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女神と女王

 怖い顔をしたオークがポン助――いや、明人を見下ろしていた。


 横になっている明人に向かい合う形で、


『解放しろ……野生を……お前はロード……王だ。全てを手にする権利がある』


 そんな怖い顔をしているオークらしき何かを前に、明人はボンヤリとしていた。


(……何を言っているんだろう?)


 オークが手を伸ばすも、首に提げた首飾りが守っていた。


『忌々しい。お前はオークのセレクターだと言うのに……女神に選ばれたと言うのに』


 それでも手を伸ばしてくるオークに対して、明人の後ろから大きな手が伸びた。


 見慣れた自分の――アバターの腕が明人を守ってそのまま引っ張る。


 地面に落ちていくような感覚で目を覚ますと、明人――ポン助のアバターの体の中にいた。


「……あぁ、負けたのか」


 目を覚ましたのはアルカディア――拠点内にある小さな神殿だ。


 レベルダウンしており、所持金も減っている。


 デスペナで下がったステータスを確認したポン助は、石造りのベッドから起き上がると頭を振った。


「ガチ勢がどうして乗り込んできたんだ? それに、女神のギルドアイテムがどうのと……女神の像が欲しかったのか?」


 飾っている女神の像はギルドアイテムで、ギルドに大きな恩恵を与えている。何しろ、色欲の世界を攻略した際の報酬だ。


 ユニークアイテム……パンドラを探し回ってもたった一つしかない。


「女神のギルドアイテムが欲しかったのかな?」


 ポン助にはよく分からないが、彼らが知っている情報があるのだろうと納得する。


 歩き出しながら考える。


「対策を練ってきているし、どうやって戦えば良いのかな?」


 本来人がする動き――目の前に拳が来たら咄嗟に手で防ごうとする、などの動きすらしないガチ勢のプレイヤーたち。


 ただ、攻略に特化したプレイヤーは……ポン助から見て、


「なんかNPCみたいだ」


 そう思えた。


 攻略のためだけに全てを犠牲にしすぎている。


 そんな相手とどう戦えば良いのか?


 ポン助は仲間と連絡を取りながら走るのだった。






 戦場の舞台はアルカディアに移ろうとしていた。


 マリエラは残った三つのギルド――三つの浮島の一つに入り込み、内部を破壊すると島がゆっくりと沈んでいくのを感じる。


「これで残り二つ!」


 喜んでいるところで通信が入ってきた。


「ポン助!」


 ウキウキと連絡を取ると、


『マリエラ、ごめん。やられた。ガチ勢が来ているよ』


「……え?」


『ギルドアイテム狙いでガチ勢が来たんだ。ライターさんには知らせたし、みんなに知らせて貰っているけど、乗り込んで来ているみたい』


 拠点ごと沈んだプレイヤーたちとは違い、乗り込んできたプレイヤーは消えない。


 ポン助は早く全てのギルドの拠点を落とすように頼んでくる。


『だから、とにかく浮島を沈めて。出来ればその後に合流して欲しいかな』


 食い止めるが、もしかしたら現状は厳しいかも知れない。


 そんなポン助の言葉だったのだが、マリエラは少し震えていた。


「……どいつよ?」


『え?』


「誰がポン助をやったの?」


『う~ん……キャシーとか呼ばれていた人がいるかな? エルフの人。テンプレートの外見を使っているからすぐ分かるよ』


「そう……そいつが」


『あ、みんなが集まってきた。後はよろしく! 僕もこっちで耐えるから!』


 通信が切れると、マリエラが沈み始めた浮島から脱出するため駆け出すのだった。






 アルカディア。


 拠点へと続く道には、ライターたちが侵入者と戦うために既に配置についていた。


 生産職のプレイヤーも建物の影に隠れ銃や武器を構えている。


 侵入してきたプレイヤーを次々に倒しているのだが――。


「なんだ、あのフードの集団は?」


 銃弾を浴びても、魔法を受けても怯まない。


 正確には、誰がどのダメージを請け負うのか決まっているようだ。魔法が飛んでくると違うプレイヤーが前に出て防ぐ。


 隠れていたシエラやグルグルが、魔法や矢を放っても同じように対処する。


「何ですかあの人たちは!」


「不気味すぎ!」


 人が攻撃に晒されると、多少身構えるのにそんな動きも見せない。


 初めて相対するガチ勢にみんな困惑していた。


 機関銃を操作するNPCの近くにいたライターは、課金を実行して課金アイテムを購入。


「くっ! こうなればお金の力で――」


 爆弾を投げつけようとすると、弾丸の雨の中を進んでやって来たプレイヤーにライターは槍で貫かれた。


「無駄な動きが多いぜ」


 ライターが赤い光に包まれ消えて行くと、槍を持ったドラゴニアにナナコが跳びかかる。


 格闘系のジョブを持っているナナコの蹴りを避け、敵は槍を最小限に振り回してナナコの攻撃を防いでいた。


 ナナコが驚く。


「全部見切られて――きゃっ!」


 スキルやジョブのアシスト、それらの動きを見切っている敵はナナコを蹴り飛ばして槍で斬りつけた。


 ナナコはバッドステータス表示が発生し、動きに制限かかる。


 よろよろと立ち上がると、相手は笑っていた。


「言い動きだがそれだけだ。アシストの動きは覚えているんだ。攻撃してきても無意味だよ」


 シエラが魔法を放つと、槍を持った敵の前にシエラと同じハーフフェアリーが立つ。


 魔法を防いで、そしてシエラにはローブをまとったエルフが接近して――。


「――いや」


 ナイフを突き刺され赤い光になって消えて行く。


「シエラ! この! ――あ」


 グルグルが短剣を持って斬りかかるが、キャシーに簡単にあしらわれ連続で攻撃を受けるとそのまま赤い光になって消えて行く。


 ナナコが消えて行く仲間に手を伸ばせば――その手に槍が突き刺さった。


 刺した相手を睨み付ける。


「あ、貴方たちは――!」


 槍を持ったプレイヤーが槍を引き抜くと、ナナコは赤い光に包まれていく。


「怒るなよ。ゲームだ。これでも、頭部や胴体は外してやっただけ優しい方だぜ」


 手にダメージを受けてもヒットポイントは減る。


 リアルで致命傷にはならないが、ゲームでは別の話だ。彼らは、パンドラを良く理解しているプレイヤーでもあった。


 ナナコが消え、キャシーは自分が持っていた短剣を見て舌打ちをする。


「これも駄目ね。交換するわ」


 装備を交換し、仲間の様子を見るキャシーは少し驚いた。数が減っているのもあるが、仲間も装備の交換をしていたのだ。


(……随分と手強いわね。エンジョイ勢だと思って馬鹿にしていたかしら?)


 拠点に配置されたNPCや、プレイヤーたちを排除したが、自分たちの数も減らされている。


 キャシーは建物の屋根に上り、アルカディアの周囲を見た。


「……増援は望めないわね」


 アルカディアを囲んでいた浮島は、三つとも火を噴いて沈んでいく。


 キャシーたちが復活する拠点は存在せず、なんとしても敵を全滅させて拠点を沈めなければ勝利が得られない。


「これだけの時間と労力を無駄にするわけにはいけないわ」


 建物から飛び降り、仲間を率いて浮島にある拠点へとキャシーたちは進むのだった。







 拠点内の広間。


 そこに飾られたギルドアイテムの数々を前に、キャシーたちは足を止めた。


 槍を持ったプレイヤーが口笛を吹く。


「こいつは凄いな」


 他の仲間たちも同感なのか見とれていた。


「良くこれだけ集めたな」

「これ、全部手に入れば凄いことになるよ」

「本当にエンジョイ勢なのか?」


 ギルドアイテムも簡単に手に入る物から、高難易度のクエストをクリアしなければいけない物まで様々だ。


 それらが揃っている光景は壮観の一言。


 攻略を突き詰めすぎて、こういった装飾やら拠点にお金をかけないキャシーたちには手に入らない光景だった。


 そんな中、キャシーはお目当ての女神の像に近付く。


「あった。これだ。これを手に入れれば私たちは次の攻略で――」


 そこで気が付く。


 キャシーは目の前のギルドアイテムのステータスを見て、手が止まって震えた。


【女神の像】

【女王の杖】

【女王の盾】


 トレード不可の貴重なギルドアイテム。


 確かにその言葉に間違いはないが、盾と杖は女神の物ではなかった。別シリーズ枠に設定されていた。


 これでは話が違う。


 ただ、ポン助たちが一緒に飾っているだけで別シリーズなのだ。


「……どういう事?」


 すぐに情報を渡したプレイヤーに連絡を取ろうとするが、


『……IDを確認できません』


 そんな文字が目の前に浮かぶ。


 自分たちに情報を持ち込んだプレイヤーは、既にゲームを退会した扱いになっており連絡が取れなかった。


 キャシーの表情がゆがむ。


「俺たちを騙したな」


 キャシーの中身は男性で、男口調が出てきていた。


 仲間も気が付いたのだろう。しかし、槍を持ったプレイヤーがキャシーを宥める。


「だが、女神の像は手に入る。悪いことばかりじゃない。女王の杖と盾もギルドアイテムとしてみれば優秀だ」


「……そうだな。俺たちが持つティアラと首飾りでコンプかも知れない。なら、今回のギルド同士の決闘も無意味じゃ――」


 ――無意味じゃない。


 言い切る前に、全員が武器を構えた。


 ドアを突き破って現れたのは、全身鎧を身にまとったポン助である。本来の役割、タンク――盾役に立ち戻ったその姿は、両腕にそれぞれ大盾を構えていた。


 フルフェイスのマスクの目の部分が赤く光る。


「……見つけたぞ」


 キャシーたちはそのポン助の姿に忌々しく思うのだった。


「また厄介な装備を――」






 とにかく防御特化の盾役として装備を揃えたポン助は、広間にいたキャシーたちを見つけると大盾を構えた。


 後ろにはブレイズたちが控えており、広間に入ってくると散開してキャシーたちを取り囲んでいる。


「一対一で戦うな! 三対一、もしくは四対一で確実に倒すんだ!」


 数の利を活かして囲んで叩く。


 正攻法で対応するポン助たちに、ガチ勢も忌々しそうにしていた。


 キャシーが指示を出す。


「……何としてもここを突破するわ。誰か一人でもこの浮島の動力炉に入れば私たちの勝ちよ!」


 全身鎧を身にまとったポン助は目を細めた。


 冷静に……キャシーたちの数が足りないことを察する。ここに来るまでに数を減らしたのかも知れないが……怪しかった。


「動力炉に味方を送ります。どうやら、別働隊がいるようだ」


 ブレイズがすぐに頷き指示を出していた。


「アイン、ツヴァイ、二人は復活したら動力炉にみんなを連れて行ってくれ。ガチ勢が入り込んだ。慎重に進めよ」


 キャシーが舌打ちをするのを見て、ポン助は自分の感が間違いではないと察した。


(わざわざ大声で言うから怪しいと思ったんだ。この人たち、無駄なことはしないし)


 槍を持ったプレイヤーがポン助に攻撃してくる。


 ポン助は槍の攻撃を弾いてカウンターを入れようとして……。


「――ちっ!」


「マジかよ。これを避けたのは初見でならお前が初めてだぜ!」


 相手もカウンターを狙っており、ポン助の一撃を弾いて攻撃してくる。


(この人は強いな)


 財宝が飾られた広間で、ポン助たちの戦いが始まった。






 動力炉。


 ボロボロになったギルドメンバーたちが、床に座り込み背中を壁に預けていた。


 息を切らしている。


「お、終わった……」

「ガチ勢は化け物かよ。こっちは二十人以上いたんだぞ」

「たった三人にここまで追い込まれたのか」


 たったの三人と動力炉の前で遭遇し、戦闘に入った。


 そして、三人のために十八人が倒されてしまったのだ。


 残ったのは疲れ切った三人と、ソロリだけだった。


 消えて行くガチ勢のプレイヤーを前に座り込んで眺めていた。


「ソロリさん、どうかしました?」


 プレイヤーの一人がたずねると、ソロリは髪をかく。


「……うん。どうして彼らが攻め込んできたのか気になってね。まぁ、なんとなく理由も分かったよ。それにしても、ポン助君は女王にも好かれたのかな?」


 仲間が首をかしげる。


「ギルマスが? あ、そう言えばギルマスってエルフの女王のイベントをクリアしたって聞きましたね」

「俺、あの頃からギルドにいるから知っているよ」

「マジかよ! 戦いが終わったら教えてくれよ」


 楽しそうな彼らは、回復を行うとこの場を守るために防衛に入るのだった。






「ぬおぉぉぉ!」

「くたばれぇぇぇ!」


 ポン助が殴り、ドラゴニアのプレイヤーが槍で連続攻撃をする。


 アタッカーであるプレイヤーを一人で押さえ込むポン助だが、周囲も激戦が続いていた。


 ガチ勢を相手に三人で囲んでも仲間が消えて行き、ブレイズでも苦戦している。


 ガチ勢が数人消える間に、ポン助たちは十人ほどが消えているのだ。


 だが、それだけで収まっているとも言えた。


 理由はポン助だ。


 ドラゴニアのプレイヤーが息を切らしている。


「お前……なんでエンジョイ勢なんだよ」


 相手はポン助のプレイヤースキルに驚いていた。


「ゲームは楽しく遊ぶ方針だ」


「はっ! 未知の領域に一番乗りをしないのが楽しいか? それだけ強ければ、うちでも指折りだっただろうに!」


 防いでのカウンターと見せかけ、フェイント――とにかく、二人の間ではすさまじい攻防が起きていた。


 相手もボロボロで、槍を既に二本も入れ替えている。


 ポン助の方も鎧がボロボロになっていた。


 ガチ勢が勢いを取り戻しつつある。


 そんな中、部屋にオークたちが飛び込んできた。


「いやほぉぉぉ!」


 陽気なオークが加わり、そのまま狂化して大きくなるとポン助が叫ぶ。


「馬鹿! 狂化は駄目だって!」


 キャシーが叫んだ。


「テイマー!」


 三人のプレイヤーが楽器を装備すると、巨大化したオークが使役され相手の戦力にさせられてしまう。


 ブレイズたちが流石に怒る。


「どこの馬鹿だ」

「新入りですよ。ほら、プライさんたちと別枠の」

「別枠か……」


 オークプレイヤーも一定数が存在し、プライたちを関係ないオークもギルドには数人在籍していた。


 陽気なオークはそんな内の一人だ。


 まだレベルも低く、拠点待機だったはず。


 狂化したオークがポン助を殴りつけてくる。


 それを防いだのは良いが、ポン助は背中を刺す痛みに膝をついた。


 槍を持ったプレイヤーがポン助の背中に槍を突き立てていた。


「悪いな。お前さえ倒せば、後は俺が蹂躙して終わりだ」


「……させるかぁぁぁ!」


 ポン助も抵抗するが、ヒットポイントも残り少ない。


 そんな時だ。


 天井を突き破って降臨したのは――。


「ポン助の敵は私の敵だぁぁぁ!」


 ――マリエラだった。


 槍を持ったドラゴニアに、双剣をそれぞれ全力で振り下ろした。


 砕ける双剣は課金アイテムだ。


 ドラゴニアが赤い光に包まれ消えて行く。


「――マジかよ」


 キャシーが一番頼りになる仲間が消えたことに焦るも、壁を突き破って出てきたドラゴンに視線を向けてしまう。


「――なっ!」


 ドラゴンはフランだ。


 暴走したオークに噛みつき、そのまま引きずって外に連れて行ってしまう。


 そして、フランが開けた穴からノインがやってくる。


「あは! 選り取り見取り!」


 杖を掲げて魔法を放つと、杖が弾ける。次の杖を取り出し、また同じように魔法を放つとガチ勢の数名が赤い光に包まれた。


 そして、魔法耐性が高い敵には――。


「そこかぁぁぁ!」


 ナイアが戦斧で赤い光に変えた。


 いつの間にか天井から降りてきたライターが混乱気味に笑っていた。


「見たかガチ勢! 本当のうちの最高戦力は――最凶はポン助君でも私たちでもなくこの女性陣だ! ちくしょう! 大事な拠点をここまで壊しやがって! お前ら絶対に許さないからな! お前らみんな――彼女たちにボコボコにして貰うからな!」


 楽器を持つハーフフェアリーの三人が、それぞれ駆け抜けたイナホや、空から振ってきたアンリに倒される。


 イナホはナイフを手で遊ばせ、


「これでもうテイマーに怯えなくて良いですね」


 アンリは槍を担ぐ。


「残りも少ないじゃん。このままここを叩けば終わりじゃない?」


 キャシーが奥歯をかみしめ、すぐに手で指示を出すと全員が一カ所に固まった。


 課金アイテムを全員が使用する。


 すると、ポン助たちの後ろから傭兵NPCがワラワラと集まってきて全員を囲んだ。


 後からリリィがやってくる。


「入り込んだ他のプレイヤーも倒したわよ。あ、拠点も全部沈めたわ」


 ポン助が仲間の登場に安堵する。


「みんな……あれ? アルフィーは?」


 最後に登場したのはアルフィーだ。


 その手には黄金の剣が握られ、勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「喜んでください、ポン助。敵の……カイザー……え~と、ボブ? そう、カイザーボブを討ち取りました!」


 名前を間違えられたトムは、アルフィーに討ち取られていた。


 ポン助は安堵する。


 しかし、ブレイズが全員に向かって叫んだ。


「みんな逃げろ!」


 ポン助は大盾を構え、仲間の前に出るとNPCに囲まれたガチ勢を中心に大爆発が起きるのだった。


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