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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第六章

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結末

 プライたちオークは、エアポケット――運営が監視できない場所で作業をしていた。

「おい、どうだ?」

 周囲を警戒し、プレイヤーが来たら適当にあしらう。

 元幹部のオークがエアポケットからデータを解析すると。

「……よし!」

 大量のデータを手に入れた。

 それらの多くは役にも立たないが、その中の一部に今回の一件に関するデータがあった。

 プライが元幹部の手元を見た。

 重要な情報を抜き出していたところだが、運営が観光エリア――特に、希望の都にある観光エリアの消去を考えていた。

 プライはその大きな顎を手でさすっていた。

「なる程、もう客寄せパンダは必要ないという訳か」

 本来、観光エリアの目的はゲームを普段しないプレイヤーを獲得するためにあった。

 仮想世界という遊び場に、まるで旅行気分を味わえる別種の遊び場を用意したのはプライの言う通りプレイヤーを集めるためだった。

 だが、VRゲームがパンドラの一強になった今では、その施設が邪魔になっていた。

 元幹部が吐き捨てるように言う。

「あいつら、このエリアを完成させるのにどれだけ苦労したか知らないから! ……でも、これでだいぶ計画が進んでいるのは分かったな。わざわざ月から装置を運んできたと聞いたが、以前とはスペックが違いすぎる」

 月から運んできた装置。

 それがパンドラの性能を大きく引き上げている。

 大剣を担ぐデュームが元幹部に確認した。

「観光エリアを潰す目的は何だ?」

 元幹部が周囲を見渡す。

「……極論を言うなら、あいつらは現実世界を切り離したいのさ。現実世界の観光地やらそうした旅行気分を味わえる場所が嫌いなんだ。そもそも、パンドラ自体があいつらにとっての理想郷だからな」

 プライが吸い上げているデータを見つつ。

「それで対立を煽っていた、と?」

 頷く元幹部。

「前から煽っているみたいですね。今回、あの七人が暴れたのは引き金を引いたに過ぎない」

 オークたちがざわめく。

「……アレが? 本当に?」

 引き金程度ではすまないのではないか?

 オークたちは怪しんだ。





 聖騎士ルビンというプレイヤーがいた。

 その職業やスキル設定が、攻略組も驚くほどの組み合わせ。本当に駄目な見本を体現したプレイヤーだった。

「行くぜ、おらぁぁぁ!」

 ルビンが派手な魔法で周囲を吹き飛ばすが、レベル一桁のプレイヤーたちがまだ生きている。建物は崩れていない。

 派手なだけで、まったく威力のない魔法。

 しかし、そんなルビンを相手に苦戦しているのが観光エリアのプレイヤーたちだった。

「なんだよ、あいつ!」
「こっちの攻撃が効いていないじゃないか!」
「プレイヤー同士の戦いは、ダメージが極端に少ないんじゃないのかよ!」

 ゲーム的なシステムに興味がなかった観光エリアのプレイヤーたち。

 プレイヤー同士の戦いは、ダメージ量が極端に少なくなる。

 だが、それも圧倒的なレベル差があれば意味がない。

 むしろ、かなりのレベル差があるのに、とどめを刺せないルビンの弱さが凄かった。

 ルビンは剣を肩に担ぐ。

 外見だけを重視した装備は、攻撃力とか特殊効果など一切気にしていない。

「少しは骨があるじゃないか。まぁ、そうこなくっちゃ――な?」

 腰が引けている観光エリアのプレイヤーたちに向かって駆け出したルビンだったが、気が付けば体が赤い粒子の光に変わっていく。

「へ?」

 気がつかない内に斬られていた。

 レベル百を超えたプレイヤーが、一撃で倒されるのだ。

 当然、相手はそれ以上のレベルである。

 観光エリアのプレイヤーたちが唖然としていた。

「ちっ、雑魚が」

 いつの間にか現われたマリエラは、装備がボロボロになっていた。

 怪我も目立っており、回復アイテムを使用している。

 まるで邪魔だから斬った、みたいな感じだった。

 他のプレイヤーなど眼中にもない。

 装備を短剣から弓に変更し、周囲に目を配るマリエラは急にその場を跳び退いた。

 観光エリアのプレイヤーたちが唖然としていると――。

「貰ったぁぁぁ!」

 大きな鉄球がその場に降ってきた。

 地面に叩き付けられ、周囲に瓦礫をまき散らし砂塵が舞う。

 鉄球を振り回し、周囲のプレイヤーや建物を破壊して回るノインもボロボロだった。

 プレイヤースキルで言えばマリエラの方が強い。

 しかし、ノインの後ろからは――。

「退け!」

 砂塵を吹き飛ばす勢いで飛び出したのはフランだった。

 ノインが負けそうなところに、フランが合流してマリエラを追い詰めていたのだ。

 鉄球やら、瓦礫、それにマリエラたちが戦う余波で消えていく観光エリアのプレイヤーたちは……あまりに無力だった。





 アンリと対峙するポン助とナイアの二人。

 非常に危険な状態――興奮しているアンリは、目が血走ってとにかく怖い。

 まるで興奮しているのに合わせてステータスが跳ね上がっている気さえする。

 ナイアが自慢の戦斧がボロボロになったのを見て。

「ちくしょう……これ、レアドロップを集めるのに苦労したのよ!」

 泣き言を言っていた。

 いったいどうしてこんな事になってしまったのか?

 ポン助は自問自答を繰り返す。

(落ち着け、僕。まず、暴れているのは七人……マリエラ、アルフィー、ノインさん、フランさん、そしてイナホちゃんにアンリさん……最後にリリィさんだ。というか、何かおかしくないかな? マリエラやアルフィーが怒るのはともかく、他の五人が暴れるなんて想像もしていなかったんですけど!)

 ポン助――明人の自己評価は低い。

 子供の頃からの家庭環境も影響しているが、自分に好意を寄せているのが七人もいる時点で驚きを隠せない。

 まだ、ドッキリと言われた方が納得できた。

 目の前のアンリは、ポン助とナイアの二人を相手に善戦しているがボロボロだった。

「ポン助……なんで……あたしはずっと……」

 もう、まともに会話も出来ない状態だ。

 ナイアが引き気味というか、ドン引きである。

「ちょっと、ポン助君。リアルの彼女がいるのに、ゲーム内で他の人と結婚するとかどうかと思うわよ」

「いや、僕に付き合っている女性はいませんよ」

「え? なら、なんでこの子は――ストーカー?」

 ストーカーと言われ、アンリが激怒した。バードガールの髪は翼のようなデザインになっており、跳び上がると髪が広がり翼を広げた状態になる。

 だが、激怒したためか髪が大きく広がって逆立つように刺々しくなった。

 その様子が更に怖い。

「てめぇ、この牛女がぁぁぁ!」

 怒号響くその場所に、アンリの声を聞きつけプレイヤーたちが集まってくる。周囲の建物を破壊しながら近付いており、地面が揺れている。

「な、なんだ!?」

 ポン助が気付いた時には、周囲を更に六人の女性プレイヤーに囲まれてしまっていた。

 ナイアが呟く。

「マジかよ……ゲーム内で修羅場とかどう対処すれば良いのか分からないわ」

 ポン助は思った。

(ナイアさん、意外に余裕有るよな)

 普段は頼もしく楽しい仲間たち。

 だが、今は狂気に染まったガチ装備の殺し屋にしか見えない七人。

 砲身が回転しているガトリングを持ったアルフィーが、ポン助に笑いながら話しかけてくるが、涙が流れているのが恐怖を誘った。

「ポン助……なんで? 私の気持ちは分かっていますよね? なのに、なんで!」

 綺麗な顔のアバター。

 そして、リアルのデータを使用しているために、摩耶の顔で泣かれてはポン助も焦りを覚えた。

 だが――。

「ねぇ、ちょっと待ってよ。もしかして、本当に僕が結婚したから怒っているの? これ、一応はステータス重視の結婚なんだけど」

 ――納得できない。

 そもそも、結婚のシステムからして好きな相手というよりもステータス重視。

 別に仲の良い相手と結婚しても良いが、そうなると誰を選んで良いのか分からない。

 なら、ステータス重視で選ぼうとしただけだ。

 マリエラが震える手で弓矢を構え、そしてナイアを狙っていた。

「そうね。その牛女がいるからいけないのね。ポン助は大きな胸が大好きだからね! 大丈夫。すぐにアバターも作り替えて胸をもっと大きくするし、現実でも豊胸手術でもなんでもするから!」

 そもそも、そんな事を言われても嬉しくないポン助はドン引きだった。

(いや、出来れば天然物がいいかなって)

「ち、違います! そういう事じゃなくて!」

 慌てているポン助。

 ナイアは自分の胸を見ていた。

 メスなので胸もあるが、そもそもカップは大きくない。ただ、胸囲はミノタウロスの分厚い体。筋肉で数字が大きくなっているだけだ。

「このアバターだと、別に巨乳でもないんだけど」

 むしろ、大きい胸だと動きの邪魔にはならないが……なんか嫌だった。斧を振る時に触れて、現実だったら痛いだろうとか考えるようだ。

 イナホが震える両手で、禍々しい短剣を持っていた。

「ポン助さん……いくらなんでも酷いです。まだ、ギルドメンバーなら我慢できたのに!」

 内心、ギルドメンバーから選んでもどうせ面倒になったのではないか?

 ポン助はこの状況に――。

「とにかく武器をしまおうよ。というか、これって絶対に運営が対処するレベルの事件だよ。もうこれって事件だからね!」

 炎の海に沈んだ観光エリア。

 確かに、パンドラの歴史に刻まれる一日となるだろう。

 そして、ポン助は全員の様子がおかしいと気が付いた。流石にここまでする彼女たちではないと、心の中で信じていた。

「今からでも謝りに行こうよ。ほら、武器をしまって――」

 だが、全員が武器をしまわない。

 その武器を向ける先は――ナイアだった。

 マリエラが冷たい声を出す。底冷えするような声だった。

「なら、そいつを始末してからにするわ。簡単には殺さない。神殿で復活したら、そこにも待ち伏せをして何度も――何度も、何度も何度も!」

 全員の目付きが恐ろしいことになり、ナイアも流石に腰が引けていた。

 ポン助が激怒し、ナイアを庇うように前に出た。

(これはもう……僕も覚悟を決めるしか)

 それが女性陣には余計に腹立たしく、殺気が膨らんでいくのだが――。

「いい加減にしろよ! もう、度を過ぎているんだよ。これ以上はただの悪質プレイヤーと変わらないじゃないか! 前にナナコちゃんを襲った連中と同じだ。いや、それ以上に最悪だ」

 以前、ナナコの依頼を受ける中で、悪質なプレイヤーたちに追い回されたことがある。

 ポン助はソレを思いだしていた。

「これ以上迷惑をかけるなら……ギルドは解散だ。僕もアバターを作り直して、もう関わらない事にする」

 そう告げたポン助の決意は固い。

 フランが震えていた。

「そ、そうやってその女を庇うのか! 私たちよりもそいつを選ぶのか!」

 ノインが涙を流している。

「酷いよ。酷いよ、ポン助君!」

 全員の殺気が膨れあがり、ナイアを見るのだが――ポン助がソレを守るように前に立つ。ポン助に武器を向けるのを躊躇う一同。

「……武器を置け」

 どうにもならないのを察し、全員が武器を手放した。

 膝から崩れ落ちる一同は、無表情で涙を流していた。





 ナイアはポン助の後ろ姿を見ていた。

 ミノタウロスの方が少しだけ大きく、オークを見下ろす形になる。

 だが、それでも自分を守ろうと前に出たポン助の背中は大きく見えた。

 現実世界で自分を守ってくれない夫に期待した、守ってくれる背中がそこにあったのだ。

 泣きそうになるのを我慢するナイアだったが、周囲に次々に管理AIが操作するロボットたちが集まってくる。

『警告。貴方たちの行為は――』
『これより強制ログアウト、そして事情聴取を――』
『管理者権限に従い――』

 無機質な声が空から聞こえてくる。

 脚のない全身鎧姿の機械たちが、自分たちを取り囲み次々に強制ログアウトを行うのだった。





 そこは暗い部屋だった。

 ゲーム開始前に訪れる部屋。

 そこでポン助は、情報屋のアバターを前にして神妙な顔をしている。

「おや、不服そうだね? これでも頑張ったのに」

 情報屋から告げられたのは、一定期間のログイン禁止。ギルドの活動も禁止。

 ただし、一週間という期間だけだった。

 あれだけ暴れ回ったにしては、罰としては軽すぎる。

「想像以上に罰が軽いと思ったからです。もっと厳しくても良いと思いますよ」

 使用しているアバターの破棄。

 ギルドは強制解散。

 最悪、ログインの麦限定し処分も有り得ると思っていたポン助だった。

「別に君たちだけが暴れていた訳でもないからね。それに、前から一般プレイヤーと観光エリアのプレイヤーは軋轢があってね」

 きっかけを作ったのは間違いなくポン助たちだ。

 いや、そもそもポン助の結婚が引き金になったとも言える。

 ポン助が情報屋を真剣な顔で見た。

「……もしかして、パンドラはまだセレクターの影響があるんでしょうか? みんながあんな暴れ方をするなんて想像できませんよ」

 暴走した七人を思い出し、ポン助は異様さに気が付いていた。

 情報屋がアゴに手を当てて首を少し傾げた。

「こちらが気付いていない事もあるかも知れないね。確かに、あの七人が暴走したような印象はあった。詳しく調べてみよう。それはそうと……ポン助君、なんでギルドメンバーがいるのに他のプレイヤーと結婚したの? 揉めるって思わなかったの?」

 ポン助の視線が泳いだ。

「いや、陸――友人がメンバー以外の方が良いって勧めてきて。それに、能力重視だったから」

 情報屋が首を傾げる。

「あれ、聞いていないの?」

「何をです?」

「いや、結婚システムだけどね。見直しをして多重婚可能なんだよ。一人目以降は厳しい条件もあるし、恩恵も少なくなるけど」

 一人目との結婚は簡単だ。

 だが、二人目以降からは厳しい条件が設定される。

 特定クエストが種族ごとに用意され、レベルやら友好度の数値も条件に入る。レアドロップで作るゲーム的に強くない装備も必要。

 二人目以降は厳しい条件さえクリアすれば問題なかった。

「……え?」

「あれ? おかしいな……あ、ごめん! それ、次のアップデートで実装する奴だった。いや~、サービス再開したばかり忙しくて忘れていたよ」

 情報屋が笑っていた。

 ポン助が膝から崩れ落ちる。

「……そ、それじゃあ」

「もう少し待てば問題解決だったね。それにしても、観光エリアはどうにかしないと駄目かな? 希望の都からは撤去して、他の都市に用意するようにしようか。今後、こんな問題が続いても嫌だからね」

 ポン助は落ち込む。

「こんなのってないよ」

「うん、ごめんね。でも、これから君たちのせいで忙しくなる僕たちのことも考えて欲しいな」

「あ、すみません」

 呆気なく事件は終わってしまった。

 そう、ポン助は思っていた……。
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