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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第一章

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エリアボス

 周囲は見渡す限りの草原。

 そんな場所で、四人の冒険者が一頭の茶色のマンモスと戦っていた。

 エリアボスである“ブラウン・マンモス”は、広いエリアを練り歩いて冒険者を見つけると襲いかかるモンスターだ。

 レベル上げ、ドロップアイテム狙いの初心者たちを全滅に追い込む凶悪な存在でもある。

 ポン助たちパーティーは、そんなブラウン・マンモスを囲むように配置していた。

「絶対無理!」

 真正面に立つマンモスを前にして、ポン助が叫んでいた。

「五月蝿い! オークなんだから頑張れ! ほら、これでどうだ!」

 ルークが左手をかかげると、ポン助にバフ――能力上昇系の魔法が使用され、ステータスが向上する。

 だが、ルークはレベルを十に制限されており、能力上昇値もたいした事がない。

「ちくしょうぉぉぉ!」

 自棄になりマンモスに斬りかかるポン助だが、その両脇からルークとアルフィーが攻撃を仕掛けた。

 その姿を見た直後、ポン助はマンモスの突撃を受けて吹き飛ぶ。

「ふぎゃっ!」

 草原の上を不格好に転がるオーク。

「貰った!」
「合わせる!」
「私も!」

 そんなポン助を置いて、少し離れた位置から弓を構えたマリエラまでもが連係攻撃を開始していた。

 ハイヒューマン。ヒューマンの上位種であるルークは、鉛色の大剣を大きく振り抜いてマンモスにダメージを与えていた。

 振り回し、その勢いを利用しての二回攻撃。

 続くアルフィーは、片手剣を振ると返すついでにもう一撃を加えていた。課金武器の効果で、二回攻撃ができるのだ。

 最後に矢がマンモスに突き刺さる。

 マンモスの真上に【Combo!!】などと文字が浮び、合計ダメージにプラスした追加ダメージまでもが加わっている。

 フラフラと立ち上がるポン助は、回復アイテムを使用しながら叫ぶ。

「僕はいらないじゃない!」

 拗ねたようなポン助に対して、ルークはあやすように言うのだ。それも、マンモスの動きを確認しながら、次にスキルを使用できる時間を確認するついでに……チラチラとポン助を見つつ、

「盾役のお前がいるから戦えるんだろうが。ほら、もう一回魔法で強化してやるから頑張って突撃!」

 マンモスがポン助から向きを変えつつあり、他の誰かに突撃でもすれば危ない状況だった。

 ルークやアルフィーは、マンモスの一撃を耐えられる。しかし、耐えても一撃だ。マリエラに関しては、一撃で死亡してしまう威力である。

 たいした攻撃手段を持たないポン助が、囮をやるのは当然だった。

「絶対に恨んでやるからな! シールドバッシュッ!」

 マンモスに左腕で殴りつけ、ターゲットを自分に向けるとポン助はマンモスの瞳を見た。

 赤い瞳が、ポン助を見下していた。

(迫力が違う……)

 通常のゲームとは違い、VRゲームの迫力は現実に迫る物があった。つまり、相手が巨体であれば、それを間近で見て恐怖もすると言うことだ。

 ポン助の動きが鈍ると、ルークが叫んだ。

「馬鹿、動け! そのままだと――」

 マンモスが頭を下げて上に勢いよく上げた。それに合わせて、牙が地面を抉りながらポン助に迫り、そのまま突き刺さって持ち上げられ――吹き飛ばされた。

(あ、あれ?)

 痛みは感じなかった。

 いや、遅れて激しい痛みがポン助を襲い、ついでに地面に叩き付けられる。

 油断していたところにきつい一撃を貰い、ダメージ量は先程と比べものにならない。体力が満タンの状態から、いきなりレッドゾーン……瀕死にまで追い込まれていた。

「馬鹿野郎! プレイヤーだって下手に攻撃を受ければクリティカルになるんだよ! 最低でも構えておけ!」

 怖がって構えを解いたために、クリティカルの判定がなされたのだ。

「わ、悪い……くっ!」

 立ち上がって回復アイテムを使うと、今度はルークがマンモスの攻撃を受け止めていた。大剣を盾代わりにしており、ポン助の時のようにマンモスが突撃をかける。

 だが、ルークは大剣を構え、弾くようにその攻撃をいなした。

 ただ、ルークの顔は渋い物だった。

「レベル差でダメージが」

 マリエラが矢を放ち、それがマンモスの横腹に突き刺さっていた。先程から攻撃を繰り返しているが、まったく効いている様子がない。

「こいつ本当に倒せるの?」

 矢の数が心許ないマリエラがそう呟くと、アルフィーがマンモスに駆け寄り斬りつけた。

 課金武器によりダメージ量は多い。

 多いが、決定打にはなっていない。

(レベルの差が大きすぎるんだ)

 このエリアでレベル上げや素材集めをしている冒険者たちに、恐怖を振りまくエリアボス――そう簡単には倒せそうもなかった。

 すると、アルフィーがマンモスに鼻では叩かれ吹き飛んだ。

 オークとは違い、小柄であるために十メートル近くは吹き飛んでいる。

 そして、タイミング悪く矢が刺さった。

 ルークが自分の回復を行い、ポン助に魔法をかけていた。

「まずい。マリエラさんが」

 ここでマリエラが死亡してしまうと、一気に崩れてしまう。三人による連係攻撃が出来ないためだ。

 慌てるマリエラが、場所を移動しようとするがマンモスが地を蹴って駆け出す。その速さは、マリエラが逃げ切れるか微妙だった。

 ポン助が駆け出す。

「ここで死亡すると……僕の頑張りが無駄になるだろうがぁぁぁ!!」

 モンスターの中に放り込まれたポン助である。

 負けて戻って、更にデスペナで色々とデメリットが発生すると、今までの苦労が全てではないが無駄になってしまう。

 マンモスに向かって走ると、そのまま右手に持った片手剣で斬りかかる。

 僅かに触れる程度であるために、ダメージ量はたいした事がない。だが、マンモスがターゲットを変更するには十分だった。

 振り返るマンモスが、大きく長い鼻でポン助を横殴りした。

 左手に持ったバックラーで受け止めると、ポン助はダメージを受ける。骨に響くようなダメージ……耐えてはみたが、その場に右膝をついてしまう。

「や、野郎……」

 そのまま鼻で殴られ、倒れ込むとルークが叫んだ。

「準備が出来た! 二人とも、さっきと同じように合わせてくれ!」
「任せてくれ」
「言われなくても!」

 アルフィーが回復を終え、マリエラも弓を構えていた。

 コンボ狙いの連係攻撃が発動すると、マンモスが耐えるようにその場に屈んだ。

 ポン助は立ち上がって距離を取ると、体力の回復をアイテムで行い武器を構えた。

(くそっ! ダメージは与えているけど、その前にアイテムが底を突く。このままだと負ける……負けたくない)

 負けたくない。

 そう思った時だった。

 体の奥から力があふれる……いや、妙に体が馴染むような気がした。あくまでもデータである肉体。アバターの体に馴染む気配と、そして妙に周囲の光景が鮮明になって気がした。

 より深く世界に入り込んだような感覚に、ポン助は混乱する。

(なんだ?)

 すると、叫び声が聞こえてきた。

「ポン助、そっちに行ったぞ!」

 攻撃を仕掛けず、ターゲットになり得ないポン助に狙いを定めるマンモス。

 ポン助はシールドバッシュでマンモスを殴りつける。

 大きく踏み込み、腰の回転を加えた一撃は突撃してきたマンモスの頭部に激突した。

「止まった?」

 マリエラが信じられないようなものを見た、そのように呟くとアルフィーが剣を構えた。

「なんにせよ、今がチャンスです!」

 ルークは少し驚きつつも、ポン助を見て意味ありげに小さく笑っていた。

「でかしたぞ、ポン助! そうやって戦うんだ!」

 言われずとも、ポン助はまるで戦い方を知っているかのように体が動く。

(鼻は右手の剣で――)

 振り回してきた鼻を片手剣で斬りつけると、マンモスが痛みに叫びつつ前足を二本とも上げた。

「まずいっ――」

 ルークが全員に避けるように叫ぶ前に、ポン助は懐に飛び込む。

(ここか――)

 潜り込み、片手剣をマンモスの肋骨――その隙間を狙い突き刺した。

 表示され、浮かび上がったクリティカルの文字。ついでに地面を踏みしめ、周囲への範囲攻撃を行なおうとしていたマンモスの動きがキャンセルされた。

 ポン助は転がるようにマンモスの懐から飛び出て、そして斬りつける。

 気が付けば、ルークが魔法で支援をしてくれていた。

(ステータスの上昇を肌で感じる。なんだ……なにが起こって……)

 シールドバッシュでマンモスを殴りつけ、そして怯ませると斬りつける。

 ルークやアルフィーが、横から何度も斬りつけ確実にダメージを稼いでいた。

 そして、ポン助が左腕を大きく振りかぶると――。

「シールド……バッシュッ!!」

 ルークやアルフィー、マリエラもタイミング的にコンボを狙っており同時に発動。

 すると、【Combo】の文字が浮かび上がった。

 戦闘中に友好度が上がり、ポン助も連携に加わることが出来たのだ。

「これで……終わりだ!」

 ルークが四人同時に発動した連携を見て、勝利を確信する。跳び上がり、上段から斬りつけマンモスにこれまでにないダメージが発生した。

「ギリギリでしたね。まぁ、代わりはありますが」

 斬り終えた後に課金武器が粉々になり青い光を発して消え去っていた。だが、アルフィーはすぐに予備の武器を取り出す。

「もう残り数本だから助かったわ」

 矢を放ち、マリエラも矢筒の中を見ながら安心した様子だった。

 目の前には、両の前足を上げてもがくようなマンモスが、赤い光を発しながら消えていく光景が見えていたのだ。

 ポン助が、その光景を見ながら膝をつく。

(急に疲労が……ゲーム内でこんなに疲れるなんて)

 急激な疲労を感じ、そして先程までと違って感覚が鋭くなくなっていた。

 アレはなんだったのか?

 そう思っていると、ルークがポン助に近付く。

「やったな。これで初心者用のクエストはほぼ終わりだ。後は報告に戻るだけだからな」

 ポン助はルークに妙な感覚のことを話そうとして……首を横に振って止めておくことにした。



 希望の都。

 冒険者ギルドのカウンターでは、初心者用のクエストをクリアした報告へと向かった。

 受付嬢は、依頼を受けたときとは別のNPCになっている。

「はい。確かにクエストの達成を確認しました。おめでとうございます。これで三人も立派な冒険者ですね」

(おつかいを終えた程度で立派と言われても……まぁ、今回は疲れたよ)

 そして、受付嬢は少し驚いた顔をする。

 ルークがニヤニヤしていた。

「あぁ、エリアボスの討伐をやったから追加で報酬だな。この演出、少し大げさなんだよ」

(それにしても、NPCも良く作り込まれている)

 受付嬢が少し慌てた様子で、ポン助たちを褒め称えた。

「エリアボス、ブラウン・マンモスの討伐を確認しました。とても危険なモンスターでしたが、よく無事に討伐してくださいました。冒険者ギルドから特別報酬を支払わせて頂きます」

 アルフィーが首を傾げていた。

「エリアボスを倒すと報酬が貰えるのですか?」

 ルークが肩をすくめ、ゲーム内の設定を語る。

「フィールドボスやエリアボス……まぁ、ボス系は基本的にゲーム内で討伐依頼の出ている危険モンスターなんだよ。受付で報告すると報酬が貰えるの。あぁ、報酬やドロップアイテムなんかは三人で分けていいよ」

 マリエラはルークを見て微妙な表情だった。

「この程度の報酬は必要ない、って事?」

 ルークは首を横に振った。

「まぁ、否定はしないけど、それ以上の報酬があるからね。実は、あのエリアボスは初討伐なんだ。おかげで【職業ポイント】や【スキルポイント】が手に入ったから貰う方が悪いよ」

(フィールドボスやエリアボスを倒すと、レベルアップ時に貰えるポイントが追加で貰えるのか……そう言えば、もうレベル七になったな)

 レベル三十までは上がりやすい仕様である。だが、現実世界で言うところのログイン初日に、ここまでレベルが上がるのも凄いとルークは言う。

 そこで思い出す。

「そうだ、報酬の分配をしないと」



 アルフィーとマリエラは、エリアボスのドロップアイテム――【マンモスの毛皮】を受け取ろうとはしなかった。

 マンモスの毛皮で作られた防具は、性能的に優秀である。いくつかの耐性も持っており、序盤のプレイヤーの中には探している者たちもいた。

 だが、マンモスの毛皮――これで作られる装備が問題だ。

「デザインがちょっと……」

 アルフィーはそう言って、受け取りを拒否。

「私はお金の方がいいかな。弓とか矢がボロボロだし」

 そういう訳で、マンモスの毛皮はポン助が貰う事になった。

 装備もいくつか駄目になっており、買い換えるついでにマンモスの毛皮で防具を作る事にしたポン助。

 毛皮で作られたベストを着用すると、益々オークの蛮族という印象が強くなってしまった。



 宿屋を利用し、朝になるとアルフィーもマリエラもパーティーを抜けてログアウトしていく。

 プレイ時間はゲーム内で二日間。

 それ以上のプレイは、現実世界で二十四時間後となる。

 ポン助はルークと話をしていた。

「思った以上に楽しめたし、しばらく続けてみるよ」

 ルークは嬉しそうだった。

「楽しかったなら良かった。無理に付き合わせたみたいで悪い気がしていたからさ」

 本当にそうなのだろうか? 疑うポン助だが、ルークは次に変な質問をしてきた。

「そう言えば……ゲーム中にもっとこの世界に入り込んだような感覚はあったか? なんでもいいぞ。風をよりリアルに感じた、とか。戦闘中に体が良く動いた、とか」

 ポン助はアゴに手を当てて、ボス戦を思い出す。

「う~ん、少しだけ変な感覚があったんだ。戦闘中に妙に落ち着いたというか、どう動けば良いのか分かったような……」

 ルークは微笑む。

「そっか。なら、お前はこのゲームと相性が良いのかも知れないな。おっと、俺も時間だからログアウトするわ。あ、そうだ」

 ルークは思い出したようにポン助に助言をする。

「レベルアップで手に入れたポイントは、次の機会にでもしっかり振り分けろよ。それと、俺からのアドバイスだ。格闘の職業は取っておけ。使わないにしても持っていると役に立つからさ」

「あぁ、分かったよ」

 そう言ってポン助の目の前から消えていくルーク。

 ポン助も時間が来たためにゲームからログアウトした。



 現実世界。

 ポン助――明人は、目を覚ますとヘッドセットを取り、ベッドで上半身を起こした。

 ベッド上にある目覚まし時計の針が七時を指している。

 背伸びをすると、明人はベッドから出て学園に向かう準備をする事にした。

「仮想世界の二日間が、現実世界の二時間と言うから凄いよね」

 ワンルームの部屋の隅には、陸が持ち込んだ業務用のVRマシンが置かれている。大きさは、ゲーミング用のデスクトップパソコン……それを更に一回り大きくしたような大きさだった。

 一人暮らしの部屋には少しばかり大き過ぎる。

 冷蔵庫から朝食用に買って置いていたゼリーを口にすると、その味に眉をしかめた。

「あれ? こんな味だったかな?」

 以前は好きだった味なのだが、どうにも微妙に感じてしまう。

「まぁ、いいか」

 制服に着替え、鞄を持って部屋から出て行く明人は外に出ると風を感じた。少し締めっぽさと、色々と臭いが混ざり合っている。

 ゲーム内の作られた風とは違い、現実世界だと実感する。

「さて、今日も頑張りますか。それにしても、明日からどうしようかな?」

 ゲームでオークのままプレイするのか、それともアバターを作り直すのか。

 そう考えながら、明人は学園に向かうのだった。
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