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21.閑話:王と王太子と重臣と

 旅の疲れもあるだろうとジルクスを部屋に帰した後、会議室に重臣たちを呼び出し話し合うことにした。


「ジルクスがロックハンド領で入手した話によると……」


 帝国が鉄と食料を欲しているという噂は以前からあり、影からの報告でただの噂であるとされていた。だが、ロックハンド領に現れた商人は実際に鉄と食料を購入して去っていったようだ。

 戦争を示唆するような噂を自ら広げるという行いに対して、理解ができない。


「今後も変わらず、国境付近は監視を強めること。警戒を怠らないように」

「「「はっ」」」


 重臣たちからのしっかりとした返事を聞き、別の話へと変わる。


「では、ロックハンド領ダルトリー侯爵家に対する処分について決める」

「領地を混乱に陥れたのですから、それ相応の処罰が必要でしょう」

「降爵は免れないかと」

「他の貴族家に領主を任せたほうがよいのではないか」


 重臣たちが思い思いの言葉が発せられる中、会議に参加していたマインが片手を小さく挙げて聞いてきた。


「発言してもよろしいでしょうか?」

「よい」


 発言を許可すると重臣たちは黙り、マインの言葉に耳を傾ける。


「ロックハンド領は帝国との境に位置する領地です。別の貴族家を領主に据える場合、後任の手配などで時間がかかり、国境の監視・警戒が緩んでしまう可能性があります」


 マインの言葉には一理ある。重臣たちもマインの言葉に大きくうなずいている。


「ですが、今回の件は失態であるのでなんらかの処罰は必要です。そこで、ダルトリー侯爵家は降爵させるだけで領主の任はそのままとし、領主に対して監視役を用意する。その監視役は軍務の者から選別し、国境監視役も兼任させる。監視役と称した騎士も数名配置させる。というのはいかがでしょうか?」

「つまり最初の話にあった、国境付近の監視を強める意味合いも含めるということですか」

「帝国を刺激することなく、軍務の者を国境付近に置くというのですね」

「そうです。帝国から何か言われたとしても、領主を監視するために置いていると答えるだけです」


 重臣たちはマインの話した内容に同意し、領主に対してはそういった処罰をすることとなった。


「ダルトリー侯爵本人にはそのような処罰をするとして、夫人や子息に対してはどうだ?」


 領主が病気や怪我などで政務が行えない場合、代理を立てて領政を執り行う。今回の件は世間的には病気扱いであったのにも関わらず、夫人や子息が勝手な振る舞いをしたことで、領地は大混乱に陥ったのだ。

 二人にも処罰を行う必要がある。

 と言っても、夫人は勝手な振る舞いをしたが子息は夫人の行いを止めるための行いをしたのだと聞いている。


「領地が安定するまでの間、夫人にはお茶会の主催および出席の禁止を命じるのはどうでしょうか?」

「それでは情報収集不足になるのではないか?」

「領政に必要な情報はほとんどが夜会か紳士クラブでのものだろう。夫人には夫の付き添いでのみ夜会に参加できるようにすればよいのではないか」

「お茶会で得られる女性特有の情報を収集できないのは相当な痛手となるでしょう」

「厳しすぎるのではないか?」

「個人的な茶会には関与しないとすればよいと思われます」


 意見がまとまったので、全員を見回して告げる。


「夫人については領地が安定するまでお茶会の主催および出席の禁止を命じる。個人的な茶会には関与しない。また夫の付き添いで夜会に出席するのは可能とする。では子息は?」


 子息に関しては真っ二つに分かれる形となった。


「子息は次期領主なのですから、監視のもと領主補佐役に任命するのはいかがだろうか」

「ロックハンド領の領主は今の領主の代で終わりにすべきだ」

「それでは、後任者をロックハンド領で補佐役にするのか」

「その選定には時間がかかります」

「時間がかかっても新しい領主を考えておくべきでしょう」

「子息は夫人の行動を何度も諌めようとしてあるいは不法な税率を引きさせたりしていたのです。処罰としては重過ぎるのではないか?」

「「う~ん」」

「陛下のご意見を聞かせていただけませんか?」


 珍しく俺のほうに意見を聞きにきた。


「領主の監視役は軍務でも鬼と呼ばれている男に任せようと思っている。あやつの下で補佐役をするのであれば十分に処罰に値するだろう」

「「「たしかに!」」」

 

 軍務でも鬼と呼ばれている男は、訓練が厳しいことで有名な男だ。規律に対しても一切の誤魔化しを許さない。その男は脳みそのほうもしっかりしているので監視に最適だろう。


「では、子息に対してはそのようにする」

「「「はっ!」」」

「では最後に、今回ロックハンド領を麻痺させた主犯であろう商人についてだ」


 ジルクスが鑑定によって知りえた情報……名前や転生者または転移者であろうということを伝えると重臣たちの表情が一気に変わった。


「その商人が本当に転生者・転移者であるならば、取り込むのが一番なのではないか?」

「わが国はその商人がいなくとも、発展し続けている。わざわざ転生者・転移者の恩恵に預からなくてもよいのでは?」

「帝国のソフィア姫を崇めている商人だそうだ。そんな者をわが国に取り込んだとて裏切られるだけだろう」


 重臣たちがいろいろな意見を交わしていたが、正直なところ俺自身は商人をこの国に取り込むつもりはない。転生者を当てにせずとも国は発展しているし、公開はしないが転生者であるジルクスがいる。それだけで恩恵は得られるのだ。無理する必要はない。


「商人を取り込む気はない。そんな者がいなくとも、お前たちの知恵や知識があればわが国は発展し続けるだろう?」


 そう重臣たちに言えば、深々と頭を下げてきた。


「商人については呪い返しを受けた印があるはずだ。影に調査させることとする。以上だ」


 締めくくりの言葉を聞き、すぐに会議室から出た。普段であれば、誰も追いかけてくるようなことはないのだが、今日は珍しく後ろに人の気配がした。


「……父上」


 声をかけてきたのはマインだった。しかも、国王としてではなく父として話をしたいようだ。


「なんだ」

「父上はジルクスを利用しようとは思わないのですか?」

「思わないな」


 はっきりと答えると嬉しそうなマインの顔が見えた。


「私も思っていません。ジルクスは私たちがどうこうしなくとも好き勝手に動いて、自然と恩恵をもたらしてくれるでしょう」

「ああ、そうだな」

「むしろ、嬉々として恩恵をもたらしそうです」

「厄介ごとも持ってくるだろうがな」


 ニヤっとした笑みを浮かべるとマインは小さく首を傾げていた。

これで4章〆です

5章のプロットはだいたい固まってるけれど、今までと同じように亀進行になります

(ドロドロ甘々な展開予定です!w)

言い訳するならば、書籍作業が……夏はイベントが多くて……中の人がポンコツすぎて……

いえ、がんばりたいと思います、ハイ

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