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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

三章

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輿

 節制の都はエルフの世界をゲーム内で再現している。

 緑豊かで木々が多く、自然に溢れている世界。

 そんな節制の都で、ポン助たちはあるクエストを受けていた。

 クエストの内容は、ダークエルフを捕まえろというものだった。

 ダークエルフ――闇落ち、咎人など悪いイメージの多いエルフは、オークと同じで扱いが悪い種族だろう。

 節制の都にはエルフやハーフエルフ、そしてハイエルフが住んでいる。

 しかし、ダークエルフは追放されているので見かけることはない。

 プレイヤーがダークエルフであれば、オークのように毛嫌いされるのが節制の都である。

 ポン助たちは深い森の中、周囲を捜索していた。

 時折飛び出してくるモンスターと戦いつつ、ポン助たちは指定された場所に到着した。

 すると、森の中に切り開いた場所には小さな小屋があった。

 ダークエルフの家族が隠れ住んでいる家には、全身鎧を着込んだエルフの騎士たちが三人襲撃をかけている。

「お願いです、見逃してください」

 ダークエルフが泣いて頼んでいるのに、エルフの騎士は蹴り飛ばしてダークエルフの子供たちにやりを向けた。

「咎人が偉そうに。エルフの面汚し共はここで成敗してくれる!」

「こ、子供たちだけは!」

 ダークエルフの両親が、子供たちを守ろうと必死である。

 ポン助たちは、そんな場所に立ち会うとこれからどうするべきか相談するのだった。

「……なんて達成しにくいクエストなんだ」

 額に手を当てて俯くポン助に、アルフィーが同意してきた。

「これ、どちらかに加勢をするパターンのクエストでしたよね? ダークエルフに加勢をしてもクリアになると聞きましたけど」

 マリエラは肩をすくめた。

「その場合の報酬はお礼だけ。エルフの騎士たちが落とすドロップアイテムが少し貴重、ってだけよね」

 クエストをギルドで請け、そして森まで来て探すだけで時間もかかっている。節制の都に戻る頃には夜になっていることだろう。

 ポン助は髪を乱暴にかく。

「これだから嫌なんだ。画面を見ているタイプと違って、本当に心をえぐりに来る」

 事前に調べてきたポン助は、どちらを相手にした場合も知っていた。

 エルフたちに加勢をすれば、見下されつつも貴重なアイテムを貰える。

 そして、モンスター化したダークエルフは、見た目も化け物になるので倒しても心は痛まない。

 ダークエルフに協力すると、エルフたちから貴重なアイテムを奪える。

 クエストはクリアとなるが、問題なのは失敗であるので報酬が出ない事だ。

 マリエラがエルフの騎士たちにすがりつくダークエルフの夫婦を見ながら、ポン助にたずねるのだった。

「どうするのよ。私たちはどっちでもいいわよ」

 ポン助は、武器を抜くとそのままエルフの騎士たちの方へと向かう。

 オークが武器を抜いて歩いてきたので、エルフの騎士たちが警戒した。

「オークだと? モンスター風情が何用だ?」

「その態度が気に入らないから、ぶちのめしてやる!」

 ポン助が騎士の一人に斬りかかると、そこから戦闘が始まった。

 髭を生やしたエルフの騎士が、剣と盾を構えてポン助と向き合う。

「馬鹿な奴だ。ダークエルフなんかに加勢をしても意味などない」

 斬りかかってくるエルフの騎士は、髭を生やした隊長がレベル七十五と高い。

 残り二名がレベル七十で、スキルも有用な物を持っていて強かった。

 普通に強いNPCを前に、ポン助は一度斬りかかって敵対状態になると慎重に構えて腰を落とす。

 マリエラが矢を放つと、隊長を守るために一人が盾で矢を弾いていた。

「普通に強いわ」

 呆れつつもマリエラが矢を三本手に取ると、そのまま三本の矢を放つ。

「けど残念……こっちはとうにカンスト済みよ」

 ニヤリと笑うマリエラが、三本の矢を放つとそれぞれが違う方向に進み最後に盾を持ったエルフの騎士に襲いかかる。

 手、足、と突き刺さり、ダメージを負うと飛び出して来たアルフィーに横一線に斬られた。

 しかし、斬撃は三つ。

「流石に課金装備は強力ですね」

 すぐに一人を倒すと、数の有利はポン助たちへと傾く。

「この……っ!」

 髭を生やしたエルフが顔を赤くし、部下に指示を出そうとするがポン助が間合いを詰めて盾で殴り飛ばした。

 ポン助が隊長の相手をしている間に、マリエラとアルフィーがもう一人のエルフの騎士を倒す。

 エルフの隊長は顔を真っ赤にして、そして魔法で自分を強化した。

「この馬鹿共がぁぁぁ!」

 すると、ポン助が空に向かって咆吼する。周囲の大気が揺れて木々まで揺らすその咆吼により、パーティーの強化が行われた。

 マリエラが弓を背中に担ぎ、両手に短剣を二つ持つと斬りかかる。

 アルフィーもマリエラの反対側からエルフの騎士に斬りかかり、最後にポン助が全力で剣を突き出した。

 コンボという文字がエルフの騎士の頭上に表示され、そのまま連続で三人が攻撃をするとダメージが加算されていく。

 最終的にオーバーキルになったが、戦闘はすぐに終了した。

 赤い光に包まれ、エルフの騎士は消えていく。

「き、貴様ら……なにをしたか……分かって……」

 酷く苦しそうな表情で睨まれたポン助は、なんとも嫌な気分になった。

(運営……やりすぎだろ)

 三人が武器をしまうと、ダークエルフの夫婦が近付いてくる。

「助けて頂きありがとうございます」

「本当にありがとうございます」

 小さな女の子が夫婦の後ろで母親に抱きつきながら、お礼を口にする。

「ありがとう、オークのお兄さん」

 照れながらお礼の言葉を受け取ったポン助は、そのまま立ち去ろうとするがエルフの夫婦――旦那さんに呼び止められた。

「あの、失礼ですが“優しき心”というアイテムをお持ちではありませんか?」

 ポン助たちは顔を見合わせた。

「え、なに? もしかしてそういうイベント?」

 マリエラは少し慌てているが、ポン助に確認を取る。

 思い出しながら話をするアルフィーは、そういったパターンもあるだろうという口ぶりだった。

「確か、希望の都で手に入れたアイテムでしたよね。まさか、ここで繋がるとは思いませんでした」

 数多くのイベントが用意されているパンドラだが、それら全てをプレイヤーが発見できているとは言えない状態だ。

 多くのプレイヤーが気付かぬ内に消えたイベントも数多い。

 ポン助はダークエルフの旦那に頷く。

「持っています」

「そうでしたか。では、これを受け取ってください」

 そこには、ポン助が持っていた優しき心の石とは色違いの優しき心というアイテムがあった。

「……あの、これって」

 ポン助が話を聞こうとすると、ダークエルフたちは小屋へと戻っていく。

「ちょっと!」

 マリエラが小屋へ急いで入るが、次の瞬間。

「キャァァァ!」

 なんとも可愛らしい叫び声が聞こえてきた。





 節制の都。

 そこにある寂れた喫茶店で、ポン助は情報屋の男と話をしていた。

 話の内容は、もちろんダークエルフ討伐のクエストだ。同時に、本来なら手に入らないようなアイテムが手に入った事を伝えるために呼び出した。

 情報屋の男は大急ぎでポン助の下に来ると、詳しい内容を確認したのだ。

 メモを取り終えた情報屋の男は、何度か頷いた後でポン助に確認を取る。

「それで、小屋には白骨した遺体があっただけかい?」

 マリエラが飛び込んだ先で見た光景は、ダークエルフの家族が白骨化してベッドに横になっていた光景だ。

 小屋の中は蜘蛛の巣が張り、埃まみれで家族が死んでから随分と時間が経っている光景だった。

 ポン助はジュースを飲みながら、情報屋の男に聞く。

「色々と調べてみましたけど、本当に何もなかったんですよ。それより、クエストが消えたのは俺たちのせいですか?」

 ダークエルフ討伐のクエストはいくつかあるが、家族を討伐するクエストはギルドから消えていた。

「確かになくなっていたね。ただ、クエストとしては微妙だったから、一部のプレイヤーが気にしているだけだよ。それにしても、オンライン向きのクエストとは思えないね。何かしら、大きなクエストなのかも知れない。希望の都、節制の都とあったなら、次もありそうだ」

 新しい情報に興味を示す情報屋に、ポン助は情報提供の代りにいくつか情報を求めるのだった。

「それより、大型アップデート後はどうです? リアルだと二週間は過ぎましたけど」

 情報屋の男は笑っていた。

「毎回驚かされるが、今回も本当に驚いているよ。バランス調整が入ったみたいだけど、何よりも驚いたのはハーフフェアリーだね。まだ一般プレイヤーは弱いと思っているみたいだけど、攻略組は大騒ぎだよ。傲慢の都の攻略には、ハーフフェアリーが重要な役割を担うと考えているらしい」

「そんなにですか? 一人知り合いがいますけど、随分と苦労しているみたいですよ」

 シエラの事を思い出して話をするポン助は、希望の都での出来事を口にする。

「仲間を探しても、ハーフフェアリーだから拒否された事もあるみたいです」

 おかげで、ナナコを紹介する事になったポン助は、そこまでハーフフェアリーが強いとも思えなかった。

 とにかく打たれ弱いのだ。

 しかし、攻略組が目を付けたとなると、何かしらあるのでは? とも思えた。

(陸もそんな事を言っていたからな)

 情報屋の男が、持っている情報をポン助に伝える。

「そうでもない。特化型は使い方次第だからね。ほら、種族によってはレベルやイベントで強化されるだろ。ハーフフェアリーにもあると思うんだよ」

 不確定すぎる情報だが、確かにあってもおかしくない。

「それより、火竜の角はいつ捧げるんだい?」

 ポン助はジュースを飲み干すと、その件について話をするのだった。

「節制の都に知り合いたちが入りましたからね。今はレベル上げをして貰っているんで、近い内に。リアルで言うと二日後か三日後くらいですかね」

 オークパーティーに加え、ナナコにシエラ、そしてライターも節制の都に入っていた。

 知り合いたちが続々と集まり、準備を進めていた。

「それなら一つ頼みがあるんだ」

「なんです?」

「実は次の都――分別の都でも同じようにオークの里がある。そこに捧げるアイテムなんだが、まだ分かっていない。だけど、候補として節制の都にいる土竜が怪しいと思うんだ」

 土竜《ドリュウ》。

 モグラではなく、ドラゴンだ。大地の属性を持つドラゴン。

 ポン助は眉をひそめた。

「いや、でも……土竜は討伐されたことがありませんよ」

 ドラゴンの中では格下扱いを受けそうな土竜だが、実はプレイヤーに一度も討伐されたことがないモンスターだった。

 正確には、倒さなくても問題ないと言うのが大きい。

 かつては倒そうとしたらしいが、先に進めると分かると厄介な土竜を相手にするよりも先に進もうとするプレイヤーが増えたのだ。

 情報屋の男はフードを深くかぶっており、表情は口元しか見えない。

 しかし、真剣な口調だった。

「ポン助君……土竜を倒してみないか? 君たち、随分と仲間も揃っているというじゃないか。もう少し集めればいけるんじゃないか?」

 嫌そうな顔をするポン助だが、オーク強化のイベントに必要なら試さないわけにもいかない。

「やってみますけど、情報とかくださいよ」

「それはもちろん!」

 情報屋の男は、待っていましたと言わんばかりに色々なデータをポン助に渡すのだった。





 マリエラとアルフィーは、喫茶店でシエラとお茶の時間を楽しんでいた。

「レベルは上がったのに、肉体的なステータスとかどれも低いわね。この数値なら、レベル二十とか三十くらい?」

 シエラが泣きそうな顔をしている。

「そうなんですよ。だから、レベルの高いモンスターと戦うときは、周りをガードして貰わないといけないんです。ポン助さんがいた時は楽だったんですけど、今のパーティーはなんというか」

 同レベルのモンスターと戦うのも、緊張が続くハーフフェアリー。

 特化型で魔法は優秀だが、すぐに死んでしまうデメリットはきついものがあった。

 アルフィーはストローを口に咥え、周囲を見る。

「それにしてもナナコちゃんは遅いですね」

 シエラは溜息を吐いた。

「ナナコちゃんはいいですよね。普通に強いですし、何よりもパーティーでは主力なんです。素早いし、頼りになるし……私、足を引っ張っている気がして」

 シエラが落ち込んでいるのを見て、マリエラは慰めるのだった。

「別にゲームだから良いのよ。それに、そこまで弱いのに火竜を倒してここまで来たんだから誇ればいいわ」

 アルフィーも同意見だった。

「そうですよ。魔法専門で頑張れば良いんです。それに、ポン助が言っていましたよ。ハーフフェアリーは攻略組に人気だ、って。実は強いんじゃないですか」

 シエラが苦笑いをする。

「だといいんですけどね。何度か作り直そうか悩んだんですけど、ズルズルと使い続けてしまって」

 すると、シエラが二人に確認を取る。

「そう言えば、ポン助さんはギルドを立ち上げないんですか?」

 マリエラもアルフィーも、そんなシエラの言葉に少し考え込むのだった。

「ギルドかぁ……あれってそんなに良いものなの?」

 アルフィーは基本的にゲームの大事な部分。戦闘だとか、ギルドだとかには興味がないのだ。

「メリットはあるらしいですけどね。色々と拘束されるのはちょっと」

 シエラが溜息を吐くと頭を抱えた。

「そうですか……」

「ポン助がギルドを持つと何かあるの?」

 マリエラが聞くと、シエラは視線を逸らしつつ言う。

「いえ、同じギルドだと色々とメリットがあると聞きましたし、それにポン助さんは知り合いが多いのでギルドを立ち上げてくれるかな、って」

 アルフィーが天井を見上げる。

「ポン助がギルドマスターですか。でも、知り合いの大半が……」

 すると、店内のドアが開く。

 そして、何故かナナコを輿に乗せて担いだオークの一団が入ってきた。

「あ、みなさ~ん」

 ナナコは状況をあまり理解していないのか笑顔である。

 そして、輿を担いでいるオークたちは幸せそうにしていた。

 プライがナナコに手を差し伸べる。

「姫様、到着しました。さぁ、俺の手に乗ってください。そのピンヒールでグリグリと私の手を踏んでください」

 ナナコが困った顔をしていた。

「流石にそれはちょっと……あ、靴は脱ぎますね」

 靴を脱いで差し出された手に乗るナナコを前にして、プライはナナコが踏んだ掌を見て言うのだ。

「……私はもう手を洗わない」

 真剣な顔でそう言い切るオークのリーダーであるプライに、アルフィーが顔面に蹴りを入れたのはその直後だった。

「お前らは何をしているんですか!」
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