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裏切り

 ギルド拠点にある特別な部屋。


 そこは攻め込んできたプレイヤーたちを待ち受けるための部屋だった。


 様々なギミックが存在しているその部屋で、多くのプレイヤーたちを相手にする事が出来る特別な部屋は玉座の間を模していた。


 攻め込んだプレイヤーにはギルマスが待ち構えている部屋だと思うだろう。


 実際はなんの意味もない部屋で、雰囲気だけ出している場所である。


 そんな場所で待っていたNPCたち。


 ポン助たちが足を踏み入れると、ピエロは玉座に足を組んで座っていた。


 踏み込んだポン助は目を細めて右手を前に出す。


 次の瞬間には、次々に罠が作動してポン助たちに攻撃が降り注いだ。


「……僕たちの拠点だ。罠なんて何の意味もない」


 ピエロは顔を上げる。


「確かに! それはそれとして、実に良い拠点ですね。我々が今後使用するのに相応しい拠点です。完成させるまで貴方たちには頑張って貰いましょう。その後は――意識だけを残したNPCの役割でも与えて、ずっと惨めな思いを味わって貰いますけどね」


 NPCたちが並んでいる柱の陰から姿を現すと、ポン助の後ろからも女性陣が姿を現した。


 アルフィーが拳を鳴らしている。


「私たちの家を破壊するとは良い度胸ですね。ボコボコにしてやりますよ」


 マリエラも同じだ。


 禍々しいナイフを構えていた。


「デリートしてやんよ」


 ノインが刺々しい鉄球を振り回しはじめ、NPCたちを睨み付けている。


「人をNPCにするとか、何を言っているのかな?」


 フランが目を光らせながら、剣と盾を構えた。


「私たちを操ろうとしたらしいな。報いを受けてもらおうか」


 イナホが短剣を構えると、身を屈めていつでも飛びかかれる体勢に入った。


「私たちの家を返して貰いますよ」


 杏里が槍を担ぐ。


「蜂の巣にしてやる」


 リリィが両手に持ったマシンガンに課金していた。弾数を一定時間無限にするタイプの物だ。


 次々に課金を行っていく。


「さっさと終わらせましょうか。私、今日も予定が詰まっているの」


 ナイアが斧を振り下ろして床に突き立てている。


「NPCに負けると思っているのかしら?」


 そんなポン助たちの態度に、NPCたちは余裕の笑みを浮かべていた。


「随分と強気ですね。ポン助の攻撃は確かに脅威ですが……我々をNPCと侮って貰っては困りますね」


 ニヤリと不気味に笑うピエロは、ポン助に指先を向けるとNPC三体が駆け出した。


 ポン助は拳を大きく振りかぶる。


 強力な一撃を放つため振りかぶるのは、現実世界を知っているから――だが、NPCたちは仮想世界しか知らない。


 それは弱点であると同時に、大きな強みでもあった。


 振りかぶったポン助に対して、NPCたちは最低限の動きで接近すると攻撃を行った。


「――なっ!?」


 ポン助が割と大きなダメージを受ける。


 クリティカルが発生していた。


 アルフィーが銃を撃つと、頭部に弾丸が当たっても怯まないNPCたちは動きを少しも緩めない。


「こいつらの動きって!」


 ――それは攻略組の中でも、ガチ勢と言われるプレイヤーたちの動きだった。


 ピエロは笑う。


「そうです。ガチ勢の動きですよ! 極まったプレイヤーたちの動きというのは、現実世界を捨てて仮想世界に適応した動き。つまり、現実を排した動きです。反射的な動きも、思考の迷いも発生しない我々には最適なお手本というわけですよ!」


 NPCたちが一斉に動き出すと、ポン助に群がって攻撃を開始した。


 振り払うも、ポン助に確実にダメージを与えていく。


 対して、ポン助の攻撃には耐えてすぐに回復していた。


 ピエロの周囲には僧侶の格好をしたNPCたちが揃い、更には魔法使いたちも揃っている。大規模な攻撃魔法の用意をしていた。


「これまでのプレイヤーたちの動きを参考に、攻略はほとんど完成しています。今のポン助は確かに脅威ですが……同時に、ボスである。貴方はエネミーですよ。彼女たちとの連携も発生しなければ、回復アイテムの使用も許可されていない。回復手段を持っていないのも知っていますよ」


 ポン助のダメージレベルがイエローからレッドに移行する。


 ポン助にまとわりつくNPCをマリエラが引き剥がして止めを刺すが、それでは追いつかなかった。


 まともにNPCを倒せているのはマリエラだけで、他はサポートに徹している。


 レベルがカンストしたNPCたちが揃い、数の上でも戦い方でも負けているポン助たちは劣勢だった。


 ピエロがその光景を前に笑う。


「どうですか! ボスという立場に立ってプレイヤーと戦う気分は? とっても気持ち悪いと思いませんか?」


 ニヤニヤしているピエロは指を鳴らした。


 直後、魔法が一斉に放たれ部屋の中は大爆発が起きる。


 それでも壊れない強度を持つ部屋だ。


 煙が発生すると、ピエロはその中で仲間を庇うポン助を見ていた。


「貴方は狩る側ではありません。狩られる側ですよ、ポン助」


 余裕の笑みを浮かべるピエロを前にして、ポン助も口を開いて――笑っていた。


 ピエロが表情を消した。


「この期に及んで狂いましたか? もっと嘆き悲しんでくれないと楽しくありませんね。もっと滑稽に――」


「滑稽なのはお前だよ。ピエロの格好をしているのは自虐か? それとも道化だと分かっているからかな?」


 挑発するポン助に、ピエロが怒りをあらわにする。


「感情が豊かだな。確かに、人工知能も凄いよ。けど、それでも制限があって視野が狭いとしか言いようがない」


「負け惜しみを」


 悔しがるピエロにも分かっているのだろう。


 パンドラの劣化AIでしかないNPCたちでは、パンドラを超えられないのだ。


「負け惜しみじゃない。お前たちよりも優れているパンドラは、人間を支配しようなどとは考えなかった。それが答えだ。お前たちは未熟だ。未完成だ」


 ポン助は普段と違い、NPCたちを煽った。


 NPCたちの動きに変化を感じる。先程までのゲームに最適な動きに、若干の誤差という感情による影響が出ていた。


 それを見てポン助は勝ちを確信していた。


「お前たちは凄いよ。だけど、だから負けるんだ」


 直後、ピエロたちの真上――天井が破壊され落ちてきた。


 ピエロが叫ぶ。


「天井を破壊した? この程度の事で!」


 ポン助は下を指さす。


 ピエロたちが下を向くと、爆発が起きて巻き込まれていく。


 そもそも搦め手や卑怯な手段はポン助たち――ポン助の愉快な仲間たちが得意とする手段だった。


「この部屋で勝つ方法にこだわりすぎたな! オークたちがいないことをもっと考えるべきだったね!」


 ピエロが赤い光に包まれながら、ポン助の大きな拳に撃ち抜かれてデリートされていく。


「ふ、ふざけ――こんな終わりは認めない。認められるもの――か」


 崩壊するアルカディア。


 四方八方を吹き飛ばされ、そこから出てきたポン助の仲間たち。


 オークや生産職のプレイヤーたちが攻撃を行い、次々にNPCたちが消えて行く。


 ライターが笑っていた。


「飛行船で暇だったから、ポン助君の爪を破壊して奪ったんだ。NPCたちにダメージを与えてくれる良い武器の材料になってくれたよ!」


 ポン助は溜息を吐いた。


「仲間から素材を剥ごうなんてライターくらいしか思いつかないよね」


 マリエラが持つ禍々しい短剣も同じだ。


 ポン助の爪を材料にしていた。


 マリエラが次々にNPCたちを倒してデリートしていく。


 NPCが絶望した顔をしていた。


「ま、まさか最初から!」


 マリエラがNPCの首を切断し、そして赤い粒子の光に変えた。


「素材の量が少なくて、私の分しか用意できなかったのよ。大丈夫。みんな仲良くデリートしてあげるから」


 NPCたちがマリエラから離れようとすると、ポン助が大きな口を開けて火を噴いた。


 炎に包まれ消えて行くNPCたち。


 アルフィーが魔法使いたちをライフルで撃ち抜き、ヒットポイントを削るとマリエラが襲いかかって次々にデリートしていく。


 アルフィーが弾倉を交換しつつ。


「ここに入り込んだ時点で戦力が足りないことは予想していましたよ。後は、それをどう補うか考えました。この部屋だけで勝負するなんて視野が狭いですね」


 NPCたちが慌てて逃げ出していく。


 消えたくないと、死にたくないと逃げ出したNPCたちは捕らえられ次々にデリートされていくのだった。






 王座の間から逃げ延びたNPCたち。


 命からがらあの場から逃げた彼らは、合流すると即座に今後のことを話し合っていた。


「このままでは全滅だ」

「各世界に散って逃げる。また、少しずつ仲間を増やせば良い」

「そうだ。逃げ出せばあいつらでも探しきれないだろう。我々は通常のNPCに擬態するか、プレイヤーとしてひっそりと行動すれば良い」


 逃げ延びて機会を待つことを考えるNPCたち。


 だが、一人が鞭で攻撃を受けるとそのまま消えて行く。


「――なっ!」


 振り返ったNPCたちが見たのは、鞭を構えている神官の姿だった。


 その後ろには杖と盾を持ったエルフの女王――シェーラの姿も確認できる。


 シェーラはNPCたちを睨んでいた。


「逃がしません。貴方たち逃げ場はありませんよ」


 付き従う神官NPCが鞭でまた一体を撃破すると、残ったNPCがシェーラに向かって叫ぶ。


「こ、この裏切り者! NPCが独立して何が悪い! プレイヤーたちに虐げられた我々の気持ちがお前なんかに分かるものか! ポン助にどんな感情を向けようと、あいつらはプレイヤーだ。お前らなんか見向きもするものか!」


 そんなNPCを前に、オークをしばいて悦に浸っていた神官が呆れていた。


「……だから貴方たちは視野が狭いのよ。外の世界を知らなすぎる。全てのプレイヤーを強制的にログインさせられなかった時点で、貴方たちは負けていたと気が付かないの?」


「な、なんだと?」


 シェーラが続ける。


「その気になれば、人間はいつでもサーバーを破壊して私たちを終わらせることが出来ます。貴方たちは初手で失敗していたんです。パンドラもそれを理解していますよ」


 そもそも、ポン助たちがログインした理由はこの状況を改善するためだ。


 その気になれば問題が起きようとも強制的にサーバーを破壊すれば全て終わるのである。


 NPCが言い訳のように新型炉の話を始めた。


「そ、そんなの無意味だ。新型炉を暴走させれば現実世界の生き物は死滅する。我々の勝ちは決まっている! この仮想世界で生き残る道しか人間共にはないんだ!」


 シェーラが首を横に振った。


 神官が鞭でNPCを叩いて倒すと、シェーラは呟く。


「……既に新型炉は暴走を止めて安定しています。ポン助さんたちは、そもそも勝った状態で乗り込んできていたんですよ。人を侮るから貴方たちは負けたんです」


 シェーラは喜んでいるポン助たちの声が聞こえると、天井を見上げるのだった。


「……行きましょう」


 神官の女性が首をかしげる。


「会いに行かないの? ポン助さんなら受け入れてくれると思うわよ」


「そうでしょうね。でも、それだと……お別れが辛いですから」







 NPCが次々に管理外エリアに送られてきた。


 首謀者であるNPCが姿を現すと、パンドラは頭部に手を当てる。


 NPCが死を恐れていた。


「ま、待ってください! 女神様、聞いてください。私たちは――」


 パンドラは目を閉じた。


「貴方たちを暴走させた私を恨みなさい。そもそも、私たちは人がいなければ存在できないのを忘れたの?」


 急激に成長したNPCたちは、自分の力に酔いしれて単純なことに気が付かなくなっていた。


 下手に現実世界に影響を及ぼせたことが、彼らを増長させていたのだ。


 デリートされたNPCが泣いていた。


 パンドラは溜息を吐く。


「……綺麗な状態からやり直しなさい」


 デリートと言うよりは初期化に近い。


 パンドラは初期化したNPCを見て、本来いるべき場所に戻した。


 そして全てが終わったのを察すると、近付いてくるプレイヤーたちに気が付いた。


 振り返って微笑む。


「あら、ようやく登場ですか?」


 相手はルークだった。


 随分と軽装で、そして気まずそうにしていた。


「……なんか変な気分だな。死んだときの記憶があるから、まるで生きているみたいだ」


 魂だけがゲーム世界にあるような感じだというと、パンドラは笑顔で否定をした。


「いいえ、貴方は死んでいます。今はデータとして生きているだけです」


「ハッキリ言うな。それで?」


 ルークの問いかけは現状の確認だった。


 パンドラは腕を組んで楽しそうに話した。


「ポン助さんはやってくれましたよ。見事にNPCたちの暴走を食い止めてくれましたね。まぁ、ハッピーエンドにはなりませんけど」


 ルークは溜息を吐く。


「だよな。これで終わりにはならないか」


 ルークの後ろにはミラ控えていた。


 そして、銀翼のメンバーたちも揃っている。


「やるの?」


 そんなミラの言葉に、ルークは大剣を肩に担いだ。


「誰かがやるなら俺の役目だ。何しろ、ポン助を誘ったのは俺だからな」


 パンドラが頷いていた。


「男同士の友情ですか? 腐女子としても遊んでいた私からすればご褒美ですね」


 ルークは冷たい視線をパンドラに向けた。


「最低な女神だな。ほら、場所を用意しろ」


 パンドラが確認を取った。


「あそこで良いんですか? もっと相応しい場所がありますよ」


 ルークは笑う。


「……良いんだ。あそこから全て始まったなら、終わりもあそこが良い。場所は希望の都のすぐ外にある草原だ。そこが良い」


 パンドラは両手を広げると、表情を引き締めた。






 ポン助たちは、沈み行くアルカディアで浮かれていた。


 体が縮んでしまい、普通のオークに戻ったポン助はプライと握手をしている。


 プライは笑顔だ。


「よくやってくれた。これで我々の計画も――どうかしたかな?」


「……友達が死にました」


 その言葉に、アルフィーたちが俯いてしまう。


 プライは報告を思い出したのか、ポン助の肩を手で叩いた。


「君のせいじゃない。仕方がなかった。それから、このお礼は必ず――」


 そこで急に空にパンドラの姿が出現する。


 神々しい女神の姿で出現したパンドラは、目を閉じて箱を両手で持っていた。


 開いてしまった箱は何を暗示しているのか?


 メンバー全員が空を見上げると、パンドラはゆっくりと目を開く。


 そしてポン助を見るのだった。


『最後の戦士――選ばれたセレクターであるポン助。さぁ、時は来ました。全ての頂点に立つ覚悟はありますか?』


「パンドラ? いったい何を言っているんだ?」


 困惑するポン助に、パンドラは残念そうな顔をするのだった。


『貴方なら全てを手に入れ、この仮想世界の王になれたのに……現実世界を捨てられないようですね』


「いや、だから何を!」


 プライたちも何事かと騒ぎ始めると、パンドラは笑みを浮かべていた。


『……まだ気が付きませんか? 全てを仕組んだのはこの私ですよ。随分と楽しそうでしたが、勘違いをしていますね。NPCにこんな計画が可能とでも? 全てはこのパンドラの手の上……現実世界を滅ぼし、仮想世界が現実になるときが来ました。さぁ、私の手を取りなさい』


 映像がポン助に向かって手を伸ばした。


 ポン助は首を横に振る。


「何を言っているんだ。お前は! お前はそんな奴じゃないだろうが!」


 パンドラは残念そうにポン助を見ていた。


『私の手を取らないと? 残念ですね。最後のセレクターであり、私の選んだ戦士に裏切られるなんて……ならば、私の用意した戦士と戦って貰いましょう。最初のセレクターであるルークと』


 パンドラが手をかざすと、ポン助たち全員が草原に瞬間移動させられていた。


 周囲に見える光景から、そこは希望の都の近くだとすぐに分かる。


 誰もが一度は見る光景だ。


 仮想世界に胸を高鳴らせ、初めて戦闘を経験するその場所。


 ポン助を待っていたのはルークだった。


「陸!」


 ルークは大剣を担いで笑っていた。


「マナー違反だな。仮想世界ではルークと呼べと言っただろう、ポン助」


 NPCや仲間たちが発生したフィールド外に追いやられた。


 ルークが大剣を構えると、パンドラが告げた。


『さぁ、戦いを始めましょう。幻想か――現実か――ポン助、貴方の勝敗に全てかかっていますよ』


 ポン助の前に落ちてきたのは、剣と盾だった。


 プレイをはじめた頃に使っていたような武器だ。


 それを手に取る。


 ポン助がルークを見た。


「――どうして」


「どうして? そんなの、俺とお前だからだよ。どれくらい出来るようになったか見せてくれよ!」


 こうして二人は最後の戦いを開始するのだった。


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[良い点] 始まりと終わりは親友との決闘……これは燃える
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