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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第二章

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少女の願い

「ポン助! ナナコちゃんのスキル発動まで時間を稼いで!」

 平地ではなくデコボコとした草原。

 ポン助は多少斜めになった場所で大盾を構えると、コボルトのハンマーを受け止めていた。

 犬の頭部を持つコボルトは、両手持ちのハンマーをポン助に向かって何度も振り下ろしている。

 リキャスト、クールタイム……スキルや魔法は一度使用すると、しばらく使用ができなくなってしまう。その待ち時間だ。

 使いどころが大事であるのだが、仲間がいる場合はフォローに入って貰える。

 マリエラは弓を構え、矢を放つとコボルトの足を射貫く。

 コボルトがハンマーを杖のようにして立ち上がり、周囲を見ていた。

 周囲にはポン助を始め、アルフィーやマリエラが囲んでいて逃げ場がない。

 そこに、怯えるように小さな胸の前で手を震わせているナナコが出てくる。

「あ、あの、スキルの準備が出来ました」

 右拳が淡く光り出すと、ポン助が道を開けた。

 コボルトは動けずにいるが、近付くナナコを睨み付け歯を食いしばりうなり声を上げている。

 アルフィーが額に指先を当てて困っていた。

「もう少しリアリティを削った方が良いですかね」

 小さい子供向けに、演出などに制限をかけることは可能だった。実際、矢が射貫いた部分には血は出ていない。

 ナナコは勇気を振り絞り、右手を突き出した。

「え、えい!」

 腰が引けている。目を閉じている、などのマイナス要素からダメージ判定は低い物になった。

 しかし、右拳がコボルトに当たると、赤い光を発して消えてしまう。

 ポコッ、とでも擬音が付きそうなナナコの拳を受けて消えてしまうコボルトだが、ダメージはそれまでポン助たちがギリギリまで与えていたのだ。

 モンスターが消えてしまうと、ナナコが自分のレベルが上がったのを告げてきた。

「あ、上がりました。さっきから随分と上がってきています」

 周囲を慣れているプレイヤーが囲み、ナナコが普通に相手をしては勝てないモンスターを中心に戦っているのだ。

 レベルの上昇も早い。

 なにしろ、新規プレイヤーはレベル三十まで簡単に上がるようになっているのだから。

 アルフィーが持っていた派手な剣をしまうと、ナナコのステータスを見た。

「一日でレベルが十二になりましたね。このまま頑張れば十五まではいきそうですね」

 少しずつ強くなっている。

 それが目に見えるのが嬉しいのか、ナナコは照れてはいるが嬉しそうだ。

 マリエラは空を見上げた。

「でも、そろそろ戻った方が良いかもね。空が赤くなってきたわ」

 見上げれば、空が赤く染まりつつあった。

 ナナコも見上げると、かぶっていた帽子を両手で押さえて口を開けて喜んでいた。

「とても綺麗ですね」

 アルフィーも空を見上げ、腰に手を当てて見入っていた。

 風が吹くと心地よく感じる。

「まるで本物の空ですよね」

 ナナコはそれを聞いて、呟いていた。

「本物……」

 目の見えない少女。

 ポン助は、もしや彼女を傷つけたのかと心配になったが、ナナコが笑っていたので安堵するのだった。

 すると、ナナコがお腹を押さえた。

「あ、あれ?」

 急に慌ただしくお腹を押さえたので、何事かと思っているとナナコのお腹が鳴った。

 顔を赤くして、三人を見て涙目になるナナコ。

「ち、違うんです。え? なんで? ゲームなのに!」

 慌てているナナコに、ポン助は笑顔を向けると頭を押さえた。

「あ~、そういう事か。バッドステータスがついちゃったね」

 食事を取らないとバッドステータスがつき、能力を十分に発揮できなくなる。朝食を食べていないのも原因だが、三人は設定で腹の音が鳴らないようにしている。

「そう言えば、私も空腹状態だわ。ゲームだから気が付かないのよね」

 マリエラがそう言うと、アイテムボックスから何かを取り出そうとしていた。

 ソレを見てアルフィーが即答する。

「いりません」

「……ちょっと、まだ出してもいないんだけど?」

 マリエラが取り出したのは、茶色の塊であった。

 皿の上に乗っており、茶色の塊であるとしか言えない。

「空腹の時には甘いもの! 今まで失敗ばかりだったけど、お菓子なら大丈夫と思って作っておいたんだ」

 以前作っていたものを取り出し、喜ぶマリエラを見てナナコが近付いた。

「これはなんですか?」

「クッキー!」

 ナナコの純粋な瞳に、笑顔で答えるマリエラだった。だが、ポン助とアルフィーは口を開けて驚いていた。

(嘘だろ。あれがクッキー! もしかしてチョコレートケーキだと思っていた僕の予想を超えてきた!)

 アルフィーがナナコの肩を掴み、そしてクッキーから距離を取った。

「あの、アルフィーさん?」

 アルフィーは、無言でポン助に視線を向けた。ポン助は、アルフィーがなにを言いたいのか理解した。

(こいつ、この僕に処理しろというのか! いや、確かにナナコちゃんには食べさせられないけども! だからって、僕かよ!)

 マリエラを見れば、自信があるのか引っ込めるつもりがない。

 ポン助は、オークの大きな手で皿の上にあるクッキーを全部手に取った。

「あ、こら!」

 マリエラがポン助に注意をするが、ポン助は手の上にあるクッキーを見ていた。

(おかしいだろ。なんでクッキーがブヨブヨなんだよ! それに生臭いぞ! これ、絶対にクッキーじゃないよ!)

 そう思いながらも、これをナナコに食べさせられないとポン助は口に放り込んで噛まずにのみ込んだ。

 だが、結果は最悪だ。

 胃からの抗議なのか、それとも食べた物が毒物系のアイテムだったのか――ポン助の体力に結構なダメージが加算されていた。

 お腹を押さえるポン助に、マリエラは自慢気に話をしている。

「今回は自信があるんだ。なにしろ、お菓子の材料はクッキーセットとして買っているから分量を間違う心配もなし! 少し外見は酷いけど、クッキーって表示されていたから大丈夫……どう、ポン助?」

 目を輝かせるマリエラに対して、ポン助は必死に笑顔になるのだが――。

「お、おいしかっ――ゲハッ!」

 悔しいのは、これがVRゲームで有り、諸事情によって吐くことが出来ないと言うことだろう。体は吐き出したいのに、ゲームの規制がそれを拒む。

 更に追加でダメージが入ったポン助が倒れると、マリエラがポン助にすがりつく。

「ポン助? ポン助ぇぇぇ!」

 ナナコの目と耳を塞いでいたアルフィーは、倒れたポン助から視線を逸らした。

「ちゃんと不味い、って言わないから!」

 ナナコが不安そうにしていた。

「あ、あの! 何かあったんですか?」

 アルフィーは、そんなナナコになんでもないと嘘を吐くのだった。





 宿屋。

 ルークに教えて貰った宿屋は、今ではポン助たちもかなりの頻度で利用している宿屋になっていた。

 そんな宿屋の一階にある酒場で、ポン助たちはテーブルを四人で囲んで騒いでいる。

「なんで上手く出来ないのかな? これでも結構練習しているんだけどなぁ」

 ジョッキを持って机に突っ伏しているマリエラを見て、アルフィーは漫画肉を左手に持ち豪快に食べていた。

 最初の頃、切り分けて食べていたお淑やかさがなくなっている。

「いや~、漫画肉はかぶりつくのに限りますね。あ、ロブスター追加で」

「かしこまりました」

 横を通り過ぎようとした店員のNPCに、追加で注文をするとジョッキに入った飲み物を豪快に飲んでいる。

 ナナコの方は、海鮮皿を前にして小さなコップを両手で持ちチビチビとジュースを飲んでいた。

 周囲でも穴場の宿を知っているプレイヤーが、仲間たちと楽しそうに宴会をしていた。話している内容は様々。

 ナナコにはどれも新鮮なのか、キョロキョロと可愛らしく視線を動かしていた。

 ポン助の方は、野菜スティックを食べている。

 別に健康志向という事ではなく、野菜スティックだけ、ドレッシング有り、マヨネーズと食べ比べていたのだ。

 これが想像していたよりも美味しい。

 シャキッとした歯応え。瑞々しい野菜には甘みも感じられる。

 素材の味というのを噛みしめていた。

「う~ん、もっと色んなソースを試してみたいな」

 野菜スティックを食べるオークと、漫画肉を食べているヒューマンの美少女。エルフの美少女は机にあごを乗せながらシシャモを食べている。

 ポン助がNPCの店員に声をかけた。

 野菜スティックがなくなってしまったのだ。

「すみません。野菜スティックを三つ追加で。あと、ドレッシングの類いは全部お願いします」

 そんなポン助に対して、NPCの店員は眉間に皺を寄せ店員にあるまじき態度で舌打ちをしていた。

「ちっ! はいはい。今お持ちしま~す」

 やる気のなさそうな態度は、先程のアルフィーの時とは大違いだった。

 ナナコが驚いている。

「あの、ポン助さんはあの人に何かしたんですか?」

 そんなナナコの反応に、マリエラが手を横に振って応えた。

「違うわ。あの子はNPC――ノンプレイヤーキャラクターで、人じゃないの。で、ポン助に対して態度が悪いのは、ポン助がオーク種だから」

 そう。パンドラの箱庭というゲームで、オーク種というのはネタ種族と呼ばれている。

 理由は色々とあるが、その一つはNPCたちの態度が悪いという事だ。

 運営がそのように設定しているのだろうが、そこに熱い拘りを感じるほどに扱いが悪い。

 そのせいで、一部のユーザにオークは大人気だった。

「知らないでアバターに設定したんだけどね。でも、今から作り直すとフィールドボスやエリアボスをせっかく倒したのに、全部無駄になるからね。それに、オークって結構凄いんだよ」

 基本ステータスが多種族よりも高い。

 一部ステータスは低く設定されているのだが、それ以外が高いのだ。

 もっとも、女神パンドラの加護を受けられないデメリットが存在していた。

 このデメリット、ゲーム的な楽しさを一部捨てているに等しい。何故なら、加護とはキャラクターのカスタマイズだからだ。

 ステータスの弱点を克服、あるいは長所を伸ばす。

 そういった事が可能になっているのに、オークはカスタマイズが出来ない。

 そんな話をすると、ナナコはしきりに頷いていた。

「だからオークのプレイヤーは少ないんですね」

 マリエラがポン助を横目で見ながらニヤニヤしていた。

「キャラの濃い奴らは多いけどね。そういう趣味の奴らにはオークって大人気だし」

 ナナコが首を傾げ、本当に理解できていない顔をしていた。

「そういう趣味?」

 ポン助はナナコに話しかけ、話題を逸らす。

「そ、それより、明日にはクエストもクリアになるから一緒にギルドに行こう。神殿にも行けるけど、手に入れる職業は決めた?」

 ナナコは少し俯き、そして顔を上げると少し真剣な顔になっていた。

「そ、僧侶を選ぼうと思っています」

 豪快に飲み食いをしているアルフィーが喜んだ。

「やりましたね。これでうちにも回復役が揃いますよ」

 それを聞いて、ナナコが少し困った顔をしていた。

「どうしたの?」

 ポン助がたずねると、ナナコは意を決したのかポン助に真剣な顔で訴えてくる。

「あの、私はどうしてもクリアしたいクエストがあるんです!」





 一階の酒場から二階の部屋に移動すると、ポン助たちは眠ったナナコを起こさないように床に三人で座っていた。

 三人で向かい合い、ナナコが言ったクエストについて話をする。

「……確かに、何度かクエストで確認はしていましたけど」

 アルフィーが眠っているナナコの顔を見て、難しい表情をしていた。

 マリエラも同様だ。

「問題は、クエストをクリアしても私たちには意味がない、って事よね。そりゃあ、手術が控えているなら仕方がないけどさ」

 欲しかったのは共にクエストに挑む仲間。

 だが、ナナコはしばらくすると手術を受けるためにしばらくゲームにログインできなくなると言うのだ。

 そして、ナナコが三人に頼んだクエストというのは、別段難しいものではない。ただ、時間はかかる類いのクエストだった。

 ポン助はそのクエストを知っていた。

(希望の都の名がついた、希望の秘薬。これを得るためのクエスト……でも、これ自体はただの少し性能が良いだけのアイテムだ。先に進むなり、職人が作った回復薬の方が性能は高い)

 アルフィーが体育座りをしながら、天井を見上げた。

「願掛け、ですか」

 マリエラも同じような姿勢だが、こちらは俯いていた。

「手術、今の技術でも難しいんだって」

 失敗すればどうなるか――最悪、命に関わるというものではない。だが、失敗すれば二度と目は開かない。足も動かないという事だった。

 ポン助も体育座りをしているが、オークの体育座り――非常に場所を取っている。

「普通なら断ってもいいようなお願いなんだけどね」

 普通のプレイヤー――先に進むのを優先しているポン助たちと同じ立場だとしたら、きっと手は貸さないだろう。

 それよりも、新しいメンバーを探すことに尽力するはずだ。

 アルフィーが立ち上がる。

「やりましょう!」

「え?」

 ポン助がアルフィーを見ると、その場で赤いドレスを揺らしながら身振り手振りを加え、演説し始めた。

 何故か、似合っていた。

「ハッキリ言ってしまえば無駄です。ですが、私たちは別に攻略組でも中堅プレイヤーでもありません」

 マリエラは、アルフィーの言葉に同意するが、問題点も挙げる。

「まぁ、そうね。でも、先に進むのに時間がかかるわよ」

 アルフィーが手を広げ二人に言うのだ。

「ここで見捨てて気が引けるよりいいではないですか。この先、この出来事が気になってしまっては楽しく遊べませんよ」

 ただのオンラインゲームではない。体感型だから実感できる事もある。

 VRゲームは、そういうものだった。

 画面の向こうでイベントが起きているのではなく、自分の周りの出来事だ。

 ポン助も頷いた。

「なら、明日はそのための準備をしよう。流石にレベルの差が大きい。少し頑張って無理して三十まで上げて、一緒にクエストに挑もうか」

 マリエラは体育座りを崩し、そしてポン助を見た。

「そうね。どうせ、遅れたからって数日の話だし。それくらいなら、寝覚めの良い方が得よね」

 こうして、ナナコの手伝いをする事にした三人だった。
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