幕間
「お祭りですか?」
「いや、お祭りが好きな集団かな? とにかく、少し変わったお祭りが好きな集まりだ」
建設中のギルド拠点でフランに声をかけられたポン助は、ギルドマスターなのにライターの指示で作業を行っていた。
ギルド拠点建設は、最初から用意されたサンプルデータを使用しないために時間がかかっている。
やたら金と時間がかかる拠点のため、ギルドメンバーは大忙しだ。
そんな時にフランから祭への参加を提案された。
「お祭りかぁ……いいですね」
楽しみという感じのポン助に、フランは首を横に振るのだった。
「いや、お祭りのための準備という奴だ。どうしてもオークを連れてきて欲しいらしい。なんというか……仮装パーティーなのか? そんな集まりというか、お祭りをするらしいんだ」
フランの説明に首を傾げるポン助だが、手伝って欲しいと言われれば手伝う。
「オークですか? いったい何をさせるつもりなんでしょう?」
ただ、気になるのはオークを集めているという内容だった。
フランが腕を組む。
ノインほどに大きくはないが、フランも巨乳だ。
ポン助はその動きから、アバターデータをフランが少しだけ修正している事に気がついた。
別に珍しい事ではない。男性ならリアルではプヨプヨした肉体でも、仮想世界では筋肉質な体になりたい。誰でもそう思う。
(カップを大きくしたな。それにしても――大型アップデートで更に胸の動きがリアルになった気がする。もっとプヨンって感じで動いてくれても良いのに)
大きな胸が揺れると、よく表現でポヨン、などと胸が動く場面がある。
だが、現実では脂肪の塊で重量があるのだ。激しく動けばビタンッ! などという音がしてしまう。
現実よりも、もっと幻想的な胸の動きをポン助は求めていた。
そのため、よりリアルになったパンドラの世界に寂しさを覚えてしまう。
「……おい、どこを見ている」
遠くを見て寂しそうにしているポン助だが、フランはその前に自分の胸を見ていたのを見逃さなかった。
「いえ、少し寂しいと思っただけです」
「さ、寂しいだと! わ、私の胸がそんなに寂しいのか!」
「そういう意味じゃないです」
そんなところに、中学生組がやってくる。
グルグルは、アバターを女性に変更してから更に女性らしくなっていた。
ポン助はソレが心配だった。
「あ、ポン助兄ちゃんとフラン姉ちゃん。二人とも、サボっているとライターが五月蝿いよ」
ポン助は両手で顔を覆った。
(こんなリアル中学生にまで社畜根性を植え付けるライターって……)
ナナコがアバターの尻尾をフリフリさせながら、ポン助が事情を話すのを聞いて。
「お祭りですか? 私たちも参加したいです」
三人のまとめ役であるシエラが、少し疑った目をポン助とフランに向けていた。
「……なんだか怪しい集まりに感じますね。そもそも、お祭りにオークを集める意味って何ですか?」
フランが首を傾げている。
「私も分からない。ただ、オークを出来るだけ集めて欲しいそうだ。彼らは主にエルフの集まりで……確か、ど、どうじんし? を復活させると言っていたな。私にもコスプレで参加して欲しいと言われた」
ポン助が首を傾げる。
「同人誌ですか? 僕、聞いたことはあるんですけど、詳しい内容は知らないんですよね」
(でも、あれって少しエッチだったような?)
伝説の同人誌。夏と冬だけの祭典。
ポン助が知っている知識というのは酷く曖昧だったが、同人誌と聞いて少し危ない感じがした。
ナナコとグルグルが目を光らせる。
「コスプレですか! 私、可愛い衣装を着てみたいです!」
「お、俺も!」
シエラがえ!? という顔でグルグルを見ている。そして、ほんのりと顔が赤くなっていた。
五人で騒いでいると、オークたちがノソノソと集まってきていた。
目を血走らせ、口々に。
「ど、同人誌だと」
「そうなるとオークの役目は……」
「まさか、伝説が復活するのか」
その雰囲気に圧倒されるポン助たちだったが、プライが前に出てフランに見事な土下座を行った。
「是非とも我々にも参加させてください!」
その熱意と、あまりにも綺麗な土下座の前にフランも――。
「は、はい」
というしかなかった。
そこはエアポケットと言われる違法エリアに指定される場所。
ただ、見晴らしの良い草原にあり、悪質なプレイヤーたちが集まることはなかった。
フランが引き連れたオークたちを前に、ハイエルフが目を輝かせていた。
「やっぱり私の目に狂いはなかったわ! フランさん、これで私たちの目的が達成できるわ……ありがとう!」
金髪碧眼の美しいハイエルフの【ティオ】は、まるで理想型のハイエルフだった。しなやかな手足はモデルのようで、胸はBカップだとポン助はすぐに見抜く。
そんな彼女が率いる集団も、見目麗しいアバターが多い。
多くはエルフ。ポン助たち色物の集まりとは正反対に見えた。
フランが若干、ティオの勢いに引きつつも頷く。
「み、みんな協力してくれるらしい。それよりも、何をさせるつもりなんだ?」
すると、ティオが指を鳴らした。
ティオの仲間たちが次々にイラスト作成の準備に入り、ポン助たちを囲む。輪の中に入ってくるのは、綺麗なアバターの女性たちだった。
妙に衣装の露出が多い。
「同人誌作製のためにモデルになって貰うわ。そして、ここはエアポケット……運営も監視できない場所! お互い、派手に密着しても警告されない場所よ!」
それを聞いてプライたちが大興奮だった。
「なる程! では、我々が呼ばれたのは!」
「えぇ、そうよ! 同人誌と言っても、まずはみんなに親しみのある世界観で興味を持って貰わないといけないわ。なら、やっぱり最初はパンドラを題材にして作品を作るのが一番! やっぱり相手役はオークしかいないわね」
盛り上がっているエルフとオークたち。
周囲はそんな彼らをスケッチし、これからイラストを作成するらしい。
ポン助はフランたちと話をする。
「いったいどういう事ですか?」
「いや、私も詳しくは聞いていないんだが……彼女たちは、パンドラ内で同人誌の即売会を開きたいらしい。ほら、現実世界よりも仮想世界は時間があるだろ?」
現実世界の数時間が、仮想世界では数日にまで引き延ばされる。
(なる程、イラストなんかの作成には向いているな)
パンドラ内で作品を作り、それを売ろうというのだ。
生産職でもそうした職業があり、拠点を飾る絵などを販売しているプレイヤーもいた。
ナナコが感心している。
「色んな人たちがいるんですね」
グルグルも同じだった。
「ところで、なんで同人誌って言うの?」
そんな素朴な疑問に答える前に、シエラが周囲の雰囲気がおかしいことに気が付いた。
「ちょっと待ってください。なんだか少しおかしいですよ……」
全員の視線がプライたちに向かった。
オークたちは大の字で地面に横になっており、どんな攻撃もウェルカム状態だった。
ただ……それは相手も同じだ。
ティオを始め、女性プレイヤーたちもオークが襲ってくるのを待って大の字で地面に横になっている。
ポン助が呟く。
「……なんだ、これ?」
プライが嬉しそうにしていた。
「同人誌……いったいどんな責め苦が待っているのか楽しみで仕方がないね」
オークたちも同感のようだ。
「きっとこの豚め! って罵ってくれるぞ」
「拙者は踏まれたいでござる。ティオ殿にグリグリ踏まれたいでござるよ!」
「あぁぁぁ! 待ちきれないのぉぉぉ!」
対して、ティオたちも。
「やっぱりエルフの相手と言ったらオークよね。あの不細工な顔。雄々しい筋肉……きっと同人誌が厚くなるわ」
「ギルマス、ワクワクしますね!」
「もう乱暴に扱われて、最後は奴隷市とかで売られて……この展開、いいわね」
楽しそうに横になる両陣営。
イラストを作成するプレイヤーたちがざわめいていた。
「お、おい、どういう事だよ」
「なんでどっちも受けなんだよ」
「と、とにかくどっちかに動いて貰わないと絵にならないぞ」
そうして数分が過ぎると、両陣営は「あれ、ちょっとおかしいな?」などと思って起き上がった。そして、両者が待ちの状態でいるのを見て驚いて立ち上がる。
プライがティオを指差した。
だが、いつもの紳士的な物言いが影を潜めている。
「お前ら、これはいったいどういう事だ! なんで襲ってこない!」
ティオも眉間に皺を寄せていた。
ポン助はその様子を見て。
(……怖ぇ)
そう思った。
「そっちこそ、頭おかしいんじゃないの! 普通はオークが襲いかかってくるのよ! 見目麗しいエルフが、不細工なオークに蹂躙される……これこそが王道じゃない!」
オークたちが言い返した。
「古いんだよ、糞エルフが!」
「何が王道だ! 懐古主義者が!」
「今はオークが蹂躙される側なの!」
見目麗しい女性たちも言い返す。
「ふざけんな! オークは黙って襲いかかってくれば良いのよ!」
「そうよ。そっちの方が絵になるのよ!」
「オークが蹂躙される側? そんなの変化球みたいなものだか! 王道じゃないのよ!」
互いに罵りあい、そしてティオが武器を手にした。
「こっちが下手に出ていればつけ上がりやがって。実力行使よ!」
プライも武器を手に取った。
両者、共に真剣な顔をしている。
「エルフにあるまじき連中だ。パンドラのエルフと言えば、オークを迫害してこそだろうに! そのような分からず屋は、我々が修正してやる!」
両者、決闘を申請。
ガチの戦いを始めてしまった。
そこに普段のおふざけなど存在しない。
お前ら普段からもっと真面目に戦えよポン助が思っていると、グルグルがポン助の大きな指を手で掴む。
「兄ちゃん、少し分からないんだけど」
「何が?」
「オークのおっさんたちも、エルフの姉ちゃんたちも、基本的に同じ趣味なんだよね? なんで仲良くできないの?」
両者共にMだった。
それが悲しい結果を生んでしまったのだ。
ポン助は一言。
「同族嫌悪かな?」
そう答えるしかなかった。




