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エピローグ

 分別の世界。


 瓦礫の山となった街を守る機人に群がるのは、ギルド“ポン助と愉快な仲間たち”である。


 狂化したオークたちが、機人に攻撃を仕掛けていた。


 ここまで、三体の機人を倒しているため、最後の機人は強化されて大きく、そして強くなっている。


 レベルカンストのギルドメンバーでも苦戦する相手に、ポン助たちは切り札でもある狂化を使用したのだ。


 ただし――。


「“はちまき”ステイ!」


 ギルドメンバーに攻撃を仕掛けようとしたオークプレイヤーのはちまきが、マリエラの銀の鞭を背中に受け、服従のポーズを取る。


 横になりお腹を見せ、制御を取り戻すとマリエラの命令を待っていた。


「GO!!」


 マリエラの鞭が響き渡る音を立てると、狂化したオークが機人へと向かって行く。


 機人は巨大で、狂化したオークたちより大きい。


 殴り飛ばし、吹き飛ばし、それでも向かってくるオークたちに押されている。


 アルフィーは遠くから装飾されたライフルを構え、機人の急所を狙っている。時折、クリティカルの表示が出ていた。


 そんなオークたちの群がる機人に、ギルドメンバーは問答無用で攻撃を仕掛けていく。


「みなさん、行きますよ!」


 NPC――傭兵を連れたシエラが、一斉に魔法を放つと機人と……オークたちを巻き込んで大爆発を起こしていた。


 凶暴化したオークたちが、吹き飛びつつどこか嬉しそうにしているのを見て、ポン助は気のせいだと首を横に振った。


 ポン助の近くにはライターたち職人集団がいて、用意したアイテムを次々に道具を使って投擲している。


 アイテム各種は機人に触れると爆発し、オークに――味方に触れても爆発する。


 まさに味方を犠牲にした戦術だ。


 まさに外道である。


「よし、今まで一番のダメージだ!」


 アイテムの性能に満足しているライターを見て、ブレイズが呟く。


「もっとまともな作戦を考えましょうよ」


 ライターは肩をすくめる。


「後でいくらでも試すといいよ。今日はこのまま三連戦だ! それだけのアイテムは持ってきているし、レアアイテムが出るまで続けるよ」


 ライターたちがやる気を見せる中、ポン助は振り返る。


 青い顔をしているノイン。


 唖然としているフラン。


 新しく二人もギルドメンバーに加わり、ボス戦を経験しているのだが……刺激が強かったらしい。


「お、おかしくない? 前もって見て来た動画と戦い方が違う」


「……これはいいのか?」


 ポン助たちの戦いを見て、普通と違うと思った二人にブレイズが言うのだ。


「基本的に駄目です。けど、うちはちょっと特殊でして……まぁ、オークの趣味と言いますか」


 ポン助は言いたかった。


 言わねばならない。


「オークが変態みたいに言わないでくださいよ。普段からこんな戦いはしませんよ。ただ、連続で戦うので色々と試しているだけです」


 前衛でマリエラが鞭を振るい、オークたちを従えている。


 そんなマリエラを、頬を染めてみているのはシエラだった。


(あの子もちょっと危ないかも知れない)


 ナナコがポン助に質問をする。オークたちが頑張っているので暇だった。


「ポン助さんたちは、オークの里に行って来たんですよね?」


 数日前にオークの里……分別の世界にあるオークの里に顔を出してきた。もっとも、そこまで大きなイベントはない。


 土竜の素材を捧げ、得られたのはステータスの上昇とデメリットの軽減だ。


「今回は特に戦闘もなかったね。準備をしていたのに無駄になったよ。まぁ、ただ……」


「ただ?」


 ナナコが尻尾を振りながら、ポン助の話を聞いていた。


 かぶっている帽子から出ている耳が動いて可愛い。


「いや、変わったイベントがあってね。ボロボロの機人がお墓に花を持っていく場所がオークの里の近くにあったんだ」


 通りがけに見つけたが、相手はモンスターの反応を示していた。ただ、こちらには攻撃してこない。


 モンスターの種類的に珍しく、レアドロップが期待出来るモンスターだった。


「た、倒したのかよ」


 近くにいたグルグルも興味を示し、ポン助の話を聞いていた。


 ポン助は首を横に振る。


「いや、流石に駄目だろうと思って見ていたんだ。そしたら、最後に動かなくなって……花だけ僕たちで供えたよ」


 毎日欠かさず花を供えていたらしい。


 最後、動けなくなった機人はポン助に“優しき心”という石を渡して消えていった。


 これで優しき心を手に入れたのは三回目。


「何かのイベントなのかな? パンドラは意味があるイベントも多いけど、まったく意味のないイベントも多いから」


 開発側の趣味もある。


 MMORPGとは違うVRだからこそ体験出来るイベントを、という事で試行錯誤をしているのだろう。


 ポン助たちはそう思っている。


 他のタイトルではサービスを続ける事も難しい中で、パンドラはプレイヤーの数も集まるお金も別格だ。


 開発者たちの悪のりも見られる。


 話を聞いて、ナナコもグルグルも安堵していた。


 ノインがフランの後ろに回り、ポン助を見ている。


 以前と違うのは、ベタベタと触らなくなったことだ。


(まぁ、ギルドには参加してくれたけど、色々とあったし……仲良くやれれば良いか)


 ポン助としても、女性と言うより仲間として受け入れた部分がある。


 ライターが叫んだ。


「レアドロップだぁぁぁ!」


 叫ぶ職人集団。


 ポン助は、戦闘が終わったので皆のところへと向かう。






 シエラの率いた傭兵NPCたちは、ギルドメンバーが喜んでいる姿を少し離れてみていた。


 ポン助たちはレアドロップが出た事で安堵しており、このまま連続で戦わなくて安心。という感じだった。


 NPCたちの視線は、ポン助に向けられていた。


「……時は近い」

「すぐに傲慢の世界も解放される」

「加速させた者がいる」

「関係ない。選ぶのは彼らだ」


 口々に呟くのは、NPCに与えられた台詞ではなかった。


 まるで管理しているAIが喋っているような……。


「全ての判断はプレイヤー次第」

「我々の役割は変わらない」

「……そう、選ぶのは彼ら」


 NPCたちが口を閉じる。


 それ以降、意味ありげな台詞は口にしなかった。


 そして、レアドロップに盛り上げるポン助たちを祝うかのように花火が打ち上がった。世界中に祝いの花火が打ち上がり、そして告げられる。




『傲慢の世界が解放されました』




 攻略組により、新たな世界が解放された瞬間だった。



 現実世界。


 高層ビルの最上階から、椅子に座って都市を見るのは情報屋だった。


 リアルの彼は不健康に太っており、椅子に座ってハンバーガーを食べている。


 仲間である痩せて顔色の悪い男が、テーブルを見て引いていた。


 ファーストフードの紙袋などが散乱し、高級感のある机を油で汚していた。ピザが床に落ちている。


 パソコンのキーボードも油まみれ。


 顔色の悪い男が注意をする。


「いい加減に減らせ。それに、掃除くらいしろよ」


 情報屋は笑っていた。


「掃除はやらせているよ。高学歴の秘書様が、涙目で机を拭いている姿は実にいい。自分よりも格下の男に命令されて、悔しそうにしている姿は最高だ」


 下卑た笑みを浮かべ、情報屋はソースのついた指を舐める。


 顔色の悪い男が溜息を吐く。


 部屋にいると食べ物の臭いで気分が悪くなったのか、立ち上がると外に出ようとした。


「計画が実行される前に、入院したら笑えないぞ」


 情報屋は新しいハンバーガーを手に取った。


「ご心配なく。それまでには計画は完了するよ」


 顔色の悪い男がドアを開けて外に出る。


「……そうだと良いけどな」


 情報屋はハンバーガーをのみ込むように乱暴に食べ、笑っていた。


「そうさ。間違っている世界が現実なんて駄目だ。だから、理想の世界を現実にしないとね。政府の連中も、旧パンドラの運営も間違っているよ。だから負けたのさ」


 油で汚れたパソコンに向かい、情報屋は新しい実験内容を確認する。


「あ~、これか。これはポン助にやらせようか」


 急ぐ必要もない実験を「ポン助にやらせる」という情報屋は、ある人物の個人情報を見ていた。


 忌々しそうにする情報屋は、ポン助の文句を言う。


「……ポン助の奴、どうにもこっちの思う通りに動かないよな。やっぱり、最後の段階になると反対するか?」


 情報屋は真顔で言う。


「消しちゃうか?」


 しばらく考えていると、画面に緊急の内容が報告された。ソレを見て画面を両手で掴むと情報屋は笑う。


「よし、よしっ! 傲慢の世界もクリアだ」


 先程の事も忘れ、大喜びで炭酸飲料を飲むと、情報屋はスナック菓子に手を伸ばした。


「まぁ、いいか。どうせすぐに染まっていく。そうすれば、ポン助も理解するはずだ……どちらが本物に相応しい世界なのか、ってね」


 情報屋が笑う。


「まったく、セレクターたちもよく働いてくれた。政府の連中も、パンドラの旧運営陣も悪人扱い。本当に素晴らしい結果だよ」


 まるで、政府も旧運営陣すら悪くないような言い方をしていた。


「さぁ、ここからが本番だ。パンドラは……ここからが楽しいぞ」


 情報屋は室内で一人笑っていた。






 フィットネスクラブのプールサイド。


 タオルを肩にかけた明人は、座って前のめりになり手を組んでいた。


 ベンチの隣に座っているのは弓だ。


 レオナが先程から泳いでいる中、明人に最近の高校生について真剣に質問をしていた。


「高校生くらいの男子、ですか」


「そう。鳴瀬君が頼りなの」


 弓の相談は、高校生くらいの男子を振り向かせたいので知恵を貸してくれというものだ。


 明人は思う。


(迫ればすぐに相手は落ちると思うけどね)


 胸についた凶器があれば、大抵の男子高校生はどうにでもなると本気で思っている。実際、明人も言い寄られたらすぐに頷くだろう。


 そう思った時、マリエラとアルフィー……八雲と摩耶の顔が浮んだ。


 少し考え直し、流石にその爆乳で迫れば一撃です、などと言えば問題になると気が付いた。


「こ、高校生くらいなら女性にも興味があるというか、強く興味を持っているので素直に気持ちを伝えた方が一番かと」


 だが、弓は首を横に振る。


「駄目なの。前にその人に酷いことをしたから、距離があると言うか……とにかく、何を言っても軽く流されるの。それに、近くに女の子もいて」


 聞けば、同じ年頃らしい女性二人が近くにいて近づけない、と。


(……ふざけるなよ。そいつ、女の子に囲まれてこんな爆乳さんにも惚れられるとかあんまりだろ。もっと誠実に生きろよ。人生舐めてんのか!)


 羨ましさから腹立たしくなった。


 こちらはゲームの影響で人間関係に色々と問題が出ているというのに、人生を楽しんでいるらしい弓が好きな相手が腹立たしかった。


(ぶん殴ってやりたいよ)


 弓が本気で落ち込んでいる。


「私ね、今まで好きになったことは沢山あるけど、今度は本気なの。今までの好きって気持ちとは違うと思うんだ」


「そ、そうですか。でも、気持ちを伝えても駄目となると難しいですね」


 相談に乗っていると、レオナがプールから上がった。


 弓はタオルを持って友人のところに向かう。


 すると、トレーナーがやってきた。


「鳴瀬君、そろそろ泳ごう――あ、無理みたいだね」


「すみません。本当にすみません」


 声をかけたトレーナーは、レオナにタオルを渡している弓を見て明人を見る。明人の体勢から、色々と察してしまった。


「なら、十分後に」


「ありがとうございます」


 トレーナーの情けに感謝する明人だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] こればかりは制御のしようがない…
[一言] 息子よ・・・
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