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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第一章

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オーク種

 態度の悪い中年の神官NPCを前にしていたポン助。

 職業を得られる神殿には多くのプレイヤーたちが足を運んでくるが、受付は仕切りが用意され外からはあまり様子が分からない。

 職業はステータスやスキルにも影響を与える大事な情報であり、それを第三者が見ることは出来なくしていた。

 杖を肩の上でポンポンと叩いている神官は、ポン助――プレイヤーを前にして早くしろと言いたげだった。

(なんだ? なんでこんなに喧嘩腰なんだ)

 オーク種が嫌われ者である設定は知っていたが、ここまでリアルに追求するゲームの運営を理解できなかったポン助は獲得できる職業を見た。

 空中に浮ぶ半透明の画面には、修得可能な職業が表示されていた。

(やっぱり戦士系が多いな。魔法使いや僧侶も取れるけど、種族的な相性が悪いみたいだ)

 ゲーム内の種族にはそれぞれメリットとデメリットが存在していた。

 存在しないのは、ヒューマンくらいだろう。

 だが、ヒューマンもステータスの能力値がほとんど平均値で、特化したものがなく器用貧乏という欠点も持っていた。

(格闘家の職業を取って……持っている職業のレベルを上げるか)

 序盤。

 やりたい事は多くても、持っている職業ポイントもスキルポイントも少ない。

 出来ることは限られており、ポン助は格闘家を修得すると持っていた職業【戦士】の職業レベルを上昇させた。

 戦士のレベルを五に。格闘家のレベルを三に。

 そこまで設定すると、ポン助は神官に終了したと告げて受付を離れようとした。だが、神官は杖で机の上を叩く。

「お布施」

「は? えっと……」

「お布施は!」

 でかい態度のNPCを前に、驚きつつもいくらかお金を出すと相手は手でポン助を払うような仕草をした。

(ここまで嫌われるというか、作り込む必要があったのか!?)

 ポン助が困惑しながら受付から離れるが、アルフィーもマリエラもまだ受付で職業を選択している最中であった。

 二人を置いて行くわけにも行かず、その場で待つことにするポン助。

 だが、そんなポン助に声をかける集団がいた。

「ほう、君もオーク種なのか」

 振り返れば、緑色の肌にスキンヘッド。下あごから牙を突き出した典型的なオークの集団がそこに立っている。

「えっと……」

 オーク四人が太く逞しい腕を組んでポン助に笑顔を向けていた。

 革製で体を締め付けるような装備に身を包んでいるオークたちは、ポン助を見て嬉しそうにしている。

「そうか……君もそうなんだね」

 そのオークは、ポン助が出て来た受付を見て何度も頷いていた。

 そして、ポン助の肩に手を乗せて反対の手で親指を突き立てた。

「君もドMか!」

「ブッ!!」

 噴き出してしまったポン助を、三人のオークたちが笑ってみていた。

「驚く必要はないよ」
「あぁ、俺たちもそうなんだ」
「分かる。分かるぞ。俺たちにとって、オークは天職だからな!」

 一人のオークは腕を組んでポン助から顔を逸らしていた。

 ポン助が言い訳をする。

「いや、いきなりなんなんですか! 僕がどうしてMなんですか!」

「嫌、違う。ドMだ」

「そういう意味じゃねーよ!」

 話の通じない相手だと思っていると、リーダーらしきオークが腕を広げて説明を始めた。

 この場から逃げ出したかったが、二人がまだ出てこないのでポン助も動くに動けなかった。

「おかしい話じゃない。何しろオークは体力がある。防御力も高く、攻撃――ご褒美を沢山受けることができる恵まれた体だろ?」

 ポン助は思った。

(なんで攻撃の部分を言い直したんだ、この人)

「それにオークと言うだけでNPCたちが蔑んだ視線を向けてくる……最高じゃないか!」

 違うオークがポージングで筋肉を協調しながら、周囲の視線を集めていた。

「ドMなら、一度オークを味わってしまうと引き返せない。そうでなければすぐにアバターを作り直すからね。つまり、ここにいるという事はすくなくともレベルを上げているし、アバターを作り直す余裕もあったはずだ! ……君はドMだ!」

 どうしてそういう話になるのか?

 ポン助にしてみれば、作り直すのを考える前に少し遊んでおきたかっただけだ。しばらくプレイをして、コツを掴んでから作り直すことも考えていた。

「いや、僕は違うんで! そこの人も何か言ってくださいよ」

 腕を組んで顔を背けているオークは、きっと三人に困っている常識人なのだとポン助は勘違いをしていた。

 そう、勘違いだった。

「そこの連中の事なんか知るか。俺はオークなら同じオークの方がパーティーを組むのに都合が良かっただけだ。俺はドMじゃない……ただのMだ」

(こいつ、自分を堂々とマゾだって言いやがった。やっぱり同類じゃないか)

 マゾのオークは鼻を鳴らすと、そのまま歩き去って行く。

「俺は受付に用事があるからもう行く」

 そんなオークの後ろ姿を、仲間のオークたちが笑顔で見送っていた。

「よく見ておくんだ。あいつ、絶対に左端の受付に並ぶぞ」

 彼の仲間がそう言うと、マゾのオークは迷うことなく金髪碧眼の美人NPCの受付に並んでいた。

 受付の仕切りの隙間から、女性の輝くような笑顔が見えた。

 新しく職業を得たプレイヤーに「頑張ってください!」などと、励ましの言葉までかけている。一見すると天使である。

 だが、マゾのオークが顔を出すと、その顔が鬼のように歪む。持っていた杖を鈍器に持ち替え、マゾのオークを叩いていた。

 確実にダメージが入っている。

「あ、あそこまでしますか!」

 驚くポン助に、オークたちは笑顔で言うのだ。

「いや、ここの受付は右端から順にオークへの対応が酷くなるんだ。俺なんか左端まで行くことはないけど、あいつはあそこしか行かないから」

 途中「あぅっ!」などという、なんとも微妙な声がマゾのオークが入った受付から聞こえたが、ポン助は無視する。

 ポン助が使用した受付は、やや右寄りの受付だった。

「俺たちは日々、NPCがどんな対応をするのか調べている。ついでにゲームも楽しんでいるエンジョイ勢だ」

 ポン助は思った。

(いや、あんたたちただの変態だよ。エンジョイはしているかも知れないけど、変態だよ)

 リーダーのオークがポン助にフレンド登録を申請してくる。

 ポン助は、少し考えたが一応登録しておく事にした。

(まぁ、話のネタにはなるか)

「今は認められないかも知れないが、いつかきっと気づく。その時は、連絡をくれ」

 そう言って離れて行くオークたち。

「いや、認めるも何もドMじゃないからね! って、聞いています!? ……行っちゃった。まぁ、楽しみ方は人それぞれか」

 すると、ポン助は周囲の視線を感じて辺りを見回した。

 そこにはアルフィーとマリエラの姿もあるが、自分に近付くのを躊躇っているのをポン助は感じ取るのだった。

「……ねぇ」

 声をかけ手を伸ばすポン助に、視線を逸らしたマリエラが焦ったように笑う。

「アハ、アハハハ、そうだよね。楽しみ方は人それぞれだよね。うん!」

 ポン助はなにか酷く誤解されたと思い、訂正しようとするとアルフィーが口を開いた。

「安心してください、ポン助。私たちは、貴方が男好きでドMでも仲間だと思っていますよ」

 そんなアルフィーの言葉に、ポン助は即答するのだった。

「僕は、お前たちを今後仲間だと思えるか不安でしょうがないよ」



 希望の都の正門。

 そこには多くのプレイヤーたちが出入りを繰り返していた。

 門の横にある魔法陣の描かれた台座からは、プレイヤーが数人出現したかと思うと次は数人が上に乗って消えていく。

 ウキウキと外に出ていくプレイヤーもいれば、駆け抜けるように飛び出していくプレイヤーたちもいる。

 話ながら歩いているポン助たちは、時折横を駆け抜けていくプレイヤーに注意をしながら今後の事を話していた。

 アルフィーが不思議そうな顔をしていた。

「火竜退治ですか?」

 ポン助は頷く。

 人混みの多い門の周辺は、プレイヤーだけではなくNPCの姿もあった。賑わいを演出するために冒険者のNPCたちも存在しているらしい。

「【怒れる火竜】のクエストをクリアすると、次の世界へいけるパスを貰えるんだ。というか、そのクエストをクリアしないとレベルも五十で止まるみたいなんだよね」

 特定のクエストをクリアしなければ、先にも進めなければ強くもなれない。

 希望の都では、それが怒れる火竜というクエストだった。

 先に進めばもっと複雑で難しくなるらしく、序盤の誰でもクリア出来るイベントのようなものらしい。

「ただ、そのクエストを受けられるのは、最低でも四人パーティーが三つから、なんだよね。だから、仲間を見つけてパーティーも揃えないとクリア出来ないの」

 マリエラがこめかみを押さえていた。

「知り合いというか、後輩は先に進んでいるから加われないわ。ルークさんみたいにレベル制限で手を貸して貰える?」

 ポン助は首を横に振った。

 アルフィーも困った顔をしている。

「弱りましたね。私の場合、このゲームをしている知り合いがいません。ゲーム内で知り合いを探さなければ……」

 いや、普通はそういうものだ、などとポン助は言わない。

 なにしろ、自分も知り合いなどほとんどいないから。

(まぁ、変態のオークたちと知り合ったから、この二人よりはマシか。……マシだよね?)

 門をくぐり、外に出ると人混みからも抜け出して目的地を確認する。

 浮かび上がる画面上に地図を出して、三人で目的地を確認した。

 ポン助は、この前のログインで足を運んだ場所よりも難易度が高いフィールドを選択する。

「取りあえず、レベル上げをしよう。どのみち、クエストを受けられるのは当分先になると思うし」

 二人が頷く。

 その後、ゲーム内での二日間を結局二人と過ごして終わってしまった。



 現実世界。

 目を覚ました明人は、時計を見る。

 やはり時間は七時を示しており、時間通りに起きてしまった。

 時間が来れば目を覚ますのは当然であり、VRマシンのヘッドセットを取って髪をかく。少し髪が汗ばんでいる気がした。

「ふわぁ~」

 大きな欠伸をすると、いつもとは違って明人は学園に向かう準備をしなかった。

 今日は休日である。

 予定も十時からアルバイトが待っているだけだった。

「土曜日は勤務時間が長いから大変だな。まぁ、その分お金も入るんだけど」

 起きて洗面所に向かい顔を洗うと、明人はたまっていた洗濯物を洗濯機に放り込んだ。

 全自動など当たり前。

 アルバイトから戻ってくれば、乾燥まで終えていることだろう。

「制服はクリーニング屋に出そうかな」

 冷蔵庫から食べ物を手に取り、口に入れる。

 だが、やはり味気ない。こめかみに皺が寄り、取りあえずのみ込むと明人は食べ物の賞味期限を確認した。

 期限的に問題なく、味自体も特別変な気はしない。

 だが、違和感だけはあった。

「この前から少しおかしいのかな?」

 妙に気になってしまう。気にしすぎと思えばそれまでなのだが、今まで食べていた物の味が微妙に味気なく感じてしまっていた。

「ゲームのせいなのか? ……まさかね」

 そう言って部屋を出る準備をすると、買い出しに出るために明人は出かけるのだった。



 志方八雲。

 彼女は目を覚ますとヘッドセットを外し、時計を見た。

 時間は七時を数秒過ぎたところであり、昨日と変わらない時間だった。VRゲームを始めてまだ間もないために、どうにも慣れない。

 ベッドから起き上がって背伸びをすると、着ている服が上に持ち上がり腰とへそが見えた。

 赤いショートボブの髪は、少し乱れていた。

「出る前にセットをしないと駄目ね。はぁ、それにしても面倒。今日の社員の人、苦手なのよね」

 ゲーム中、【マリエラ】と名乗ってエルフの狩人として冒険をしていた。

 まるであっという間の二日間だった。

 課金装備で身を固めたアルフィーの、嫌味なのか本気なのか分からない会話。

 戦闘やゲーム内のことに詳しいポン助は、女性アバターだというのに非常に紳士だった。もっとも、少し態度が冷たい。

 その事でアルフィーとポン助について話をしていた。

「実は中身が女性かも、か。う~ん、なさそうだけど……そうなると男好きのドMという近付きたくない人になるのよね」

 今度本人に確認してみようか?

 だが、それはマナー違反なので、なにかしら別の方法で性別だけでも調べられないか?

 そう考えていると、部屋にノック音がした。

「開いているわよ」

 八雲が返事をすると、部屋には女子校の後輩が入ってきた。

「先輩、この前はありがとうございます。おかげで彼氏に貴重なアイテムを渡すことが出来ました」

 明るい後輩がそう言ってくると、ベッドの上に視線を向けていた。

「あ! 先輩もゲームを続けてくれるんですね。これでゲームの話が出来る人が増えて、私も嬉しいです!」

 興奮気味の後輩に苦笑いをしつつ、八雲は適当な話をする。

 八雲が住んでいる場所はいわゆる女子寮――というよりも、シェアハウスに近かった。

 女子校の学年やクラスも関係なく、放り込まれ三人から四人での共同生活を送ることが決められているのだ。

 後輩が思い出し、少し慌てた。

「先輩、今日ってもしかしてアルバイトの日でした?」

 八雲は頷き、アルバイト先の愚痴をこぼした。

「そうなのよ。今日は休みを入れた人たちの代わりで出勤。今週は出勤が多くて困るわ。しかも今日は、嫌いな社員が出勤の日だし……って、ごめん! 買い物に行く予定だったんだ」

 慌てて準備をする八雲に、後輩も悪い気がしたのかすぐに部屋を出た。

「私こそすみません。すぐに外に出ますね」



 部屋の外に出た後輩は、ドアを閉める。

 すると、八雲の鼻歌のようなものが聞こえてきた。

 普段はアルバイトがあると苛立っているというか、楽しそうではない八雲にしては珍しいと後輩は思う。

「あれ?」

 廊下を歩いて自室に向かう後輩は、そこで思い出した。

「先輩、バイト先で一緒に仕事をする人の愚痴を言わなかったな?」

 入ってきた新人のバイトに仕事を教えるのが面倒、などと愚痴を言っていた八雲を後輩は思い出した。

 それも最近まで言っていたのだ。

「先輩、男の人は毛嫌いしていたのに……」

 過去に何かあったのは聞いているが、後輩は詳しい話を知らなかった。

 そのため、深く考えない事にしたようだ。

 軽い足取りで笑顔になる。

「仕事を覚えたのか、シフトが変更になったのかな? まぁ、先輩がイライラしないならそれでいいか」

 後輩の女子はそう言って、部屋に戻ると彼氏と連絡を取り合うのだった。
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