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戦う理由

 パンドラのように大地があって空がある。


 そんな環境ではない空間には、大量のモンスターたちがわき出ていた。


 入り込んだ異物を除去しようとするウイルス対策が、姿形を持ってセレクターたちに見えている。


 通常なら有り得ない光景。


 それをセレクターたちは認識し、対処しているのだ。


 ポン助が大鉈のような武器を振るって一体を排除する。


 周囲に張り巡らされた線。


 上下どころか、今どこを歩いているのかも怪しい空間だ。


「こんな場所で暴れろ、って言われても――っと!」


 地面らしき場所から無数にわいてくるモンスターを蹴り飛ばし、そして近くにいたルークと背中をあわせ互いをカバーし合う。


 拳銃を握り、雑魚モンスターたちを蹴散らすルークは、ゲームと同じように弾倉を交換する。


「やれるだけの事をするだけだ。お前も戦う理由があるからここにいるんだろ」


 冷静で頼りになる友人。


 ポン助は周囲で戦っているプレイヤーたちを見ながら、武器を握りしめるのだった。


(……そうだ。僕には戦う理由がある)


 本当なら迷い、関わり合いになりたくなかった。


 誰しも世界の危機と言われ、手伝いを求められたからと素直に頷くわけではない。


 参加したプレイヤーたちには、それぞれ参加した理由がある。


 壁から飛び出して来た猪タイプのモンスターが、ポン助に向かって突撃してくる。


 大盾で防ぐと、ポン助は地面を踏みしめて突撃に耐える。


 そのまま前に踏み出し、モンスターを押し返しながら大鉈を振り下ろしてモンスターを光の粒子に変えた。


 あの日。


 陸から電話がかかってきた日を、ポン助は思いだしていた。



『よう、お前のところにも情報屋が来たか?』


「……陸」


 スマホを手に取り、明人は顔を押さえて思い出す。


(情報屋を紹介してくれたのは陸だった。そうか、陸もセレクターだったのか)


 思えば、セレクターを探している人たちだった。


 以前から政府が暗躍していることを知っていたのだろう。


『元気がないな。世界を救う戦いに参加しないのか?』


「スケールが大きすぎて尻込みするよ」


 自分がやらなくても良いのではないか?


 誰かがやってくれるのではないか?


 明人は自分一人が参加したところで、作戦に影響は出ないだろうと思っていた。


 そんな明人の気持ちを理解した陸は、ゆっくりと語りかけてくる。


『俺はお前に参加して欲しいと思う。いや、俺もお前もこの事件の当事者みたいなものだ。参加するべきだ』


 ゆっくりとした口調だが、そこには力強さがあった。


「巻き込まれたかも知れないけど、そこまでする理由が――」


『理由ならある。俺もお前も、仲間たちを巻き込んでいる』


 陸の言葉に明人は理解出来ないでいた。


「ギルドメンバー? 仲間に迷惑はかけないよ」


『違う。その様子ならまだ全部の資料に目を通していないな? 今から言うファイルを確認しろ。ファイル名は――』


 タブレット端末を操作し、指定されたファイルを表示する。


 すると、そこに書かれていた事実に明人は驚愕するのだった。


「こ、これ――」


『そうだ。俺もお前も、もう仲間たちを巻き込んでいるんだ』


 セレクターは、一段階早くパンドラの影響を受けるようになっている。


 明人が今までに感じた肉体の変化、才能の向上、そして人間関係……セレクターは、周囲にも影響を与えてしまう。


 資料を読み、明人は手が震えていた。


「そうか。そうだよね。おかしいと思ったよ」


 泣きたくなった。


 人間関係に影響を及ぼす実験項目の結果に、ゲーム内の好感度が影響を及ぼすというデータがそこにはあった。


 つまり、今まで仲良くなれたと思っていたのは、ゲーム――パンドラの影響だったのだ。


『お前も俺にも責任がある』


 陸の言葉には、申し訳ない気持ちがにじみ出ていた。


 明人は思う。


(先輩も委員長も、俺が関わったばかりに……あの時、急に喧嘩を始めたのも僕のせいなのか?)


 二人の事を思い出し、どうしてオフ会が失敗したのかばかりを考えていたポン助は自分が悪いという結論に至った。


『このまま偽りの関係を続けるつもりか? 俺はそんなのはごめんだ』


 明人は小さく笑う。


「……上手く、行きすぎていると思ったんだ。オフ会で美人が出て来て、それが知り合いで……けど」


 明人は涙を拭う。


(こんな関係は駄目だ。僕は……)



 システム内。


「退けぇぇぇ!」


 スキルを使用し、ポン助がモンスターたちを蹴散らしていく。


 動きの良いプレイヤーたちの中には、攻略組のプレイヤーも参加していた。


 動きの悪いプレイヤーたちは、頼りになるオークの出現に歓声を上げる。


 ポン助は息を切らす。


「仮想世界よりも苦しい」


 パンドラ内でも疲労を再現はする。再現するが、それはすぐに回復するものだ。


 だが、現実並みに疲労が蓄積していくシステム内。


 パンドラとは勝手が違う。


「うわぁぁぁ!」


 ポン助たちが善戦を続けていると、普段からログインをしていないプレイヤーたちが赤い光に包まれ、砕けて消えていく。


 今までギリギリ耐えていたセレクターたちは、一角が崩れると急激に負担が増え始めた。


「俺が行く。ポン助、なんとしても耐えろ」


 ルークが仲間を率いてすぐにフォローに向かうと、ポン助が盾を掲げた。


「任せて――」


 任せてくれ。そう、言い終わる前に地面が砕けプレイヤーたちが吹き飛ぶ。


 転がり、立ち上がると地面からゆっくりと機械のようなドラゴンが姿を見せるのだった。


 プレイヤーたちが攻撃を仕掛けようとすると、ドラゴンは口を開いて大きなレンズをプレイヤーたちの前に晒す。


 直後、そこから拡散されたビームのような光がプレイヤーたちを襲った。


「た、助け――」


 ポン助の近くにいたプレイヤーが、光に当たって砕けて消えていく。


 運良く当たらなかったが、ポン助はゆっくりと翼を広げ浮かび上がったドラゴンを見るのだった。


「簡単には終わってくれないのか」


 世界を救うとは、なんと大変な事だろうか。


 そう思いながら、ポン助は盾を構えて地面を蹴ってドラゴンに挑むのだった。






 分別の都。


 マリエラとアルフィーは、お互いに気まずい顔をしながらもそれぞれがポン助に連絡を取ろうとしていた。


 アルフィーが首を傾げる。


「おかしいですね。ログインはしているはずなのに繋がりません」


 マリエラが髪をかく。


「怒って他の人とイベントにでも挑んでいるのかしら?」


 珍しく休んでいたポン助。


 ゲーム内にいたのなら、オフ会での件を謝罪しておこうと思ったが連絡が取れない。


 二人は先程から連絡を繰り返し、互いに会話をしないまま時間だけが過ぎていく。


 互いに気まずいと思っている様子で、出来ればこの場から離れたい。


 しかし、ポン助と連絡が取れた場合を考えると、相手をポン助と二人に出来ないので警戒する必要があった。


 困っていると、そんな二人のところにブレイズが駆けてくる。


「二人とも、連絡には出てくれ!」


 どうして連絡に出ないのかと言ってくるブレイズに、マリエラもアルフィーもメッセージや色々な手段で連絡を取ろうとしたブレイズの苦労を確認した。


 マリエラが慌てて謝罪をする。


「ご、ごめんね。それより、何か急用?」


 アルフィーも謝ってきた。


「申し訳ない。それより、ポン助を知りませんか?」


 ブレイズが二人を前に呆れつつも、連絡を取ろうした理由を話す。


「そのポン助君だ。どうやら何か巻き込まれたか、それとも主導しているか分からないが……かなりまずい事になっている」


 真剣なブレイズを前に、ポン助の事が気になる二人は黙って話を聞く。


「希望の都でポン助君を見たプレイヤーたちがいたんだ。向こうでもまだ有名人だから目立つからね」


 目撃情報が書き込まれ、そして後を付けたプレイヤーがいたようだ。


 映像を再生するブレイズ。


 そこには、ポン助たちが集まり神殿裏の墓地で何かをやっている様子が録画されていた。


 ただ、プレイヤーたちが近付くと普通の墓地が広がっているだけだ。


 マリエラが不思議がる。


「これって?」


「分からない。けど、何かやっているのは事実らしい。墓地に行くと妙にノイズが入るから、プレイヤーたちが騒いでいるんだ」


 ポン助が何か事件に巻き込まれていると判断したブレイズは、連絡を取ろうと試みるが失敗していた。


 なので、マリエラたちに連絡を取ろうとしたのだ。


「連絡が付かないのはオークのみんなだけだ。そろりさんとも連絡が付いたのに」


 ブレイズは、そろりから得た情報を二人に知らせる。


「有名無名に関わらず、いくつかのギルドが関わっている。新撰組なんか、全員参加でポン助君が関わっている“何か”に参加しているみたいなんだ」


 アルフィーが“何か”と聞いて、不安になるのだった。


 いつもなら首を突っ込むオークたちは、単純にログインをしていないらしい。


「何かって……ポン助は希望の都にいるんですか?」


 ブレイズが首を横に振る。


「分からない。現場には向かったよ。ただ、酷くノイズのようなものを感じるし、違和感があるけど近づけないんだ」


 他のプレイヤーたちには、仮想世界に小さなノイズのようなものが走るようにしか見えない。


 だが、ブレイズたちには、二つの光景が重なっているように見えたらしい。


「墓地に大きな穴が開いていたんだ。その周りには沢山のプレイヤーがいて……でも、入れなかった」


 マリエラが駆け出すと、アルフィーも希望の都へと向かう。


 ブレイズが呼ぶ声が聞こえてきたが、二人とも手を振るだけだった。






 二人の背中を見送り、ブレイズは困った顔をするのだった。


「……これからどうするんだろう?」


 誰もいなくなったところで、ブレイズの仲間たちが集まってくる。


「ブレイズ! みんなに確認を取った。だけど、誰も何も聞いていないみたいだ」


 ポン助がギルドマスターであるが、ブレイズたちも所属しているギルドにはまとまりがない。


 自由度は高いが、こうした時に非常に困る。


「手が空いている人たちに確認して貰おう。何か分かるかも知れない」


 自分たちでは何か見えただけ。


 だが、もしかしたらあの二人なら――。


 そんな考えをブレイズは持ち、そして二人宛にプレゼントを送りつけた。


 過去に課金で得たアイテムがまだ残っていた。


 何か役に立てばと送り、ブレイズはポン助のいないギルドをまとめるために動くのだった。


「何か嫌な感じがする。とにかく、確認をしよう」


 ブレイズたちは、その場から走り出すと職人集団のまとめ役であるライターのところへと向かうのだった。






 マリエラとアルフィーが神殿裏に来ると、そこにはプレイヤーたちが集まっていた。


「ノイズ酷くなってない?」

「なんか変な光景が見える奴らもいるらしいぞ」

「え~、こわ~い」


 野次馬たちを押しのけ、二人が見た光景は神殿裏の墓地――などではなく、普段の光景と重なるように、ボロボロになったプレイヤーたちが大きなゲートの前で転がっている光景が見えた。


 アルフィーが口を開く。


「こ、これは……」


 マリエラが前に出ると、続くようにアルフィーも前に出る。


 周囲が騒がしくなった。


「おい、今の二人――」

「き、消えた?」

「やっぱり運営に連絡をした方が――」


 野次馬たちの声が聞こえなくなると、今度は目の前に悲惨な光景が広がっていた。


 色んなプレイヤーたちが、墓石や壁にもたれ膝を抱え震えている。


 涙を流している者もいれば、神殿から出て来てフラフラしながらもゲートに向かって行くプレイヤーもいた。


「これは……なによ」


 唖然として立ち尽くしていると、情報屋が足早に近づいて来た。


「君たち、どうしてここに?」


 マリエラは情報屋を知っているため、少し安堵しつつも状況を確認する。


「外で噂になっていたから。ポン助はいるんですよね?」


 情報屋が言いがたそうにしていると、ルークが仲間に支えられながら神殿から姿を現す。


 マリエラとアルフィーを確認し、疲れた表情をしながらも微笑んでいた。


「なんだ、ポン助の奴は良い仲間を持ったじゃないか」


 ルークの言葉にアルフィーがたずねる。


「いったい何をやっているんですか? ポン助はあの中ですか?」


 ルークはゲートの中を見ながら、二人にポン助のことを話すのだった。


「……たぶん、もうすぐ出てくるだろうね」


 情報屋が手を握りしめ、そして呟く。


「このままだと計画が――」


 マリエラもアルフィーも、ゲートに飛び込もうとしてルークたちに取り押さえられた。


「離しなさいよ!」


「そうです。ポン助はこの向こうにいるんです!」


 ルークは二人に言う。


「大丈夫だ。……すぐに戻る」


 ルークは神殿の入口を見ていた。






 システム内。


 ドラゴンを前に、狂化したポン助が咆哮を上げて跳びかかる。


 宙に浮いたポン助に、ドラゴンが口を開けてビームを次々に撃ち込むと腕を交差させビームを受け止めた。


 そのままドラゴンに飛びつくと、片腕でドラゴンの首を締め上げてもう片方の手で何度も殴りつけるのだ。


 噛みつき、暴れ回るポン助をドラゴンは空を飛んで振り落とそうとする。


 ところが、プレイヤーが援護のつもりで魔法を放つと――。


「ウゥゥゥゥ……」


 ポン助が今度はそちらのプレイヤーに襲いかかる。


 狂化してしまったポン助は、ほとんど自分でコントロールが出来ない状況だ。プレイヤーとモンスターの区別などない。


 逃げ惑うプレイヤーたちと、背を向けたポン助に向かってドラゴンがビームを放った。


 消えていくプレイヤーたち。


 ポン助も背中から胸をビームが貫き、赤い粒子の光が体からわき起こる。


(こんなところで……)


 ポン助が消え去り、ドラゴンは脅威が失われたと思うと目を細め笑っているように見えた。


 プレイヤーたちは身構えるが、ドラゴンの放つビームに貫かれ次々に消えていくのだった。


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