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課金

 ブレイズは揺れるアルカディアの中で、自分の装備が出来上がるのを待っていた。


 周囲の仲間も同じである。


「もうすぐ出来るかな?」

「あぁ、もうすぐだ。やっぱり課金は偉大だよな」

「レア素材が大量購入できるからな」


 ワクワクしているブレイズたち。


 ブレイズも腕を組んで待っていた。


 そんな彼らの所にやってきたのは、生産職プレイヤーたちだった。


「お待たせしました~」


 間延びした声で持って来たのは、ブレイズたちの新装備である。


 素材を課金して手に入れ、必要素材のほとんどを課金で用意した。


 課金だけで作れるような装備ではないが、課金すれば簡単に作れるのも事実。課金では手に入らないレアアイテムなどは、そもそもギルドで集めている。


 生産職のプレイヤーが汗を拭う。


「いや~、成功率が低くて大変でしたよ。もう二十回も失敗して、一部は破棄することになりましたからね」


 ブレイズは白銀の装備に身を包む。


「……これだ。これが欲しかった!」


 ブレイズは真面目な男だが、実は課金に対して非常に緩い。


 ポン助の方針が課金は月に多くても二万まで、の方針に従っていたが……ぶっちゃけ課金したかったのだ。


 ギルドに保管されたレアアイテムを使い切る形で、プレイヤーたちが装備を用意している。


 ブレイズたちも新しい装備に感激し、そしてその使い勝手を試したかった。


「よし、このまま殴り込もう!」


 ブレイズたちが駆け出して外に出ると――。


「うおっ! もう暴れているのか」

「あ、浮島が火を噴いた!」

「あ~あ、一つ取られちゃったな。俺たちはどれを狙う?」


 アルカディアを囲んでいた浮島の一つが、火を噴いて沈んでいく光景をブレイズたちは見て――自分たちの出番があるのかと焦るのだった。


「とにかく急ごう!」


 小型のボートのような飛行船に乗り込み、ブレイズたちも敵の浮島目指して移動を開始するのだった。







 建物の屋根。


 そこから浮島の一つが沈むのを見たマリエラは、誰がやったのか判断していた。


「アルフィーの奴は派手よね」


 気配を消して浮島に忍び込んだマリエラは、屋根の上から見える浮島の艦橋……そこに向かって矢を構えた。


 そもそも、学生なのであまり課金できない。


 そんなマリエラが用意したのは、回復アイテムと――特別な矢が数本だけ、だ。


「あいつら金の無駄なのよ。これだけあれば十分なのに」


 そう言って放った矢は、窓を突き破り艦橋の中で――爆発。


 細長い建物は、戦艦の艦橋をモデルに作ったのだろう。


 窓が全て吹き飛んでいた。


 それを確認したマリエラは、次の矢を放つ。


 今度は煙が発生した。


 窓から紫色の煙が漏れると、マリエラはマフラーをマスク代わりにして弓をしまう。ワイヤーを艦橋に投げつけ、屋根から飛ぶと細長い建物に飛び付いた。


 壁を登り、そして艦橋の窓から中に侵入すると、赤い光に包まれ消えて行くプレイヤーたちの姿が見える。


「あ~、二人生き残ったか」


 バッドステータスに耐性があったのか、二人のプレイヤーが残っていた。


 二人はマリエラの侵入に気が付かないで、何が起こっているのか周囲を見て混乱していた。


 マリエラはナイフを取り出し、二人を後ろから突き刺して赤い光に変えると誰もいなくなった艦橋で操作を行う。


「単純な感じね。流石にうちみたいに凝った作りにはしないか」


 まるでゲーム機のコントローラーのような操縦方法で、浮島を動かせるようにしていた。それ自体は別に問題ない。


 だって――。


「よし、あの浮島にするか」


 ――マリエラでも操作できるのだから。


 浮島のエンジンが出力を上げ、速度が上がっていく。


 味方のギルドから連絡が入っていた。


『おい、近いぞ! こっちに来るんじゃない!』


 マリエラはニヤリと笑って速度を上げた。


 浮島同士の間に飛行船が浮かんでおり、突撃に巻き込まれ次々に沈んでいく。


「ま、こんなものかな」


 マリエラはぶつかると分かると、艦橋の窓を飛び出した。


 駆け上がってくる敵プレイヤーたちが、艦橋に到着すると叫ぶ。


「おい、すぐに回避させろ!」

「駄目だ。間に合わない!」

「いったい誰がこんな――」


 マリエラは外に出て駆け出すと、待機していた愛馬――ペガサスを口笛で読んで飛び乗る。そのまま浮島を離れると、浮島同士の距離は凄く近かった。


 近付いてくる浮島に大砲で弾を撃ち込むが、勢いなど殺せるわけもなく衝突。


 浮島の一部が崩れ、そのまま二つのギルドが地面に沈んでいく。


 マリエラはそれを見て笑っていた。


「課金すれば良いってものじゃないのよ!」


 そのまま次の獲物を目指して移動を開始する。






 アルカディアの船首。


 砲撃を受ける中、フランは課金アイテムをいくつも飲んでいた。


 ステータス強化に始まり、様々なアイテムを使用する。


 そして最後に――ドラゴニア種族が使用できる課金アイテムに手を出した。


 ポン助たちの強化と同じ。


 ドラゴンに変身することが出来る。


 ただ、これを使用して戦っても経験値もドロップアイテムも発生しない。


 ドラゴンになるだけ。


 それでも、今の状況には相応しいアイテムだった。


 フランが口元を拭うと、角が巨大化して皮膚に鱗が浮かんでいく。


「邪魔な雑魚共を吹き飛ばしてやる!」


 そんなフランを応援しているのは、ノインだった。


「フランちゃん頑張れ!」


 その体が大きくなり、一体のドラゴンが出現すると空へと舞い上がった。


 背中にはノインが乗り込み、課金アイテムである杖を持っている。


 ドラゴンになった感覚にフランは妙な気分になる。


「元から自分の体みたいな感覚だな。さて、どれから落とそうか」


「近い奴からで良くない? アレにしようよ」


 一番近くにいた飛行船にフランが向かう。ノインは杖を構え、魔法を放つ準備に入るのだった。


 フランとノインが狙ったのは、小うるさい飛行船だ。


 アルカディアを囲んで砲撃してくる飛行船の数は多い。大砲でダメージを確実に与えてくる飛行船が邪魔だった。


 飛行船にドラゴンが突撃すると、装甲を貫いて内部に侵入する。


 フランは口を開いて火を放った。


 ドラゴンの攻撃により一隻の飛行船が沈むと、周囲の飛行船がフランに狙いを定める。


 ノインが杖を掲げる。


「駄目だよ。囲んで叩くなんて卑怯だぞ」


 可愛らしく言うのだが――ノインの周囲にいくつも魔法陣が浮かび上がる。そこから次々に魔法が放たれ、飛行船に襲いかかった。


 ノインはその様子を見て、


「流石に沈まないか。フランちゃん、お願いね」


「まったく……しっかり掴まっていろよ」


 フランがダメージを受けた飛行船に突撃、口を開けば炎を放つ。


 そうして次々に飛行船は数を減らしていくのだった。






 飛行船が数を減らす光景を見ているのは、イナホとアンリだった。


「フランさんたちは派手ですね」


「こっちも派手だけどね」


 アンリが視線を向けたのは、リリィだった。


 武器を構えることなく、腕を組んで立っているだけ。


 時折、画面を呼び出して操作を行うと――。


「戦士系百体。魔法使い百体。更に追加で」


 課金する金額の桁が違った。


 NPCの傭兵を購入し、大規模投入している。


 二時間は消えない傭兵NPCだが、倒されれば消えてしまう。それを何百という単位で次々に送り込むのだ。


 割と大きめな浮島では、あちらこちらで戦闘が起きていた。


 プレイヤーたちが、レベルもある程度高い傭兵NPCに囲まれ討ち取られていく。


 プレイヤーたちも負けてはいない。


 一人で十体、二十体と倒す者もいた。


「なら、更に追加で」


 だが、倒せば倒すだけ追加で投入されてくるのだ。


 倒されてもプレイヤーならギルドの拠点で復活できるが、デスペナでレベルがダウンしていく。


 何度も倒されているプレイヤーなど、きっと涙目だろう。


 イナホは相手が可哀想になってきた。


「なんかもう建物のほとんどが崩れちゃいましたね。プレイヤーの皆さんが何か言っていますよ」


 彼らの声に耳を傾ければ、


「もう止めてくれ!」

「た、助けて」

「来るな! 来るなぁぁぁ!」


 ワラワラと出てくるNPCたちに追われ、プレイヤーたちは抵抗する気力もなくなりつつあった。


 リリィが頬に手を当てて溜息を吐く。


「はぁ、ちょっと課金すれば簡単に終わるじゃない。節約も大事だけど、時間と労力を考えれば課金は正解よね。ポン助はもっとお金の使い方を覚えるべきよ」


 そう言いつつ、ニヤリと笑って更に三百体ほど追加するリリィだった。


 アンリがイナホを誘う。


「なら、あたしらは敵の本陣を狙おうよ。さっさと沈めて他に行かないと。ライターから特性の爆弾を貰ったんだ」


 イナホは肩を落とした。


「アンリさん軽いですよ。もっと真剣になってください。でも、まだ沢山残っていますから行きましょうか」


 イナホが駆け出すと、その場から一瞬でいなくなる。


 アンリは大きくジャンプをすると、NPCやプレイヤーを飛び越え――本部があるらしい城を目指した。


 イナホが地面を駆けると、進路上の邪魔をするプレイヤーたちが次々に倒されていく。


 所属プレイヤーの多い大手と言われるようなギルド。


 NPCたちに蹂躙され、レベルが下がったところで――イナホとアンリに蹂躙されていた。


 プレイヤースキルも、彼らの自慢の装備も、下がってしまったレベル差を埋めることが出来ずに蹂躙されていく。


 リリィは呆れていた。


「見ていれば終わるのに。二人とも元気よね」


 アンリが入った城では、爆発が起きて浮島が次第に沈んでいく。


 終わったと思ったリリィは、浮島に乗り込んだボートへと戻るのだった。






 決闘開始からすぐに四つのギルドが沈んだ。


 飛行船に至っては、この瞬間にも次々に沈んでいる。


 囲んでいた陣形は崩れ、アルカディアを封じ込める作戦は失敗していた。


 トムは歯を食いしばる。


「何をやっているんだ! 残ったギルドで囲んで叩け!」


 次の瞬間。


 仲間内で頼りにしていたギルド【エターナルフォースブリザード】の浮島から、救援要請が届く。


『助けてくれ、トム!』


「どうした、クライス!」


 ギルドマスターである【エレファント・レバ・クライスルフト】などという長い名前のプレイヤーは、


『奴らだ。奴らが来る!』


「乗り込んできたのか? 逆に取り囲んで叩け。あいつらは俺たちより数が少ないんだぞ!」


『出来るかよ! お前、あいつらが出たら任せろ、って言ったじゃないか! あ、壁が崩れて……ぎゃぁぁぁ!』


 クライスの絶叫が艦橋に響くと、要塞化した浮島が爆炎を上げてゆっくりと崩れていく。


 これで、五つ目のギルドが沈んだ。


 崩壊する浮島を見ると、そこには狂化したオークたちが暴れ回っている。


 トムが壁を殴った。


「糞が! あいつら、拠点を捨てて殴りに来やがった!」


 冷静さを失ったトムだが、深呼吸をすると気持ちを引き締めた。


「……おい、あいつらは攻撃に転じたなら、防御は捨てたって事だよな?」


 トムの言葉に帰したのは、ガチ勢の【キャシー】だ。姿も名前も、ガチ勢にはその日のファッションでしかない。


 用意されたテンプレートの容姿を選んでいるだけだ。


「そう考えるしかないわね。どう見ても硬そうな拠点だったし、耐えている間に他のギルドを潰して回るのは悪くはない考えね」


 トムは考える。


(全力で攻勢に出たなら、残っているのは後方支援の奴らばかりか? ……これは、一気にけりを付けるべきだな)


 そうしている間に、六つ目のギルドが沈んでいく。


(このままだったらこっちが危ない。ガチ勢を投入すれば戦いは終わりだ。もう、これしかないな)


 トムはすぐに、全ギルドでアルカディアに乗り込むことを提案――命令した。


「体当たりだ。あいつら自慢の拠点に乗り込んで、荒らし回れ!」






 沈んでいく浮島にいたのはナイアだった。


 側には娘のアバターがおり、周囲にはブレイズたちの姿もある。


「ブレイズ、もうこいつも沈む。次に移ろう!」


 真新しい装備の性能と、ブレイズ自身の高いプレイヤースキルもあって一つのギルドが沈もうとしていた。


「分かった。ナイアさん、次に行きましょう」


「えぇ、そうね」


 娘を肩に担ぎ移動すると、沈むギルドに涙するプレイヤーたちがいた。自分たちが築き上げた拠点が破壊され沈むのだ。


 泣きたい気持ちも分かるナイアだった。


(まぁ、喧嘩を売ってきたのはそっちだからね)


 そうして脱出をしようとすると、立ちはだかったのはギルドマスターだった。


 乗り込んで機関部――ギルドの中核をすぐに破壊したブレイズたち。


 指示を出していたギルドマスターが駆けつけたときには、全て終わっていた。


 武器を構えて泣いているギルドマスター。


「お前ら……よくもやってくれたな。俺たちがどんな思いでこの拠点を用意してきたか分かっているのか! 俺たちの家を……俺たちの全てを……絶対に許さない! 絶対にだ!」


 ブレイズが斬りかかると、相手も相当に腕が立つのか攻撃を防いでいた。


「くっ!」


 ブレイズが弾き飛ばされると、ギルドマスターが笑っていた。


「お前らも道連れだ! 俺たちと一緒に沈めぇぇぇ!」


 そんなギルドマスターに対して、ナイアは自分の娘をそっと床に降ろした。


「お母さん?」


「ちょっと待っていてね」


 笑顔がすぐに真顔になる。


 ミノタウロスのナイアが戦斧を握りしめると、ギルドマスターに突撃した。


 振り下ろした一撃に、ギルドマスターは剣で受け止め――足が床に沈む。


「この化け物がぁぁぁ!」


 耐えているギルドマスターに、ナイアは更に力を込めた。


「個人的な理由だけどね」


「なんだ、化け物!」


 ナイアが淡々と話を続け、そのまま力を増していく。


「……家のためとか、そういう理由がムカつくんだよ、この髭野郎ぉぉぉ!」


 偶然に。本当に偶然にも、ギルドマスターの顔が旦那に似ていた。


 ちょび髭までそっくりだった。


 そんな顔で家がどうのと言い出すので、ナイアは腸が煮えくりかえる。


(離婚の時も、浮気の証拠を揃えたのに家のためとか、ママのためとか――あの糞野郎が

ぁぁぁ!)


 個人的な理由で、ギルドマスターが両断されると、ナイアは戦斧を担いだ。


「さぁ、行きましょう」


 ブレイズたちは無言で何度もうなずき、ナイアに従うのだった。


 娘はブレイズが抱っこして脱出するために走る。


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