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冒険者

 パンドラの箱庭。


 そのプレイヤーたちは、例外なく【冒険者】という扱いだ。


 七つの大罪をモチーフとしたそれぞれの世界を解放する、神に選ばれた戦士であり未知なる異界を探求する冒険者。


 神――女神の名前は、タイトル通り【パンドラ】である。


 希望の都の中央部分にある巨大な冒険者ギルド。


 そこの受付カウンターで、初心者用のクエストを受けているポン助一行はそんな話をルークから聞くのだった。


「因みに、暴食、強欲、嫉妬の世界は攻略済みだ。残りは四つの世界を攻略することになっていて、今は【怠惰の世界】を攻略中」


 サービス開始から三年近く。


 攻略はようやく半分を超えようとしていた。


 ドーム型の天井を見上げ、窓から入る光によって幻想的な空間が作り出されている冒険者ギルド。


 そんな中で、ポン助は同じようにオークがいないか探している。


(……オーク、少ねぇ)


 オークがネタ職業と呼ばれるのは、ゲームの設定にある女神パンドラ――その加護をほとんど受けられないためだ。


 基礎能力がいくら高かろうが、これではネタ扱いされても仕方がない。


 受付にいる女性NPCが、ポン助たちにクエストの内容を確認してきた。


「それでは確認させて頂きます。クエスト【希望の都の冒険者】は、街、そして草原での戦闘、戻ってからのクエストの結果報告をして頂きます。皆様が立派な冒険者になられることを心より願っておりますね」


 そう言って笑顔を全員に向けるNPCなのだが、ポン助を見るときだけ視線が少し厳しいものになっていた。


 首を傾げるポン助に、ルークが思い出したように言うのだ。


「そうだった。オークって基本的にモンスターだから、街のNPCとかに嫌われる傾向にあるんだった」


 ポン助は、本当にアバターを作り直すことを真剣に考え始める。


 そんな二人の会話を聞きながら、マリエラが受けたクエストの内容を確認するように呟いていた。


「支度金で指定アイテムの購入と武器の購入と強化? 出発前に宿屋に泊まるのもなんか変よね」


 アルフィーも同じ意見だった。細々とした内容が多く、全てを達成するのは時間がかかりそうである。


 ルークが三人に早速行こうと言って、外を目指す。


「チュートリアルみたいなものだから我慢してね。これが終われば、一人前の冒険者だからさ」


 ポン助がルークに対して嫌味を言った。


「チュートリアルが終われば、ルークはアイテムが手に入るから必死だよね」


 すると、ルークは悪びれる様子もない。


「必要なんだよ。もうすぐ、怠惰の世界も攻略しそうだからな。攻略が終われば大型アップデートが待っているし、その後は色々と忙しくなるの」


 マリエルが首を傾げた。


「大型アップデート後は忙しいの?」


 ルークが指で数えるように、アップデート後の事を説明する。


「新しい職業やスキルの確認とか、劣化イベントのクリアに、キャラの再設定。下手をすると一からやり直しになるんだよ」


 アルフィーが少し引きつった笑みを作っていた。


「トッププレイヤーの方は大変ですね」


 だが、ルークは首を横に振る。


「俺がトッププレイヤー? 冗談は止めてくれ。そうだな……あいつらを見てくれ」


 ルークが指を差した先には、クエストを受けて飛び出すように外に出ていく四人組がいた。


 彼らは走りながら会話をしている。


「必要アイテムは全部持った?」

「悪い、補充してから合流する」

「武具の耐久値、全員確認しろよ」


 慌ただしい集団は、時間が惜しいかのように走り抜けていく。その様子を見て、ポン助は納得するのだった。


「あぁ、なんか必死さが違うね」


 ルークは肩をすくめた。


「馬鹿。俺よりも凄いけど、あいつらも中堅クラスだ。もっと凄い連中は――」


 黒いローブをまとった集団がギルドに入ってくると、そのまま無言でクエストのクリアを行い、次に同じクエストを受けていた。


 その集団は黒いローブに同じ紋章を描いており、顔も装備も見えない。


 だが、無言でクエストを再び受けると、そのまま無言でギルドを出て行くのだった。


 ルークがその集団を見て呆れている。


「……アレが廃人レベルだ。ゲーム内で会話なんかしないし、特殊アイテムのローブで装備なんかを隠しているんだ。大方、怠惰の世界を攻略するためにキャラを作り直しているところだろうさ」


 情報を集め、クリアするために最適なキャラを作成する。


 課金で獲得経験値などを増やし、そしてゲーム開始前に全て打ち合わせを終えている集団。


 ポン助は呆れて口を開けている。


「……なにが楽しいの?」


 ルークは廃人たちの気持ちが少し理解できる、というような感じで答えた。


「最速でクリアを目指す。クリアするのは自分たちだって事だよ。まぁ、あんな連中は全体で一割いるかいないか、かな」


 世界を攻略するにはパーティーでは足りない。


 それこそ、複数のパーティーでも話にならない。


 千を越えるプレイヤーを集め、そして対策を練ってボスに挑むのだ。


 そのためには、廃人と呼ばれるような彼らの力が絶対に必要だという。


「私、トッププレイヤーは目指せそうにないわ」


 マリエラの声にポン助もアルフィーも頷くのだった。


 ルークが言う。


「一日にログインできるのは、向こうの世界でいう二時間。こちらでは引き延ばして四十八時間……つまり二日を過ごせるけど、トッププレイヤーたちには物足りないだろうな」


 どこか、自分も満足していないという雰囲気をルークは出していた。



 石造りとレンガの都。


 中世ヨーロッパを思わせる作りをしているのが、希望の都だった。


 四人はギルドから与えられた支度金を持って、装備やアイテムの購入や強化というクエストを達成していく。


 NPCの店だけではなく、プレイヤーが露店を開いている場所にも向かった。


 プレイヤーたちが、声をかけて自分たちの作ったアイテムや装備を説明していた。


 ルークは自慢気に説明をする。


「生産職メインの連中は、基本的に露天で金を稼いでレベルやスキルを上げつつ店を構えることを目指している。だけど、店を構えている連中は腕も良いが金もかかる。こういう場所でお手頃なアイテムや装備を探すのも楽しいものさ」


 効率重視のプレイヤーでは、絶対に立ち寄りそうもない場所だと思いながらポン助は露天の一つに目を向けた。


「お、片手剣とバックラーのセット」


 すると、生産系のプレイヤーがポン助を見た。


「オークの客は初めてだな。買ってくれるなら外見の変更はサービスしても良いよ」


 ルークはポン助を見ていた。口出しはしないらしい。


「……初心者用のクエストもやっているんだけど、ついでに武器とか強化できません?」


 相手はポン助の装備を見ながら頷いていた。


「あぁ、初心者だったのか。だったら片手剣の方を強化しておこうか? オークなら攻撃力や防御力も高いけど、この辺で戦うなら防御力を上げるより効率が良いと思うよ」


 しばらく考え、ポン助は武器購入を決める。


 相手プレイヤーは並べている商品を手に取り、片手剣を強化した。レベルなのか、それともスキルなのか分からないが、性能が上がっていた。


「普通にNPCの店で買うより酷いけど、安いから我慢してくれよ」


 相手プレイヤーは、武器を見ていたポン助に謝りつつ渡してくる。ポン助がルークを見た。


「別に良いだろ。しばらくすれば装備一式をどうせ買い揃えるんだ。オーダーメイドなんかまだ先だからな。クエストクリアを優先しつつ、生産職のプレイヤーの経験を稼がせてやれよ」


 まぁ、そんなものなのかと思い、ポン助は武器を装備する。


 相手プレイヤーは、


「その代わり、外見はオークっぽくしたから安心してくれ」


 言われた通り、確かに片手剣が少し曲がって無骨なデザインになっていた。柄など布を巻いただけのデザインだが、握ってみると悪くない。


 小さな盾の方も、モンスターの顔がデザインされて禍々しさが出ている。


 ルークは口笛を吹く。


「いいじゃん。なんかオークの戦士、って感じだ」


 ポン助は装備を見ながら溜息を吐いた。


「いや、別にいいけどさぁ……あ、二人も来た」


 アルフィーやマリエラも、買い物を終えたのか戻ってくる。必要なアイテム――回復薬などは購入しており、二人も武器や防具などを購入していた。


 マリエラが笑う。


「ポン助さん、なんか益々オークっぽい!」


 アルフィーもポン助を見ながら頷いていた。


「まぁ、外見上は凄く頼りになりそうですね」


 ポン助は二人を見ながら思う。


(こんなに綺麗な美少女なのに、中身オッサンかと思うと複雑な気分だよ)


「まぁ、前衛として頑張ってみますけどね」


 ルークは軽くポン助の腕を叩く。


「オークは接近戦で凄く頼りになるから安心していいよ。盾役にはピッタリ。外見もあって、見捨てても心が痛まない」


「おいっ! 見捨てるなよ! 仲間だろうが!」


 ルークの冗談にポン助が掴みかかって揺するが、ルークは笑っていた。


 ソレを見てアルフィーとマリエラも笑うのだった。


「さて、なら宿屋に行く前に外で戦闘をやってみようか」


 ポン助から逃げ出し、三人に先行する形でルークが歩き出す。



 希望の都の周辺は草原である。


 都周辺は安全地帯になっており、少し離れてモンスターが出現するエリアには騎士や兵士たちも巡回しているので滅多なことでは死なない。


 そんな場所でポン助、アルフィー、マリエラの三人は戦うのだが……。


「ポン助さん退いて!」

「アダッ!」


 マリエラの矢に後ろから攻撃されるポン助。


「あ、すみません!」

「どふっ!」


 アルフィーの振り回した剣に斬られてしまうポン助。


 しかも目の前にはモンスターがいて、ポン助に体当たりをしてくる。


「ぬおぉぉぉ!」


 ポン助は一人、集中的に叩かれていた。


(モンスター一体を囲んでいると思ったら、まさか自分が囲まれていたとは! って、冗談を考えている場合じゃない!)


「ギャハハハ! ポン助、敵と味方から集中攻撃だな」


 見ているルークは指を差して大笑いをしていた。


 しかし、流石にオークだけあって敵や味方からの攻撃を受けても、体力はまだ十分に残っていた。


 味方からの攻撃は、大きくダメージが削られるのも影響している。それがなければ、生きていられたか分からない。


「前衛ってしんどいな」


 ポン助がそう呟くと、マリエラもアルフィーも申し訳なさそうにするのだった。


 目の前のモンスターはスライムのような奴で、基本的に戦って負けることは滅多にない。だが、三人で戦うとなるとどうにも苦戦していた。


 ルークが前に出る。


「VRゲームってさ、自由度が高いからプレイヤースキルがかなり重要になってくるんだよね。パーティー間の動きもその一つ」


 大剣を縦に振るってモンスターを斬り伏せる。斬られたモンスターは、光の粒子になって消えていくのだった。


 すると、パーティーボックスにアイテムが追加された。


 パーティーリーダーはポン助なのだが、追加されたアイテムを見て悩む。


「スライムの粘液が一つ……これ、どうやって分ければいいの?」


 ルークは大剣を一度振ってから背中にしまう。恰好を付けたやり方だが、美形の男性がやるとやはり絵になった。


「終わったら均等に分ければいいよ。というか、ここで手に入るアイテムなんか、あんまり価値がないから売ってもたいした金額にならないぜ。あ、俺はいらないから三人で分けてね」


 序盤で手に入るアイテムなど、ルークには価値がないようだった。


 ルークは周辺を見てモンスターを探しながら、


「取りあえず、マリエラさんは射線に味方を入れないようにしようか。アルフィーさんも味方から距離を取ってね。モンスターはポン助が引き付けるから」


 ポン助が自分を指差しながら、


「僕へのアドバイスは?」


 ルークは笑顔で言い切る。


「ない。盾役を頑張りつつ、敵を攻撃しろ。以上!」


 確かに種族的に役割は正しいが、なんだかなぁ……と思うポン助だった。



 仮想世界の日が暮れる頃。


 ポン助を中心としたパーティーの連携が出来上がりつつあった。


 盾を構え、そしてモンスターの前に出るポン助は、目の前のモンスターに片手剣を振り下ろして消滅させる。


 そんなポン助に攻撃を仕掛けようとするスライムに、マリエラが矢を放って足止めをしていた。


「一撃で仕留められたらいいのに」


 そんなマリエラの残念そうな声に対し、ポン助の影から飛び出したアルフィーが片手剣を振り回して二体のモンスターを斬り伏せた。


 ルークが岩に座った状態で、ポン助に声をかける。


「追加で三体だ。スキルで決めてやれ」


 言われてポン助が左手を握りしめ、右足を踏み込むとそのままバックラーでスライムを殴りつける。


 シールドアタックという、剣と盾スタイルでは初期のスキルである。


「よっしゃぁぁぁ!」


 吹き飛んだスライムが空中で赤く光、そして粒子になって消えていくとアルフィーが駆け出す。


 ダッシュ斬り、という急接近による攻撃スキルだ。スライムを突き殺すと、そのまま最後のスライムに向き直る。


 すると、地面に膝をついて弓を限界まで引いたマリエラが、そのまま矢を放つ。


 矢がスライムを突き抜け、そのまま赤い光にしてしまうとマリエラが跳び上がった。


「やった、決まった!」


 アルフィーが剣を鞘にしまって拍手をした。


「良かったですね。先程の戦闘では外れてしまいましたからね」


 なんとも褒めているのか、嫌味なのか分からないアルフィーの言葉だった。


 ポン助がフォローをする。


「弓矢は結構難しそうですよね」


 マリエラは自分の矢筒を見ながら、一人愚痴る。


「大変というか、矢もタダじゃないから厳しいのよね。破壊されると減っていくから、補充でお金がかかるし」


 すると、ルークがポン助に近付く。


「これで最後は連係攻撃だけだな。でもおかしいな? さっきみたいにスキルを上手いタイミングで発動すれば、コンボになってダメージが追加されるんだが……」


 通常であれば、先程の攻撃でコンボが発生し追加ダメージを与えてもおかしくないとルークは言う。


 気になってステータス画面を表示し、色々と確認していた。


 ポン助は片手剣とバックラーを見る。


「耐久値が減ってきているな。出来れば早く戻ってクエストを終えたいんだけど……」


 装備品には耐久地が設定され、使えば当然だが減っていく。


 整備すれば回復するが、中には整備が出来ない装備品も存在していた。課金をして手に入れる武器や防具、装飾品などがそれに当たる。


 マリエルも自分の短弓を見ている。


「耐久値を上げて貰う改造をすれば良かったかな? でも、命中率を上げるのが基本だし……」


 それぞれ悩みがあるのだが、課金装備を持っているアルフィーにはあまり関係ない話のようだ。


 ポン助は、アルフィーの武器などの耐久値気になった。


「アルフィーさん、武器とかの耐久値は大丈夫ですか? 課金アイテムなんかは整備できないと聞いていますけど」


 アルフィーは微笑んでいた。


「大丈夫です。予備もありますけど、基本的に一本数百ポイントですから」


 序盤の課金アイテムなど安く、気にする必要もないと言う態度だった。


(この人、お金持ちなのかな? 序盤だし、あまり課金しなくても良いと思うんだけど……あとで注意をするか? でも、個人の自由だから放置でも……)


 その時、ルークが叫んだ。


「ポン助ぇぇぇ!!」

「は、はい!」


 驚いて返事をしてしまったポン助に、鬼気迫る表情のルークが胸倉を掴んできた。


「お前、なんでオークなんて選んだ、言え!」


「今更!? というか、どういう事! さっきまで笑ってみてたじゃないか!」


 ルークの急な態度の変化に、ポン助も困惑した。


 ただ、理由を聞けば――。


「俺はともかく、他二人との友好度が低すぎる! オークのデメリットだ。友好度が最初から低い、更に上がり難い!」


 友好度とは、プレイヤー間の友好を数値にした物だった。


 これが一定値になると、連携が発動しやすくなりコンボもどんどん繋がりやすくなる。同じパーティーでのプレイ時間や、ゲーム内の行動で上がるようになっていた。


 また、下げることも可能だった。


 そのため、別に友好度が高いから友人という事ではない。


「え?」


 気になって全員が好感度を確認した。


「えっと……ルークは【四十一】で、アルフィーさんが【十三】? マリエラさんは……【四】!?」


 新人勧誘でルークの好感度は高いのだが、問題は残り二人である。


 ヒューマンであるアルフィーも低いが、エルフであるマリエラの好感度は更に低い。どうやら、種族的な補正がかけられているらしい。


 マリエラが首を横に振る。


「待って! 別に嫌いとかそういうのじゃないわよ! え、なんで!?」


 マリエラも困惑しているが、アルフィーは納得していた。


「あぁ、だから後ろから攻撃を――」


 マリエラが叫ぶ。


「あんたも斬りつけていたじゃない!」


 ルークが頭を抱えていた。


「三人以上でコンボを発生させないとクリアにならないんだぞ……今からキャラの変更? いや、パーティーメンバーを変更するか? 駄目だ、二人に申し訳ない。そうなると、地道に好感度を上げるしか……」


 ポン助は悩むルークを前にして申し訳ない気持ちになるのだった。


 ポン助は思った。


(やっぱりオークってネタ種族だわ)


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