挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第四章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

68/127

ポン助空を飛ぶ

 空を舞う五体のドラゴン。

 一体を倒すのにプレイヤーたちがどれだけ苦労してきた事だろう。

 そんなドラゴンが五体に増えた事で、セレクターたちも唖然とするしかなかった。

 誰かが言う。

「外と連絡は? まだ終わらないのか!?」

 女性プレイヤーが首を横に振る。

「――三時間。あと三時間は時間を稼いで欲しいって」

 簡単な話をするのなら、プレイヤーたちはドラゴンに勝つ必要などない。

 システム内に存在しているだけでいいのだ。

 セレクターと関係者の存在を除去しようとするシステムに抗っていれば、現実世界で情報屋の仲間が新型炉を止めてくれる。

 ただ、プレイヤーたちを完全にシステム内から排除された場合、作戦は失敗となってしまう。

 ここまで来て、作戦が失敗してしまうとやりきれない物があった。

 空を見上げるポン助。

 両肩にはそれぞれ、アルフィーとマリエラが乗っている。

『ここまで来て――』

 一体でもプレイヤーを大量に排除するドラゴンが、五体もいれば仮想世界で数風もしない内にプレイヤーたちがシステム外に追いやられてしまう。

 絶望的な状況の中、立ち向かうために歩き出したのはルークだった。

 その手に大剣と拳銃を握りしめ、空を舞うドラゴンに向かって引き金を引く。

 マリエラがルークに叫ぶ。

「ちょっと、不用意に刺激なんかしたら――」

 だが、ルークは動じない。

 それどころか、こんな状況でも諦めていなかった。

「同じ事だ。残り時間は数時間……俺たちが作戦を成功させるためには、どうしてもあいつらと戦うしかない。やるしかないんだよ!」

 普段はヘラヘラしており、どこか気を抜いているような印象を持っていた。

(ルーク……そんなに真剣に)

 一人、また一人と空のドラゴンに武器を向け、魔法を放ち始めた。

 アルフィーがポン助に語りかける。

「ポン助、私たちも――」

 叩かれすぎたのか、それとも制御下に入ったのか――ポン助は体の制御を自分のものにしていた。

 勝手にアバターが動き出す感覚はなく、五感が研ぎ澄まされている。

 ゆっくりと二人を優しく掴み、地面に降ろすとポン助は空を見上げた。

 ポン助の周りにメニュー画面が出現し、百という数字から百二十という数字に上昇していくのが分かる。

 マリエラがポン助を見上げる。

「ポン助、あんた何を――」

 スキルを強化した事で、狂化は新しい領域に踏み込む。

 百の状態を制御したことで、その先に進める。

 ただ、限界を超えた狂化は、デメリットも大きいが破格の性能を持っていた。

 レベルダウン、ステータスを強制的に一ヶ月間は三割減……その他諸々のデメリットを考えても、この瞬間に賭ける事にした。

『今なら行ける。邪魔になることもない』

 狂化して暴れ回り、迷惑をかけていたので試さなかった。

 だが、マリエラとアルフィーのおかげで更に先に――更に凶暴になれる。

 ポン助の体が更に大きくなると、その背中にコウモリのような翼が出現した。

 オークの面影はなく、まるでゲーム内のボスのような姿だ。

 アルフィーとマリエラが声をかける。

「ポン助、私たちも――」
「ちょっと、あんた一人じゃ――」

 更に凶悪な姿になったポン助は、先程よりも制御の難しくなったアバターを無理やり従えようとする。

『空を見ろ。僕の相手は空にいる。さぁ、飛べ!』

 背中に生えた翼は、まるで元から生えていたかのように自由に動く。

 舞い上がったポン助は、その大きな口を開けて火球を出現させる。大きな火球が圧縮され、それがいくつも作られるとドラゴンたちに向かって放たれた。

 ドラゴンたちが火球を受け落下していく。

 避けたドラゴンには、ポン助が組み付いてかぶりついた。

 機械仕掛けのドラゴンを強靱なあごで食い破ると、空の上で破壊して赤い粒子の光に替える。

 その活躍を見て、地上ではプレイヤーたちが拍手と歓声を送るのだった。

 だが、アルフィーとマリエラだけは、ポン助が踏み込んでは行けない領域に踏み込んだ気がしてならなかった。

 アルフィーが空の上でドラゴンと戦うポン助に手を伸ばす。

「駄目。ポン助、それ以上は駄目です!」

 何故だか分からないマリエラも、不安に胸を押さえて叫ぶ。

「降りてきなさい。降りてきなさいよ!」

 空の上では、ポン助が今まで以上の感覚に驚いていた。

 自由に空を飛び回り、ドラゴンたちが放つビームを避けて殴りかかる。

 アレだけ苦戦していたのが嘘のように、ポン助は二体目のドラゴンを地面に叩き付け倒してしまった。

『強い。強いぞ。これならやれる!』

 狂化の数値が『125』と少し上昇すると、残ったドラゴンたちがポン助にビームを次々に叩き込んできた。

 両腕で防ぐような構えを取ると、ポン助はビームに耐える。

 皮膚が焼け焦げ、腕が落ちると数値が『130』まで上昇した。

 焼けた皮膚が再生し、腕が生えてくるとポン助は口から炎を吐き出して空を真っ赤に染め上げる。

 ドラゴンたちが炎にのみ込まれ、もがきながら避難しようとすると地面を蹴って空に――炎の中に飛び込んだ。

 数値は『150』まで上昇し、ポン助の中の明人は――。

『やれる! こいつらを殺して世界を――僕の邪魔をする奴はみんな死ね! 死ね! 死ねよぉぉぉ!!』

 狂気にのみ込まれ、ドラゴンを破壊して笑っていた。

 まさに暴力の化身となったポン助は、次々に出現するドラゴンを破壊していく。

 数値が『180』を超えると、赤かった皮膚に黒い部分が目立ってきた。

 体は大きくなり、その姿は禍々しさも加わってどちらが敵なのか分からない。

『みんな死ねぇぇぇ!!』

 ドラゴンを破壊し尽くし、システム内に大きな亀裂を発生させたポン助は咆吼する。

 当初の目的など忘れ、暴れ回るポン助はドラゴンたちではなく地上のプレイヤーたちに視線を向けた。

 ポン助の中の明人がニヤリと笑う。

『こいつら……ひねり潰してやろうかな。きっと楽しいぞ』

 世界の命運?

 そんな事は今のポン助に関係なかった。

 凶暴になったポン助が地上に舞い降りようとすると、更に数値が上昇して『248』まで上昇していた。

『さぁ、抵抗して見せろ!』

 だが、次の瞬間――ポン助の目に入ってきたのはマリエラとアルフィーだった。

『……ぼ、僕は』

 どうして自分がここで戦っているのかを思い出す。

 二人が賢明にポン助に声をかけ、周囲のプレイヤーたちがポン助に攻撃するのを止めていた。

 どうやら、様子がおかしいことに気が付いたのだろう。

 ルークも叫んでいる。

『そうだ。僕は二人と……二人と仲良くなりたくて……本当の意味で仲良くなりたくて』

 セレクターの影響のせいで、友好度が二人に影響を与えている。

 そんな偽りの関係ではなく、二人とは本当に仲良くなりたかった。

 仮想世界だけの関係でも良い。

 この世界では、ポン助として仲良くしたかった。

 二人に手を伸ばすと、ポン助の体は砕け散ってオークのポン助が地面に落ちる。

 狂化の数字は『0』に戻っていた。

 落ちてきたポン助を抱き留めるマリエラとアルフィー。

 周囲は安堵したのか、武器を下ろしていた。

 セレクターの一人が、外と通信を繋いでおり知らせを聞いて笑顔になる。

「みんな、作戦成功! すぐにシステム内から出よう!」

 強制的にシステム内から退出させられるプレイヤーたちがパンドラに戻ると、そこには管理AIに制御されたNPCが空を浮いていた。

 ロボットのような足のない機械たちが、セレクターたちに警告を放つ。

『貴方たちは重大な違法行為を働きました。これより、強制ログアウトを――』

 ロボットたちが情報屋やセレクターたちを囲み、強制的にログアウトさせようとするとポン助を抱えたアルフィーとマリエラが心配そうな顔をする。

 だが、降参のポーズ――両手を上げて抵抗しない意思表示をする情報屋は、笑顔で二人に言うのだ。

「心配ないよ。全ては計画通り……すぐにゲーム内に戻って来られる。まぁ、しばらくはログイン出来ないけど我慢してね」

 ポン助は、酷く疲れた状態だった。

 返事も出来ない状態で、急に目の前が暗くなると強制ログアウトという画面が出て――現実世界で目を覚ます。



 目を覚ました明人は、上半身を起こしてヘッドセットを手に取る。

 外を見るとまだ暗い。

 だが、メールが届いており、パンドラの運営から法的処置を行うという内容が届いていた。

 かなり悪質と判断されたようだ。

「……僕たちは正しい事をしたのかな?」

 不安になってくる。

 ただ、次の瞬間。

『臨時ニュースを放送いたします』

 勝手にモニターの電源が入り、アナウンサーが慌てた様子でニュースを読み上げる。

『先程入った情報に寄りますと、月からの技術提供で作られた新型炉に致命的な欠陥があると発表されました。情報を公開した複数の野党議員は、新型炉の情報提供と共に政府が行っていた秘密裏の実験も公開しています』

 場面が切り替わり、朝早くから複数の議員がマスコミの前でデータの公開を行っている。

 そこれには、明人たちが活躍したおかげで手に入れた情報が開示されていた。

 女性議員が自信満々に説明している。

『新型炉は人体ばかりか、地球上の生態系にすら深刻なダメージを与えるものです。資料を見て貰えれば分かる通り――』

 次々に公開される情報に、ネットでもすぐに反応があった。

 スマホを手に取り、反応を確認する明人は違和感に気が付く。

「早すぎる。だって、僕たちが作戦を成功させたのはついさっきで……まさか、最初から準備をしていたのか?」

 確かに、情報屋の落ち着きを考えれば準備が完了していてもおかしくない。

 国会議員たちは、続いて――。

『今回、新型炉のシステムにアクセスする際にもう一つの重要な事実を入手しました』

 そこにはパンドラの計画が表示される。

『現政府は、VRゲームを使用した人体実験を行っていたのです。これは許されることではありません。幸い、計画は初期段階で人体に影響はありませんでした』

「――え?」

 明人は議員の説明に唖然とする。

 マスコミが次々に質問を投げかけていた。

『現政府がゲームを使用して国民を洗脳しようとしたのですか?』

『はい。そして、問い詰められると思った首相は先程……自宅で亡くなっていました。近くには遺書も置かれ、首相が書いたもので間違いないそうです』

 内容は――。

『私は許されない計画を実行した。この責任は私にあるが、これは必要な事である』

 ――そのような内容だった。

 一部が黒く塗りつぶされており、野党議員は放送出来ないし、必要ないので削除したと語っていた。

 急激に事態が進んでいく。

 ネットの書き込みも凄い事になっていた。

 ある記者が質問をする。

『では、すぐにでもゲームは中止するべきではないでしょうか?』

 議員が笑顔になった。

『一時的にサービスを停止させますが、いずれ再開するでしょう』

 断言している姿に、記者たちは何も言わない。

「なんで……なんで誰も反対しないんだ? 普通は終わらせる方がいいのに」

 ネットの書き込みも、野党議員を褒め称えるものが多かった。





 翌日からパンドラの運営会社の役員や責任者、そして技術者の逮捕が続いた。

 政府の関係者たちも責任を追及され、これだけの事件を起こしたために解散総選挙が行われる流れになっている。

 連日、ニュースでは新型炉やゲームの話題が取り上げられていた。

 パンドラのプレイヤーはとんでもない規模にまで膨れあがっている。

 サービス停止には反対の声も強い。

 月に関しては、大使が色々と言い訳をしている報道がされていた。

 新型炉は厳重に管理をされている。

 動いてはいないが、中にある物質は危険極まりなく移動させるにしてもどこに持って行くかが問題だった。

 世界各国で連日ニュースが報じられ、VRの危険性について取り上げられるようになる。





 学園。

 明人は椅子に座りボンヤリと窓の外を見ていた。

 テレビやネットでは盛り上がりを見せているが、現実世界では日常が続いている。

 新型炉の危険性を確認し、それが事実だと判明したときは教室内でも話題になったがそれだけだ。

 前の席に陸が座ると、つまらなそうに呟くのだった。

「早くサービスが再開しないかな」

 早くログインしたいとでも言う友人に、明人は少し気持ちが分からなかった。

「アレだけ危険なゲームだったのに続けたいの? 他のタイトルが出るまで待てば」

 信じられないという顔をして、陸は明人に熱く語るのだ。

「馬鹿野郎。まだ攻略だって中途半端だぞ。それに、攻略組はもう少しで傲慢の世界を攻略出来たんだ」

 攻略速度が上がっていると感じた明人は、教室に入ってくる摩耶を見た。

 摩耶もこちらを見る。

 どうするべきか悩んでいると、摩耶は小さく手を振ってきた。そのまま自分の席に向かい、着席する。

 陸が摩耶の様子を見て、首を傾げている。

「なんだ? 委員長、随分と笑顔だったぞ。お前、何かあったのか?」

 摩耶がアルフィーである事を言えない明人は、無理やり話題を変更するのだった。

「そ、そんな事より、いつごろサービスは再開するのかな? い、一ヶ月とか?」

 陸は頭の後ろで手を組んでいた。

「多分、な。情報屋も引き継ぎやら色々とあって時間はかかるって話だ。知っているか? あいつ、今度パンドラの社長になるんだぜ。大出世だよな」

 情報屋――今にして思えば、政界にマスコミ、他にも色々と人脈を持っているのが不思議だった。

 気が付けば、ゴタゴタしている間に運営のトップに座ろうとしている。

 陸は再開を待ち望んでいる様子だ。

「色々と確認とかあるらしいが、基本的にサービス再開後はゲームの質も上げるらしいから楽しみだよ」
 明人は思う。

(一ヶ月でそこまで出来るのか? まるで準備していたような……)

 日常の中、急激に変わっていく世界を感じる明人だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ