プロローグ
巨木が立ち並ぶ森は、地面は僅かに泥濘んでいた。
見た事もないような巨木に草木は、どれも大きくまるで体が縮んでしまったかのような錯覚すら与えてくる。
そんな森の中を、二人の少女が駆けていた。
「急いで!」
ストレートロングの赤髪が、森の中でよく目立っていた。
手に弓を持ったエルフの少女は、体に張り付くような軽装とも言える装備を着用している。
長い手足はモデルのようである。そして、胸当てを見れば少女が大きな胸を持っているのが分かった。
そんな少女【マリエラ】の後ろを走っているのはヒューマンの少女だ。
「分かっています!」
赤いドレスを着用し、茶色のブーツを履いていた。
金髪碧眼の美少女【アルフィー】は森に相応しくない恰好をしているが、泥だらけの地面を駆けてマリエラに追いつこうとしている。
ドレスに包まれた大きな胸が少し揺れ、そして二人は更に後方を見た。
大地を踏みしめ、歩く度に足音が聞こえてきそうな魔物。
二メートルを超えるオークが、左手には大盾を持ち、右手には片手剣を持っていた。
腰回りや手足、そして胸当てには金属製の武具を着用していた。
皮膚の色は土色だが、その長い髪は銀色で背中を覆うほどに長い。
額当てをしており、全身を装備で固めていた。
そんなオークが二人の少女に遅れつつも追いかけている光景は、まさしく鬼気迫っている光景だろう。
だが――。
「追いつかれました!」
アルフィーが迫り来るオークに向かってそう叫ぶと、オークはその場で立ち止まる。踏みしめた足が、地面に足跡をくっきりと残していた。
マリエラも矢筒から矢を選んで取り出すと、弓を構えた。
アルフィーだけは先を走り、二人に対して声をかける。
「予定の場所まで先に進みます!」
「お願いね!」
すれ違い様にマリエラが返事をすると、アルフィーだけがそのままその場を去った。
オークは体勢を低く構え、そして盾を持った左半身を前に構えている。
周囲に視線を巡らし、そして――。
「ポン助、上!」
マリエラの声で顔を上げたオークの【ポン助】は、赤い仮面を付けた大きな猿が飛び降りてくるのを見て目を細めた。
「こいつ、しつこいんだよ!」
赤い仮面を付けた茶色い毛皮を持つ猿は、大きさにして三メートル。
モンスター名は【レッドフェイス】で、フィールドボスであった。
ポン助たちを追い回す中で、ボロボロになっているのだがダメージが蓄積して怒りが溜まり攻撃力が上昇していた。
「ワッキャァァァァ!」
両手を振り回し、ポン助を殴り始めるレッドフェイス。
大盾で攻撃を受け止めるポン助は、時折チクチクと片手剣を突き出してはレッドフェイスにダメージを与えていた。
少し離れた場所で、マリエラが矢を放つ。
ポン助の耳横をかすめるようにして、レッドフェイスに矢が突き刺さる。それを見たポン助は、左手を大きく引いて盾で殴りつけるようにレッドフェイスを殴り飛ばした。
「おら、シールドバッシュじゃ!」
ポン助の攻撃が直撃すると、レッドフェイスの頭上に【Combo】という文字が浮んで消えていく。
連携が決まると、流石のレッドフェイスも大きく吹き飛び呼吸が荒くなっていた。
それを見たポン助は――。
「逃げろぉぉぉ!」
そう言って背中を見せて走り出すのだった。
マリエラも、弓をしまってその場から逃げ出していく。
これをチマチマ繰り返しているのが、今の三人だった。
レッドフェイスは、そんなポン助たち【プレイヤー】を見てプルプルと震えだし、口を大きく開けて叫ぶとまた追いかけ始めた。
森の中、開けた場所にやってきたポン助たち。
現在のダメージやステータスの状況を確認すると、ポン助は二人を見て頷く。
「よし、ここで勝負を決めよう。まさか、本当にフィールドボスと出くわすとは思わなかったけど準備をして置いて良かった」
開けた場所の中央部分を見れば、設置された罠が置いてある。
アルフィーが先に来て仕掛けていた物だ。
アルフィーは自慢の課金武器である剣を抜いて構えた。
「これで準備万端です。フィールドボスだろうがボコボコにしてやりますよ」
課金装備で固めたアルフィーは、リアルマネーにして全身で千数百円という額を投資している。
これが二回から三回のログインで壊れると思うと、ポン助は勿体なく思うのだった。
マリエラの方は、左手を仲間に向けて魔法をかける。
バフという能力を上昇させる魔法だった。
「なにが準備万端よ。ほら、あんたにも魔法を使うからこっち向いて」
ボス戦の前に能力を上昇させておくのは当然で有り、対策を講じないで勝てるボスというのも少ない。
オフラインではレベルを上げて物理で殴れ、が通用してもここはオンライン。
それで通用されては困ってしまう。
アルフィーは魔法を複数かけられると、ポン助におねだりをする。
「ポン助、アレをやってくださいよ。アレ!」
言われてポン助が嫌そうな顔をした。
「アレ? でも、あんまり効果ないんだけど?」
マリエラも肩をすくめるが、ポン助の大きく太い腕を叩く。
「いいじゃない。減る物でもないし」
「スキルは一回使うとクールタイムが……まぁ、いいか」
すると、ポン助は両腕を上げてモンスターのように咆吼する。
以前受けたクエストで獲得した【力の咆吼】――オーク専用のクエストで得た物だ。
だが、ステータスが一時的に上がるだけで三十秒程度の時間しか有効ではない。
タイミングが難しい上に、普通に戦うなら魔法の方が簡単で有効時間も長い。
(やっぱりオークってネタ種族だよな)
パンドラの箱庭というVRMMORPGで、不遇な種族であるオーク。そんな種族を選んでしまったポン助。
アルフィーがポン助のスキルを受けて、能力が上がると身震いしていた。
「あ~、この感覚はいいですね」
マリエラは呆れている。
「あんた好きよね」
どうにも、能力が上昇したときの感じが好きなのか、アルフィーは頻繁に力の咆吼をポン助に求めてくるのだ。
「使わないからいいけど、そろそろ準備を――」
その時だ。
アルフィーが上を向くと、武器を構えた。
マリエラも振り返って後ろに跳んで弓を構える。
ポン助も同様に武器を構えると、森の中の広場にレッドフェイスが落下してきた。
「……あ、罠の位置がズレてます!」
しかし、アルフィーがそう言うと、本当に僅かだけレッドフェイスが罠のある位置から少し前に立っていた。
「やっぱり動画を一回見ただけじゃ駄目だな」
ポン助はそう言って前に飛び出す。
アルフィーも駆けだして回り込み、マリエラもその動きに合わせた。
何も言わずとも連携が取れる。三人はその段階に踏み込んでいたのだ。
「シールドタックル!」
「二連激!」
「三連射!」
スキルを使用し、そしてタイミングが上手く重なると発生するコンボ。それを狙った一撃により、レッドフェイスが押し込まれ罠が発動した。
いくつもの罠が重なって発動する事により、レッドフェイスは捕えられ電撃が流れ、燃え上がった。
最後に爆発し、一番近くにいたポン助が巻き込まれるように吹き飛ぶ。
オークの巨体でも吹き飛ぶ威力の爆発に、流石のレッドフェイスも耐えられなかったのか黒い煙が晴れると消えていた。
三人の前に、レッドフェイス討伐の文字が浮かび上がる。
「よっしゃぁぁぁ!」
ポン助が立ち上がって両手を上げると、アルフィーやマリエラも駆け寄って互いに和気あいあいとハイタッチや抱きついて結果に喜ぶ。
アルフィーが額を拭いつつ言う。
「いや~、これで私たちも随分とエリアボスやフィールドボスを倒してきましたね」
その言葉に、マリエラが苦笑いをしていた。
「まぁ……最近は色々とカンストしたからね。だって、希望の都を出るためのクエストを受けてないし」
ポン助が肩を落とす。
「そうなんだよなぁ」
本来ならすぐにでも次の都へ進みたいのだが、そのためにはクリアしなければいけないクエストが存在していた。
しかし、そのクエストが受けられなかったのだ。
ポン助が立ち直り、戻ろうと二人に言う。
「もう時間だし、そろそろ街に戻りません? 今日は二日目だから、どこかで食べてそのまま宿泊。それか、夜通し遊ぶかですけど」
パンドラにアクセスできる時間は、プレイヤー一人に対して二時間のみ。しかし、ゲーム内で流れている時間はその二十四倍だった。
つまり、ゲーム内では二日間も遊べるのだ。
マリエラは夜通し遊ぶのは嫌らしい。
「私は夜通し遊ぶのはパス。だって、次にログインしたときにバッドステータスつくし。それに疲れたから食事をして騒いだら寝たい」
アルフィーの方は遊び足りないらしい。
「え~、遊びましょうよ。ほら、夜の遊園地は色々と楽しいですよ。観覧車に乗ってジャンクフードを食べましょう」
三人で相談し、結局は遊園地で少し遊んで寝ることになった。
◇
現実世界。
ポン助――【鳴瀬 明人】はゆっくりと目を覚ます。
ゲームが終了したのを確認し、横目で時計を見ればいつも通りの七時という時間だった。
毎朝、五時に起きてはログインする習慣が出来てしまっている。
上半身を起こしながら、ヘッドセットを外すと肩を回した。
「あ~、今回も楽しかったなぁ」
オークを選んでしまったが、今では別にネタキャラでも悪くないと思っていた。それなりに楽しみもある。
それに、知り合った美少女二人が、変更を嫌がっている。
「ふぅ……仕方ないよね。仲間だし」
美少女二人のお願いに満更でもない……という訳でもない。明人がオークから変更しないのは、自分で良いと思ったからだ。
それに。
「はぁ、これで現実でも二人が美少女だったら良かったのに。いや、そういう考えは駄目だ。ゲームは楽しむ物だし」
二人は協力的で、同じようにゲームを楽しむ貴重な仲間である。
それでいいのだ、と自分に言い聞かせるポン助。
何しろ、パンドラの箱庭はオンラインゲームである。明人がまったく外見の異なるオークをアバターに出来るように、男が美少女のアバターを使う事も可能なのだ。
明人は背伸びをする。
「さて、今日はアルバイトもあるから頑張らないと」
そう言って準備を始める明人は、学生服に着替えるのだった。
朝の教室。
席に着いた明人の前に、髪を金髪に染めた【青葉 陸】が座る。
明人の友人で有り、背も高い。かつてはスポーツマンだったのだが、才能を理由にスポーツを辞めてしまっていた。
そんな陸は、明人にパンドラの箱庭を勧めた友人でもある。
「よう、いつまで希望の都で足踏みしているんだよ。さっさと最前線に来いって」
陸がつまらなそうにそう言うと、明人は溜息を吐いた。
「いや、もうレベルも友好度とか、その他もカンストして準備は出来ているんだよ。出来ているんだけど、問題はレイドが組めなくてさ」
パーティーの人数が三人というのもあるが、明人がオークをアバターにしているために他からエンジョイ勢……あまりゲームの本筋を楽しんでいないと思われていた。
そのため、クエストに挑むことが出来ないでいる。
「大変だな。手を貸すか?」
そんな友人の言葉に、明人はしばらく考えて首を横に振る。
「いいよ。それに、これを機会にもう一人くらいは仲間を探そうと思うんだ」
陸はその言葉を聞いて嬉しそうだった。
「そっか。見つかると良いな」
「うん」
しかし、陸は明人にアドバイスを送る。
「と言っても、こっちの都合もある。仲間を探すなら、二人か三人は見つけて置いた方が良いかも知れないぞ」
現実世界の都合もあって、毎日ログインできない人だっているのだ。それを考えれば、陸の言っている事は正しかった。
「それもそうか。なら、二人くらいは探そうかな?」
陸は首を横に振る。
「固定なのは三人だろ? なら、探し続けてもっとプレイヤーの和を広げようぜ。その方が絶対に楽しいからさ。そもそも、あの二人と固定で他に知り合ったプレイヤーが少ないだろ?」
明人は自分の知り合いを思い出す。
アルフィーにマリエラ、そして勝手に【ドM】認定をしてきたオーク仲間の顔が思い浮かんだ。
両手で顔を覆う。
「ど、どうしたんだよ」
「ごめん。僕の交友関係が酷すぎるのを思い出した」
蔑まれることに喜びを感じ、そしてオークである事に誇りを持つプレイヤーたち。だが、全員がドMだった。
(あいつらと一緒だと思われたくない。いや、待てよ……もしかしたら、多くのプレイヤーが彼らを見てオークをそういうプレイヤーの集まりと思わないか? そ、そんなの駄目だ!)
明人は、オークと言うだけで将来的にドM認定をされるのを恐れ、誤解を解くためにも交友関係を広げるべきと考えたのだった。
「陸、僕はやるよ。友達を沢山作るよ!」
「お、おう。そうか」
陸が少し引いているが、それを気にしている余裕もないほどに、今の明人は将来の不安を取り除くために必死だった。
すると、クラス委員である【市瀬 摩耶】が、茶色のハーフアップした髪を揺らしながら近づいて来た。
「鳴瀬君、青葉君、朝から元気なのは良いけど提出物はちゃんと出してよ。昨日、先生からメールで苦情が来たんだけど? 貴方たち、しっかり確認しているの?」
明人も陸もスマホを取りだし確認すると、担任からのメールを見てしまったという顔をした。
明人は摩耶に謝罪をする。
「ごめん。すぐに提出するよ。えっと……」
摩耶は腰に手を当てていた。頭脳明晰、運動神経抜群。オマケにお嬢様と絵に描いたようなエリートである摩耶は少し呆れつつも笑っていた。
「今日中にお願いね。ほら、もうすぐ先生が来るわよ」
そう言って摩耶は自分の席に向かった。
陸はその背中を見て安堵していた。
「委員長、迫力あるよな。まぁ、最近は丸くなってきたけどさ」
明人も同意する。
「そうだね」
教室には担任教師が入ってきて、二十人の生徒たちに席に着くように言うのだった。
スーパーの支店。住宅地にある小型のスーパー【マイルド】。
そこでアルバイトをしている明人は、同じシフトで仕事をしている違う高校に通う二年生の先輩、【志方 八雲】と棚の整理をしながら話をしていた。
コンビニよりも大きいが、スーパーとしてみると狭い店内。
バックヤードには正社員がいて、事務仕事をしている。
その他の業務は、主にアルバイトが二人で対応していた。
「休日に見に行った映画が最悪だったわ。後輩が見に行こうって言うからついていったら、人は多くて五月蝿いし、ナンパ目的の男が多いのよ。隣に座った男なんか、その映画を前に見ていたのか解説してきて全然楽しめなかったわ」
苦笑いをする明人は、八雲の愚痴に付き合っていた。
「人気があるみたいですからね。もう少し落ち着いてからにしたらどうです?」
八雲は背も高く、ショートボブの赤い髪をしていた。
女子校に通っており、後輩に人気があるらしい。
「楽しめなかったし、もう一回は見に行くつもりよ。ねぇ、なら今度の休みに一緒に行かない? 男避けになるから助かるのよね」
八雲に男避けに使われるとあって、明人は嬉しいやら悲しいやらと複雑な気持ちだった。
(一緒に出かけられるのはいいけど、役割が男避け……まぁ、嫌われてはいないんだろうけどさ)
「いいですよ。なら、今月末にでも――あ、お客さんが来るみたいです」
明人の視線の先には、ガラスで透明な自動ドアの向こうで店に入ろうとするお客の姿をとらえていた。
八雲は時計を見る。
「そろそろ込み始めるわね。私はレジの辺りで仕事をするから、ここをお願いね」
肩を叩かれた明人は、返事をすると作業を続けるのだった。
◇
「聞いてくださいよ、ポン助! せんせ――なんというか、目上の人から自分の責任でもないのに小言のメールが届くんですよ」
ゲーム内。
木造の建物の中、テーブルを囲んでいるポン助とアルフィーにマリエラは、朝から昼までを外で過ごして資金稼ぎをしていた。
終わって酒場に繰り出せば、アルフィーが文句を言い出す。
「現実の話? まぁ、大変ですね」
ポン助の態度に、アルフィーが両手で机を叩く。だが、皿や料理は揺れ、上下に跳ねてもこぼれることはない。
「聞いて! 私の話を聞いてくださいよ! 私の責任じゃないんですよ!」
マリエラの方は、焼き魚を食べながら話を聞いていた。
「でもそういう立場なんじゃないの?」
「うっ……そうなんですけど」
アルフィーがブツブツと文句を言っていると、今度はマリエラの方が最近の出来事を話すのだ。
「私の方は気になっていた映画が楽しめなかった事かな? 人が多くて五月蝿くてさ。映画館はそれが問題よね」
ポン助は現実世界での八雲の話を思い出すが、マリエラとは結びつけなかった。
「あぁ、ナンパ野郎が多いって話でしたね。僕はもう少し落ち着いたら見に行きます」
(まぁ、バイト先の先輩が男避けのために連れて行ってくれるんだけどね。言わない方がいいんだろうな)
小さなプライドのために、詳しく話さないポン助だった。
アルフィーは胸の前で手を組んで表情を輝かせる。
「いいですね。私はB級映画を人がまばらな映画館で見るのが夢なんです。そんな場所で、近づいて来た人が隣に座り、大人っぽい会話をする……一度はやってみたいですね」
どうやら、アルフィーは映画館で待ち合わせをして情報のやり取りをする事に憧れているらしい。
マリエラが肩をすくめた。
「なに? 情報屋か、スパイとか、そういうのに憧れているの?」
「いえ、そういう雰囲気に憧れているんですよ。分かりませんかね? 二十世紀や二十一世紀の映画では結構あるシーンなんですよ」
二十一世紀……丁度、人類にとっての転換期である。
そこから“失われた時代”を挟み、今があるのだ。。
失われたというのは、地上に人類が存在しなかった――存在できなかった時代だ。その時代は地上に人類がいなかったので、本当に何もなかった空白の期間だ。
マリエラはシシャモを手に取り、見つめていた。
「二十一世紀かぁ……やっぱりお年寄りには懐かしいのよね?」
シシャモを口に入れて噛むマリエラは、そう言って少し悲しそうにしていた。
失われた味をゲーム内で求めている。そういった老人たちは少なくない。周囲で騒いでいるプレイヤーの中には、そうした老人たちも大勢混ざっているのだろう。
暗くなった雰囲気を盛り上げるため、ポン助は違う話を振る。
「あ、そう言えば今度のメンバー募集はどうしましょうか? 僕としては回復役が一番だと思うんですよね」
アルフィーも手を上げて、ポン助に提案するのだ。
「一緒に火竜を倒してくれる人がいれば文句はありませんよ! 早く、次の節制の都に行きたいですね!」
マリエラも頷いていた。
シシャモを次々に食べているので、気に入ったのかも知れない。
「そうね。でも、寄生目的や冷やかしは嫌よ」
ポン助もそれは頷いていた。
「確かに。いますからね。未だに出くわしますし」
三人はつい最近であった、迷惑プレイヤーについて話をし、失敗談を笑ってはなすのだった。
◇
マリエラ――志方 八雲は起きるとヘッドセットを外す。
時計を見れば七時になっており、ベッドの上で背伸びをするとお腹辺りがはだけてへそが見えていた。
「あ~、なんだかスッキリしないわ」
毎回、計画を立てて遊ぼうとするのだが、いつものように適当な酒場に入って騒いでいたら夜になっていた。
もっとムードのある店に行きたいとか、洒落た場所で遊びたいとも思う。
しかし、三人で動いているといつもこうだった。
ただ、それが嫌いでもない。
「さて、今日も頑張りますかね」
そう言って服を脱ぐと、八雲は制服に着替えるのだった。
時間は七時。
目を覚ました市瀬摩耶は、ヘッドセットをしたまま上半身を起こした。そのまましばらくボンヤリしていると、溜息を吐く。
「はぁ、今日も楽しかったな」
一向にゲーム本編は進まないのだが、三人で遊んでいる時間は摩耶にとって――アルフィーにとってとても貴重だった。
別に最前線で攻略組として戦いたいとは思っていない。
楽しめれば良いのだ。そして、遊ぶときは真剣に遊びたい。
それを叶えてくれる仲間がいるので、とても充実していた。
「それにしても、ポン助の謎は深まるばかりですね。最近人気の映画と言えば、女性に人気の映画なのに。ポン助もナンパ目的で?」
考え込んでいると、時間がすぐに過ぎていく。
十五分になったところで、摩耶は立ち上がるとヘッドセットを外した。
「……いけない。早く支度をしないと」
オンライン上だというのに、とても狭い範囲で交流があった三人。
彼と彼女たちは、その事に気がついていなかった。