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指導

 希望の都の外。


 吹き抜ける風が草木の匂いを運んでくる。


 そんな天気も良く、広々とした草原でポン助は三人の新人プレイヤーを前に話をするのだった。


「連携も大事だけど、位置取りを考えた方が良いかな」


 詐欺に遭い、無一文になったプレイヤー。


 悪質な勧誘を受けていたプレイヤー。


 そして、どうしていいのか分からず、困っていたプレイヤー。


 そんなプレイヤーを放置も出来ず、ギルドに勧誘しても来てくれないのにポン助は初心者に色々と教えていた。


 ノインとフランという二人のプレイヤーとは、ゲーム内で二日目、三日目を過ごすと別れている。


 四日目、五日目は仲間を探して勧誘を続けていた。


「位置取り? そこまで気にしないと駄目なの? なんか想像と違うな。もっと簡単だと思っていたのに」


 男性プレイヤーは、もっと簡単だと思っていたらしい。


 想像以上に仮想世界で動きにくい。それが彼の感想だった。


「やっぱり前衛は向いていないかな?」


 ポン助は「そんな事はない」と言って、ジョブについて説明する。


 この辺りはルークに学び、自分でも体験しただけに断言していた。


「格闘系のジョブを獲得してサポートを受ければいいよ。十分に体が動くからね」


 ポン助も受けている恩恵だ。


 ただ、それを男性プレイヤーは渋る。


「そうすると、ジョブの管理がさぁ……トッププレイヤーのジョブを参考にしているのに、なんで弱いんだ?」


 トッププレイヤーは基本的に攻略組。


 彼らは、ポン助から見ても異常だった。


 本来ならジョブのサポートを受けると事を、プレイヤースキルで補っている。その余ったスキルやらジョブのポイントで、攻略に必要な物を獲得するのだ。


「トッププレイヤーは別格というか、もっと突き詰める人たちだからね」


 話を聞いていた女性プレイヤーが首を傾げていた。


「廃人プレイヤーみたいな感じかな? ほら、パソコンの前から動かないとか聞いた事があるし、あれと同じよ」


 パンドラはVRゲームだ。


 オンラインゲーム――通常の画面越しに冒険するゲームと違い、体感するゲームである。そして、ログイン時間は限られている。


 仮想世界で体感する時間は七十二倍に引き延ばされているが、一日二時間しかログイン出来ない。


 ポン助は頭をかいた。


「廃人というか、突き詰めちゃうとリアルで、ね。もう、ログイン以外の時間は体を鍛えて課金するためのお金を稼ぐらしいよ。仕事以外はトレーニングにスポーツ優先だって」


 突き詰めていくと、リアルでパンドラに必要な技能を獲得することになる。


 毎日仕事をしてお金を稼がないと課金出来ない。


 トレーニングしないとゲーム内で活躍出来ない。


 結果、彼らはストイックな生活をする事になる。


 ポン助は、ニュースで特集されたパンドラの廃人を思い出していた。


「ちょっと前にニュースで特集されたのを見なかった? もう、仕事の後は数時間のトレーニングで、食事にも気を使って、って奴」


 パンドラで成功したプレイヤーを特集していた。


 ただ、ポン助は思う。


(失敗した人もいるんだろうな。栗田さんとか、そのもっともな例だし)


 男性プレイヤーも、流石にそこまでやれないと思ったのか、中堅ギルドに入ろうと目標を変えるのだった。


「お、俺はもっと余裕のあるギルドに入りたいかな」


 ポン助は新人プレイヤーに確認する。


「それにしても、いきなりギルドに入りたいとかどうしたの? 自分で作ると、気の合う仲間と作るのも楽しいよ」


 男性プレイヤーは手を振った。


「ないって。今は有名ギルドに所属する方がステータスになるんだ。ポン助もそれなりにやるみたいだし、もっと大きなギルドに入ったら?」


 ポン助は腕を組み悩む。


(ステータス? う~ん、そんな話は聞いたことが……仲間内で自慢したいとか?)


 そのまま新人向けの指導を終えたポン助は、希望の都に戻るのだった。






 希望の都、観光エリア。


 フランは綺麗な川の近くにあるオープンカフェでノインと話をしていた。


 通行人の楽しそうな声に、観光エリアの鐘の音。


 ここはまるで日本ではなく海外の雰囲気を持っていた。


「……それで?」


 ノインはテーブルに上半身を乗せており、行儀が悪い。頬を乗せ、その大きな胸がテーブルに押しつけられていた。


「誘っても外にいます、だって。ポン助君は紳士だから、一緒に遊びたかったのに」


 ノインの本音をフランは理解していた。


「男避けだろ? ポン助がいると男は寄ってこないからな。それにしても、外見が女性でも中身は男と考えないのか?」


 仮想世界内で出会いを求めるプレイヤーたちに呆れ、フランもノインも誘いを断るのが難しかった。


 ノインが上半身を起こし、周囲の雰囲気を見ている。


「それにしても、みんな誰かの顔を使っているね。妙な気味悪さを感じるわ」


 自分の顔、体をデータのまま使っているノインもフランも、自分たちのリアルが特定されるとは思っていない。


 少し髪型や目の色を変更すれば、まるで別人に見える。


 それに、仮想世界内で“知り合いと会う”など有り得ないと思っていた。


 パンドラのプレイヤーは数千万人。


 ログインする時間帯があったとしても、今の時間で百万人近いプレイヤーたちがログインしている。


 フランはノインに注意をするのだった。


「お前が誰にでも気がある反応を見せるからだ。だが、確かに同じ顔に連続でナンパされると怖くなるな」


 ある有名アイドルの顔を持つプレイヤーに声をかけられた。


 だが、次に声をかけてきたプレイヤーの顔も同じ。


 その次も……三回目になると、流石に二人も怖くなった。


「アレは怖いよね。やっぱりポン助君をボディーガードにしようか。腕に抱きつくと慌てて可愛いよね」


 クスクス笑っているノインを、フランは呆れながら見ている。


「お前みたいな女が男を狂わせるのだろうな」


「フランちゃんは酷いわね。みんなが勘違いをするだけだよ。それに、私は男の人と付き合ってないから、駄目にした事はありません」


「だといいが」


 ノインはわざとらしく怒って見せ、そして――。


「もう、本当に怒るよ。でも、そうだな……仮想世界で試してみるのも良いかもね。最初は純粋な子がいいかも」


 フランが溜息を吐く。


「……お前は一度痛い目に遭うべきだな」


 ――女性二人が楽しんでいる。


 それだけの光景だが、チラチラ見ているプレイヤーは多かった。



 学校。


 昼休みに机に突っ伏す明人は、摩耶と陸に質問攻めに遭っていた。


 陸は、一部で熱狂的なファン? を、獲得し始めたルビンについて話を聞いていた。


「あいつ、まだ希望の都から出ていなかったのか? なぁ、今度パーティーに誘ってみてくれよ」


 楽しそうな陸に、明人は嫌そうに答える。


「無理だよ。というか、外で何度か見かけたけど酷かったね。レベルはカンスト。ジョブやスキルの設定も酷いから、少し派手になったけど強くないの」


 出鱈目に獲得したジョブやスキルが、運良く凄い性能を発揮する場合はある。あるが、ルビンにそんな幸運はなかった。


 どうしてそのスキルを選んだ? そのジョブは役に立つのか?


 そんなのばかりだ。


 むしろ、ここまで機能しないジョブやスキルの設定もあるのかと、攻略組のプレイヤーを唸らせた話もある。


 明人も陸も、その話はいくらなんでも嘘だと思いたかった。


 そんな二人の話しに混ざりたい摩耶は、強引に明人にたずねる。


「そんなどうでもいい話は置いておくとして」


 陸がショックを受けた。


「ちょ、おまっ! 割り込んでくるなよ」


 摩耶が陸を無視して、顔を明人に近づけた。


 明人は驚き、顔を少し赤くする。


「な、なに!?」


「勧誘したプレイヤーって誰? ほら、最初に一緒にいたとか言う二人組!」


 明人は思う。


(なんで委員長が知っているんだ? 誰か僕たちを付けていた?)


 摩耶が聞きたそうにしているので、明人は素直に答えるのだった。


「新人プレイヤーだったけど、ゲームより観光エリアで遊びたい人たちだよ。一通り教えたけど、その後は観光エリアで過ごしたみたい」


 陸が明人にアドバイスをする。


「まぁ、しばらく探せよ。一人二人に声をかけたからって、見つかるものでもないからさ」


 明人は上半身を起こして肩をすくめた。


「声ならかけたよ。一通り教えたプレイヤーは十人もいないけどね。みんな大手のギルドに入りたいって。そういうの流行っているの?」


 陸も首を傾げていた。


「いや、確かに大手ギルドは話題に上がるし……でも、確かに新人が言うのはおかしいかもな」


 摩耶がまたしても割り込んでくる。


「ちょっと、私の話は! それと、他のプレイヤー関係も詳しく!」


 陸が呆れていた。


「委員長……こんなキャラだったのか?」


 明人は無言で頷くのだった。






 アルバイト先。


 仮想世界で六日を過ごした明人だが、日常生活に問題は出ていない。


(安心かな。まぁ、問題があれば許可なんか出ないだろうし)


 外を見ると、通行人たちが足早に帰宅していた。


 寒さもあって、客が来ると店内に寒い空気が入ってくる。


 早く冬が終わらないかと思うのだが、夏になれば早く夏が終わらないかとも思う。


 そして、明人には問題がもう一つ。


(先輩、ずっとソワソワしているな)


 こちらを気にしているのが分かる。


 何か聞きたいことがあるのだろうが、タイミング悪く客も入ってくるためか聞き出せない八雲はソワソワしているように見えた。


(アレかな? 委員長と同じ内容かな? ゲームの影響が抜けきれていないのか?)


 声をかけようとすると、サラリーマンが店内に入ってきた。


「いらっしゃいませ」


 レジに向かう客は、そのままかけられているカードを手に取る。


 明人が受け取ると、返品出来ないことを確認した。


 カードは三枚。


(五万円のポイントを三枚も購入するのか。この人もパンドラのプレイヤーかな?)


 処理を済ませると、客はカードをポケットにしまい店を出ていく。


 最近は、こういった帰り際にプリペイドカードを購入する客が多い。


 気になるが……。


(それよりも今は先輩か)


 こちらを見て声をかけたそうにしている八雲を見る。


 少し可愛いと思ってしまう明人だった。


 だが、またすぐに客が来たので相手に出来ないのだが。



 分別の都にある貸倉庫。


 ギルド名“ポン助と愉快な仲間たち”は、ギルドマスター以外が勢揃いしていた。


 招集をかけたのはアルフィーとマリエラだ。


「良く集まってくれました。皆さん、ほんとうにありがとうございます」


 ブレイズが仲間内とボソボソと文句を言う。


「よく言うよ」

「来ないと許さないとかメッセージで送ってくるとか頭おかしいよね」

「アレだろ。そろそろストレスが限界なんだよ」

「この後どこに行く?」


 まとまりのないギルドであるため、それぞれの反応には温度差があった。


 オークたちなど、最前列で正座をしてアルフィーやマリエラの言葉を聞いている。


 プライがブレイズ経ちに振り向いた。


「そこ、五月蝿いぞ! 女王様のお言葉を――」


 直後、イライラしているマリエラの鞭がプライを襲った。


「五月蝿いのはお前だよ、豚ぁ!」


 バシィ! という鞭の音がすると、「ありがとうございます!」と言ってプライが喜びに震えていた。


 この光景に、まだ良識の残っているプレイヤーたちが、中学生組の目と耳を塞いでいた。


 ナナコが困惑している。


「あの、ライターさん? 何も見えませんし、聞こえないんですけど?」


 ライターは首を横に振っている。


「いいんだ。君たちはまだ純粋でいるべきなんだ」


 アルフィーが全員の視線を集めるため、鞭で床を叩く。


「ポン助が希望の都で新人勧誘を行っているのは皆さん知っていると思います。ただ、ここで問題が出て来ました」


 職人プレイヤーの一人が首を傾げ、周りと話をしていた。


「あれ? 俺たちも新人勧誘をしているよね?」

「馬鹿。あの二人が気にしているのはポン助さんだけだって。……ポン助さん、マジで可哀想だよな」


 周囲はポン助のみを案じていた。


「そろり」


 マリエラがそろりの名前を口にすると、集団の中からひょっこり出て来た。


 アイテムを設置し、貸倉庫の壁にポン助の様子が映し出される。


「最新の映像だよ。まさか、ポン助君を見張ることになるとは思わなかったね」


 ブレイズが呆れている。


「君たち、本当に何をやっているんだ。そろりさんもそんな事は止めてくださいよ」


 そろりが首を横に振った。


「脅されたんだ。少し面白いかな? って思ったけど、脅されたから仕方がないんだよ!」


 こいつら手遅れだと頭を抱えるブレイズたちが見たのは、ポン助が新人プレイヤーに指導している姿だった。


 ライターが首を傾げている。


「これが問題?」


 すると、そろりが言う。


「おっと、違う映像だった。問題の奴はこっちかな」


 その映像には、ポン助が女性プレイヤーと仲良くしている姿が映し出される。


 全員が「うわぁ~」とドン引きしていた。


 なんというか、美女とオークの組み合わせには犯罪臭がする。


 鼻の下を伸ばしているポン助に、二人が腹を立てていた。


「こんな事が許される訳がありません!」


「ポン助を連れ戻すわ。とりあえず協力を――」


 熱く語り出す二人を無視して、ライターが手を叩く。


「はい、解散。皆さん、ルールを守って楽しく遊びましょう。この話は終わりね」


 アルフィーが叫ぶ。


「ちょっとライター!」


 ライターは、取りあえず二人に言うのだ。


「それから二人とも。少し話をしようか。流石に道を踏み外しすぎているからね。逃げないように」


 可愛らしいノームのライターが、有無を言わせぬ雰囲気を出している。


 アルフィーとマリエラは、そんなライターの雰囲気に気圧され、怖くなり二人だ抱きしめあった。


 ギルドメンバーはそんな三人を気にせず、それぞれのグループで行動し始めた。


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