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裏切り

 それはギルドで砦攻略に向けて話をしている時の出来事だった。


 ポン助は会議で協同攻略の許可が出たので、そのための打ち合わせをしていたのだ。


 側にはライターとブレイズの姿があり、プライは不参加。


 忙しいという連絡は貰っており、攻略には参加するとだけメッセージを貰っていた。


「……裏切りやがった」


 忌々しそうに呟くライターは、小柄で可愛らしいノームがしてはいけない表情でその報告を見ている。


 報告をしてきたのは、ギルドで偵察が得意なソロリだった。


 ソロリからの報告に、ポン助は溜息を吐く。


「情報を渡した途端にこれですか」


 ブレイズは考え込んでいる。


「ハンドレットを誘ったのは間違いでしたね。でも、どうして彼らは単独での攻略を急いだんでしょう?」


 ルークたちシルバーウイングス以外にも、複数のギルドに誘いをかけていた。


 ところが、有名ギルドが裏切って単独での攻略を行った。


 結果は失敗に終わったらしいが、複数のギルドが協力しようとしているところで裏切ったのは信用問題に関わってくる。


 ライターが情報を集めており、気になるネタに目を留めた。


「最近になって人が大勢抜けたらしいね。新しいギルドを立ち上げて独立、ってところかな? これ、残ったギルドメンバーは焦っていたかも知れないね。まぁ、だからって私たちを裏切ったことは許さないけどね」


 ブレイズも頷いていた。


「ですね。でも、攻略組が失敗したというのは問題ですね。砦の攻略は相当難しいかも知れませんよ」


 アッサリしているブレイズだが、やはり裏切り行為は許せないようだ。


 ポン助はニュースを思い出す。


(そう言えば、ハンドレットはニュースで分裂しているとか聞いたな)


 有名ギルドの一つが信用を失った。


 ただ、それはゲーム内の話だとポン助は思っており、二人と攻略について話をする。


「情報が漏れるかも知れませんね。砦の攻略はどうしましょう?」


 ライターは絶対に譲らない構えだ。


「絶対に攻略する! 都市攻略への参加資格も欲しいけど、とにかく攻略難易度が高いなら報酬も良いはずだ! レベル四で結構な量だったし、レベル十二なら絶対に期待できるって」


 やる気に満ちているライターに対して、ブレイズは冷静である。


「せっかくなら挑みたいかな。やっぱり、ある程度の難易度が欲しいのと、ゲームでも攻略情報がないというのはワクワクするし」


 難易度高めの初見プレイがお望みのブレイズに、ポン助が苦笑いしつつも二人の意見通りに攻略を行うことを決める。


「なら、計画通りに進めましょうか」


 攻略を始めよう――簡単に言うが、すぐに始められる物でもない。


 人を集め、アイテムを集め、攻略するための準備が必要だ。


 敵はアンデッド系なら、それに相応しい装備を揃えなければいけない。


 ライターが素材の在庫状況を確認しながら。


「素材は良いけど、準備には四日欲しいね」


 ブレイズの方も同意見のようだ。


「こっちも四日あれば、レベル上げが出来るかな。アンデッドに強いメンバーをメインにするとして、どう戦おうか?」


 人、物、そして大事なのは運用である。


 それらを正しく運用することがギルドマスターに求められる。


「正面からはきつそうですよね。ハンドレットがいるならそれも良かったんですけど、今からだと新しく声をかけている余裕もありませんし」


 準備には時間がかかるため、他のギルドも急に参加を求められても困る。


 それに、また裏切らないとも限らない。


 誘いをかけたギルドと協力して攻略したいが、ハンドレットの情報からするに攻略は厳しそうだ。


 ポン助は執務室の窓――ギルド拠点から、浮いている島を見た。


 島の周囲には青い空と雲が広がっている。


「……そう言えば、この浮島は動きますよね?」


 ポン助の言葉にライターが頷く。


「テストもしたから確かに動くよ。けど、燃料は買うしかなくて、基本的に資金の消費が――え?」


 ライターが説明をしている途中で、驚いてポン助を見上げた。


 どうやら、ポン助の考えていることを察したようだ。


 ブレイズが笑う。


「え? もしかして本気? ポン助君もぶっ飛んでいるよね」


 ポン助は恥ずかしそうに頭をかく。


「いや、出来たら良いな、って思いまして」


 三人がそのまま攻略について計画を練り、そして準備のために動き始めた。






 攻略難易度レベル十二の砦。


 ハンドレットの攻略失敗から数日が過ぎると、いくつかのギルドが攻略に乗り出した。


 攻略失敗で随分と追い込まれたハンドレットは、砦の場所を他のギルドに情報として売りつけていたのだ。


 そこに、攻略組を目指している複数のギルドが、連合を組んで挑んでいた。


「ハンドレットももう終わりだな」


 ギルドマスターである男がそう言うと、彼の友人であるプレイヤーが同意した。


「そうね。一時期は大手だったけど、今じゃ中堅も良いところね」


 女性アバターを使用しており、話し方も女性を意識している。


 ただし、中身は男だった。


 そんな友人になれているギルドマスターの男は、大剣を担いで集まったプレイヤーを見ていた。


 集めに集めた傭兵NPCの数も多い。


 とにかく、数で押し切り――自分たちも攻略組になろうと必死だった。


「けど良いの? 他の攻略組も動いているそうじゃない」


 友人の意見は気になるが、ギルドマスターは無理をしてでも攻略したかった。


「良いんだよ。早い者勝ちだ。それに、他の砦を探しても、準備をしている間に攻略されただろうが」


 砦を探し、そこから攻略というところで他のギルドに奪われてしまった。


 苦い経験をしているギルドは多く、早い者勝ちというよりも奪い合いの様相を呈してきた。


「でも……あいつらが関わっているわよ」


 友人の言葉に少し表情を曇らせる。


「だ、大丈夫だ。頭のおかしい連中が来る前に、全てを終わらせれば良いだけだ。よし、攻め込むぞ!」


 大剣を掲げると、準備をしていたプレイヤーや他のギルドが攻略のため砦に攻撃を仕掛けた。


 攻城兵器まで用意し、次々にプレイヤーたちが砦に向かっていく。


 外に出てくるのは、翼を持ったモンスターたちだ。


「出てきたな。弓隊!」


 魔法を使うにはまだ早い。


 弓や銃を構えたプレイヤーたちが、空を飛ぶモンスターたちに狙いを定め攻撃を開始した。


 そんな銃弾や矢の中を抜けて、地上のプレイヤーたちに襲いかかるモンスターたち。


 中には倒されるモンスターたちもいたが、三分の一は突破してしまう。


 友人が苦々しい顔をしていた。


「素直に魔法も追加しておくべきだったわね」


「まだだ! まだ早い! とにかく、近接戦が得意な奴らに味方の救援を急がせろ!」


 指示を出し、プレイヤーたちが動くと砦の門が動き出した。


「……打って出てくるつもりか?」


 ハンドレットの時には、敵は出てこなかった。


 こんなのは聞いていないが、ギルドマスターは落ち着いて対処する。


「すぐに前衛を向かわせる。タンクを前に!」


 立て役を前に出し、武器でも魔法でも対処できるように――そう考えていると、黒い馬に乗った黒い鎧を着た騎士たちが次々に門から出てきた。


 手には槍を持っており、プレイヤーたちが次々に倒されていく。


「魔法で吹き飛ばすわ!」


「――仕方ない」


 魔法を使用すると決め、プレイヤーたちや傭兵NPCが魔法を使用する。


 だが、それでも敵は削りきれない。


 暴れ回る敵を前に、この攻略戦がいかに困難かを見せつけられているように思ったギルドマスターだが、他のギルドから連絡が入る。


『やられちゃった。お先で~す』

『乙』

『乙で~す』


 連絡が入ってきたのは、とりあえず参加してみたギルドだった。


 いわゆるエンジョイ勢で、攻略組を目指している自分たちとは根本的に違う。何が違うか? 真剣味だ。


 ギルドマスターが怒鳴った。


「ふざけんなよ、糞雑魚が!」


 頭数程度になれば良いと思っていたギルドは、勝てないと判断するとレベルが下がるのが嫌だとか、そういう理由で簡単に撤退していく。


 すると、味方の負担は更に大きくなっていく。


 そこからは崩れるのが早かった。


『負けたのか!?』

『おい、なんでこっちに敵が来るんだよ!』

『撤退? 嘘だろ!』


 メッセージにコメントをするも、凄い勢いでギルドマスターのコメントが流されて誰もが状況を把握できていなかった。


 こういった細かい部分が、攻略組とは違って彼らの拙さに繋がっている。


 頭を抱えるギルドマスターに友人が問う。


「どうするの? 最終的な判断をするのは貴方よ」


「……撤退だ。ここから押し返すのは無理だ」


 絞り出すような声に友人が納得していた。


 ギルドマスターとして、被害を最小限にするため撤退を選ぶ。


「くそっ! エンジョイ勢のゴミ共が」


 悔しそうに呟き、戦場から逃げていくプレイヤーたちを見ながらギルドマスターはどんよりした雲の視線を向けた。


 戦場は、プレイヤー側の敗北でモンスターたちが引き上げて砦は無傷のまま。


「そもそも、こっちは限界まで頑張ったんだぞ。レベルも、装備も揃えて……もっと頼りになるギルドが居れば」


 自分たち程のギルドがもう少し居ればと悔やんでいると、曇天の雲が突き破られ浮島が出現した。


「な、なんだ!?」


「もしかして敗北後の演出?」


 ギルドマスターとその友人が驚いていると、雲を突き破って来た浮島は太陽の光が差してキラキラ輝いて見えた。


 島には建物があり、それら全体で見ると船のようにも見える。


 すると、砦に挑んだのか、他のプレイヤーたちが入れないようにフィールドが発生。砦とその周囲に薄い膜のような光が出現して入れなくなる。


「……まさか、俺たちが負けるのを待っていたのか?」


 いったいどこのギルドだと思っていると、浮島にはためく旗を見てギルドマスターが笑った。


 複数のギルドの旗が見えているが、中でも一番大きく――目立っているのは“ポン助と愉快な仲間たち”――オークの顔をモデルにしたような旗が見えたのだ。


「あいつら、本当にふざけていやがる」






 浮島から戦場を見下ろすポン助は後ろを向く。


「……出来ちゃった」


 完全装備のギルドメンバーたちに加え、ルークや他のギルドのマスターたちも半笑いという状況だ。


 ルークが場を仕切る。


 何というか……少し困っていた。


「う、うん。良いんじゃないか。システムの穴を突いた素晴らしい作戦だと思うし」


 攻略戦に参加を決めたギルド【ゴールデンアイ】のギルマス――プラチナも困った顔をしている。


「ギルド拠点にした浮島で突撃するなんて誰も試さないわよ」


 想像はするだろう。


 だが、実行するとなると話は別だ。


 浮島を動かすために消費する資金は、遊びで済ますほどの額ではない。攻略組では無駄を省くためにそんな方法を試さない。


 いや、むしろ……そこまでやるなら、最初から正攻法に全力をかける。


 声をかけたら参加を希望した【アイアンダンディー】のギルマス【ダンディー】は、小麦色の肌をした筋骨隆々のスキンヘッドだ。


「試したくても、その前にやるべき事を考えちまうよな」


 もう一組は【探検隊】のギルマス【ピンキー】だ。


 金髪碧眼の美少年の姿で、ハーフフェアリーという扱いに難しい種族を使っている。


「ですよね。エンジョイ勢も手を出しませんよ。やるなら、本気で取り組むことになりますし」


 出来るか出来ないか分からないことを、真剣に取り組むポン助立ちだけが出来る作戦でもあった。


 ポン助が恥ずかしそうに。


「うちは間違った方向に全力で突き進む人たちが多いので」


 プラチナが緑の髪を揺らして激怒していた。


「貴方もギルマスならしっかりしなさいよ!」


 ルークが手を叩く。


「はい、そこまで。こんなチャンスは滅多にないんだ。それに、アップデートで対策を取られるかもしれない。その前にこの状況を楽しんだ方が良くないか?」


 ルークの提案に腕を組んで黙っていたギルド【新撰組】のギルマス【いさみ】は、腕をとくと腰の刀を抜いた。


 分別の都で自治厨をしている有名ギルドだが、間違いなく優秀なギルドである。


 オークたちが声をかけており、この攻略戦に参加するのが決まったときはポン助たちも驚いた。


「……システムの穴を突く卑怯な作戦だ。だが、確かにこんな経験は滅多に出来ない」


 ダンディーとピンキーがヒソヒソと話をしていた。


「どうして彼らがここに居るんだ? 言っては悪いが、ポン助たちとは水と油だぞ」


「自治厨は忙しいから、こういうチャンスに全力を出さないと都市攻略に参加できないからね。ほら、分別の都で忙しそうにしているし」


 自治活動に忙しいため、こういう機会を求めていた。


 いさみは不敵に笑うと。


「新撰組、抜刀!」


 揃いの羽織を着た集団が、武器を抜くと戦闘態勢に入った。


「一番槍――参る!」


 そう言って浮島から飛び降りていく新撰組を見て、ポン助が叫ぶのだった。


「あ、ちょっと! もっと高度を下げてからの方が!」


 迷いなく突き進む新撰組のメンバーに、ポン助は少しだけ引いた。


 気が付けば、ルークたちがバイクに跨がり――。


「俺たちも行くわ。お先!」


 後ろにミラを乗せたルークが、バイクで浮島から落ちていく。


 他のギルドも、我先にと落下するか待つかの二つに分かれた。


 浮島で砦に直接乗り込むポン助たち。


 砦からは翼を持つモンスターたちが浮島に殺到するも――。


「ヒャッハー! 蹂躙タ~イム!」


 ライターたち生産職が、用意した大砲やら銃を使用してモンスターたちを打ち落としていく。


 地面に固定されたそれらは、装備できる物よりも強力だ。だが、代わりに持ち運びが難しいというデメリットもある。


 しかし、敵の方から来るなら――なんの問題もない。


「レベル上げだぁぁぁ!」

「ガトリングの弾持って来い!」

「ウッハー! レベルが音を立てて上がっていくぜ!」


 気が付けば、残っていたのはポン助たちと――ギルド探検隊のピンキーたちだけだった。


「何? ポン助さんのギルドはいつもこんな感じ?」


「……申し訳ない」


 浮島はどんどん降下を続け、そして砦の屋根にぶつかると動きを止めた。どうやら、島で押しつぶすという事は出来ないらしい。


 止まった瞬間も、リアルなら大きな揺れが生じるかも知れないと想像できるが、仮想空間では想定していなかったのか、ピタリと止まってしまった。


 そんな動きに、ピンキーが考察を始めた。


「これは、運営も想定していなかったのかな? まぁ、真面目に考えて実行する人たちも少ないと思うし、想定なんかしないよね。浮島にギルド拠点を作れるようになったのも最近のことだし」


 ブツブツと呟くピンキーに、ギルドメンバーが声をかけていた。


「ギルマス、考えるのは後にして!」


「おっと、そうだった。なら、僕たちも行こうか」


 ポン助も控えているギルドメンバーに振り返った。


「行こう!」


 雄叫びを上げて走り出すギルドメンバーが、次々に砦に落下していく。


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