人捜し
人捜しを請け負ったポン助。
まずはライターに話を聞くことにした。
場所は広場から離れ、希望の都の入り組んだ路地を進んだ先にある小さな喫茶店。
人目につかない場所を選んだのは、ポン助自身がプレイヤーたちに指を刺され割れ割れていたためだ。
(ネットの影響って凄いよね)
古臭いと言うよりも、年代を感じさせる落ち着いた雰囲気の店だった。
プレイヤーがいないために入ってみたが、ライターは少し興奮気味に語るのだった。
「これは凄い。まるで映画やドラマの世界だね。俺もこういった喫茶店には憧れを持っていた時期がある」
そんな事を言うライターを見て、アルフィーがクスクスと笑っていた。
ライターのリアルを知っているだけあって、なにか思うところがあったのだろう。
テーブル席に座る四人は、注文を行う。
飲み物が到着すると、ポン助はライターに必要な情報を聞き出すのだった。
「さて、まずは重要な質問です。貴方は同じ種族、そして名前のプレイヤーを探していると言うことですが……悪質な行為をするためですか?」
その言葉にライターは力なく首を横に振り、アルフィーが代わりに説明するのだった。
「私が保証します。ライターは絶対にそんな事をしません」
ポン助が腕を組む。
「その仲間に対して仕返しをしたいとか?」
ライターが首を横に振る。
「ただ、話を聞きたいと思っている。リアルの話はマナー違反らしいが、これだけは分かって欲しい。ノーム種でライターと名乗っていたプレイヤーは、俺の息子だったんだ。もう、この世界にも顔を出すことは出来ないんだが……そんな事は絶対にしない」
ポン助は、謝罪をする。
(アルフィーが保証して、息子だったと……運営に連絡を入れたら対処してくれるかな?)
「失礼しました。では、次の質問です。これは非常に重要なんですが……息子さんは、いつもどの時間帯にログインをしていましたか? これがハッキリしないと、探すに探せないんです」
ライターはそれなら大丈夫と言って、ポン助に説明した。
「息子は入院していたんだ。入院患者向けに、病院側もVRマシンを設置した部屋を用意していた。そこは予約制で、毎日五時にログインしていた」
マリエラがその話を聞いて、ナナコの話をする。
「前にナナコちゃんが病院内で予約が必要、って言っていたから間違いないんじゃない? ログイン時間もバラバラじゃないし、随分と絞り込めるわね」
アルフィーがポン助に期待した目を向けていた。
「ポン助、なんとか出来ますよね? 広場では何か考えがある、って顔をしていましたし! それで、まずは何をするんですか!」
そんなアルフィーに対して、ポン助は自信満々に答えるのだった。
「取りあえず、専門家に話を聞こうか」
三人が「え?」という唖然とした顔をすると、店の中に短めのフードのついたローブをかぶった、顔の見えないプレイヤーが入ってきた。
「ポン助君、待ち合わせ場所はもっと分かりやすい場所にしてくれないか? それと、さっき急に連絡をしてきて、人捜しをするときに注意することを聞いたのはなんでだい?」
情報屋をやっているプレイヤーは、ポン助を見ながら呆れていた。
口元しか見えないが、溜息を吐いていた。
「いや~、実は追加でお願いしたい事がありまして」
情報屋のプレイヤー――男性は、ノーム種に目を向けた。何かを感じ取ったのか、フードを手で押さえると少し俯く。
「……話を聞いてから判断しよう」
「ログインを行っていたVRマシンから、生体データに振り分けられるIDを調べれば運営も情報を閲覧させてくれるかも知れません」
情報屋の男が、事情を聞いてライターに対して言った方法は、プレイヤーのIDを確認して親子関係を示し、データの閲覧を求めるという方法だった。
保護者なら子供のデータを閲覧できる制度があったのだ。
本来は、子供の課金などを監視するなどの目的で利用されている。
しかし、ライターは青い顔をして首を横に振るのだった。
「病院のマシンでログインしていました。IDの管理は個人情報という事で、俺は消去することを認めています」
情報屋はそれを聞いて、ライターを慰める。
「あぁ、大丈夫。運営から手に入るデータはあればいいな、という程度の情報ですから」
手に入る情報は、どれだけログインしているか。
いくらゲームに課金しているのか。
その程度だ。その他にも色々とあるが、どれもフレンドやパーティーの仲間の情報を得る手がかりになる程度の情報でしかない。
情報屋の男が腕を組む。
「事情を説明して、運営から息子さんの友人や仲間に連絡を入れて貰える可能性はありましたけどね。でも、運営の対応も最近は期待が出来ません」
アルフィーが口を挟む。
「どうしてですか? ちゃんと理由があるのに」
「別にそういうサービスをしていないからね。運営からすれば客の事情であって自分たちには関係ない。それに、これは一番大事な話なんだが……大型アップデートが近い。運営も忙しい訳だ。毎日のようにプレイヤーから連絡が大量に入っているはずだよ」
ポン助は思い出す。友人の陸が言っていたのだ。
(怠惰の世界が攻略間近だったな。攻略が終われば大型アップデートがあるって言っていたからそのせいか)
「事情を話しても時間がかかる。その間に息子さんの仲間も事情が変わってログイン時間が変わる、アバターを変更する、色々な理由で連絡が取れなくなりますね」
時間が経てば経つほどに、仲間を探すのは難しくなる。
「探せない事もないんですが、薄情と思われるかも知れませんけどゲーム内です。リアルの事情を知らない息子さんの仲間たちは、最近ログインをしなくなった、程度に考えている可能性もある。ゲーム内の軽い付き合いである場合もあります」
ライターは情報屋の男に、自分の気持ちを伝えるのだった。
「それでもいいんです。息子がこのアバターですか? この体で、この世界をどう見ていたのか知りたいんです」
聞かなければ良かった話が出てくるかも知れないと、情報屋が注意をするのだがライターの気持ちは変わらなかった。
「分かりました。ならこちらでも探してみましょう。ただし、報酬ははずんで貰いますよ」
ライターが頷く。
「はい。ただ、適正価格を知らないもので……調査費は数百万で足りますか? すぐに用意出来るのはそれくらいです」
それを聞いて、お茶を飲んでいたポン助にマリエラ、そして喉を潤そうとした情報屋の男が噴き出した。
マリエラはライターに説明しているのだが――。
「ライター、リアルマネーでのやり取りは禁止です。ほら、アイテムとかポイントとか、別の物にしてやり取りをします」
「なる程。なら、取りあえず高いアイテムを買えば良いんだね?」
二人が話をしながら、目の前に画面を表示させる。
それは課金アイテムなどの購入画面だったのだが、それを情報屋の男が無理やり待ったをかけた。
「あんたら本当に勘弁しろよ! そういうのじゃなくて、俺は情報が欲しいの! この場合は……依頼をしてきたポン助君に支払って貰おうか」
情報屋の男がポン助を見る。
マリエラが、冗談を言う。
「なんか聞いたことあるわね。体で支払って貰うみたいな奴?」
すると、情報屋の男が少し藁って頷いた。
「そうだね。そうなるだろう」
クククッ、などと笑っている情報屋の男。
ライターは驚いて椅子の上で立ち上がり、マリエラは店の中で武器を手に持ちポン助の前に立つ。
アルフィーは、顔を赤く染め剣を抜く。
「そういう趣味の人がいると、聞いたことはありましたが……ポン助は渡せません」
ライターも困惑していた。
「なんていう事だ。このゲームにはそんな機能もあったのか! やっぱり止めさせておけば良かった!」
ポン助は冷めた目でその場を見ている。慌てて「違う! 誤解だ!」などと言っている情報屋の男に声をかけた。
「体で支払う、って言いましたけど、何をすればいいんです? どうせ、三人が思っている事じゃないですよね」
三人が「え!?」と驚いた顔をしているが、無視して話を進める事にした。
「あぁ、そうだ。火竜の角を祭壇に捧げて何かあったら教えて欲しい。これは祭壇の情報と交換だね。人捜しの方は……人気の動画を再現して貰おうか。しかも希望の都の広場……掲示板で宣伝もした後で、ね」
ポン助は凄く嫌そうな顔をするのだが、情報屋の男は笑っている。
「いや~、実は三人が踊っている時間帯とか、情報が欲しいって依頼が多くてね。ついでに撮影もするから。それと、ウェアは無料で配布されている奴だったよね? ちゃんと三人とも着替えるように」
ライターがアルフィーを見て首を傾げた。
「アルフィーもダンスを? 日本舞踊かな? しかし、それだとウェアというのはおかしいし……」
アルフィーが視線を逸らしながら言うのだ。
「……いえ、エクササイズです」




