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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第六章

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干渉

 元幹部がパソコンの画面を前に一人唸っていた。

 周囲には護衛と元大臣の二人がいて、元幹部の反応を見ている。

「様子はどうだ?」

 元幹部は大きく肩を落としていた。

「現実に干渉しているのは確かです。実際、ギルドマスターであるポン助がこのリゾート地に来るのに合わせて、ギルドメンバーが集結しています」

 元大臣が顎を撫でていた。

 このリゾート地に集まったのは、自分たちの意思ではなく仮想世界からの影響による物だと言われても信じられない。

「偶然ではないのかな? このリゾート地はオープンに合わせて大々的に宣伝していたからね」

「それでほとんどのギルドメンバーが揃ったと? 有り得ませんよ。彼らにも日常の生活があります。日時と場所までここまで合わさるのは不自然です」

 オンラインゲームのプレイヤーにはそれぞれの生活がある。

 明人が学生であるように、他のプレイヤーもそれぞれ生活がある。

 護衛の男が不思議そうに腕を組んでいた。

「未だに信じられませんね」

 元大臣も同意だった。

「それはつまり、ポン助君の指示に我々が従っているという事かな? パンドラがメンテナンス中の今でも?」

 元幹部は頷く。

「技術面で詳しい話は出来ませんけどね。ただ、そういう影響があると言うのは報告を受けていました。実験の中には、この現象を利用した物もありましたからね」

 仮想世界が現実に干渉する。

 聞けば漫画やアニメの世界だと人は笑うだろう。

 しかし、だ。

 人は日頃から影響を受けている。

 テレビ、雑誌、ネット……様々な媒体から情報を得られているが、VR技術の進歩で仮想世界と繋がっていると思えば、それも笑い話ではなくなるのだ。

「空想の世界に現実が追いついたと?」

 元大臣の言葉に、元幹部は自嘲気味に笑っていた。

「既に空想を超えていますよ。こうしている今も、パンドラのAIの掌で転がされているわけですからね」

 護衛である男が首を傾げていた。

「人体への影響もあると言っていたな。本当なのか?」

 元幹部は頷く。

「元々、パンドラはそのために作られた実験世界ですからね」





 砂浜。

 明人は中学生組と別れ、一人で歩いていた。

 星が女装に目覚めてしまった事に衝撃を受けたが、本人が好きなら仕方がない。辞めるように言うのも違う気がしていた。

 精々、危ない場所に近付かないように注意するだけだった。

「想像以上に似合っていて驚いたな。浅野ちゃんは自分より可愛いとか言って落ち込んでいたし」

 高校生の明人には対処できず、取りあえず三人は着替えて親元に戻っていた。

 残った明人は、八雲と摩耶が見つからないので……。

「さて、気を取り直してナンパでもするか!」

 一夏の思い出を作るため、ナンパに出かける事に決めた。

 成功するなどと思ってもおらず、話の種になれば……そして、成功したらそれこそ一夏の思い出にするつもりである。

 下心満載で砂浜を歩いていると、巨乳が大好きな明人は凄い巨乳を発見した。

「凄い、Gカップだ! そこのお姉さん、僕と一緒に――」

 フィットネスクラブの先生から教わったナンパ方法で声をかけたら、相手が振り返ってきた。

 高身長、スタイル抜群の相手は――。

「What?」

 ――まさかの外国人だった。

 後ろ姿と胸しか見ておらず、主に胸だけを見ていた明人はミスをしてしまったのだ。

「ホワッツ!?」

 あまりの出来事に狼狽えてしまう。

 VR技術で英語も多少は出来るが、本場の人と話をするなど難易度が高かった。

 たどたどしい英語で明人が謝って離れようとすると、相手はサングラスを外した。

「あら、ナンパじゃなかったの?」

 振り返る明人は驚く。

「に、日本語がお上手ですね」

 相手は肩をすくめていた。

「日頃から使っているからね」

 日本に来るのだから、多少は喋れるわよと言いながら相手が笑っていた。

「それより道を聞いてもいいかしら?」

 言われて明人は、自分よりも背が高く美しい女性に言われるまま道案内をする事になった。

 砂浜を歩くと、周囲の視線を集める。

 周囲がザワザワしている中を歩く明人は、首を傾げるのだった。

 相手の女性がクスクス笑っている。

「テレビとか映画は観ない人ね」

「え? あ、はい。モニターを点けても基本ネットニュースだけで。映画は古い物を観ていますね」

「古い映画ね。最近のも観て欲しいけど、確かに面白いのよね」

 映像の中だけで生きる過去の名優たち。

 一度地上に人が住めなくなってから、長い時が過ぎていた。

 ただ、女性は嬉しそうにしている。

「そっか。知らないのね。まぁ、こういうのも新鮮で良いわ」

 そういう彼女だが、明人は周囲を見ていた。

 何やらこちらを見ている気配が複数。

 それも、一般人ではない気配だった。

 鍛えられた外国人がこちらに意識を向けている。

 というか、日本の海なので浮いている。

(……実は凄い人なのかな?)

 緩やかにウェーブした金髪を揺らし、二人で向かった先は海辺の喫茶店だった。





 明人に案内され、喫茶店に入った【クロエ・バートン】は店内にいる客の視線を集める。

 声が聞こえてきた。

「ねぇ、もしかして、あの人って女優の――」
「有り得ないって」
「でも似てない?」

 彼女はスマホを取りだし、席を確認する。先に来ていた奏帆と――栗原杏里を見つけた。

 窓際のテーブル席。

 着席すると、奏帆はポカーンとしていた。

 だが、アンリは普通だった。
「あんたが【リリィ】? 結構な有名人じゃない」

 奏帆が驚く。

「杏里さん、知っていたんですか!?」

 杏里が首を横に振った。

「まさか。そんな気がしたのよ」

 普段、頭は悪いが直感的な物に優れている杏里に、クロエが微笑んでいた。

「ゲーム内と同じで安心したわ。二人とも可愛いじゃない」

 三人も今日、この日にオフ会を開いていた。

 奏帆が偶然・・にも手に入れたリゾート地にあるホテルの宿泊券。

 話をしたら、偶然にも三人が揃うことになったのだ。

 そう、偶然だと三人は思っていた。





 場所は変わって砂浜。

 そこには、慌てた様子で走ってきた八雲と摩耶の姿があった。

「あんたが長話をするから、明人を見失ったじゃない!」

「そっちが渋るからでしょうが! それより早く探すわよ」

 二人で駆け引きをしている間に数時間が過ぎていると気が付き、慌てて砂浜に来ると明人の姿が見えなかった。

 探している二人のところに、大学生くらいの男子四人組がやってくる。

「ねぇ、君たちも暇? 俺たちと遊ばない?」

 そんな四人組に振り返った八雲と摩耶は、女子がしてはいけないような表情をしていた。

 額に青筋を浮かべ、目を血走らせ……とにかく、大学生の男子たちがドン引きするような顔をしていたのだ。

「ヒッ!」

 大学生が四人とも後ろに飛び退くと、八雲が苛立ちながら口を開く。

「なんで暇だって決めつけるのよ。こっちは忙しいのよ!」

 摩耶も同じだった。

 笑っているが目が怖い。

「邪魔しないで貰えるかしら?」

 四人がすぐに退散すると、八雲も摩耶も急いで明人を探すために走り出すのだった。





 砂浜で体育座りをしている明人は、ボンヤリと夕日を眺めていた。

 そんな明人に何があったのか?

「……僕、もうナンパなんてしない」

 顔を俯かせ涙声になる明人。

 クロエと別れた後に話を戻すと、勢いでナンパを繰り返しことごとく失敗したのである。

 しかも散々な断られ方をしていた。

 それこそ、パンドラのNPCかと言いたくなるような断られ方だった。

 そんな明人のところに、走り疲れた八雲と摩耶がやってくる。

「や、やっと見つけた」

「ご、ごめんね。探したんだけど見つからなくて」

 息を切らした二人は汗だくだった。

 まともに海で遊んでいないのが一目瞭然である。

 そんな二人が明人を見て驚く。

「ちょっ! 何があったのよ! もしかして探し回った? ごめんね。こいつが――」

 八雲が心配してくれていた。

「本当にごめん! 埋め合わせは絶対にするから。本当はもっと早くに来たかったんだけど、こいつが――」

 摩耶が謝ってくれている。

 明人は前半の部分しか聞いていなかった。その後に続く、相手への暴言は考え込んでおり聞いていなかったのだ。

(二人を置いてナンパしていたのに、先輩も委員長も優しいじゃないか。僕はどうして自分の事ばかり考えていたんだ。そうだ。もっと二人と楽しめば良かったんだ。僕って最低だよ)

 深く反省し、ついでにナンパなどもうしないと心に決めた明人は二人に謝る。

「僕の方こそごめんね。明日はみんなで遊ぼう! あ、まだ時間はあるし海に入る?」

 近くに宿泊施設があるのだ。

 もう少しだけ遊ぶ時間はあった。

 二人も明人が不満に思っていないことに安堵したのか、その日は数十分だけ海に入って楽しむのだった。





 夜。

 食事を終えた三人は、部屋でノンビリしていた。

 摩耶がルームサービスを頼み、明人のところに戻ってくると隣に座った。

 大きなソファーだからおかしくもないが、わざわざ隣に座ったのだ。それを、八雲は咎めることなく黙って見ている。

 明人は首を傾げた。

「ルームサービス?」

「うん。ここの人気メニューなの。甘さ控え目のアイスと飲み物よ」

 摩耶は内心で笑っていた。

(ただし、媚薬入りだけどね。おじ様のホテルだから、こういう事だって出来ちゃうのよ。何しろ、おじ様はノリノリで後押しをしてくれるし)

 既に手配をしており、部屋に運ばれてきたときには仕込まれた後。流石に八雲も気が付かないだろうと摩耶は確信していた。

 明人は申し訳なさそうにしている。

「そういうサービスはお金がかかるよね? 今日は迷惑をかけたし、僕が払うよ」

 せめてルームサービス代くらい払いたいという明人に、摩耶は心が少しだけ痛んだ。

(……止めて。媚薬に頼っている私に優しくしないで。でも、今日だけ。今日だけだから)

「いいのよ! 別に気にしないでも!」

 八雲も大型モニターを見ながら同意していた。

 少し年齢層高めの映画を観ている。

「せっかくだから奢って貰いなさいよ。明日はジュースでも奢って貰うから」

 渋々納得した明人を見て、摩耶は安堵した。

 後ろ暗い手段に出ている自覚はあった。

 しかし、この機会を逃すことは出来ない。

 八雲がテーブルの上に置かれた飲み物を片付けていた。

 摩耶はその様子を見る。

(細工はしていないわよね? まぁ、注意をしてみていたし、同じ物を三人で飲んだんだから大丈夫でしょう)

 明人に夢中で脇が甘くなった摩耶。

 しかし、八雲は二人から見えない位置でニヤリと笑うのだった。

 全員が飲んだ飲み物に、薬が入っているとは気が付かなかったのだ。

 そうして、部屋にノック音が響く。

 ルームサービスである媚薬入りのアイスと飲み物が運ばれてきた……そう、摩耶は思っていた。





 違う部屋。

 ルームサービスを頼み、アイスを食べた三人。

 奏帆、杏里、クロエは、顔を赤らめながら大型モニターで映画を観ていた。

 額を押さえる奏帆。

(あれ? なんだか熱っぽいな)

 三人が見ている映画は、男優と女優のベッドシーンに突入していた。

 そこから三人の会話がピタリと止まっている。

 奏帆も目が離せない。

 誰かが唾をゴクリと飲んだ。

 自分かも知れない。

 そうだ、喉が渇く……そう思った奏帆が目の前にある飲み物に手を伸ばした。同じように手を伸ばしてコップを手に取るクロエと目があう。

 互いに潤んだ切なげな瞳をしていた。

(ど、どどど、どうしよう!? クロエさんが滅茶苦茶綺麗に見える! わ、私、そっちの趣味なんかないのに! 思い出せ! ポン助さんを思い出して耐えるのよ、奏帆!)

 一人内心で葛藤している奏帆。

 しかし、クロエが奏帆を見て舌なめずりをした。

 奏帆が内心で絶叫していると、杏里が――。

「どうしよう。……ムラムラする」

 ――なんとも直球な感想を述べた。

 三人が顔を合わせ笑い合う。

「な、なんか変よね。こういう映画はちょっと危険ね。よし、女の子らしい会話をしましょう。ガールズトークよ!」

 クロエも危険だと思ったのか、モニターの電源を切った。

 杏里が近くに置かれていたクッションを抱きかかえている。

「ガールズトークか……今だったら卑猥な感じになるし、無難に好きなタイプで終わらせる?」

 ムラムラしていると公言している杏里が、エロい方に話が進まないように定番の話を振る。

 奏帆が呼吸を整え自分の好みを口にした。

「や、やっぱり背中の大きな人が良いですね。筋肉質で、それで大きな人です」

 クロエも汗を拭き取りつつ同意した。

「胸板は厚い方がいいわね。お腹は出ていても良いの。でも、腕は太くて逞しいのが良いわ」
 二人が盛り上がって条件を絞り込んでいく。

「もう背はとにかく大きい方が良いです!」
「やっぱり荒々しさが欲しいわ。野性を感じさせて貰いたいの」
「いざという時に頼りになる人ですね!」
「そう! もう、とにかく頼りになる感じ!」
「お父さんみたいな!」
「え? 奏帆はもしかして……」
「ち、違いますよ。そういう感じで――」

 盛り上がる二人を余所に、今まで黙っていた杏里が口を開く。

「それって……ポン助じゃね?」

 二人が口を閉じて黙ってしまった。





 翌朝。

 摩耶が目を覚ますと、目の前にはルームサービスで頼んだアイスが置かれていた。

 辺りを見渡すともう朝になっている。

 時間は五時を少し過ぎていた。

 普段、その少し前に起きて準備をする摩耶は、この時間帯に起きると寝過ごしたと思ってしまう。

 しかし、ホテルである事を思い出して違う意味で焦っていた。

 明人も八雲もソファーで眠っていた。

 モニターには朝のニュースが放送されている。

「ど、どうして! 昨日は……ルームサービスのアイスを食べて、そのまま少し話をして……ま、まさか!」

 気が付いて摩耶は、ようやく目を覚ました八雲がニヤ嫌と笑っているのを見て全てを察した。

「あ、あんた、自分も薬を――」

「ようやく気が付いたの? 油断大敵、って奴よね。まぁ、約束通り二日目は貰うわ」

 八雲は自分も薬を飲んで眠っていたのだ。初日を捨てている八雲には、別に眠ってしまってもデメリットなど存在しなかったのを摩耶は気が付く。

(抜かった! この女、捨て身で自分も薬入りの飲み物を――)

 摩耶がとても冷たい表情をする中、八雲は清々しい朝を迎え背伸びをしていた。

 モニターでは朝のニュースが放送され――。

『――そのため、急な天候不良にご注意ください』

 ――そんな事を言っていた。
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