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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第二章

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チートプレイヤー

 淡い光が冒険者ギルド入口の広場で、円を作っていた。

 それはプレイヤー同士の決闘を行うフィールドで、一対一の体力がゼロになるまで続けるものだった。

 もっとも、ルール上の決闘なので体力がゼロになっても、僅かに回復して死亡扱いにはならない。

 ポン助と悪質プレイヤーは向き合い、ポン助には歓声が向けられ、悪質プレイヤーには罵声が飛ばされていた。

 ポン助は、新たに貰った自分の武具を確認する。

 片手剣は少し湾曲した分厚く頼りになる形をしていた。

 鎧は主に右半身に重点を置いた作りをしており、左肩には何もなく盾を持つ腕は動かしやすいようになっている。

 重量感のある鎧に、腰には赤い布が垂れ下がっている。

 頭部にもヘルムをかぶり、角が二本。

 もっとも存在感があるのは、左手に持った大盾だ。

 中央には赤く大きな宝石が埋め込まれた鋼色の盾。埋め込まれた宝石は、希望の都ではレアアイテムだった。

 左半身を前に出して構え、右手には片手剣を持つポン助。

 全身鎧のオークがしっかり構えた姿は、レベル十の差があったとしても相手に威圧を与えるのは容易だった。

 画面越しに見る敵ではなく、肉眼でポン助を見れば嫌でも怯むプレイヤーは少なくない。

 ジリジリと相手との距離を詰めるポン助は、口を開く。

「どうした? こないのか?」

 その言葉に挑発されたと思ったのか、大剣を持った男が斬りかかってきた。

 しかし、大盾を構え隙の少ないポン助は受け止めると片手剣を突き出す。

「ぐっ!」

 相手の脇腹を擦るような一撃は、クリティカルではなかったがダメージを与えた。ただのプレイヤーキラーと違い、決闘ではダメージが正確に入る。

 ポン助の攻撃でもダメージが与えられるのだ。

 一方的な戦いにはならない。

「この豚野郎が!」

 大剣を振り回し、そして時折蹴りを交えながら相手が連続で攻撃をしてくる。

 ポン助は油断なく相手の攻撃を大盾で受け止める。

「……一人なら怖くないな」

 相手がムキになると、大剣を大きく振り上げて振り下ろしてきた。

 斬撃がポン助に襲いかかり、ぶつかると激しい風が吹き荒れる。

(……一撃でも貰うと厳しいな)

 ただ、ポン助が優位に立っているわけではない。

 決闘ではないのに、アルフィーやマリエラを一撃で葬った集団だ。攻撃力がダイレクトに伝われば、ポン助も危険だった。

(装備もあるから二撃までは耐えられる。三撃目は……無理だな)

 レベル差をオークのステータスと装備で補っているだけで、不利であるのは変わりがないのだ。

 大剣を持った男が飛び出してくると、ポン助はその動きに合わせて大盾を引く。

「死ねよ、糞豚!」

 相手が斜め下から振り上げるような剣裁きを見せると、ポン助は右手に持った片手剣で大剣を受け止めた。

 すると、相手がポン助の腹部に蹴りを放ってくる。

「ぐがっ!」

 腹部に激しい痛み。だが、耐えられないほどでもない。

 それ以上に腹が立っているのだから。

 ポン助は右手に持った片手剣を離し、そのまま相手の足を掴むと力一杯握りしめる。

「捕まえたぞ!」

「は、離せ!」

 間近でポン助を見て、怖がっているのか相手は暴れようとする。

 そんな相手に、ポン助は左手に持った大盾をぶつけるのだった。

「シールド……バッシュ!!」

 スキルを力一杯叩き付けると、相手は地面にぶつかりそのままバウンドするように宙に浮ぶ。

 口が開いており、痛みに叫ぼうとしているが声が出ない様子だった。

 そのまま右腕を振り上げジャンプをすると、地面に向かって相手を投げつける。

 相手が立ち上がろうとするところに、ポン助は大盾を下にして――。

「シールド……アタック!」

 初期に手に入れたスキルを叩き込んだ。

 重量もあってか、その一撃は見るからに痛そうだった。

 ポン助は起き上がり、片手剣を回収すると相手が立ち上がるのを待っていた。

「痛ぇ、痛ぇよ。なんでなんだよ。カットしたのに……痛みは限界まで感じないようにしたのに」

 設定にてダメージを受けた際の痛みを和らげることは出来るが、カットする事は出来ない。

 ポン助は目を細めた。

「チートか? 使っている奴を見たのは初めてだ」

 すると、相手が腹部を左手で押さえつけながら涙目で叫ぶ。

「ふざけんな! レベル差がこれだけあるのに、俺が負けるわけがないんだ! お前もチートを使っているんだろうが! ふざけやがって……ふざけやがってぇ!」

 大剣を片手で持って、大振りに振り回してくる相手にポン助は動きを合わせる。

 盾で大剣を弾き、体勢が崩れたところで片手剣を相手に突き刺した。

 腹部を貫くように刺さると、相手は持っていた大剣を手放して両手で片手剣を抜こうともがく。

「おぶっ! 痛い。痛い! なんで!」

 もがいているさまを見て、周囲では自業自得だと罵声が飛んでいた。

 ただ、ポン助も気になっている。

(なんでこいつら、急に痛みを感じるようになったんだ?)

 最初に抵抗した時は、アイテムを投げつけて火達磨にしたのにそこまで痛そうではなかった。

 ポン助は片手剣を大きく持ち上げ、そして振り下ろすと相手が片手剣から抜けて地面を転がった。

 ダメージは既に限界に達しており、ポン助の勝利をしめる画面が出ていた。

「しゃぁぁぁ!!」

 ポン助が両腕を上げて声を張り上げると、周囲からは拍手と歓声が巻き起こった。

「オークがやりやがった!」
「レベル差が十もあるのに勝ちやがった!」
「あのオーク強ぇよ! マジで強ぇ!」

 周囲のプレイヤーたちに拍手され、ポン助が腕を下ろすとエフェクトである自分たちを覆っていた円状の光がなくなる。

 相手を見ると、ポン助をこれでもかと睨み付けてきていた。

 その周囲には他のプレイヤーたちが集まり、拘束しようとしていた。

「立てよ!」
「NPCが集まってこないのもこいつらのせいじゃないか?」
「おい、誰かこいつらの事を調べ――」

 そんなプレイヤーたちが、一瞬にして赤い光に包まれる。

 見れば、大剣を持っていたプレイヤーはレベル制限を解除して、自分のメイン装備を着用していた。

 そして、その周囲には通常の画面とは違う、違法なツール画面が出ていた。

「アカウントを削除する前に暴れるつもりだったけど止めだ。お前は絶対に許さない。与えるダメージ……痛みを最大限まで上げてやる! 痛みでショック死でもすればいいんだ!」

 目を血走らせた相手プレイヤーは、レベル【百十九】とかなり高レベルであった。

 違法ツールで強化されたらしい武器が、歪み、そしてモザイクがかかり、最後には元の姿に戻る。

「お前らみたいな屑は現実だろうと、仮想世界だろうとぉ――」

 何かを言いたいらしいが、ポン助に聞くつもりはない。

「……終わらせる!」

 周囲の光景がゆっくりと流れ出す。集中力が高まると、周囲の光景がスローに見える……それをポン助は実感していた。

 ポン助は相手が斬りかかってきたタイミングに合わせ、右手に持っていた片手剣を振り下ろしそのまま相手の鎧の隙間――腹部を斬る。

 カウンター。

 ポン助が磨いているスキルは、ポン助を片手剣一本を犠牲にして相手を赤い光の粒子に変えた。

 すると、ポン助の周囲に警告表示が沢山出て来た。

「――ッ!」

 その場に膝をつき、そして動けなくなると周囲が騒然となる。

「ポン助!」

「どうしたんですか、ポン助!」

 駆け寄るマリエラとアルフィーが、ポン助の周りにある警告画面を見て困惑していた。

 ナナコが近付き、その警告文を読み上げる。

「十三歳未満のプレイヤーに対する悪質行為? もしかして、あの人たち――」

 囚われている三人のプレイヤーたちが、ナナコの視線から目をそらした。

 そして、周囲のプレイヤーたちが集まってきた全身鎧のNPCたち――加えて、胴体と両手、丸い頭部だけの存在を指差す。

「管理AIまで出張って来たのかよ」

 誰かの声に、ポン助が空を見上げた。

 夜空には足のないロボットがポン助を見下ろしている。

『重度の悪質行為を確認。ログを解析。映像解析。音声解析……』

 ポン助を見下ろすAIを前に、ナナコが両手を広げて立った。

「待ってください。ポン助さんは……ポン助さんたちは私を助けてくれただけなんです。だから……だから……」

 AIを相手になにを言っているのか。

 そう言われてしまえばおしまいだが、周囲のプレイヤーたちも録画していた情報を次々に表示する。

「遅れてきて何を言ってやがる!」
「悪いのはこいつらだろうが!」
「お前ら運営はもっと仕事しろ、ごらぁ!」

 周囲の声や、空中に移された映像を見た管理AIは、しばらく沈黙するとNPCたちに指示を出すのだった。

『拘束された違法プレイヤーを確保。神殿にいるプレイヤーは強制転移。悪質行為を行ったプレイヤー……いえ、少女の願いを守った英雄たちに感謝を』

 そう言って管理AIが夜空に消えていくと、ポン助は拘束から解放された。

「かはっ! 苦しかった」

 まるで重力が何倍にもなったようで、上から押さえつけられる感覚に息もまともにできなかった。

 解放されると、マリエラやアルフィー、そしてナナコに抱きつかれる。

「ポン助、良かったよ!」

「流石はポン助です。まさか最後に決めてくれるとは!」

「ポン助さん、恰好良かったです!」

 その光景を見て、周囲では先程まで拍手し、歓声を上げたプレイヤーたちからの舌打ちが聞こえてくるのだった。

 NPCに囲まれた悪質プレイヤーたちは消え去り、そして集まったプレイヤーたちは時間を確認する。

「おい、そろそろ時間だ。ギルドに行こう」

 ルークがそう言うと、ポン助たちは立ち上がって頷いた。





 大勢が見守る中、ナナコはクエスト達成の報告をするのだった。

 受付嬢は笑顔で集まった面々を見る。

「クエスト達成です。それと、協力してくださった皆様には、後日運営よりプレゼントを用意させて頂きますね」

 それを聞いて、口笛を吹き拍手をするプレイヤーたち。

 ナナコが全員に振り返る。

「あ、あの皆さん……ありがとうございました!」

 俺を言うナナコに、集まったプレイヤーたちは拍手を送った。

 アルフィーがナナコに言う。

「ナナコちゃん、時間がありません。さぁ、アイテムを使う時です」

 ナナコが希望の秘薬を求めた理由は、手術への願掛けだ。

 アイテムを手に取ると、使用する。

 すると、暖かい光がギルド内を包み込んだ。

 ポン助の近くに立っていた、攻略組と思われるプレイヤーたちが懐かしむ。

「俺たちもコレに何度も世話になったよな」

 懐かしいのか、微笑んでいた。

「無理して集めて。買い集めて……毎日ヒィヒィ言っていたな」

 ポン助がそんな攻略組を見ていると、ルークがポン助の腕を叩いた。

「よう、英雄」

「ルークか。迷惑かけたな」

 申し訳なさそうにするポン助に、ルークは言うのだ。

「別に良いさ。友達だからな。まぁ、俺が困っていたら助けてくれれば良いからよ」

 ポン助はそんなルークの言葉に笑顔で頷くのだった。

 最後、冒険者ギルドから出ると夜が明けていた。

 太陽が昇り、プレイヤーたちは次々にログアウトしていく。

 ポン助、アルフィー、マリエラ――三人に対して、ナナコは涙ながらに言うのだった。

「三人とも、ありがとうございました。私……絶対に戻って来ますから」

 三人は、そんなナナコに笑顔を向けた。

「戻って来たらまた一緒に旅をしようね」

「その時までには、もっと頼り甲斐のあるお姉さんになって見せます」

「早く良くなって、また顔を出しなよ」

 ナナコは涙を拭い、元気よく返事をした。

「はい!」

 そして、淡い光に包まれた全員が消えていく。



 現実世界。

 VR喫茶の受付。

 陸は不満そうにアルバイトの手伝いをしている明人を見た。

「なんだよ。友達が困っていたら助けてくれる、って約束だろ?」

 明人はVR喫茶の制服を着て、大きな荷物を持っていた。

「現実世界でバイトのシフトに入ってくれ、って言われるとは思っていなかったんだよ! あっちの話だろうが!」

 そうは言うが、頼めば手伝ってくれる辺りに明人の人間性が出ていた。

「頑張ってくれ。なにしろ、俺たちは友達だからな」

 明人は荷物をバックヤードへと運んでいく。

「やってやるさ。見ていろよ、スカウトされるくらいに頑張ってやるからな」

 陸は明人の背中を見送りながら、溜息を吐いた。

「いや、今日は店長がいないからスカウトされない……って、聞いてないか」

 自分の仕事を再開すると、受付に四人の子供がやってきた。

 見るからに小学生。高学年ではあるが、幼い。

「どうしました?」

 四人組のリーダー格らしい少年は、太々しい態度で陸に接する。

「ここのVRマシン、壊れてない? 不良品を置かないでよ」

 陸は首を傾げた。

「不良品?」

 少年たちは、陸に文句を言う。

「パンドラの箱庭! ゲームを開始しようとしても始まらないんだ。家にあるマシンでも駄目だったし、わざわざこんな店にまで来たのに」

 態度の悪い子供たちを前に、申し訳なさそうに陸が言う。

「え~、それはちょっと確認しないと分からないかな。えっと、個室は……」

 陸はそのまま受付のパソコンで個室のマシンの情報を見た。

 壊れている様子もないが、四人を連れて一部屋を確認する。

 すると、マシンが繋がれた画面を見て目を細めた。

「早く直してよ。こっちはゲームがしたいんだ。お兄さん、アルバイトをしているから無能だろうけど、これくらい出来るでしょ」

 態度の悪い子供たちに腹を立てた。だが、それ以上に陸は腹立たしかった。

(こいつらかよ。まさか、アカウントを新規で作成して戻るつもりだったのか? それで最後に暴れ回った? ……馬鹿かこいつら)

 画面には“無期限のアクセス禁止”が表示されている。通常、ペナルティがあったとしても数ヶ月のアクセス禁止。もしくはアカウントの削除だ。

 アカウントは削除済み。そして無期限の停止という事は、二度とパンドラの箱庭をプレイ出来ないという意味である。

「ねぇ、早くしてよ!」

 少年の苛立った声に、陸はあくまでも店員として笑顔で接客をする。

「ごめんね。でも、俺には無理だよ。マシンも壊れていないし、店側の責任じゃないよ」

「え? でも――」

 陸は四人に現状を正しく説明する。

「なにをやってアカウントを削除されたのか知らないけど、無期限でアクセスが禁止されているね。VRは個人の生体データも取り込むから、生体データを確認して弾かれているんじゃないかな?」

 四人が青い顔をしていた。

 一人が口を開く。

「で、でも、それをされると困るんです。学校でも人気で、やっていないと置いてきぼりに――」

 陸はあくまでも店員として接客をする。

「それは分かるけど、お店ではどうにもできないよ。それに、無期限停止、ってよっぽどの事をしたんじゃない? これ、最後にログアウトするときに何か言われなかった?」

 一人が俯く。

「ほ、保護者に連絡をする、って」

 陸は内心で納得する。チートを使用するという行為は、妨害に他ならない。

 訴えるには十分なのだ。

(子供だから、保護者への注意で済むかな? 済まないだろうな……)

 そして、陸はパソコンを触ると不正なデータが起動しているのを確認する。

(チートツールを使っていた訳か。まぁ、二度とあっちには戻れないな)

 画面を指差し、説明をする。

「これ、チートツールだよね? こういうのを使ってプレイするのが違法だって知っているかな?」

 四人が戸惑っている様子から、知っていたのだと確信した。

「……かなり悪質な行為をしたんだろうね。ここまでの対応をするって事は、運営が本気で怒っているって証拠だよ。たぶん、二度とパンドラの箱庭にはアクセスできないかな。他のゲームをするならセットするけどどうする? あ、チートはなしで、ね」

 四人が話し合っていた。

「ど、どうしよう」
「だから嫌だって言ったんだ」
「僕のせいじゃないよ!」
「他のゲームなんて誰もやってないよ!」

 仲間内で泣きながら喧嘩をする四人を止める。

「お願いです。なんとかしてください!」
「もう二度としないから!」
「僕、僕……」
「僕は悪くない! こいつらがやろうって言ったんだ!」

 陸は冷静に言う。

「だから、ここではどうする事も出来ないんだ。それに、無期限停止を解除された話も聞かないし……無理だよ」

 しかし、泣きじゃくって帰ろうともしないので、陸は保護者に連絡を入れるのだった。
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