫のススメで商人の養子になった。
滅多に養子になんてなれないのだが、オレには日本で学んだ知識がある。っていうか、掛け算を披露しただけでコロッと態度が変わるとは思わなかった。
やっぱ、「異世界は遅れてる」ってやつだな。
あれから十年……ソフィア姫は十九歳にオレは二十四歳になった。
ソフィア姫は次期女帝として勉学に励むかたわら、オレを城に呼び出し、日本で学んできたことを聞きたがった。
その間、オレなりのアプローチをしてきたんだが、ソフィア姫にはまったく通じなかった。
ソフィア姫はオレのことを絶対裏切らない従者としてしか見ていない気がする。
十年経ってもソフィア姫に対する想いは変わっていないから、「絶対裏切らない」の部分はあっているが……。
だが、セリーヌ王国の第二王子であるジルクスという男に夢中になっているソフィア姫にはモヤモヤとした黒い感情が浮かぶ。
セリーヌ王国ごとその男を消してしまえば、このモヤは晴れるだろうが……ソフィア姫はどう思うだろうか。
バートは転移者でした
転移者特典として自動翻訳がついてるっぽいですw




