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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

三章

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アップデート前

 節制の都。

 そこは緑豊かなエルフたちの故郷というゲーム上の設定がある場所だ。

 だが、そんなエルフにとってもっとも嫌いな存在――それがオークである。

 冒険者ギルドに入ると、ほとんど全てのNPCたちがエルフだった。

 パーティーのリーダーであるポン助が受付に向かい、クエストを受けるための手続きに入ると男性NPCが露骨に嫌な顔をする。

 そんな嫌そうな顔を見ながら、ポン助はアゴに手を当てて感心していた。

「これだけ嫌そうな顔をするというか、こだわりは素直に感心するよね。運営は本当にオークが嫌いみたいだ」

 アルフィーが腰に手を当てて呆れつつも、額に手を当てて周囲を見ていた。

 NPCによって対応は様々だが、他種属を見下す傾向が強い。ただし、同族であるエルフやハイエルフという上位種に限ってはとても笑顔の上に親切に対応していた。

「こだわりが強すぎるように感じますね。こんな事だから、いつまでもオークがネタ種族扱いを受けるんですよ」

 オークは不遇。

 それはパンドラのプレイヤーにとって共通認識だった。

 ポン助はクエストを選択すると、そのまま外へと向かうことにした。

 冒険者ギルドの建物内は、蔓や葉が壁に伸びている。

 美形のエルフが楽器を持ち、音楽を奏でていた。

「本当にアバターを作り直したくなるよね」

 何気ないポン助の一言は、別に本気ではない。ただ、それを本気だと思ったマリエラが慌ててポン助を説得する。

「いいじゃない、オークは強いし頼りになるわよ。そ、それに……」

 それに、の後を続けないマリエラだったが、アルフィーも会話に入ってくる。

「体感型では本当に前衛のオークが頼もしく見えますからね」

 通常の画面を見るタイプのゲームと、VRゲームの違いである。

 似ているようで似ていない両者。

 ポン助はオーク種をそれなりに気に入っており、別に作り直しを考えていなかった。

「いや、本気じゃないよ。わざわざ作り直しても、って感じだから」

 それに、オークは言われる程に悪い種族でもないのをポン助は理解していた。





 節制の都を出て草原に来た三人。

 マリエラが弓を構え、矢を放つとキノコのようなモンスターが貫かれ赤い光になり消えていく。

 次の矢を矢筒から取りだしていると、アルフィーが赤いドレスを揺らしながら駆け出して豪華な装飾がされた剣でモンスターを斬り裂いていく。

「ちっ! 課金装備は伊達じゃないわね」

 マリエラがアルフィーの動きを見ながら視線をポン助に向けた。

 二人がやっているのは、いわゆる露払いだ。

 群れの中心にいるボスに関しては、ポン助が一人で対応していた。

 マリエラが矢を放ち、またモンスターを赤い光に替えていく。

 持っている矢はどれも値が張る矢だ。

 職人プレイヤーが用意した矢で、攻撃力やその他の面で優れているが一本一本が非常に高い。

 通常の矢と合わせて使わなければ、すぐに使い切ってしまう。

 通常の矢を手に取り、飛び跳ねて襲いかかってくるキノコのモンスターに矢を放つ。だが、今度は光に変わることがなかった。

「やっぱりきついわね」

 すぐに二射目を放つが、そうしている間にもアルフィーが次々にモンスターを斬り伏せていた。

「ふははは、これで今日の勝負も私の勝ちですね!」

 そう言って、まるで舞うように次々にモンスターを斬り伏せていくアルフィーをマリエラは美しいと思ってしまった。

 首を横に振る。

(ちょっと悔しい。こういう時はポン助の方を見ないと――)

 ポン助はオークである。

 正確にはオークのアバターを使っている。

 パンドラの箱では不人気の種族で、ネタ扱いを受けている。

 プレイヤーの多くがオークを使用する事は少ないが、それでもマリエラはポン助を間近で見て来たプレイヤーの一人だ。

 ゲーム歴は長くないものの、一つだけハッキリと分かっている事がある。

 オークは……ポン助は強い。

「おらぁ、キノコ野郎! かかってこいやぁ! ――あ、状態異常の攻撃は待って!」

 蛮族スタイルの外見に似合わず、弱音を吐くポン助だった。

 しかし、左手には大きな盾を構え、右手には大きな剣を握っている。

 二メートルを優に超える巨体が、四メートルを超えるキノコの化け物と戦っていた。敵の細く鞭のような手の攻撃を盾で防ぎつつ剣で斬りつけている。

 非常に地味だが、それでも並のプレイヤーたちが攻撃スキルなどを使用するダメージ量が敵に蓄積されていた。

 そして、左手を大きく引いたポン助の左腕や盾が光り出すと、そのままクエストの討伐対象であるモンスターを殴りつけて吹き飛ばす。

 ボスを守るモンスターたちを倒し終えたアルフィーが、剣を肩に担いで口笛を吹いていた。

「相変わらず頼もしいですね。それにしても、なんでオークは嫌われているんでしょうか? こうして見ていても頼り甲斐があるんですけど」

 ボスモンスターと一対一で戦えるポン助は、弱くはない。

 ゲームであるために相性や対策を考える必要はあるが、それさえ怠らなければオークは十分に戦える種族だ。

 後ろから見える右肩とその背中の一部を見て、マリエラは逞しい筋肉を見てゾクゾクとするのを感じた。

(あ、あれ?)

 自分でも分からない興奮。

 最初は初心者同士でパーティーを組んだだけなのだが、最近ではこの三人以外でパーティーを組むなど考えられなくなっていた。

 アルフィーが呟く。

「あ、終わりですね」

 ポン助が剣を大きく振り上げ、そのまま大地を蹴って飛び上がった。とんでもない跳躍力を見せつけ、そのまま光り出した剣を振り下ろす。

 ダメージが一定の数値を超え、クエストボスは消え去ってしまった。

 赤い光の粒が周囲に散らばり、マリエラは風を感じて髪を揺らす。

 息を切らしたポン助が雄叫びを上げている姿を見ていると、夕日が出ている事もあって随分と逞しく見えた。





 夜。

 節制の都に戻ったポン助たちは、ギルドにクエストの達成を報告して報酬を受け取っていた。

 ポン助は安堵していた。

「クエストの難易度的には、レベルからすると低いけど稼げていいよね」

 草原でキノコのモンスターたちを討伐するクエストなのだが、ボスも出てくる上に数も多い。

 ドロップするアイテムはそれなりに消費するようで売れるのもいい。

 大量に手に入るので、安く買い取られても結構な値段になる。

 今のポン助たちのレベルはアルフィーが少し高く六十五だが、ポン助もマリエラも六十を少し超えたくらいだ。

 そのレベルで受ける依頼としては難易度が低いのだが、今の三人には丁度良かった。

 何しろ、ポン助たちは周りからエンジョイ勢――攻略を重視しないで遊ぶことを重視しているプレイヤーに見られるほど、適切な種族と職業、スキル構成をしていない。

 三人で報酬を分け合いながら、ポン助は思った。

(さて、ルークのいる最前線に到着するのはいったいいつになる事やら)

 アルフィーがポン助の太い腕に抱きつく。

「ポン助、早く希望の都に行きましょうよ。約束ですよ」

 わざと胸を押しつけているようにも見えるが、ポン助は冷静だった。

(落ち着け、これは偽物。つまりは偽乳だ。喜ぶわけにはいかない。でも、柔らかい……)

 アバターが女性でも、中身は男性という例は少なくない。

 実際、ポン助から見て二人は美人過ぎる。凝り性なプレイヤーが理想の女性を作り上げたとすれば……男である可能性もある。

(まぁ、別に男でも良いんだけどさ。楽しくプレイ出来ればそれが一番だ)

 アルフィーを引きはがし、ポン助は首を横に振った。

「希望の都は明日から。今日は節制の都で食事をするって話だったよね」

 アルフィーが頬を膨らませ抗議をするのだが、マリエラは少し上を向いて考え込んでいた。

「でも、どうする? この前のお店は失敗だったし」

 宿屋に食堂があるタイプの店を選んで中に入ったのだが、メニューは豆のスープやら芋を蒸しただけの料理だった。

 お世辞にも美味しいとは言えない食事に、三人はガッカリしたのを覚えている。

 肩を落としたアルフィーが、その時の事を思い出したのか愚痴をこぼす。

「運営はたまにこういう事をしますよね。当たり外れがあるとか……やっぱり、攻略情報を見るべきでしょうか?」

 パンドラほどに人気があれば、攻略情報を掲載しているサイトは多い。

 情報誌でも取り扱われているので、こういった旨い店を探すのは簡単である。

「でもさぁ、こうやって当たり外れを自分たちで探すのがいいのよ。モンスターとの戦闘とか、その辺りは前もって調べたりもするけど全部を調べてから、っていうのも面白くないじゃない」

 マリエラは失敗しても良いから、自分たちで店を探そうと提案する。

 体感型で一番問題なのは精神的疲労である。

 ずっと戦闘だけをしてはいられないし、出来たとしてもやっているのは本当に攻略を重視しているプレイヤーたちだけだった。

 戦闘も攻撃を選べば勝手にキャラクターが動くのではなく、自分で判断しなければならない。タイミング、そして変わる周囲の状況……精神的な疲れを感じるのは仕方がなかった。

 ポン助は、取りあえず今まで入ったことがない店を目指す事にする。

「いっそプレイヤーが経営している店に入るとか?」

 ポン助の提案にアルフィーが嫌そうな顔をした。

「前にそれで失敗しましたから嫌です。安定感のあるNPCが経営している店にしましょうよ」

 プレイヤーが店を持つことは可能である。

 だが、ゲーム内でプレイヤーがサービスを提供するとなると問題なのは、相手もゲームを楽しむプレイヤーという事だ。

 こだわり、サービスを充実させるプレイヤーもいる。

 だが、マナーの悪いプレイヤーも存在している。注文した品とは別のものを出し、詐欺紛いの行為をするプレイヤーもいた。

 ポン助が以前に利用した店を思い出す。

「あぁ、サービス料を教えないで、後から巻き上げるタイプだったね。アレは酷かった」

 ポン助の言葉にマリエラも同意する。

「当たり外れが大きいのよね。なんで店なんか開いたのか聞きたくなるわ。私は別に店を持ちたくないけど、同じ料理人として腹が立つわね」

 アルフィーがマリエラを指差して笑う。

「料理人とか! もっとマシな料理を作れるようになってから言ってくださいよ」

「やんのか、ごらぁ!」

 笑いつつ、喧嘩しつつの三人は、幻想的な明かりに包まれる夜の節制の都を歩いて行く。



 一人の女性が目を覚ます。

 ゆっくりと瞼を開けると部屋の中は薄暗かった。

 空調の調整がされており、体は汗ばんではいない。

 だが、どこか興奮している。まるで楽しかった雰囲気が残っているような気がしていた。

 VRマシンのヘッドセットを外し、長い茶色の髪を揺らす。

 顔立ちはアルフィーに似ている女性は、ベッドから出て背伸びをした。

「今日も楽しかった」

 大きく深呼吸をして、仮想世界での体験を思い出す。

 名前は【市瀬 摩耶】。

 明人と同じ学園に通うお嬢様だった。

 アルフィーの自由気ままさとは違い、落ち着いた雰囲気を出している。そしてパジャマを脱ぐと制服に着替えた。

 鏡の前で制服を着た姿を確認すると、摩耶は鏡に手を触れる。

 自分の顔が写り込んでいる場所に手を触れ、そして溜息を吐いた。

「……もっと遊んでいたいのに」

 学園では、少し特殊な立場である摩耶は気分が沈むのを感じていた。

 仮想世界……仲間との時間が楽しければ楽しいほどに、現実世界がとても辛くなってしまう。

 だからと言って、引きこもりになど成れない。

 一日、たったの二時間しかログインできないのだから。





 学園。

 教室には男女の少数でクラスが成り立っていた。

 登校してきた生徒たちが挨拶をして、友人たちと話をしている。

 そんな中に、明人もルーク……【青葉 陸】とタブレット端末をお互いに覗き込んで話をしていた。

 髪を染めて制服を着崩した不良のような陸だが、明人からすれば優しい友人だった。

 以前はスポーツマンだったが、才能がないことを理由に野球が続けられずに諦めてしまったのが陸という青年だ。

 髪を染め、制服を着崩しているのはその辺りが影響しているのかも知れないと、明人は口に出さないが思っていた。

 そんな二人が覗き込んでいる映像は、パンドラのゲーム内で撮影されたプレイ動画だった。

 最早、人間が動かしているアバターとは思えない動きを見ていたのだ。

「ここでカウンターを決めるのか」

 プレイヤーが強敵であるモンスターを前にあまりにも離れ業を繰り返し、その中に明人も使うカウンターという技があった。

 もっとも、扱うには難しいその技を動画の中でプレイヤーは簡単であるかのように次々に決めていく。

 陸が自慢気に説明するのだった。

「どうだ。エンジョイ勢でもこういう人がいるから侮れないんだよ。お前もプレイヤースキルを磨いとけよ。ただでさえ、不利な設定なんだから」

 プレイヤースキルとは、アバターのレベルや職業、そしてスキルの設定や装備とは別にプレイヤー自身の能力だ。

 体感型ではこれにより差が出てしまう。

 いくら最適な設定をしていても、扱えなければ意味などないのだ。

「いや、でも待ちの状態でようやく六割か七割の成功率だよ。ここまでの動きはほとんど不可能だよ」

 動画の中のプレイヤーは、本当に同じ人間なのか明人には疑問だった。

 陸が動画の再生を止めると、タブレットを手にとって机の中にしまい込む。

「まぁ、しばらくはゲームも出来ないから暇だけどな。俺のところも、店を閉めて大掃除に機器のメンテとかやるみたいだ」

 陸がアルバイトをしている店はVR喫茶――VRマシンが置かれ、ゲームを楽しめる施設だった。

 それなりに利用客も多いのだが、パンドラの箱庭が大型アップデートを控えてサービスを一時中止にしていては客足に影響が出るらしい。

「サービス開始が決まったら大変そうだね」

「そうなんだよ。だからさぁ……夏休みの間、数日で良いから助けてくれない? 店長も給料には色を付けるって言っているからさ」

 頼み込まれた明人がどうするか悩んでいると、教室内に摩耶が入ってきた。凜とした雰囲気に、歩く姿はとても綺麗だった。

 理事長の娘であり、本来ならもっとランクの上である高校に通っているエリートだ。

 だが、そのために教室内では彼女との間に壁が出来ている。

 男子も女子も、あまり摩耶に関わろうとしなかった。いや、出来ないのだ。

 陸が小さく笑う。

「委員長も大変だな。そう言えば、最近話をするんだろ?」

 そんな摩耶と話をするようになった明人だが、それでも摩耶との間に壁を感じることが多かった。

「まぁ、それなりに話すけど……」

 声をかけようか悩んでいると、教室に担任が入ってくる。

 明人は摩耶の後ろ姿を見て、どこか親しみを感じるのだった。だが、その理由が分からない。

 特別親しいという訳でもない。他のクラスメイトよりも話をする事が多いだけだ。

(……話をするようになったからか?)

 明人の疑問に答えは出なかった。
ポン助(`・ω・´)「ネタにされるオークだけど、実は凄い!」

他のオーク(*´ω`)「あぁ……オークは凄いんだ。打たれ強いからいくらでも鞭を受けられる」
他のオーク(*´ω`*)「NPCからも見下されるから、ドMには最高のアバターだね」

ポン助(´・ω・`)「……いや、そういう凄さじゃなくて、普通に強いとか色々とあるんです。本当なんです。信じてください」
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