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エキサイティング!

 六つのギルドによる協同攻略。


 ポン助は、その提案に自信を持っていた。


「ぬんっ!」


 それぞれの両手に無骨で巨大な大剣を握りしめ、まるでポン助を中心とした嵐のように振り回していた。


 吹き飛ばされていくモンスターたちは、壁にぶつかり赤い粒子の光に変わる。


 一際大きな黒騎士が飛び出してくるとポン助に持っていたハルバードを振り下ろしてきた。


 大剣を交差させて受け止めると、ポン助の足が地面にめり込む。


「――ミノタウロスのアンデッドか」


 兜から覗く骸骨はミノタウロスのもので、プレイヤーが使用するアバターよりも大きくて化け物感が出ていた。


 無理矢理大剣でハルバードを弾き飛ばすと、モンスターはハルバードを振りかぶった体勢になった。


 フラフラと体のバランスを崩したところに、ポン助は大剣を光らせ――そして刃を炎が包むとそのまま斬りかかる。


 乱暴に何度も斬りつけ、モンスターが赤い光になって消えると今度は数を出してポン助を囲もうとしてくる。


 だが――。


「甘いですね」


 砦の中。


 建物の上に陣取った狙撃手であるプレイヤーたちが、ポン助に襲いかかるモンスターたちを撃ち抜く。


 建物の上では、アルフィーが銀の大きなライフルを構えてスコープを覗いていた。


「課金アイテムの聖銀の弾丸はいかがですか? まだまだありますよ!」


 一発の値段はたいしたことがなくても、それが十発、百発となると話が変わってくる。


 一度の攻略戦で、使用する弾丸の量は一人のプレイヤーでも結構な量だ。


 二丁拳銃のスタイルで、銀の拳銃を持つリリィがポン助の後ろに回り込むモンスターたちを撃ち抜いていく。


「本当に嫌よね。辛気くさくてホラー映画みたい」


 ポン助は笑って大剣を肩に担ぐ。


「助かりました。それにしても、やっぱり頼りになるギルドに声をかけて良かったですね」


 ポン助立ちの周囲にも敵は集まってくるが、それでも勢いが違う。


 砦に入ったギルドは六つ。


 それぞれがギルドごとに暴れ回っており、ポン助と愉快な仲間たちへ集まるモンスターも限られてくる。


 あふれるように出てくるモンスターたちだが、その勢いにも限界があるようだ。


 ギルドメンバーのナイアが、武器を背中に担いでクラウチングスタートの体勢に入った。他の仲間たちはナイアから離れる。


 ミノタウロス種の特技スキル――ホーンアタック。角を前に突き出しての突撃だが、スキルを鍛えていくと。


「邪魔だぁぁぁ!」


 ナイアが駆け出すと、その前方にいたモンスターたちが直線上に赤い光になって消えて行くのだ。


 まるで、光の道が出来たような光景。


 ポン助の近くで控えていたマリエラは、その光景を見て引いていた。


「何アレ? “あっち”で何かあったの?」


 リリィは弾倉を慣れた仕草で交換し、その間に近付いてきたモンスターは回し蹴りで倒す。


「離婚問題ですって。ストレスでも溜まっているのよ」


 攻略の最中とは思えない会話だった。


 ポン助はこめかみに指を当てた。


『おい、ポン助。返事が出来るなら答えてくれ』


「ルーク? 何か問題でも?」


『問題はない。敵が強くて楽しいくらいだ。ただ、こっちはどうにも外れらしい。城に入る道がない』


 砦と言っても城塞都市のような雰囲気だ。


 城があって、その周りに建物がいくつもある。全体を囲むように壁が存在しており、壁を越えたプレイヤーを待ち構えていたのが、建物の並ぶ迷路だった。


 本来なら侵入するまでも大変なのだが、ポン助たちは直接乗り込んだので迷路の途中からスタートした状態である。


 区画がいくつかに分けられており、ルークたちは外れのようだ。


 次々に通信が届く。


『ポン助、こっちも駄目みたい。引き返すけど、駄目な区画を教えて』


 プラチナが残念そうに通信を入れてくる。


『こちらも外れだ。指示をくれ』


 いさみも同じようだ。


 ポン助はステータス画面を表示し、地図を確認すると自分たちが足を踏み入れた場所以外は黒く塗りつぶされ見えなかった。


「残っている区画は二つですね。こっちはまだ探査中です」


 まだ探査を進めていない区画を教え、通信を切ると今度はライターから通信が入った。


『ポン助君、上から見ているけど入り口は見えないよ。他のプレイヤーに上から指示は出しているけど、これは時間がかかりそうだね』


「引き続きお願いします。それから、物資の投下も」


『任せてよ。よし、次はお前だ』


 通信の向こうでライターが次のプレイヤーに声をかけていた。


『お、俺、高いところは苦手で』

『そうなの? 大丈夫……今日で苦手を克服すれば良いんだ。飛んでこい!』

『いやあぁぁぁぁ!』


 ライターに蹴られたのか、生産職のプレイヤー一人がポン助たちのところに落ちてきた。


 背中には大量に荷物が入ったようなリュックを背負っており、拠点で生産したアイテムを大量に所持している。


 落ちたギルドメンバーが涙を拭っていた。


「あの外道。いつか復讐してやる」


 周囲からギルドメンバーたちが集まってきた。


「回復アイテム頂戴!」

「弾丸! 弾丸をくれ!」

「武器が壊れたから代わりが欲しいんだけど」


 泣いているギルドメンバーの背負ったリュックに手を入れて、仲間がアイテムを持ち出していく。


 ポン助は注意した。


「みんな待って! 泣いている仲間がいるんだよ!」


 そんなポン助の言葉に、忌々しそうに泣いているプレイヤーを見ている集団がいた。オークたちだ。


「こいつ、なんで泣いているんだ?」

「もっと喜ぶとか、嬉し泣きする場面だろ」

「あ~あ、拙者も道具運びの係が良かったでござる」


 自由すぎるメンバーに呆れていると、建物の上を走っていたイナホとアンリがポン助たちのところに戻ってきた。


「み、見つけました!」


「城の入り口はこの区画だよ!」


 ポン助はすぐにこめかみに指二本を当てて通信を行う。






 城門にプレイヤーたちが集まると、城門の周囲にある建物が吹き飛ぶ。


 城門を中から打ち破るように出てきたのは、魔物の軍勢を率いた一つ目で四本腕の化け物だった。


 モンスター名はタイタン――そのアンデッドであるモンスターは、黒い鎧を身にまとっていた。


 ポン助はオークを前面に出して戦う準備に入った。


「次から次にモンスターが出てくるなんて酷いな。砦の攻略だけでここまで大変だなんて」


 モンスターの数が尋常ではない。


 流石に攻略難易度が高いだけはある。


 ポン助の後ろで状況を見ていたのはソロリだった。


「攻略難易度十二は、もしかして最高難易度かも知れないね。むしろ、ここまできついのに上があるとか言われても困る」


「まったくですね」


 モンスターたちが雄叫びを上げて突撃してくると、プライたちも雄叫びを上げる。


「突撃ぃぃぃ!」

「たまらねーぜ!」

「ボコボコにしてぇぇぇ!」


 奇声を上げて突撃するオークたちに阻まれ、モンスターたちが突破できずに足止めは成功していた。


 中学生組――シエラ、ナナコ、グルグル。


 その三名が魔法の準備に入った。


 シエラとグルグルが魔法を放つため、その時間稼ぎにナナコが前に出る。


 ギルドメンバーたちも魔法を放つ準備が整うと――。


「オークさんたち、早く退いてください!」


 ナナコがプライたちに下がるように言う。


 だが、プライは大盾を構えて敵の攻撃を防ぎながら振り返ると小さく笑っていた。


「ナナコちゃん――いや、姫の命令でもそれは聞けません。ここを退いたら、モンスターたちが流れ込んできます」

「俺たちに構わずに撃つんだ!」

「決めてくれ! きついのを一発決めて――」


 いつも通りのオークたちを前にして、ナナコは自己犠牲の精神に感動しているがポン助は冷静に腕を上げて振り下ろした。


「はい、攻撃」


 ポン助の命令にギルドメンバーたちが一斉に魔法を放つ。


「吹き飛べこの変態共がぁぁぁ!」


 シエラが敵よりも味方を狙って自分が持っている最高の魔法を叩き込んだように見えたが、ポン助は見て見ぬふりをした。


 他のメンバーも同じだ。


「この問題児ぃぃぃ!」

「お前らせいで俺たちの評判は最低だ!」

「お望み通り吹き飛ばしてやるぜ!」


 そんな仲間からの攻撃に、オークたちは――。


「らめぇぇぇ! 前と後ろから……あーっ!」


 吹き飛ばされ、黒く焼かれて地面に倒れ伏していた。


 無駄にステータスが高く、魔法職たちの全力攻撃を耐えきっていた。


 ポン助は思うのだ。


(仲間に向かって容赦のない攻撃をするみんなも十分酷いけどね)


 門番らしきモンスターを除き、ほぼ全てのモンスターを吹き飛ばしたポン助たち。


 ポン助が大剣を抜き、左手に大盾を構えると門番が駆け出してくる。


 ステータスが跳ね上がったのか、黒い鎧が真っ赤になっていた。


 ポン助が前に出ると、ブレイズが指揮を執る。


「味方に当てないように攻撃開始!」


 魔法使いに銃使い、弓使いたちが攻撃を行う。そんな攻撃の中を門番は突き進んできた。


 ポン助は一人前に立つと……。


「――みんな配置についたな」


 八人の嫁――システム上の嫁たちが、それぞれ門番を囲む用の配置についていた。


 アルフィーがスキル攻撃でライフルを速射して弾丸三発を一気に叩き込むと、ナイアが突撃して門番の体勢を崩す。


 その段階でコンボが発生し、弓と拳銃でマリエラ、リリィが追加でコンボを稼いでいくと。


 コンボの発生条件は難しくないが、それを続けるとなると難易度が上がってくる。コンボが増えれば増えるほどにダメージが加算されていくので、攻略組は積極的に狙う。


 だが、これは相手――仲間が必要なため、自分一人ではどうにもならない。


「貰った!」


 アンリが跳び上がり槍を突き立てれば、イナホが足下を駆け抜けナイフで何度も斬りつける。


 門番の頭上にコンボ数が増え続け、ポン助が跳びかかると大盾で殴り飛ばした。


 倒れた門番に鉄球を振り下ろすのはノインだ。


 フランも斬りかかり、門番が立ち上がろうとすると口から火を吐いて追加ダメージを与えている。


 コンボを稼げるのは同じパーティー……そして、システム上の繋がりがある夫婦だ。そのため、結婚システムは攻略組も重視していた。


 しかし、現実的に二人目以降の結婚は条件も厳しい。


 コンボだって九人いてもまともに稼げるプレイヤーなど少ない。


 立ち上がろうとする門番にダメージを与え続け、ポン助が懐に潜り込む。屈んだ状態の門番の腹を大盾で真上に撃ち抜くと、門番の巨体が浮かんだ。


「空中ならコンボも稼ぎ放題!」


 笑いながらマリエラが武器を持ち替えて跳び上がり、門番にダメージを与えていく。量に持った片手剣で斬りまくり、アルフィーが銃弾を頭部に当ててクリティカルを発生させ――。


「――終わりだ」


 ポン助は武器を持ち替え、落下してきた門番にオーク専用の大砲を向けて放つ。


 門番が吹き飛び、コンボ数もあってダメージはボスクラスの敵がすぐに倒されるダメージ量だった。


「やった~!」


「やりましたね!」


 アンリとイナホが喜び抱き合っていた。


 ブレイズもポン助の所に駆け寄ってくる。


「相変わらず凄いコンボ数だね」


「なんか上手くいきますね。普段一緒にパーティーを組んでいるからでしょうか?」


「それでもあの数は異常だと思うよ」


 強かった門番を倒し、ポン助たちが城の中に入ろうか迷っているとルークたちが駆けつけてくる。


 酷く残念そうな顔をしていた。


「おい、待ってくれても良いだろう!」


 ボスを倒して貰ったからラッキー! などと思うプレイヤーは少ない。ボスを倒すと、それなりの報酬が用意されているのだ。


 出来れば関わりたいのがプレイヤーである。


 ルークを諫めるのは、筋骨隆々のプレイヤーであるダンディーだ。


「落ち着け。本命は城の中だ。間に合ったと思うべきだ」


「そ、そうだな。ポン助、頼むから次は先走るなよ」


 ポン助は頭をかく。






 六つのギルドが集まり、城へと突入した。


 しかし、外から見るよりも城の中は広く迷路になっている。


 モンスターが少ないのはありがたいが。


「また迷路? 本当に疲れるんだけど」

「睡眠と食事のバッドステータスが出た」

「私も」

「おい、戻って休めよ」


 足を踏み入れたのはいいが、戦闘開始から既に一日が過ぎている。


 アバターの体だからと言っても、睡眠も食事もしなければバッドステータスが発生してステータスが全体的に下がる。


 ポン助は城の中が迷路になっているため、手頃な部屋に入ると休憩に入ることを宣言するのだった。


「ここで休憩に入ります。交代で睡眠と食事をしてください」


 城の中は石造り。


 入った部屋には長テーブルと椅子が並んでいた。


 どこかホラー映画に出てくる城のような雰囲気で、とても不気味な部屋だった。仮想世界ではそれらがリアルに見えて触れることが出来る。


 臭いも音も感じるのだ。


「ここで寝るのはきついぞ」

「俺は平気だって」

「お前、さっきから怖がっていたじゃないか」


 ただのゲームなら怖くないかも知れないが、これが体感型ゲームの醍醐味でもある。


 ポン助は周囲を見ながら指示を出していた。


 ブレイズが近付いてくる。


「ポン助君、外と連絡が取れない。通信もメッセージも出来ない制限エリアみたいだね」


「面倒ですね。誰かに戻って貰って、ライターたちに知らせて貰いましょうか」


 ブレイズも頷く。


「なら俺が行こう。ポン助君は先に休んでくれ。ギルマスが起きていると落ち着かない人もいるからね」


「そうですか? なら、先に眠りますね」


 仮想世界の中でも食事と睡眠は必須だ。


 ポン助はアイテムボックスから食料を取り出し、食べると横になるのだった。






 部屋の中、大の字になって眠っているポン助。


 その周りには、腕や足を枕にして眠っている女性陣と――中学生組の姿があった。


 だが、起きているプレイヤーたちもいる。


 全員が眠っては、無防備になるからだ。


 マリエラとアルフィーが起きており、見張りをしているギルドメンバーがチラチラと二人を見ていた。


「おい、またかよ」

「ギルマス、早く起きないかな」

「目を合わせるな! 俺たちは空気だ。空気になるんだ」


 ギルドメンバーが関わりたくないとしている二人の雰囲気――それは、今にも武器を取り出して決闘をしそうな雰囲気だ。


 剣呑な雰囲気の中。


「あんたがコンボの時にミスをするから、いつもより稼がなかったのよ!」


「私のせいにしないでくださいよ、この目立ちたがり!」


「この前もあんたが――」


「それを言うならマリエラだって!」


 聞きたくないと耳を塞ぐギルドメンバーたち。


 すると、先に休んでいたアンリが目を覚ました。


「五月蠅いわね。静かにしてよ」


「はぁ? さっさと起きて交代しなさいよ。それより、なんであんたがポン助の腕を枕にしているのよ! そこ、私の指定席よ」


 マリエラの言葉にアンリが馬鹿にしたように笑った。


「指定席なんて書いてなかったわよ。いい加減、正妻面とか辞めてくれない。同じアルバイト先でいつまでも関係を深められなかったあんたは、その程度の女なのよ」


 マリエラが無言で短剣を素早く抜くと、アンリも武器を抜いた。


「お情けでポン助と結婚した女が」


「それはあんたらでしょ?」


 二人の言い合いにアルフィーも参戦する。


「あんた“ら”? 聞き捨てなりませんね。私がお情けで結婚して貰ったと? 立場をわきまえてくださいよ」


 銃を手に取るアルフィーに、流石のギルドメンバーも戸惑う。


 一部の女性陣は。


「修羅場よ。修羅場が始まったわ」

「いいぞ、もっとやれ」

「ギルマスって、ハーレムが出来ているのを気づいているのかな?」


 楽しそうな女性陣。


 男性陣は、肩を落としてポン助を見ていた。


「あんなハーレムは嫌だな」

「俺も嫌だ。やっぱりハーレムはアニメやライトノベルが至高だよ」

「見た感じは、オークが女を侍らせているようにしか見えないけどね」

「ギルマスには同情しか出来ないな。まったく羨ましくないし」

「ねぇ、誰かカードゲームしない?」

「あ、俺がやる! ちょっと前にデッキを組み替えたんだ」

「俺もやる」

「新しいカードが出たのか? チェックしてなかったわ」


 男性陣は現実逃避――パンドラ内で流行っているカードゲームを始めた。こうした休憩時に楽しむために作られており、プレイヤー企画の大会も行われていた。


 何が凄いかというと、カードを置くとモンスターたちが普通に立体投影され戦うのだ。


 迫力もあるし、カードを集めるということ自体が好きなプレイヤーも多い。


 マリエラたちが睨み合い、ポン助が眠る。


 それをオロオロしてみているプレイヤーもいれば、楽しそうに見ているプレイヤーたちもいる。


 そして、ゲームをしているプレイヤーたちもいた。


 ――戻ってきたブレイズたちがその光景を見て、頭を抱えることになる。


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