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殴り合い

 いったいいくつ目になるだろう。


 ポン助はそんなことを思いながら、自分のステータスを見ていた。


 強化によるデメリットが軽減され、元のステータスに戻るまでの時間は三時間と短くなっていた。


 アルカディアの艦橋にいる主立った面々は、普段同じ時間にログインしているギルドからの救援要請を受けていた。


「襲われた? 今どこ?」

「壊滅? そいつらは次にどこに向かった?」

「いいか、絶対に動くなよ。今そっちに向かっているから――」


 ギルドメンバーが通信を受けて対応し、それを他の仲間が情報としてまとめている。


 ブレイズは七つの世界が描かれた絵を見ながら、


「数が多い。いったいどれだけ入り込んだんだ?」


 悔しげな表情をしていた。


 ポン助は腕を組む。


(リアルでは六時を過ぎたところか? まだ集まってくるのか)


 仮想世界で七日が過ぎ、次の時間帯が来ている。


 そこでログインを行ったギルドが参加しており、敵の数は増えていく一方だ。


 ライターが忌々しそうにしていた。


 稼げてはいるが、対応が面倒になってきているのだ。


「わざわざ他の時間帯から乗り込んできて荒らし回るなんて暇だよね」


 ブレイズも同意していたが、


「迷惑ですから止めて欲しいですね。それより、他のギルドはどうしていますかね?」


 自分たちと同じ時間帯で活動しているプレイヤーたち。


 そして、この時間帯の攻略組が黙っているだろうか?


 ポン助も気になっていた。


 ソロリが会話に加わる。


「無視して自分たちの事を優先しているギルドもいるけど、喧嘩を売られて対処しているギルドもいるね。それにしても、時間帯が違うだけでなんか雰囲気まで違うよね」


 ポン助たちの時間帯がノンビリというかおおらかなら、乗り込んできたプレイヤーたちは派手で刺々しくピリピリした雰囲気を持っていた。


 乗り込んでくるギルドの多くは、攻略組でも二軍――ポン助やルークと同じで、ギリギリ攻略に参加できる程度のギルドである。


 本気の攻略組は、いつもの時間帯で頑張っていることだろう。


 通信を行っていたギルドメンバーが慌てて報告してくる。


「また一つギルドが潰されました!」


 名のある――同じ時間帯で活動していれば、名前くらい聞いたことがあるギルドはいくらでもある。


 そんなところが簡単に、とは言わないが倒されたと聞くと焦りも生まれる。


 ポン助はどの世界で、どれだけの規模のギルドがやったのか、そんな情報を確認していると、アルカディアが揺れた。


 転びそうなギルドメンバーの背中を支え、ポン助は床に膝を突いて周囲を見た。


「どうした!」


「敵の攻撃が――」


 仲間が窓の外を指さすと、そこには浮島が三つも見える。


 ライターが歯ぎしりをしていた。


「装甲がへこんだじゃないか! アレを用意するのにいくらかかったと思っているんだ!」


 ブレイズが立ち上がりつつ、他の方角を見る。


「――ポン助君、集まったのは浮島だけじゃないみたいだ」


 ポン助が同じ方向を見れば、そこには飛行船が何十隻とアルカディアを囲んでいるのだった。


 ポン助は呟く。


「……次の狙いは僕たちか」






 ポン助と愉快な仲間たち――ふざけた名前である。


 だが、オンラインゲームには珍しい名前とは言えない。


 何故なら、トップギルドの名前が“犬好き同盟”とか普通にあり得るからだ。実際、ふざけた名前が多い。


 普段は二十二時や二十三時にログインを始めるギルドが集まり、ポン助たちの拠点である浮島を囲んでいた。


「ふざけた名前をしやがって」


 忌々しそうにしているプレイヤーは、【ギルド・ミリオン】のギルドマスター【カイザートム】だった。


 お前の方がふざけた名前をしているだろう! なんていう奴を、力で黙らせてきた男である。


 高いプレイヤースキルと、ギルドの運営能力も悪くなく攻略組には入れるだけのギルドを率いていた。


 そんな彼がポン助に恨みを持っている理由は――。


「あんなのが都市攻略を成功させたとか恥だと思わないか?」


 仲間たちはトムのイエスマンである。


「思うね。あり得ないって」

「チート野郎だろ」

「運営がチートではないとか言っているけどな」


 正確にはシステムの穴を疲れて攻略されたことになっており、当時はポン助たちが世界を解放したとして有名ギルドの仲間入りを果たした。


 それが面白くないプレイヤーたちは大勢いる。


 加えて、最近の荒稼ぎだ。


「このまま放置していたら、あいつらがマジで攻略組のトップになる。そんなの許せないよな」


 声をかけたのは、攻略組でも二軍止まりのギルド。


 本当の攻略組は、こんな事をしている暇もない。


 ただ――全員が同じとは限らない。


 今回のイベントを聞いて駆けつけたギルドの中には、本物の攻略組が混ざっていた。


 ギルド名は【どすこいちゃん・こ】。


 全員がガチ勢で、外見で情報が漏れるのを気にしてローブを着ていた。


「お前らには期待しているぜ」


 トムの言葉に、一人が返事をした。


「勝手にしろ。我々が狙う報酬を横取りしたら……」


 睨み付けられたトムが降参のポーズで両手を挙げた。


「お前らに喧嘩なんか売るかよ。それにしても、そんなに女神のアイテムが欲しいのか?」


 女神のアイテム――ギルドアイテムのシリーズである。


 全て揃えれば真の効果を発揮する。


 その効果が欲しいために、攻略組のガチ勢が乗り込んできたのだ。


「アレは別格だ。女神の像、盾、杖……我々の持つ首飾りとティアラが揃えば、ギルドの恩恵は破格になる。次の攻略への鍵になっているかも知れないんだ」


 攻略には謎が多い。


 後から、これがあればもっと楽だったのに、なんて良くある話だ。


 何度も失敗し、情報を集め、そして挑む。


 攻略組は、そんな中でポン助たちの持っているギルドアイテムが鍵になっていると睨んだらしい。


 ローブを着た女性が一人の男を見た。


 彼だけ種類が違うローブを着ている。


 その格好は――情報屋たちのソレだった。


「間違いなくあいつらが持っているんだろうな?」


「間違いないよ。エルフの女王が持っていた盾も杖も、元は女神のものだ。次の攻略では必要になるね」


 女性は顔をアルカディアに向けた。


「そうか。まぁ、外れていても貴重なギルドアイテムだ。時間の無駄にはならないだろうさ」


 トムが肩をすくめて小さく笑った。


「おい、あいつらに決闘を申し込め。全てを賭けて戦え、ってな。囲んで逃げられないようにしろよ」


 アルカディアを囲むように、次々に浮島と飛行船が集まってきた。






 浮島の船首にポン助は立っていた。


 挑まれたのはギルド同士の戦争――自分たちのギルドに対して、挑戦を挑んできたのは十を超えるギルドだった。


 プレイヤーだけで三千人以上が集まっており、空の光景は圧巻だった。


 浮島と飛行船で逃げ場がないのだから。


 決闘の条件は、相手の拠点が沈めば負け……ポン助たちはアルカディアが沈めば負けだが、相手は全てのギルド拠点である浮島が沈まなければ負けにならない。


「……理不尽だな」


 正直に言って、あり得ない決闘だった。


 ただ、ポン助はギルド名の一つにガチ勢を見つける。


 ガチ勢がどうして恐ろしいのか? それは、とことん追い詰めてくるからだ。


 例えば、パンドラに最強というジョブやスキルのビルドはない。


 ボスに有効なジョブやスキルの設定であっても、それがプレイヤー同士の戦いになると有効ではなくなる場合が多い。


 対人に特化しすぎて、ボス戦で役に立たないというプレイヤーだっている。


 だが、ガチ勢は目標が決まると、それこそ一からキャラを作り直してしまう。


 相手にあったジョブやスキルの設定にするため、ボスだろうがプレイヤーだろうが狙われると大変だ。


 ポン助たちのように、アバターに愛着を持たないので最適な選択をして挑んでくるのである。


 もちろん、プレイヤースキルも非常に高い。


 船首にギルドメンバーが集まってくる。


 他の世界に助けに出ていたプライや、女性陣たちも戻ってきたようだ。


 アルフィーが堂々としていた。


「ポン助、どうしますか?」


 マリエラは両手を頭の後ろに回していた。


「このまま戦わないで降参する?」


 ポン助がそんなことを選ばないと分かっていて聞いているような態度だ。


 ポン助は全員の顔を見た。


 自分を信じ切っている。


(……みんなにポン助はどんな風に見ているのかな)


 恥ずかしくて、情けなくて、そして……寂しい。


 自分ではないポン助を見ている彼らの期待に応えるため、そして――自身の目的のために戦う道を選ぶ。


(対人特化になった攻略組と戦えるのは良い経験になる。それに、黙ってギルドを潰されていくのを見るなんて嫌だから)


 偽りでも、自分たちが築き上げた城に違いない。


 ポン助は仁王立ちになった。


「マナーが悪い。悪質だ。卑怯だ。……そんなことを相手に思わない、なんて言えない」


 全員が黙って聞いていた。


「だけど……一番は腹が立つ! 喧嘩を売られたこともそうだ。囲まれたのだって嫌だ。とにかくあいつらが許せない!」


 周囲からは「そうだ、そうだ!」などと声が上がっていた。


「黙ってやられるなんて趣味じゃない。みんな、準備は良いか!」


 全員が声を一斉に上げた。


「やってやるぜ!」

「あいつらの財宝を数えるのが今から楽しみだ!」

「俺のとっておきを見せてやる!」


 ポン助はギルドの決闘――戦争の申請を受け入れるため、宙に浮かんだ画面のボタンを押すのだった。


 タイマーが作動し、二時間後の会戦となる。


「配置に付け、野郎共!」


 ポン助の言葉に、一斉に全員が駆け出した。






 トムは相手が決闘を受けたのを見て笑っていた。


 浮島や飛行船を囲むように薄い膜がドーム状に発生し、そこから誰も逃げられないようになる。


「ノリが良いじゃないか。流石はエンジョイ勢だ。まぁ、楽しくボコボコにしてやるよ」


 トムの近くに立っていたガチ勢たち。


 だが、彼らの様子がおかしい。


「おい、どうした?」


 先程まで余裕たっぷりだった女性が、オロオロとしている。


「い、いや……ゲーム内で何を話したら良いのか分からなくて」


 ガチ勢は基本的に――ゲーム内で喋らない。


 ログインする前に作戦を立てており、どんなクエストを受けてどれだけアイテムを確保するか事前に決めている。


 ログインしたら会話らしい会話などしないのだ。


 多少の話はしても、アクシデントへの対応や声かけ。


 時間に余裕があるのも駄目らしい。


「お、落ち着かないぞ」

「どうしよう。この時間があれば、レアアイテム獲得に二回は挑めたとか、そんな事ばかり考えちゃう」

「駄目だ……何をしたら良いのか分からない」


 事前に準備を済ませており、二時間も暇をするなどガチ勢にはあり得ないのだ。


 そのため、彼らが浮き足立っていた。


「……お前ら、そんな状態で戦えるのか?」


「ば、馬鹿にするな! 囲んで叩き、その後は乗り込んであいつらを沈めるだけだろ? 始まってしまえば動くだけだ。そっちの方がマシだ」


 物量差を利用して戦う。


 ここまで準備をしてきたトムは思う。


(まぁ、こいつらは切り札みたいなものだからな。そもそも、この段階で詰みみたいなものだし)


 多くのギルドに声をかけ、ポン助たちがいる時間帯に乗り込む。


 そして、精鋭で囲んで叩く。その前に、ポン助たちを疲弊させるのも忘れない。


 ここまでの状況を作ったトムは、負けることを想像していなかった。


(戦う前から勝負って言うのは決まっているんだよ)


 勝ちを確信するだけの戦力を整えた段階で、小細工など無用だった。


 後は全力で囲んで叩けば良い。


 トムはそう思いつつ時間が来るのを待つ。


 ……隣でオロオロするガチ勢に不安を抱きながら。






「時間だな」


 アルカディアを囲むように配置した飛行船や浮島は、大砲の準備が整っていた。


 トムはようやく、ふざけたポン助たちを倒して名を上げる機会が来たと思った。


 タイマーは残り三十秒をきって……。


「一斉射。その後、乗り込んで徹底的に叩くぞ。二度と這い上がれないように、トラウマも刻んでやれ!」


 精鋭たちだけあってその動きに無駄はない。


 大砲が火を噴くまで残り数秒……トムは時間が来ると振り上げた手を下ろした。


 浮島に並べた大砲が一斉に火を噴き、爆発音と一緒に風が発生してトムが着けているマントを揺らした。


 次々にアルカディアへと砲弾が撃ち込まれ、爆発で灰色の煙が浮島を覆い隠した。


 それでも攻撃を止めることはない。


「叩き込み続けろ。相手に行動なんてさせるな」


 徹底的に叩くつもりのトムは、順調に事が運んでいるとほくそ笑んでいた。


 だが――。


「カイザー! 複数のギルドが敵の奇襲を受けました!」


 トムは振り返った。


「何だと?」






 空の上。


 翼の生えたロバに乗る一団がいた。


 ポン助を筆頭としたオークの集団だ。


「パワーアップしたロバの力を見せてやる」


 憎らしい顔をしたロバたちの背には小さな翼が生えていた。リアルでなら絶対に空を飛べないだろうが、ここは仮想世界。


 プライがロバの手綱を握りしめ、


「我々がただ受け身であるという考えは実に甘いと言っておこう。さぁ、ポン助君。我々の獲物は――」


 そこまでプライが言った段階で、敵の浮島の一つが火を噴いた。


 そちらを見ると――。






 右手にバズーカを持っているのはアルフィーだ。


 使い捨ての課金装備は、五発撃つだけで数百円が消えて行く。


 そんなバズーカをいくつも背負ったアルフィーは、アルカディアに砲撃を続ける浮島の一つに乗り込むととにかく大砲を破壊して回っていた。


「流石は課金装備ですね。ガリガリ耐久値を削ってくれますよ」


 左手に持ったガトリングガンは、空冷式であるために回っていた。


 近付くプレイヤーたちを蜂の巣にして赤い光に変えていく。


「おや、大砲を扱っているのはギルドでもレベルが低い人たちですね。これならたいした抵抗も期待できませんね」


 大砲を吹き飛ばし、そして使えなくなったバズーカを捨てていく。


 次のバズーカを構えると、浮島の中に作られた拠点――屋敷に向かって引き金を引いた。


 建物に直撃すると、大爆発を起こした。


「良く燃えますね!」


 笑いながらバズーカを撃ち込んでいくアルフィーに続き、浮島に乗り込んできたのはポン助と愉快な仲間たち――ギルドの仲間たちだ。


 アルフィーが馬――羽の生えた馬に乗って乗り込み、暴れ回ったところで乗り込んできたのだ。


 武器を持った仲間が、課金装備ではないが爆弾を投げつけ周囲を破壊していた。


「皆さんもやりますね。さて、私もポン助のために頑張って吹き飛ばさないと」


 バズーカを構えると、やってきたのは敵ギルドの中でも戦闘特化のプレイヤーたちだった。


「この糞尼ぁぁぁ!」


 ギルドを滅茶苦茶にされ、頭にきたのかプレイヤー数人が斬りかかってきた。


 手には剣や槍を持っている。


 ただ、アルフィーは問答無用でバズーカの引き金を引き――彼らを吹き飛ばした。


 敵はアルフィーを囲む。


「酷いですね。そっちが仕掛けてきた戦いでしょうに」


 中心的な人物が指示を出す。


「課金装備は耐久値に問題がある! 持久戦だ! これだけの数で囲んで叩けば怖くない!」


 課金装備を持っているから最強になれるわけもない。


 だが――。


「良い判断です。さて、バズーカも使い切った事ですし、次はこちらを試しましょうか」


 赤いドレスが黄金に輝き、ガトリングガンを放り投げたアルフィーは両手にそれぞれ剣を握った。


 ついでに、周囲に――。


「手榴弾!? 伏せろ!」


 大量の爆弾を放り投げていた。


 課金装備の金の剣と銀の剣を握りしめ、アルフィーは駆け出すと近くにいたプレイヤーを斬った。


 相手は怯んでいたので一撃で消えて行くと、金の剣が砕け散る。


 敵がアルフィーを見て、


「攻撃力が馬鹿に高い課金装備は耐久値に問題がある。一人二人倒したところで――」


 そこまで口にすると、アルフィーは銀の剣でそのプレイヤーを斬った。


 消えて行く瞬間、プレイヤーはアルフィーの両手を見た。


 柄を捨てたアルフィーが、また新しい課金装備――同じ金と銀の剣を取り出している姿を。


「お、おまっ!」


 今の戦いでいったいいくらつぎ込んだのか? そんな事を考えているプレイヤーから視線を外し、アルフィーは笑顔で次のプレイヤーを斬っていた。


「――今日は課金制限を解除されたんです。まだまだ使えますよ」


 本気で攻められたので、今日の戦いに限って課金を許されたアルフィー……そして、ギルドのメンバーたち。


 敵のプレイヤーたちも課金はしているが、こんな湯水のように使えない。


 一人が逃げ出したところで背中を斬られた。


 新しい剣を用意し、肩に担いだアルフィーが周囲を見る。


 プレイヤー全員が消えており、


「さて、この拠点を落とすために機関部を目指しますか」


 やってきた仲間と合流し、アルフィーは浮島の中心部を目指す。


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