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本音

 勤勉の都にある昭和風の喫茶店。


 電柱やら電線があって、より現代に近い感じを受ける。


 店内には音の割れた音楽がラジオから聞こえ、レトロな感じを演出していた。


 ポン助たちからすれば随分と古い時代――クラシックとも言える。


 そんな店内にはどの席にも灰皿が置かれている。


 分煙など考えられていない時代を再現しているのだろう。


 アンリは、事務所での出来事を話し終えると薄ら笑っていた。


「あたしって馬鹿なんだよね。才能の検査の時に、問題があるレベルじゃないけど将来的に学問の分野で活躍は無理だろう、って。そこから両親も周りも『お前は馬鹿なんだから』って言うんだ」


 アンリがモデルにこだわっていたのは、初めて人に認めて貰えたからだ。


「妹も弟もいるんだけど、二人とも出来が違うって比べてくるんだよ。スカウトされて、それがアルバイトで認められて……ようやくあたしだって頑張れるって思って」


 才能が分かるというのは、持っている者からすればありがたいだろう。


 自分が進みたい道と、持っている才能が役に立つなら幸運だ。


 しかし、自分が好きではない道を進むことを強要されることもある。


 アンリのように才能がないと人生を諦めるに等しかった。


 生まれた時に勝ち組と負け組が決まっているような世界だったと、ポン助はこの時に思い出すのだ。


(ゲームだとレベルとか頑張りでなんとかなるけど、現実はそうじゃなかったよな)


 楽しくて忘れていた。


 忘れていたかったのだ。


 アルフィーが慰めようとして口を開こうとすると、マリエラがそれを止めた。


「なんですか?」


 不満そうなアルフィーにマリエラは言う。


「あんた、今まで成功しかしてこなかったでしょ。こういうの、あんたみたいな奴から言われると腹が立つんだよね」


 アルフィーが立ち上がる。


「どういう意味ですか! 才能があろうとなかろうと、努力で埋まる事だってあります。実際、才能が足りなかったのを努力で補った人だって――」


 マリエラが鼻で笑う。


「それ、そもそもなんとかなる才能があったからだよね? その話、私だって知っているよ。何度も本を読んだ。結構な進学校だったけど、受験した奴は元から進学校に行けるだけのレベルだったんだよ」


 アルフィーがマリエラに言い返すのだ。


「それでも努力の結果ですよ! やれない事なんか――」


 アンリが笑う。


「あたしのレベルを知っても同じ事が言えるの? 普通レベルじゃないんだよ。二つも三つも下なんだ。努力? 馬鹿じゃないの! やってみようと思ったよ! 自分でも頑張れば出来るって証明しようとしたよ!」


 ポン助がアンリを落ち着かせようとするが、アンリは止まらなかった。


「小学校の時だ。頑張ってテストで百点を取った! その時、両親や周りが私になんて言ったか分かるのかよ!」


 アルフィーがアンリに気圧されながらも。


「が、頑張ったね、とか」


「――外れ。カンニングをしたって決めつけられて説教だ。馬鹿な上に卑怯者扱いまで加わった」


 才能重視。


 それは本人だけではなく、社会や周囲、両親たちも同じだ。


 ポン助はまだ恵まれている。


「スポーツは良いさ。成績も良かったよ。けど、それで金を稼げるレベルにはなれない。芸術分野? 普通。普通過ぎて笑える。……こんなあたしが何を頑張ればいいんだよ。簡単に努力なんて言うんじゃねーよ!」


 アルフィーは恵まれている。


 それはリアルを知っているポン助だからよく分かる。


 家柄、才能、容姿……全て揃っているのがアルフィーだ。


 多少、性格に難があっても問題にならないとポン助は思っている。


 マリエラも同じだったのか、アルフィーを責める。


「結局さぁ……あんた、恵まれているから分からないんだよ。何かを諦めた事もないのに偉そうに言わないでよ」


 アルフィーが俯くと、ポン助は立ち上がった。


「みんな、取りあえずここまでにしよう。取りあえず――」


 アルフィーがマリエラに跳びかかった。


 胸倉を掴み椅子から押し倒してマウントポジションを取る。


「は、離せ!」


 暴れるマリエラに、アルフィーは顔を近付けた。


「私が諦めたことがない? 恵まれている? ふざけないでくださいよ。遊ぶ時間なんてほとんどない。朝から晩まで予定が詰まって、貴方たちのように自由もない。最初から夢を見る機会も与えられなかった! 貴方がアルバイトやら休日で青春を謳歌している時も、私はずっと決められた事をやっているんですよ」


 アルフィーから見れば、相応の努力をしている。


 それを恵まれているから分からないと言われれば、腹も立つのだろう。


 結局――才能が分かったから幸せになれるとは言えない。


 恵まれていても、途中で諦めるしかなくても、元から希望がなくても人は不満なのだ。


 マリエラも言い返す。


「甘えんなよ。あんただけが努力しているみたいに言いやがって。それが一番――」


 ポン助は拳をテーブルに振り下ろした。


 喫茶店の中に次々に警告文が表示され、周囲のNPCたちの視線を集める。


 ポン助は怒気を放つ。


「……僕は止めろ、って言ったんだ」


 アルフィーもマリエラも、怒気を放つポン助から視線を逸らしつつ離れる。


 アンリも本気で怒っているように見えるポン助を前に、震えていた。


 巨漢――二メートルを超える筋骨隆々のオークが怒りを露わにしている姿は、リアルで見れば恐怖だろう。


 気まずい空気が流れる中、そろりからメールが届く。


 それは、杏里アバターを使用しているプレイヤーと連絡がついたという報告だった。


 そろりは予約をしてくれたようで、探す手間が省けた。


「……リアルの二十二時に一度ログインをする。僕はもう時間もないからログアウトするよ」


 アンリは俯いていた。


「話を聞いていたの? もう意味なんて――」


「いいから来るんだ。必ず来るんだ」



 目を覚ますと時間は朝の六時だった。


 明人は「やってしまった」と呟く。


 今日は休日でアルバイトもない。


 八雲や摩耶と顔を合わせなくていいと思えばありがたいが、このまま気まずい雰囲気というのも問題だ。


 リアルに影響が出てしまう。


「みんな色々と不満を持っているんだな」


 改めて確認すると当然だが、どこかで他人はもっと恵まれていると思っていた。


「誰だったかな? 昔、才能さえ分かれば誰もが幸せになれる社会が来る、って言った人がいるな」


 無駄な努力をしなくても良い世界が来る。


 親が子供に期待をかけ、人生を駄目にする事もないと言っていた。


 だが、結果的に人は才能を知った事で限界を知る。


「……どうしようかな」


 雰囲気を悪くしてしまった。


 そんな時だ。


 明人は部屋の中にある大きな業務用VRマシンを見た。


「……あれ、まだ効果があるのかな? いや、それ以前に」


 もしもなりたい自分がいるのなら、叶えてしまえば良いのではないか? 明人はそう思うとヘッドセットを外して立ち上がるのだった。



 現実時間の二十二時にログインをすると、そこにはアンリがいた。


 周囲の雰囲気がまるで違うように見える勤勉の都。


 プレイヤーたちはどこか凶暴そうに見えた。


 派手な武器、派手な鎧、刺青やタトゥーを施しているアバターが多い。


 本当に雰囲気が違っていた。


 アンリは元気がない。


 合流すると、そろりから受け取ったメッセージ通りの場所へと向かう。


 ポン助の後ろをアンリが歩いていた。


「……もう意味なんかないのよ」


 だが、ポン助は。


「意味ならある。ぶん殴れば分かる」


 用意した課金アイテムは、相手に渡すための物だ。


 手ぶらという訳にもいかない。


 そのまま指定された通りに入っていくと、同じように路地を進むプレイヤーたちの姿があった。


「今日はどの子にする?」

「新人の子は?」

「あいつ駄目。サービス悪いからよ」

「杏里くらい真面目にやって欲しいよな」


 アンリは自分の名前に反応したのか、肩がピクリと動いて足を止めた。


 ポン助がステータス画面を確認すると、ノイズが発生している。


 プレイヤーエリアが近い証拠だ。


「こっちだ」


 無理やりアンリの手を引いて進んだ場所には、大勢のプレイヤーたちが歓楽街を作って楽しんでいた。


 酒、タバコ、様々な違法データを楽しんでいる妙に煙に包まれた場所だ。


 ポン助もアンリも顔をしかめ指定された場所に行くと、店に到着するのだった。


 店員のアバターがポン助たちを見ると手で止める。


「お客さん予約の人?」


 ポン助は配布された番号を口にする。


 だが、店員は困った顔をする。


「困るんですよ。二人で相手にするとか聞いていないし、そういうのは事前に話をして貰わないと――」


 黙って課金アイテムを店員に突き出す。一つで結構な値段がする素材アイテムに、店員は態度を変えた。


「次回から気を付けてくださいね!」


 受付では料金となる課金アイテムを渡す。


 リアルマネーなら数千円。


 これが安いのか高いのかはポン助に判断がつかない。


 そして、受付でいくつか確認を取ると、店員は困惑していたが頷いていた。


 部屋に案内されると、待っていたのは青い髪をした杏里だった。


 プレイヤー名は【ホタル】。


 部屋に来る前に二人いると聞いていたのか、驚いた様子もなかった。


 可愛らしい笑顔を向けてくるホタルだが、ポン助を見る目が少し困っていた。


(まぁ、オークの外見なら仕方がないよな)


「ホタルです! 今日はよろしくお願いしますね」


 可愛らしく身をよじり、指先で両頬を突いていた。


 声帯データまで杏里そのもの。


 これは似ていると騒がれても無理はないと思った。


「今日はちょっと話があるんですよ」


 ポン助が切り出すと、ホタルは首を傾げて困ったような顔をする。


「え~、もしかしてスカウトさん? それとも店外のお誘いかな? 急に話をされても……え?」


 ホタルが驚いていた。


 目の前に浮んだのは決闘の申し込み画面。


 出したのはアンリだ。


 かぶっていたフードを脱ぎ、そして自分と同じ姿をしたアバターを睨み付けている。


「……やっぱり気が変わった。あんたはあたしの手でボコボコにしてやる」


 ホタルが焦って外に連絡を取るが、既に料金は貰っているので決闘を受けろと言われているようだった。


 ホタルが困惑する。


「ちょ、ちょっと待って貰えますか。私、そういう趣味じゃないって言うか~。もっと楽しいサービスで満足させたいな」


 作った笑顔を見て、アンリはホタルの髪を掴んだ。


「いいからさっさとしなよ。店員には確認を取ったんだ。死なないルールでやるなら好きにして良い、ってさ」


 ホタルが冷や汗をかきながら、そのまま決闘の申請を受ける。


 すると、二人を中心に決闘フィールドが発生した。


 他には誰も手を出せない中、アンリがホタルの顔に拳を叩き込んだ。


 馬乗りになり何度も殴る姿は、ポン助から見ても恐怖だった。


「あんたのせいであたしは――あたしはぁぁぁ!!」


 程々のレベルしかないホタルのヒットポイントはすぐになくなり、そして勝敗がつくと二人は強制的に距離を取らされた。


 アンリは肩で息をしている。


 ボコボコにされたホタルは、顔を押さえながら笑っていた。


「あ~あ、ボコボコだ」


 その口調は杏里の声を借りているが男の口調だった。


「このアバターには稼がせて貰ったのに。何? 杏里にリアルで恨みを持っている人? だったら良かったね。このアバター、もう人気も落ち目だから変更するんだ。スッキリしたでしょ」


 杏里が口を開こうとするのを見て、ポン助が口を押さえた。


 課金アイテムを投げて渡す。


「用件は終わりだ。もう帰る」


 ホタルが回復魔法を使ったのか、ボロボロになった顔が元通りになる。


「金払いが良いね。今度サービスするから遊びに来てよ」


 アンリが怒鳴った。


「二度と来るか、この糞野郎!」


 ホタルはずっと笑っていた。






 勤勉の都から希望の都に来たポン助とアンリ。


 神殿に入ると中はプレイヤーで溢れていた。


 アンリはどうしてこんな場所に来るのか分からなかった。


 ただ、心なしか顔はスッキリしている。


「なに? 教会? 愛の告白とか困るんですけど」


 冗談を言うくらいには元気を取り戻したらしい。


(元気になったなら良いか)


 ポン助はアンリに言うのだ。


「所詮ゲームだ。なんの価値もない、って言う人が大勢いる」


「何? 意味が分からないんだけど」


 ポン助が話を始めると、早速意味不明と言い切るアンリにポン助は頭を抱えたくなった。


 だから、大事な話だけをするのだ。


「今のアバターは攻略目的の設定にしている。アンリさんの意見なんか聞かないで作った」


 それも仕方がなかった。


 アンリはゲームのことなど知らず、設定をポン助たちに丸投げにしていたのだから。だが、ゲームをやる内に基本くらいは覚えていった。


「だから? もうゲームとかするつもりも――」


「続けなよ。なりたい自分になれるから」


 ポン助の言葉を聞いて、アンリは唖然とした後に笑い出した。笑い出したアンリを見て、周囲のプレイヤーたちがチラチラ見て冷やかしの声をかけてくる。


「何それ? 意味分かんない」


 ポン助は顔を赤らめた。


「ゲームくらい、好きな自分になれば良いって言っているんだ」


 アンリは笑い終わると、顔に手を当てていた。


 表情が見えないし、フードをかぶって見せないようにしている。


「……あたし、馬鹿って言われたくない」


「頭の良いジョブなら魔法使いや僧侶系がお勧めだ。槍を使うならそのまま僧侶で良いかも知れないね」


 バードガールは槍などを使うと補正がかかる。


「嫌なら種族から変えればいい」


 アンリは泣いているのか、手で涙を拭っていた。


「別にいい。気に入ったから」


「そ、そう」


 ポン助は言葉が出てこない。


 だが、アンリはそのままレベルリセットの装置がある場所に歩いて行く。


 ログアウトしないという事は、ゲームを続けるつもりなのだろう。


「すぐに戻ってくるから逃げんなよ」


 言われて、ポン助は頷くのだった。



 杏里が所属していた事務所。


 杏里を馬鹿にした男性と、杏里を担当していた女性が廊下を歩いていた。


 女性は溜息を吐く。


「厄介ですね。周りに弁護士に相談するように言われたら、あの子は本当にそうしますよ。行動力はある子でしたから」


 男性は口数が少ない。


「そうですね」


 女性は続ける。


「良かったんですか? 杏里、うちの稼ぎ頭になったかも知れませんよ。手を引くにしても強引すぎません?」


 訴えられると問題になるのは分かっている。


 だが、そんな事をしても杏里は芸能界に入る事など出来ない。


 何かあればすぐに訴える。問題を起こす人物と警戒されてしまうためだ。


 もっと人気があれば別だが、デビュー前のアマチュアである。


 二人のところに杏里の後輩が挨拶に来た。


「おはようございます! 二人ともこれから会議ですか?」


 男性は笑顔を向けた。


(分かっていてあざとい子だよね。まぁ、これくらいでないと生き残っていけないのを分かっているのかも知れないけど)


 杏里の後輩が優れているのは、周りへの気配りや抜け目のないところだ。自分が売れるためになら何でもやる。


 杏里が正当な方法で評価を求めるため努力するように、後輩もあらゆる手段で努力をしていた。


 女性が頷く。


「そうよ。大事な話だけど、貴方のデビューはほとんど決まったようなものだから安心して」


 杏里の後輩は心配そうにしている。


「それでもドキドキしますよ~。心配です~」


 男性は笑顔の下で思う。


(杏里を蹴落としておいてよく言うよ。もうデビューを確信しているくせに……まぁ、だからこそ遠慮なく君をデビューさせられるけどね)


 杏里には魅力があった。


 それこそ、デビューが決まれば偉い人たちから声がかかるくらいに。


 きっと、真面目な杏里は理想と現実に悩むと分かっていた。


 それでも無理をして頑張るだろうと分かっていた。


(真面目で優しい子だよ。だから、こんな世界にはいない方がいい)


 目の前の子なら問題なく、偉い人たちに気に入って貰えるだろう。気に入って貰えるために頑張ってくれるだろう。


「さて、行こうか。会議の結果、楽しみにしていてよ」


 杏里の後輩は大きく手を振った。


「良い報告を待ってますよ~」


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