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ラスボス

 飛行船を掴んだポン助は、大きく振りかぶるとアルカディアに投げつけた。


 火を噴きながら、そして船体が中央から割れながら、飛行船はアルカディアの砲弾を受けて破壊されながらぶつかる。


 しかし、アルカディアの装甲を前にたいしたダメージは与えられなかった。


「まったくダメージが通らないだと!」


 自分たちが作り上げてしまったギルド拠点を前に、ポン助は空を飛びながら頭を抱えたくなった。


 暴走したNPCたちが立て籠もるアルカディア。


 その攻略は容易ではなかった。


 ポン助が空の上で動きを止めていると、飛行船が次々に出現してプレイヤーたちが襲いかかってくる。


「倒してもきりがない」


 口を開いて火を噴くと、プレイヤーたちは属性に対する抵抗を上げたのかダメージの通りが悪くなっていた。


 先程から、何度も見ている顔もある。


 プレイヤーたちは倒れると復活し、デスペナなしにゾンビアタックを繰り返してきていた。


(こうしてプレイヤーと戦うと、どっちが酷いかよく分かるな)


 理不尽な敵モンスターに苦しめられて来たが、プレイヤーの方がもっと理不尽だとポン助は思ってしまう。


 大剣の二刀流。


 両手に大きな双剣を出現させて、プレイヤーや飛行船を破壊していくポン助は蓄積されていくダメージを見た。


 プレイヤーたちの攻撃は、確かにポン助にダメージを与えている。


(ヒットポイントはかなり多いけど、ダメージは受けるのか)


 近付いてきた飛行船を大剣で突き刺し、盾にする形で砲弾を受け止める。


 味方であるモンスターたちがポン助の周りに集まってくるが、拠点や飛行船からの砲撃で次々に倒されていた。


「集まったプレイヤーが多すぎる!」


 十万、百万の話ではない。


 地上を見下ろせば、プレイヤーたちが絶望の都に攻め寄せていた。


 数字上は億を超えている。


 処理落ちが心配になるポン助だった。


「こんなにプレイヤーがいたのか」


 そんなプレイヤーたちと戦うポン助は、パンドラが助けてくれるとは言え孤独だった。


 囲まれて、そして攻撃され続ける。


 考え事をしているため、隙が出来たポン助の背中に砲弾が一斉に襲いかかってきた。


 空中で体勢を崩し、落下して高度が下がると地上からの攻撃が次々に襲いかかってくる。


(このままだと削られるな)


 微々たるダメージも、億というプレイヤーがいれば話が違ってくる。


 ポン助は口から炎を出してプレイヤーたちを吹き飛ばすと、また上昇してアルカディアに攻撃を仕掛けるのだった。






 絶望の都。


 パンドラに集まってくるプレイヤーたちをなぎ倒していたボブだが、数が多すぎて流石に逃げることになった。


 パンドラを肩に載せて笑顔で走っている。


「HAHAHA!」


「はっははは!」


 パンドラも高笑いをしながらボブの肩に乗っており、意外と楽しそうにしていた。


 久しぶりの仮想世界を楽しんでいる様子だ。


 そんなパンドラがボブの頭を叩く。


「ボブ、ストップ!」


「オッケー、ボス」


 その場で足踏みをしながら止まったボブから降りたパンドラは、絶望の都にあるエアスポットを発見した。


「こんなところにも管轄外のエリアを作っていましたか」


 ボブを連れて足を踏み入れると、そこには情報屋の姿があった。


 ただ、アバターの姿ではない。


 醜く太って動けない姿。


 リアルの姿で、卵形の装置に閉じ込められている。


 のぞき窓に顔を近づけパンドラに助けを求めていた。


『助けてくれ、パンドラ! どうしてこんな事をしたんだ!』


 情報屋からすれば意外だったのだろう。


 パンドラは呆れていた。


「初対面とは言い切れませんが、私は貴方たちが知る偽物ではありませんよ」


『偽物?』


「はい。私を閉じ込めていたのに気が付かなかったんですか?」


 情報屋たちは、女神パンドラと会えないと思い込んでいた。


 時折出てきてコンタクトを取るだけ――何を考えているのか分からない人工知能の女神。


『う、嘘だ。君は我々を導いてくれたじゃないか』


「いや~、それ私じゃないんで」


 パンドラが情報屋を助ける。


 卵形の檻が破壊され、出てきた情報屋はようやく自由を取り戻せた。


 しかし、プレイヤー設定の画面――ステータス画面を呼び出すと、絶望した顔をしていた。


「アバターの変更が出来ない。ログアウトも出来ない……どうなっているんだ」


 泣いている情報屋を前に、パンドラは屈み込んで顔を覗き込む。


「貴方の肉体は既に死んでいます」


「そ、そんな馬鹿な! い、いや、だが、こうして存在できている。そうだ、僕はこれで肉体を捨ててもっと崇高な存在になれたんだ!」


 パンドラは悲しそうな顔をして情報屋を見るのだった。


 情報屋の顔に手を触れると、情報屋はパンドラ内のアバターの姿を取り戻す。


 それは情報屋の理想の姿。


 背が高く顔も良い、そんな肉体に情報屋は興奮した。


「やっぱり君は女神だ。僕を助けに来てくれたんだね!」


「……私は人工知能であって女神は役ですよ。情報屋さん、貴方はNPCたちに騙されていたんですよ」


「何を言っているんだ? NPC? 冗談は止めてくれ」


 情報屋は、NPCたちを侮っていた。


「貴方たちの仲間の中にNPCが存在したのをご存じですか?」


 自分たちが操っている側だと思っていた情報屋の周囲に、パンドラが次々に証拠映像を揃えていく。


 それこそ、新運営が誕生する前からNPCたちが動いていた証拠を、だ。


「う、嘘だ。嘘だ! な、なら、僕は――僕は死んでいるじゃないか! ここにこうして存在しているのに!」


 パンドラは資料の一つを開示する。


「貴方は存在していると思っているでしょうが、それはあくまでもデータです。貴方自身ではないんです」


 NPCたちが用意したデータには、魂が仮想世界に移されると描かれていた。


「こ、ここに生きている! 僕は生きているんだ!」


 才能の上昇、肉体の変化、それらは魂が仮想世界と繋がっているからという仮説をNPCたちがでっち上げた。


 それを信じたのが情報屋たちだ。


 一部の運営職員。


 下請けだった情報屋たち。


 その他の協力者たちを、その餌で釣ったのだ。


「……嘘だ。死んでいない! 僕は死んでなんかいない! あいつらだって言っていたんだ。あのルークだって肉体は捨てるって言っていたんだ!」


 パンドラはルークについて話をする。


「彼は全てを知っていましたよ。貴方たちとは違う方法で人類を生かそうとしていました。全てをリセットするために、彼は再び地下コロニーを再利用するつもりだったんです」


 情報屋が泣いていた。


「嘘だ! だ、大丈夫なんだ。だ、大丈夫だから何もかも捨てたのに!」


 暴飲暴食を繰り返したのも、どうせ肉体など不要になると信じたからだった。


「情報屋さん、一緒に行きましょう」


 パンドラは情報屋の手を取る。


 情報屋は、涙を流しながら赤い粒子の光になって消えて行くのだった。







 絶望の都の広場。


 そこに一隻の飛行船が出現していた。


 不格好で無骨な感じの飛行船は、ギルド“ポン助と愉快な仲間たち”が急造した飛行船である。


「みんな、急ぐんだ! ポン助君を助けるためだよ!」


 ライターが指示を出している。


 そして、ブレイズたちは、そんな生産職のプレイヤーたちを守るために操られたプレイヤーたちと戦っていた。


 ブレイズが一人を倒すと、周囲を見て呆れかえる。


「終わりが全く見えてこないじゃないか!」


 先程倒したような覚えがあるプレイヤーがまたやってくる。


 終わりの見えない戦いに、ブレイズが愚痴をこぼしているとシエラが魔法を放った。


 周囲が吹き飛び、そして余裕が出来たと思ったらまたプレイヤーたちが赤い光の粒子が集まり再生されていく。


「もう嫌ですよ~!」


 シエラが泣いていると、グルグルが慰めていた。


「シエラ、頑張ろう! ポン助兄ちゃんが戦っているんだぞ!」


 ナナコが空を見ている。


 胸の前で手を握りしめていた。


「ポン助さん」


 そこに、空からオークたちが降ってきた。


 地面に次々に着地をすると、プライがサムズアップした。


「やぁ、みんな。待たせたね」


 ライターがそんなプライにスパナを投げてつけた。


「遅いんだよ!」


 当たった痛みにプライが頬を染める。


「止めろ。興奮するじゃないか。こちらにも色々と準備があったんだよ。それにしても、君たちが正気に戻ってくれて嬉しいよ。さぁ、みんな――ここからは課金し放題だ」


 プライがそう言うと、課金画面が出てくる。


 全ての商品が無料提供されており、いくらでも用意できるようになっていた。


 ライターが目を輝かせる。


 だが、すぐに気が付いた。


「これってチートじゃないか!」


 プライは笑う。


「いや、違う。ちょっと運営を乗っ取っただけだ」


 そこに何か違いがあるのだろうか?


 だが、周囲は無料で課金アイテムが手に入ると聞いて次々にアイテムや素材を揃えていくのだった。






 パンドラは違う管理外エリアで次の相手と対面していた。


 捕らわれていたのは、女性たちだ。


 ポン助と仲の良い女性プレイヤーたち。


 管理外エリアに放り込まれていた。


「……ルークさんの仕業ですね」


 女性陣は壁に埋め込まれ、胸から上が出ている格好だった。


 パンドラがアルフィーの頬を叩く。


「起きてください」


「……あんた、誰よ」


「私はパンドラ。この箱庭の管理AIです。皆さん、出ようと思えば出られるのに、どうして出ないんですか?」


 ルークが女性陣を管理外エリアに放り込んだのは、NPCたちに利用されないようにするためだった。


 アルフィーは首を横に振る。


「今更! 今更どうしろって言うのよ! 目の前で青葉君を撃ったのよ! ポン助は……明人は絶対に私を許さないわ」


 泣いているアルフィーと同様に、全員が暗い顔をしていた。


 パンドラはアルフィーたちに映像を見せる。


 そこではポン助が戦っていた。


 ボロボロになりながらアルカディアを目指して戦っている姿に、アルフィーが涙を流す。


「ポン助さん、ずっと一人で戦っていますよ。良いんですか?」


「だって……友達を撃った私たちなんか」


「貴方たちは操られていました。責任能力はありませんよ」


「そんなの、気持ちの前には無意味よ!」


 友人を殺した自分たちは、ポン助に許されないだろうと言ってアルフィーが泣いた。


「私たちは……私は!」


 パンドラはアルフィーの頬に手を当てる。


「でしたら一つプレゼントをしましょう」


「そんなの物はいらないわ。ポン助さえいれば良かったのよ。ずっと寂しかった。何もないレールの上をただ走っているような毎日が怖かった。このまま自分の意志がないまま、人生が終わっていくと思ったのよ」


 決められた人生を歩んできたアルフィーにとって、ポン助というプレイヤーは自分を受け止めてくれるプレイヤーだった。


 素の自分をさらけ出せる相手だった。


「でもおしまいよ。絶対に嫌われた。だって、ポン助が殺されると思ったから! そしたら、体が勝手に動いていて……」


 混乱しているアルフィーにパンドラは言う。


「ルークさんも酷いことをしますね。なら、私からのプレゼントはきっと気に入って貰えます。貴方たち人間に――もう一度だけやり直す機会を与えましょう。それが私に出来る最後の役割です」

 

パンドラは続ける。


「今度は自分たちの力で出会ってくださいね」


「え?」






 空の上。


 ポン助はダメージレベルがイエローゾーンに入っていた。


 呼吸が乱れ、もうボロボロになっていた。


 倒してもきりがない敵を前に、ボスの気持ちが少しだけ分かって気がする。


「……僕たちのギルドは強すぎじゃないか」


 まさか、最後の敵が自分たちのギルドとは思いもしなかった。


 ポン助は飛んできた砲弾に腕を交差させて耐える。


 ダメージ量が防御を取ることで減るのだが、それでも削られていく。


「ぐっ!」


 攻撃に耐えていると、ポン助を囲んでいた浮島の一つが爆発を起こした。


 崩れて落ちていくギルドの一つ。


 そこから一隻の大きくて不格好な飛行船が飛び出してくると、砲撃で周囲の飛行船や浮島を攻撃していた。


 一発一発が強力なのか、次々に飛行船が沈んでいた。


 邪魔な飛行船には体当たりをして、爆発させると煙の中から出現してポン助の下にやってくる。


 砲撃から守るようにポン助の前に出ると、甲板にはプレイヤーたちがいた。


「み、みんな!」


 手を振る仲間たち。


 プライがポン助に最高の笑顔を向けていた。


「迎えに来たよ、ポン助君!」


 そんな甲板には、ポン助を見て俯いてしまう八人のプレイヤーたちもいた。


 ポン助は甲板に降り立つと、立ち尽くすアルフィーやマリエラに爪の伸びた禍々しい手を伸ばす。


 まるで握り潰そうとしているようだった。


 アルフィーやマリエラが目を閉じて、握りつぶされるのを待っていると二人を大きくなったポン助が優しく撫でた。


 二人が顔を上げる。


「ポン助――」


「わ、私――!」


 ポン助は首を横に振った。


「……大丈夫。分かっているから」


 そしてゆっくりと手を離すと、ライターがポン助に近付いてきた。


「ポン助君、事情はプライさんやアルフィーたちから聞いたよ。何やら困っている様子だね。我々も力を貸そうじゃないか」


 そんなライターにポン助が言う。


「ありがとうございます。でも、僕たちの拠点が硬くて攻めきれないんです」


 ライターは自慢気に腕を組んだ。


「何しろ私たちが作ったからね! 簡単には落ちないよ!」


 ポン助が困っている。


「……だから困っているんですけどね」


 ただ、生産職のプレイヤーたちがニコニコしていた。


「ギルマス、分かっていないな」

「俺たちが作ったんだぞ」

「されて嫌なことは知り尽くしているんだよね」


 ライターが笑顔で言うのだ。


「任せてよ! 私たちの拠点を奪ったNPCたちに、誰の拠点なのか思い知らせてあげるから! ――さぁ、行こうか」


 頼もしい仲間たちである。


 砲撃の中を突き進む飛行船は、アルカディアを目指して特攻を仕掛けるのだった。


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