表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13日間の殺人犯  作者: かに
3day
6/12

4 二人目

町崎(まちざき)さん、ちょっといいですか?」

昼休み、下滝は1階の社員食堂を訪れ、窓際のテーブルで定職を食べ終えたばかりと見える、ウバメ貿易者の集計課長、町崎に声をかけた。

「ああ、下滝君か。昨日は色々と大変だったな。」

「ええ・・・これからどうなることかと・・・。でも温史さんがいらっしゃいます。心配はいらないでしょう。あの、ご一緒しても?」

町崎のイエスの身振りを確認し、下滝は彼の正面に座った。

先に切り出したのは町崎だ。

「何の用かな?」

「・・・いえ、たいした用事と言うわけではないんです。ただ、僕のパソコンに一通のメールが入りまして・・・。どうらあなた宛のようでした。」

町崎の眉がぴくりと動いたのを、下滝は見逃さない。

その額に、うっすらと冷や汗が滲んだようにも感じ取れた。

「その内容を見たのか・・・?」

「いい難いのですが・・・その・・・見てしまいました。」


目を泳がせながら小さく口ごもる下滝を前に、町崎は即座に椅子を引いた。

何も言わずにその場を立ち去ろうと立ち上がる。

「待って下さい、町崎さん。最後まで話を聞いていただけませんか?」

下滝は、意味ありげに声を潜め、悪意の篭った笑みを、少しだけ添えた。

「実は僕、社長の手伝い、させていただいてたんです。」

「何・・・?」

下滝の言葉の意図を瞬時に理解した町崎の目の色が変わる。

そこで下滝は本題を切り出した。

「あなたに不利な話をするつもりも、ましてや脅しをかけるようなつもりは一切ありません。ただ、少しお話を・・・。今夜、あなたのご自宅に伺っても宜しいですか?」




ーーーー




2人目の犯罪者への復讐の準備が整った。

今日も自宅に籠っていた、志麻田は押し入れの襖を引く。

そこにしまわれていた4台の液晶ディスプレイを慎重に抱え、パソコン本体と押し入れの間を4往復した。

さらに、キーボードも4台分引っ張り出し、ディスプレイと一緒に、本体の置かれたデスクの周りに並べた。

この為に購入した広めのデスクも、ディスプレイとキーボードを4組も置いてしまうと、殆ど隙間もないほど手狭になってしまった。

そんなデスク上のわずかな隙間に、ネットのオークションで落とした、今出回っている周辺機器の中でも、トップクラスの容量を持つハードディスクを接続した。

「よし・・・」

志麻田は本体のキーボードへ向かい、キーを叩く。

それと同時に、2台のディスプレイに表示されたのは、各6つに区切られた動画だった。

内3画面は、ターゲットである町崎の住む、多くの高収入者が自宅を構える大田区の高級マンションの映像。

そして、それ意外はマンション周辺の街灯防犯カメラのものだ。

「こんなセキュリティ、いじれるやつはすぐに突破できるぜ?マンションはともかく、警察は大丈夫なのかこんなので。」

志麻田は嘲笑しながら、マンションと大田区を管轄とする警察署のセキュリティに侵入し、今夜の為の細工を始めた。


数日前、志麻田は前もって、マンションの防犯カメラの数度に分け映像を盗みだし、録画しておいた。

その数日前の映像を、通行人が映っていない映像のみを選出し、それらを予定している犯行前後の時刻に合成し、映像の日付と時刻だけは、本日のものを表示させる。

誰が通っても、何も映らない、偽りの映像の完成だ。

すり替えた本当の映像は、編集した映像とディスプレイで監視し、今日の映像に映るマンションの住民の動きを見ながら、今回の実行を担当する下滝に、移動のタイミングを指示するのだ。

「便利だからって、コンピューター管理に任せれば任せるほど足を掬われるぞ。普通の防犯カメラの方が、まだマシなんじゃねぇか?」

そう皮肉の独り言を呟いた時、携帯電話が、ちゃぶ台を振動させた。

志麻田は椅子から立ち上がって電話を手に取る。

下滝からの着信だ。

『秀ちゃん。言われた通り、町崎のマンションへ行く約束を取り付けたよ。』

「そうか。じゃあ、早速2人目を始末するか。あいつのマンションも、周りの防犯カメラも、高性能の分厚いセキュリティを設けてるらしいけどな、ははは、俺にはそんなもん無意味だ。カメラの管理は俺にまかせな。」

志麻田は、せせら笑う。

自信満々の発言を聞いた下滝の声に、苦笑いが混じった。

『姑息な技術を身につけたもんだな。』

「そう言うなよ。で、そっちの方はどうだ?」

『町崎の事は調査済みだ。マンションにも一度だけ行ったことがあるしな。』

「そうか。じゃあ後は頼んだぞ、智。通信はマンションに着いてからでいい。そこから行動のを指示するからな。」


ちゃぶ台の上に置かれた、ラベルの無いの茶色の小ビン。

これと同じものを、下滝にも渡している。

2人目の“犯罪者”は、この小ビンの中身の餌食となる。

志麻田の姿が、光沢のあるガラスの曲線になぞるように歪んで映った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ