海賊島
波は高く、雨が激しく降る中。
「海賊船は二隻!」
船乗りNPCが大声で叫ぶと、ポン助は外に出た。
荒れ狂う波の中を進み、海賊船がポン助たちの載る船に攻撃を仕掛けてくる。
「これで四度目だ」
島に近付いているとは思うが、海賊たちの攻撃に面倒になって来ていた。
海賊たちが大砲を放ち、船の周囲に大きな水柱が上がる。
続々と船内から出てくるプレイヤーたちも、揺れと天候不良に流石に嫌になっている様子だった。
そんな中。
「聞いてくれ! 暇を持て余して作ったプレイヤー大砲が完成したよ! これはプレイヤーをトラップで大きく跳ばすんだけど、着地はプレイヤーにある程度調整して貰うから命中率も高い! さぁ、誰か爆弾を巻き付けて跳ぶんだ!」
ライターたち職人集団が、何を思って作ったのか分からない凶悪な兵器が出てくる。
海で死んでしまうと、復活場所はギルドで借りている船になる。
だが、デスペナもあるのだ。
ポン助は、風雨の中で思った。
(こいつ、ついに人間大砲を作りやがった)
海賊たちを、プレイヤーに巻き付けた爆弾で一掃する――なる程、効率重視の素晴らしい道具だろう。
これで、効率的に海賊たちを倒して財宝を得られると、ライターは大喜びだ。
だから、ポン助はライターを掴み上げる。
「……ポン助君、ちょっと待って」
ライターも自分が大砲の弾にされると思っていなかったのだろう。
顔色が悪くなっている。
ブレイズが無言で大砲の発射準備を進め、職人集団たちを周りが取り押さえて爆弾を巻き付けていく。
「戦えない生産職になんて仕打ちをするんだ!」
小柄なノームが泣いている姿は、オークのポン助の容姿もあって悪役はポン助だ。
しかし、周囲からは歓声が上がっている。
「やってくれ! ポン助さん、そいつを大砲に詰め込んでくれ!」
「お前が跳ぶんだよ、ライタァァァ!」
「この鬼畜共! 少しは俺たちの怒りを思い知れ!」
ポン助が持ち上げたライターに、ブレイズが沢山の爆弾を巻き付けていた。
「ブレイズ君、止めるんだ!」
だが、ブレイズはハイライトの消えた目でライターに笑顔を向けていた。
「ちゃんと着弾してくださいね、ライターさん。まぁ、代わりは沢山いますけど」
アルフィーが呆れている。
「そもそも、ボス戦を前に戦闘職のレベルを下げるなんて愚の骨頂。生産職は熟練度が減らないのでしょう? なら、消去法で人間爆弾はライターですね」
嬉々としてリアルの知り合いに爆弾を巻いて、大砲に詰め込んでいくアルフィーの姿に周囲もドン引きだ。
だが、その姿に感動している存在たちがいる。
オークたちだ。
「大砲のサイズがオークでも入れそうなら立候補したな」
「詰め込まれ、撃ち込まれ、しかもデスペナ……震えてくるな」
「リアルの知り合いになんという仕打ち! 流石は女王様だ!」
ライターが叫ぶ。
「ちょっと待って! くじ引き! くじ引きで誰にするか決めよう!」
ポン助は多数決を取る。
「ライターさんが良いと思う人」
全員が手を上げた。
日頃、ノルマに苦しめられているプレイヤーや、レベルが下がるのを嫌った生産職のプレイヤーたちが手を上げた。
「……君たち、この事は忘れないぞ」
そんな台詞を言うライターを詰め込み、ポン助は発射と無慈悲に告げた。
罠が発動し、そのままライターは海賊船目がけ跳んでいく。
プレイヤーが操作をしているので、並みの砲弾とは違う命中率だ。
海賊船に着弾すると、大きな爆発が起こって海賊船が真っ黒になり海に浮ぶ。
海賊船も、モンスターたちも一撃で仕留めたらしい。
「……爆弾の量がおかしくない?」
ポン助が疑問に思っていると、船に赤い粒子が集まってライターが復活する。
泣き真似をしていた。
「みんなして酷いよぉ!」
だが、ブレイズがライターを持ち上げる。
「え?」
驚くライターに、ブレイズは言うのだ。
「ライターさん……もう一隻いますよ」
日頃の恨みというのは怖いと、ポン助はこの時に思うのだった。
海賊船を退け、海賊島にポン助たちは到着する。
海賊島は周囲を嵐に守られているが、島の周辺は随分と穏やかだった。
生産職のプレイヤーたちが、島に到着すると大急ぎでテントやら設備を用意していた。
砂浜を拠点にするためだ。
こうした大きなクエストも、当然だが攻略情報というのが存在している。
ただし、その攻略の仕方はギルドによって大きく異なっていた。
自分たちに最適な攻略法を探すのも、プレイヤーたちにとっては重要である。
そんな中、ポン助たちは割と手堅い攻略法で挑もうとしている。
「さて、それではパーティーを分けましょうか」
普段一緒に行動しているブレイズのパーティーはそのままだ。
ブレイズたちはバランスも良く、どんなモンスターにも対応出来る強みを持っている。
平均以上の強さを持っており、ギルドでも頼れる戦力だ。
プライが肩を回す。
「ポン助君、我々は分散してもいいが、出来れば女王様たちと一緒の方が――」
マリエラがプライを蹴って砂浜に顔を埋めさせる。
「あんたらが指示をするなんてどういう事よ!」
しかし。
「アルフィーはナナコちゃんたちのパーティーで、マリエラはオークパーティーでよろしく」
ポン助がそう言うと、プライが顔を上げて驚く。
「本当に良いのかい! ありがとう、君はやはり分かっているオークだ」
別にポン助は性癖を理解しての配置ではなく、オークたちを管理するテイマーが必要だったのだ。
そのため、アルフィーかマリエラには、彼らに同行して貰うつもりだった。
「いや、戦力的な意味ですからね」
そもそも、オークには切り札の狂化がある。
モンスターとなって暴れ回るのだが、いざという時にはアルフィーとマリエラがテイマーとしてオークたちを操ってくれるのだ。
マリエラが唖然としていた。
アルフィーは不満そうだが、オークたちと一緒ではないという事でマリエラに勝ち誇っていた。
「嘘でしょ」
「まぁ、これも日頃の行いの差ですね。マリエラ、頑張ってくださいね」
ナナコにシエラ、グルグルはアルフィーを見て心配そうにしていた。
「アルフィーさん、真面目にやってくださいね」
「マリエラさんの方が良かったのに」
「アルフィーの姉ちゃん、そういう事を言うから男はドン引きするんだぜ」
アルフィーが無言でグルグルの頬をつねるが、ポン助は次々に指示を出していく。
結果、残ったのはポン助にイナホ――そして、リリィだった。
イナホが驚く。
「え、僕がポン助さんと同じパーティーですか!?」
リリィも同様だ。
「ギルドマスターなんて主力として動くのかと思ったわ」
ポン助も同意見だ。
「いや、そうなんですけどね。ボス戦の邪魔をされないためにも、少数のパーティーで雑魚を倒す必要があるんですよ」
わき出てくる海賊たちを倒す役割がある。
ただし、そういった雑魚を相手にするパーティーをいくつも用意出来ないため、ポン助が残りつつ雑魚を倒して拠点を守るのだ。
リリィが肩をすくめている。
「私たちが選ばれた理由は?」
ポン助は即答する。
「足が速いからですね」
リリィがポン助を見た。
「……貴方は遅そうね」
すると、不敵に笑いポン助はその場で屈伸運動をしてから手首や足首の柔軟をし始めた。別にアバターなので必要ないが、気分の問題である。
「舐めて貰っては困ります。見てください、新しい力を手に入れた僕の力を!」
砂浜を足と手を使い物凄いスピードで駆け回るポン助。
砂浜の向こうにある木の枝に飛びつき、軽やかに飛び移っていく。
まるで野生の動物の動きをしていた。
イナホが唖然としていると、プライが説明してくれた。
「新しいオークの力――それは野生の力だ! 我々は更に強くなったのだ!」
イナホが凄いと喜ぶ。
「そ、そうなんですか? 分からないけど、なんだか凄いですね!」
オークの野生の力とは、ステータス的には何の意味もない。
ただ、移動速度の向上や、今まで進入出来なかった一部のエリアに入れるとかそういった類いの力だった。
リリィはポン助を見る。
「なんていうか、羨ましくない力よね」
拠点の設営が終わり、準備を整えると全員が海賊たちを倒すために動き始める。
オークパーティー。
森の中を素早く移動する集団の中、マリエラは後方で追いつくのが精一杯だった。
「ふざけんな! なんでエルフが森の中でオークに負けるのよ!」
まるで猿のように森の中を移動するオークたち。
その移動速度は、進みにくい森の中をまったく気にした様子がなかった。
マリエラの前に、デュームが木から降りてきた。
背中を見せてくる。
「乗るといい」
マリエラは、そんなデュームの背中を見る。
「いいの?」
「あぁ、だが代わりに……こ、これを」
差し出してきたのは、ピンヒールだった。
期待した目。大きな両手にピンヒールを載せて、マリエラに見せてくる。
マリエラは無言でピンヒールを装備すると、銀色の鞭を手にとってデュームの背中にわざと痛いようにして乗った。
「流石は女王様だ! 分かっていらっしゃ――アヒンッ!」
賛辞を述べるデュームに、マリエラは容赦なく鞭を振り下ろした。
「黙って移動を開始しなさい。揺らすんじゃないわよ。くっそ……これがポン助の背中だったら良かったのに」
文句を言うマリエラだったが、オークの背中に乗る姿はまるで手慣れていた。
海賊島は大きな山を中心に丸い形をしている。
島の四箇所に海賊たちの幹部が待ち構え、それを倒すためにギルドメンバーが四つのグループに分かれ戦いを挑んでいた。
ポン助は、そんな中で拠点を守るために奮闘している。
「せいっ!」
大きなカトラスを振るい、突き立て、海賊NPC――モンスターを次々に倒していくのだが、問題は気分だった。
(人型は戦うとなんだか嫌な気分になる)
もっとモンスターという形なら良いのだが、人の姿をして人語も話す。
戦っていると変な気分だった。
ポン助の後ろにはリリィがいて、両手に持った拳銃で次々に海賊たちを倒していく。
「あら、なんだか撮影より迫力があるわね」
素早くリロードをしているのだが、その姿は何故か見覚えがあった。
イナホがリリィに拍手をする。
「リリィさん、まるで映画女優みたいですね!」
ポン助も同じような感想を抱いていた。
どこかで見た事のある外見だ。
(そう言えば、元は観光エリアのプレイヤーだったから、外見は有名人だったな)
きっと、有名女優をモデルにしてアバターを作成したのだろう。
「助かります」
リリィは割と気に入っている拳銃を見ていた。
「こっちも敵を引き付けてくれる人がいて助かるわ。それにしても、なんでオークなの?」
ポン助は笑いながら答えた。
「最初に使ったアバターがオークだったんです。それからは、なんとなく使い続けていますね。デメリットも多いんですが、これはこれで楽しいですし」
リリィがポン助から一歩下がった。
「そ、そう。人の趣味を悪く言うつもりはないけど、私にはあまり期待しないでね」
誤解だと言いたかったが、海賊たちが出現したのでそちらを向いた。
イナホが駆け出すと、そのまま持っていた武器で斬りかかる。
特徴がほとんどないラビットガールだが、素早さはそれなりだ。
素早さに特化したアバターなら、もっと連続して攻撃も出来るだろう。しかし、ポン助はそんな事を求めない。
「イナホちゃん、ナイス!」
「私だって活躍したいですからね!」
拠点を守っていると、プレイヤーたちが次々に出現する。
「くそっ! あの攻撃は卑怯だろう!」
「ここからあそこまで移動するの!?」
「おい、他のメンバーを待った方が良くないか?」
戦闘中に死亡したプレイヤーたちが、後方支援のメンバーから道具の整備や補給を受けてまたボスに挑みに行く。
今回、ポン助は新人も多いので彼らをメインにボス戦に挑ませたかった。
(イナホちゃんとリリィさんは、次回で頑張って貰おうかな)
ポン助たちが目指しているのは最前線。
まだ本番ではない。
このギルドクエストも、新人教育を兼ねているようなものだ。
海賊をカトラスで斬り伏せ、戦っているメンバーたちが順調かどうか気になるポン助だった。
(これが終われば、次は勤勉の都。その先は誠実の都で……もうすぐ最前線か)
最前線は、攻略が終わっている世界と違い過酷だという。
もっとプレイヤースキルを磨かなければと思いつつ、ポン助は目の前のモンスターを倒していくのだった。




