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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第四章

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自治厨

 登校中。吐く息が白くなる季節。

 スマホを片手に明人はメッセージを読んでいた。

 マリエラやアルフィーと、現実世界でやり取りするようになった。少し妙な気分だが、メッセージのやり取りは嬉しくもある。

 メッセージを送信すると、スマホをポケットにしまう。

 学園へ到着した明人は、自分の席へと向かうと陸が椅子に座ってタブレット端末を見ていた。画面には動画が再生されている。

 同じように、他の生徒も動画を見ていた。

「おはよう」

「おう。なぁ、これを見ろよ」

 陸が片手を上げ、明人に楽しそうに見せてくるのは一つの動画だった。

 そこにはオークが映し出されていた。

 動画の再生回数が数万になっている。

「オーク?」

 画面にはオークを紹介する動画が再生されていた。

 パワーやら細かなステータス、そして使用感をプレイヤーが紹介している。

 オークを数人のプレイヤーが囲み、実際にその使用感を解説している。

「お前らが活躍するから、実際に検証している連中が出て来たんだ。攻略組みもオークの可能性を検証しているらしいぜ」

 パンドラの箱庭では、オーク種はネタ扱いされている。

 それが、ここに来てネタ扱いから脱しようとしていた。

「ついにオークもネタ扱いから真の価値を見て貰えるように――」

 嬉しく思いながら座る明人に、陸は笑顔で動画を再生する。

 オークを使用したプレイヤーが言うのだ。

『う~ん、強いけど微妙。弱くはないけど、自分でカスタマイズが出来ないからね。イベントで強くなるらしいけど、それなら他の種族も同じだし。あと、NPCの冷たい目! 画面で見ているのと、実際に体感するのじゃ違いすぎる。オークの連中は絶対にマゾだよ』

 そこには、実際にオークを使用したプレイヤーが微妙と評価する映像が流れていた。

「……なんて酷い評価だ。僕はノーマルなのに」

 やはりネタ扱いからは逃れられないようだ。

 強力なステータスと、イベントで強化されるオークは弱くはない。だが、他のプレイヤーたちが出来る、自分たちだけのカスタマイズ。

 ステータスの上昇、弱点の克服、長所を伸ばす、などの事が出来ないデメリットも持っていた。

 陸が肩をすくめる。

「まぁ、楽しみ方は人それぞれだからな。それより、オフ会の話はどうなったんだ?」

 明人はワクワクしていた。

「明日だよ。場所の予約もしているんだ」

 オフ会に使用するのは、わざわざ現実世界に作られたパンドラの箱庭にあるファミレスのような店だった。

 オフ会に使用するプレイヤーたちが多い。

 陸がニヤニヤしている。

「期待しすぎてガッカリするなよ」

「気を付けるよ」

 明人が陸と話を続けていると、教室に摩耶が入ってくる。普段と違って幾分か表情が柔らかく、そして嬉しそうに見えた。

 いや、最近は本当に楽しそうにしている。

 陸が見ても分かるくらいに、摩耶の雰囲気が変わっていたのだ。

「委員長、なんか嬉しそうだな。お前、何か知っているの?」

「なんでもオフ会をするとか言っていたよ。たぶん、上流階級向けの集まりじゃない? ほら、委員長はパンドラとかゲームをしないだろうし」

 周りの勝手な偏見であるが、誰も摩耶がパンドラをプレイしているなどとは思っていなかった。

「ふ~ん。それより、分別でどこまで進んだ?」

「ようやく三体目の攻略準備に入ったよ。ギルドの職人たちがレアアイテム集めに夢中になるから困るんだ。売っているから買えば良いのに」

 レアアイテムを取引している集団もいるので、購入しようと思えば出来た。

 だが、そういったアイテムはやはり高額、または対価が大きい。ライターたちは、出来るだけプレイヤーから購入しない方針をとっていた。

「まだギルドが出来たばかりなら、そんなに余裕がないだろ。でも、そういう時が楽しかったりするけどな。アレもしたい、コレもしたいって感じでさ」

 実際楽しいのだろう。

 ライターたちがボス討伐で一番興奮している。

「でも、次の慈愛の都に来るのもそう遠くないな。早く来ないと俺たちは次に行くからな」

 明人は陸に誘われパンドラをプレイするようになった。先輩プレイヤーである陸に追いつくのは難しい。

「勤勉の都に進むのか。僕たちも頑張らないとね」

 そんな話をしていると、教室に教師が入ってくる。





 明人のアルバイト先。

 時間は二十一時三十分。

 引き継ぎに来ない大学生たちを待つ明人は、普段と違う八雲を横目で見ていた。

 普段ならイライラしていてもおかしくないのに、今日に限っては随分と真剣に色々と考え込んでいる。

 というよりも、集中できていない感じだ。

「先輩、大丈夫ですか?」

 八雲は急にハッとした顔になり、取り繕うように手を振って苦笑いをしていた。

「な、なんでもないの。なんでも……」

 仕事中も考え込むことが多く、真面目な八雲らしくない一日だった。

(何かあったんだろうけど)

 心配して声をかける明人だったが、どこか八雲が煩わしそうにしているのが分かる。それに、親類が病気や事故になった訳でもない。

 個人的な理由だと言われては、明人も口を出せなかった。

 バックヤードから出てくる社員の栗田は、時計を見るとソワソワしていた。

「あれ? まだ来ないの? 困ったなぁ~」

 困った様子など感じない栗田は、八雲に話しかけるが相手にもされていなかった。

 明人が何度も止めに入ると、煩わしそうにする栗田。

(今日はこんなのばかりだな)

 そう思っていると、夜勤対応の大学生たちがやってくる。

「悪いね。遅刻しちゃった」

 悪びれる様子もない大学生たち。

 以前は遅刻しそうなら走ってきたものだが、最近では遅刻が常習化している。

 八雲が溜息を吐きながら、引き継ぎに入っていた。

「気を付けてくださいよ。最近毎日じゃないですか」

 大学生が苦笑いをする。

「ごめんね」

 明人は妙な感覚だった。

(おかしいな。以前はもっと厳しかったのに、店の方も注意だけをして特に何も行動しないなんて)

 この時代、学生のアルバイトは社会教育の一面が強い。

 お金を稼ぐという体験を、社会貢献をしつつ実地で学べる機会としている。なので、遅刻や無断欠勤には厳しい対応を取る会社も多い。

 明人がアルバイトをしている店も同じだった。

(代わりのアルバイトがいないのかな?)

 引き継ぎを終え、明人は気持ちを入れ替える。

(まぁ、明日はオフ会だし、気持ちを切り替えるかな)

 更衣室で着替えを済ませ、店を出ると八雲がスマホを片手に真剣な表情をしていた。

 声をかけようと思ったが、流石に邪険にされると分かっていたので止める。

 明人は八雲に挨拶をしてはなれ、そしてスマホを取りだしメッセージを確認する。

「マリエラもアルフィーも連絡なし。こっちからするか」

 メッセージを打ち込む。

『明日は楽しみだね。その前に、いつも通りログインするけど』

 すると、後ろの方で八雲のスマホから着信音が聞こえる。

 振り返った明人だが、八雲が嬉しそうな顔をしているのを見て思った。

(まさかね)



 分別の都。

 蒸気の都には、多くのギルドが拠点を持っている。

 中盤に入り、拠点を築いてギルドの結束を固める目的。他には、恩恵を手に入れるために拠点を作るギルドが増え始めるからだ。

 大手のギルドも拠点を持っており、中には変わった集団も多い。

 明人――ポン助は、そんな大手ギルド【新撰組】の拠点に足を運んでいた。

 統一された衣装に身を包んだプレイヤーたち。

 ギルドには常時五十人以上がいて、ピーク時には数百人を超える。

 揃いの衣装は過去の軍服を再現し、その上に新撰組の羽織を着ていた。

 アルフィーが周囲を見て息が詰まりそうだという顔をしている。

「相変わらずガチガチの人たちですね。それに新撰組、って……」

 言いたい事は分かるが、ポン助はアルフィーを制す。

「アルフィー、お願いだから黙って。ほら、周りの目が冷たいから」

 ポン助たちが歴史を感じる建物に入った理由……それは、ギルドメンバーが新撰組に捕えられたためだ。

 彼らのルールで、ギルドメンバーが捕まった場合はギルドマスターが受け取りに来るようになっている。

 マリエラが額に青筋を浮かべていた。

「まったく、あいつらと来たら」

 捕まったのはオークたち。そう、問題児たちだ。

 面会するための手続きを済ませ、牢屋のある地下へと向かう。

 そこには大勢のプレイヤーたちが捕えられていた。
「ふざけんな、出せよ!」
「お前ら正気かよ!」
「大手ギルドだからって調子に乗るなよ!」

 新撰組は、素行の悪いプレイヤーたちを取り締まっている。

 ゲームの穴を付いてプレイヤーを拘束、そして牢屋にぶち込む方法を確立したギルドでもある。

 ただ、その行為はとても面倒であり、ゲーム的なメリットは一切ない。

 むしろ、拘束するプレイヤーたちは、ゲーム的に悪質プレイヤーに分類されるだろう。

 だが、新撰組はこの行為を止めない。

 簡単に言うと自治厨だ。

 そんな連中に捕えられたオークたち。

 特別製の牢屋に到着すると、案内をしてくれたプレイヤーが忌々しそうな顔をポン助に向けた後に牢屋を見る。

 新撰組のギルドメンバーが、ポン助に言うのだ。

「お前らこれで何度目だと思っているんだ。度が過ぎていると何度も注意しただろうが」

 ポン助は気持ちのこもっていない謝罪をする。いや、申し訳ないという気持ちもあるが、それはNPCにであって、新撰組に向けたものではない。

 そう、NPCに蔑まれたいオーク集団の行為が、彼らにとってはルール違反という結論に至ったのだ。

 オークリーダーのプライが、ポン助を見る。

「私は無実だ。信じてくれ、ポン助君!」

 ポン助は、プライに呆れつつ質問する。

 無実ではないだろうが、ここに捕えられる理由もない。ただ、オークたちは妙に楽しそうに牢屋の中で過ごしていた。

「プライさん……この状況を楽しんでいませんか?」

「分かるかい? そうなんだ。ちょっと楽しいと思っている」

 度し難い性癖を持つオークたち。

 捕まっても喜んでいるのだが、新撰組のプレイヤーにしてみれば迷惑なのだろう。鉄格子に蹴りを入れた。

 アルフィーが額に手をやる。

「怒らないでくださいよ」

「これが黙っていられるか! お前ら正気か? NPCに変態行為をするなんて何を考えているんだ!」

 牢屋の中からプライが堂々と言う。

「自分の性癖に向き合って何が悪い」

「駄目に決まっているだろうが! 仮想世界にだってルールがあるんだよ!」

 ポン助は謝罪をする。

「本当に申し訳ありませんでした。ほら、みんなも出よう」

 ギルドメンバーを回収するため、わざわざこんなところまで来たのだ。

 マリエラがイライラしている。

「あんたら、今回は何をして捕まったのよ」

 新撰組は自治厨であるが、普通に楽しんでいるプレイヤーたちには関係ない存在だ。捕まる場合、新撰組内で規定している悪質行為をしたプレイヤーを拘束するだけ。

 ただ、新撰組からすると、オークたちは悪らしい。

 オークの一人。

 はちまきをしたオークが言う。

「わしらは特に悪い事はしていない。ただ、NPCが行き来する道で、大の字になって寝転がったら踏まれるかな、って。おっと、安心してくれ。スカートの中を覗かないために、うつ伏せで大の字になった」

 お前ら正気か? そう言いたいポン助だが、彼らは真剣だ。真剣だから質が悪い。

 新撰組に申し訳ない気持ちになりつつ、謝罪をしてオークたちを連れてギルドを後にするのだった。



 現実世界。

 明人は目を覚ますと準備を始める。

 用意していた私服に着替え、普段よりも鏡の前でセットに時間をかけた。

 仮想世界ではオークたちに悩まされたが、今日は待ちに待ったオフ会の日だ。メンバーは三人だけだが、それでも楽しみだった。

「マリエラもアルフィーもどんな人かな」

 あまり期待をしてはいけないと思いつつも、ゲーム内で楽しく遊ぶ仲間である。

 時間を確認するとまだ余裕があった。

「早めに出るか」

 予定よりも早く出発しようとすると、スマホにメッセージが届く。

 マリエラとアルフィーからだ。

 服装について書かれている。

「マリエラは上着が黒で、アルフィーが白か」

 明人も自分の上着を見る。

 灰色だったので、グレーと書き込んで返信する。





 摩耶は大慌てで準備をしていた。

 シャワーを浴び、髪を整え薄く化粧をする。

 気合の入った摩耶に屋敷の使用人たちも噂をするくらいだが、今日を逃すとチャンスが来るのは冬休み中だけだ。

 スマホにメッセージが届くと、確認して顔をほころばせた。

「そっか。ポン助はグレーの上着ね」

 楽しみだという顔をしている摩耶は、時計を見て再び慌てながら準備をするのだった。





 シェアハウス。

 八雲は鏡の前で何度も自分の姿を確認する。

 黒の上着。その下にはセーターだ。

「スカートが短すぎるかな?」

 サイハイソックスを着用しているが、普段は動きやすいパンツなどを着用している。スカートを履くのは、それだけ気合が入っているという事だろう。

 同居している先輩や後輩たちが、そんな八雲の様子に呆れているが気にしない。

 まるで恋する乙女のような顔をしていた。

 昨日からオフ会のことを考え、上の空になる事が多かった。

「やっぱりもっと落ち着いた感じが……でも、男っぽいからな」

 考え込み、そして時間が過ぎていく。

 気が付くと、出かける時間ギリギリになっていた。

「い、いけない。早く行かないと」

 こうして、三人が出会おうとしていた。
そろり(*´Д`)「はぁ……はぁ……ナチュラルに存在を忘れられているなんて」

ポン助(・∀・;)「いや、だって呼んでも来ないし」
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