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08.侍女の配慮が無駄に終わりました

 ミアが婚約者のご機嫌伺いという名目で王宮へ来た日のこと。


「ジルクス殿下……差し出がましいこととは思いますが、本日は応接室以外でミア様と会われたほうがよろしいかと」


 そう言ったのは小さいころから世話になってる侍女で、珍しく眉間にしわを寄せていた。


「理由は?」


 侍女は一瞬だけ迷った顔をしたあと、また眉間にしわを寄せて言った。


「応接室がある南の棟は、ソフィア姫のお部屋が近すぎます」


 その言葉だけで、侍女が何を言いたいのかわかった。


 ソフィア姫が王国に来てから、侍女たちは本当に苦労しているらしい。

 いきなり来たから部屋の準備が大変……なんてのはまだかわいいほうだったようだ。


 姫は専属の侍女を連れずにセリーヌ王国までやってきた。侍女がいなければ、着替えもままならないだろうとのことでこちら側で世話をする侍女を用意した。

 その世話がとんでもなく大変らしい。

 正確には世話がではなく小言が……。

 世話を担当している侍女たちによると、着替えの手伝い一つ一つに注意が入るらしい。化粧の仕方にも、ベッドメイキングにも、王宮にいる侍女の行動はすべて「なっていない」といい、文句をつけてくるのだとか。


 よくよく聞いてみると帝国でのやり方を押し付けられているだけで、侍女たちに何ら不備はないようだ。


 ソフィア姫って次期女帝としての教育ばかり受けていて、国外にはあまり出ていないのかもしれない。

 つまり井の中の蛙ってことかなぁ。


「わかった。今日は薔薇が咲き誇る庭園(ローズガーデン)で会うことにするよ」

「かしこまりました。お茶の用意をさせていただきます」


 侍女はホッとした表情になるとそそくさと退室した。

 ボクはミアが来るまでの間、書類仕事をこなしていた。


 一応、ボクだって王宮にいる間は王族としての務めを果たしてるんだよ!?


 書類を読み、書き足したりサインをしていたら、イヤーカフが熱くなり、ミアからの念話が頭の中に響いた。


【ジル、ごめん。少し遅れるね】

【ゆっくりでいいよ】

【ありがと】


 普段ならもっと申し訳なさそうに言ってくるのに、今日は早口で素っ気ない口調に感じた。

 

【ミア?】


 声をかけると少ししてから嫌そうな声で返事がきた。


【ごめん、ソフィア姫と出くわしちゃって……】

【今すぐ迎えにいくから!】


 ボクは念話を切って早足で歩き出した。


 出くわしたっていうより待ち伏せされてたんだろうなぁ。

 こめかみを押さえつつミアがいるであろう場所へと向かう。

 以前渡した婚約指輪があるため、ミアの居場所はすぐにわかる。

 あの角を曲がった先にある階段の近くだ。


 曲がり角に近づくにつれて甲高い声が響いてきた。


「先ほどからあなたのこと見ておりましたの。貴族の令嬢であるというのに、その歩き方はなんなんですの? 頭の先から足の先まですべてに神経を使うものではないんですの?」


 これって侍女が「なってない」という理由で責められていたのと似ている。


「それに身につけている飾りや衣装も……まったく似合っておりませんの。とても滑稽ですわ」


 ミアは一度たりとも似合わない服を着てきたことはない。むしろ、ぼく好みの格好をいつもしている。


「あなたのような方がジルクス殿下の婚約者ですの? ジルクス殿下とは不釣り合いですわ」


 クスクスという笑い声とともにソフィア姫はどんどん一人で話していく。


「あたくしのように美しくて豊満な体を持ち、頭脳明晰で、次期女帝という権力を持つ者こそ、ジルクス殿下には相応しいのです!」


 どうやったら、こんなに自意識過剰な人間が出来上がるんだろうか。本人も努力してきたかもだけど、周りの人間が持ち上げまくったから天狗になったとしか思えない。


「どうしてもジルクス殿下と離れたくないと言うのであれば、こちらにも考えがありますわ」


 ソフィア姫は意味ありげに言葉を区切った。


「あたくし、心は広いほうなんですの。あなたを側室として迎えることを認めましょう」


 ぼくはその場で頭に血が昇るのを感じた。

 ミアを側室として迎えるということは、本妻はソフィア姫ということか。

 ふざけるな。

 ぼくはミア以外を妻に迎えるつもりなんてない!


 イラッとした気持ちのまま角を曲がると、下を向いた状態のミアと頬を紅潮させて満足そうな笑みを浮かべているソフィア姫がいた。


「まぁ、ジルクス殿下! お会いしとうございましたの!」


 ボクに気づいたソフィア姫がそう言った。

 一瞬だけソフィア姫の顔を見たあと、ミアのもとまで歩き、ミアに向かって微笑んだ。


「待っていたよ、ミア」


 そしてソフィア姫の目の前で、ミアの手の甲にキスをして、腰に手を回した。

 ミアは少しだけ顔を上げて一瞬微笑むと素直にボクにしなだれかかった。


「まぁ!」


 ソフィア姫は顔を真っ赤にしてそう言った。


「急いでおりますので、失礼します」


 ボクはそれだけ言うとミアとともにその場を離れた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

11/24(金)に「生まれ変わったら第二王子とか中途半端だし面倒くさい」が無事、発売されました!

特典ついては活動報告に記載してあります


発売までたどり着けたのも、ここまで読んでくださったなろう読者さんたちのおかげです!

本当にありがとうございます!

これからもがんばっていくので、ゆるゆると応援お願いします!

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