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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第一章

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レッツプレイ

 気が付けばゲーム開始から二週間が過ぎていた。

 継続でプレイするために月額料金を払った明人は、今後もオークでゲームを続けていくつもりだ。

 攻略組に参加するつもりもなく、デメリットが多いオークだがそれも悪くないと思っていた。

 鼻歌交じりでアルバイト先、マイルドのバックヤードで段ボール箱の製理をする。

 中身の入った段ボールを二つ重ね、それを運んでは場所を移動させ整理していく。

 明人は少し笑う。

「前は大変だったけど、少しは筋肉がついてきたのかな?」

 そう思って二の腕を触ってみるが、自分では変化があるように感じられない。

 バックヤードでの仕事が終わると、明人は表に出ようとする。

 すると、社員が詰めている部屋から呆れ声が聞こえてきた。

『ちょっと栗田君、ここ間違っていたわよ』
『す、すみません』

 今日は女性社員がバックヤードで作業をしていたのだが、あまりにも間違えが多く本店から栗田を呼びつけていた。

『発注ミスも目立つし、駄目になった商品も多いって分かっているの?』
『いや、売れるかな~、って』

 細々としたミスもそうだが、発注ミスをしていた。

 問題なのはそれを放置しており、誰にも連絡を入れていなかったことである。

 おかげで他の社員が出勤して来た時には駄目になった商品がバックヤードに積まれていた。

『そういう時は本店に連絡するって教えられなかったの?』

 女性社員の呆れた声に対して、栗田はどこまでも下手に出ていた。

『め、迷惑かと思って』
『連絡しない方が迷惑でしょうに! 商品のほとんどが無駄になったのよ!』

 運び込まれた商品は、支店であるマイルドで捌ききれずに残って駄目になっていた。

 本店に連絡をすれば、引き取るか他の支店に回していたかも知れない。

 明人は思う。

(大人って大変だな)

 これが普段世話になっている社員なら同情したかも知れないが、相手は見下してくる栗田である。

 あまり気にも留めないで外に出ようとすると、八雲が入ってきた。

「ちょっと、遅いから確認に来たけど何しているのよ」

 少し怒っています、という雰囲気の八雲を前に明人が言い訳をしようとすると社員の声が聞こえてきた。

『今後は絶対にこんな事がないようにね! ミスは誰にでもあるけど、隠そうなんて絶対にしないで!』
『……はい』

 二人の話を聞いて、八雲は察したのか明人に外に出るように指で指示を出した。

 バックヤードから店の方に出ると、レジの方で話をする。

「引き継ぎで聞いたんだけど、発注ミスした商品をバックヤードの奥に隠していたんだって。データを見れば分かるのに、何をやっているんだか」

 発注記録やその他のデータを見れば、社員ならすぐに分かる事を隠していたようだ。

「それは……酷いですね」

 明人が栗田らしいと思っていると、八雲が明人の顔をマジマジと見てきた。

「なんですか?」

「う~ん、勘違いかな? ごめん、忘れて。知っている人に似ているような気がしたのよ」

 明人がそうですか、と言って髪をかいた。

 すると、店の外から客が入ってくる気配がする。

 明人も八雲も姿勢を正し、いらっしゃいませと挨拶をするのだった。



 次の日。

 明人はアルバイトが休みだったので、放課後に陸と話をしていた。

 陸はアルバイトまでの時間つぶしが目的だったのだが、明人の相談に快く応じてくれている。

「もっと楽しむ方法ねぇ……前に言った事が全てだな」

 相談の内容は、無料期間も終わりゲームを続けるのだが楽しむためにどうすれば良いか、というものだった。

 陸に言われた最前線に向かうためにも、効率の良い方法も聞こうと思っていた。

「体を動かす事? でも、本当に効果があるのかな? それに、アルバイトで結構重い荷物とか持ち運んだりするんだけど」

 アルバイトとは違うと言いながら、陸は明人にお勧めを言う。

「俺もだけどお前も部活は出来ないし、時間ならあるだろ? 俺の方はそこまで余裕がないけど、お前ならスポーツジムでも安いところなら通えない?」

 フィットネスクラブ。

 才能があろうがなかろうが、肉体を鍛えるというのは推奨されている。

 才能はどうにもならないが、筋肉というのは努力の結果である。

「体を動かせばゲーム内でも違う、って奴? あれ、本当なのかな?」

 現実で体を動かしていれば、ゲーム内でも動きにキレが出る。

 プレイヤーの間では噂程度だが、それを実感している者も多いだけに無関係とは言えないところだった。

 陸が溜息を吐く。

「ゲーム内でダンスしていた奴が今更言う事かよ。それに、毎日二時間横になっている時間があるんだぞ。体は動かしていた方が絶対に良いって」

 それもそうかと思い、明人は月一でも運動をする事にした。

「でも、ゲーム内の動きを学べるところ、ってないよね」

 明人が思い浮かべるのは剣道の道場だ。

 だが、そういったところに入門するには、ある程度の才能が必要だというのを聞いたことがあった。

 そうでもないところは、大人が集まったスポーツクラブのようなものである。

 下手でも良い。才能がなくてもいい。

 そういった人たちが集まったスポーツクラブというのも確かにあるが、練習試合をすれば明確に差が出ていると聞く。

 陸が思い出したようにタブレットを取り出す。

「そう言えば、前に道場をやっていたところが取り壊してフィットネスクラブになったらしいぞ。器具やプールもあって、武道も教えてくれるってよ」

 タブレットの画面にはホームページのトップ画面が表示されている。

 なんとも安っぽい作りではあったが、通える距離にあって料金も払える範囲だった。

「う~ん、今月は無理だけど来月くらいならいけるかな」

 月額料金もそうだが、陸から購入した“業務用のVRマシン”の支払いもあって今月はカツカツである。

 明人もお金がないので無理はできないというと、陸がつまらなそうにする。

「なんだよ。お前が行って良さそうなら俺も行こうと思ったのに」

「人で試すなよ。それより、あとどれだけ頑張れば僕は最前線に行けそう?」

 腕を組んだ陸が少し考え、そしてボソリという。

「年内は無理かも知れないな」

 そんなに長いのか。

 そう思っていると、二人に対して声がかかる。

「まだ残っていたの?」

 手に薄型のタブレットを持った委員長である摩耶が、明人と陸を見て少し呆れていた。

「鳴瀬君はアルバイトもないんだから早く帰ったら? それとも予定がないの?」

 明人が委員長の言葉に少し傷つく。

「どうせ暇ですよ。……あれ? 僕って今日はアルバイトがない、って委員長に言った?」

 すると、摩耶は呆れたように溜息を吐く。

「覚えていたのよ。前に調べたからね。それで今日は青葉君がアルバイト。クラス内のシフトは大体頭に入っているわ」

 提出物の催促の際に、アルバイトを理由に逃げるクラスメイトもいるので覚えているらしい。

 明人は素直に感心した。

「委員長は凄いね」

 摩耶が手で髪をかき上げる。視線を少し外し、どこか照れくさそうにしていた。

「そ、それより何の話をしていたのかしら?」

 陸はタブレットの画面を摩耶に見せた。

「フィットネスクラブ? 最近出来たところね」

 摩耶も話は聞いているのか、そのフィットネスクラブについて話をする。

「オープンしたばかりだから、人が多いのか結構な人気だって聞いたわ。スポーツ感覚で武術を習えるらしいわよ。二人ともそこに通うの?」

 陸は首を横に振り、明人は「来月にでも」と答えた。

「ゲームでさ。あぁ、パンドラの箱庭ってゲームなんだけどね」

「う、うん」

 摩耶が少し困った顔をしている。

(あ~、委員長には苦手な話題だったかな)

 明人は後悔するが、説明の途中なので続けた。

「VRゲームだから、体を動かした方がいいって話。ゲームでも運動している人の方がキレのある動きをするらしいし、ゲーム中は横になるから運動不足対策にいいんだって」

 それを聞いて摩耶が少しだけ嬉しそうにした。

「そうなんだ。鳴瀬君、来月から頑張ってね」

 摩耶はそう言って荷物を回収すると教室から出て行くのだった。

 陸がその背中を見ながら、

「委員長、最近なんだか明るいな。前は少し思い詰めた顔をしていたのに」

 明人も納得する。

「そう言えば、壁を作っていた感じだったね。まぁ、明るくなったって事は良い事じゃない?」

 頷く陸はなにか意味ありげにニヤリとしていた。

「そうだな。まぁ、ムスッとしているより可愛いから、学園に来るのが少し楽しみではある」

 可愛いクラスメイトは大歓迎。

 そういう陸に、明人は「はいはい」と言うのだった。



 無料期間が終わり、初めてのログイン。

 ポン助は希望の都の広場に出現すると、周囲を見渡した。

「うん、なんだかもう慣れて来た」

 最初は巨大な噴水や、広場を囲む半透明の巨大掲示板に目を向けてキョロキョロとしていた。

 今も、そういったプレイヤーの姿を見かけると以前の自分を思い出す。

 初心者だと分かる装備のプレイヤーを見れば、他の慣れたプレイヤーたちは少し離れて距離を取る。

 ぶつからないようにするためだ。

 別に避けているのではなく、歩きやすくしている。初心者への配慮の表れでもあった。

 それに気づかない初心者は、そのままアバターになれていないのかフラフラと歩き出してどこかへと向かってしまった。

(僕も最初は周りに気を使われていたのかな)

 そう思うと恥ずかしくも思うが、自分も初心者が来た時は避けて道を作ってやろうと考える。

 そんな時、背中を叩かれた。

「ポン助!」

 振り返るとマリエラがおり、レッドオーガ討伐で得られた資金で装備を変更した姿で立っている。

「マリエラ! やっぱりログインしたんだ」

「当然じゃない。無料期間だけプレイすると思ってたの?」

 マリエラはそう言ってポン助の姿を見る。

 マンモスベストではなく、金属の胸当てをしていた。

「なんか物足りないわね。ポン助はもっとワイルドでないと」

 ポン助は否定した。

「嫌だよ。僕は言っておくけど普通だから。というか、欲しい装備があるから今つけているのは当面のつなぎだよ」

 マリエラがポン助の胸当てをノックしながら言う。

「え~、なら今度はもっと蛮族スタイルにしようよ。私が選んで上げようか?」

「嫌だ」

 即否定すると、マリエラの蹴りが飛んでくるのだが、それをヒラリと避けたポン助。

 すると、そんな二人に手を振って近付いてくるのはアルフィーだった。

「楽しそうですね。混ぜてください」

 ポン助が嫌そうな顔をする。

「え、なに? あのオークと絡んでからSに目覚めたの? 止めてくれない。僕はノーマルだから。そういう遊びはあの四人とやりなよ。……痛って!」

 真顔で言うポン助に、今度は二人が攻撃を加えた。

 広場で痛みにうずくまるポン助に、二人は腰に手を当てて見下ろしている。

「あの四人の話はしない!」

「そうです。いつの間にか私のことを女王様と呼ぶあの四人は――」

 アルフィーが不満そうにしているが、マリエラは冷めた目をしていた。

「いや、あんたは自業自得だから。それより、今日はなにして遊ぶ?」

 立ち上がったポン助は、髪をかく。

「う~ん、それなら買い換えた装備の確認をしたいから外かな? 明日はダンスの練習に行きたい。なんか、カウンターの発生率が上がっている気がするんだよね」

 やはり効果があったのか、ポン助は二日目にダンスを希望した。

 まぁ、踊るのはエクササイズなのだが。

 マリエラは頬を膨らまして不満を示した。

「え~。外に出るのは良いけど、二日目は湖に行こうよ。前にボートに乗れなかったから、今日は乗ってみたいの」

 アルフィーは赤くフリルのついたドレスで飛び跳ねながら、手を振る。

「それなら断然遊園地ですよ! 動物園でも可! どうせなら二日間遊び倒しましょう!」

 まとまらない意見を聞いて、ポン助は閃いたのだった。

「なら、三人で別行動を――ぐはっ!」

 今度は二人の握り拳が、ポン助の腹に深く食い込む。

 体力的なダメージはないが、痛みは伝わった。

 周囲にはプレイヤーへの攻撃に対する注意文字が浮んでいる。

「な、何故だ。完璧じゃないか。外にはみんなで出て、二日目は三人で別々に回ればそれで解決だろうが」

 お腹を押さえ、震えているポン助にマリエラもアルフィーも深い溜息を吐くのだった。

「それじゃあ、つまらないって分かってる?」

「そうですよ。私とポン助で行くから楽しいんじゃないですか」

「おい、なんで私を省いた。言え!」

 アルフィーにマリエラが掴みかかるところを見ながら、またかと思いつつもポン助は二人の仲裁に入るのだった。
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