術者、悩む。の巻
目覚めさせた責任と、報いは受けるつもりだ。
あの後、俺の膝で眠ってしまった化け猫をよけることはできずに、壁に体を預けてため息をついた。
「……そばにいたい、か」
やわらかい毛並みが、この世のものではないとは思えない。でも、三つに分かれた尻尾はそれを表している。それも、二又ではない。三又なのだ。
にゅうと、子猫が鳴くような声を漏らして、化け猫はコロンと俺の膝の上で寝返りを打つ。
「……」
調伏して、無理やり送っても、こいつのことだ。川の向こうで俺を待つか、それとも怨霊になるか。そうすれば、転生できなくなってしまう。
ならば、そこらへんから飛び降り自殺でもして、とっとと死んで一緒に行くか。それもいいだろう。
でも、転生しても、一緒にいられるか、わからない。閻魔がそこらへんの考慮してくれるとはどこにも書いてなかった。
「……」
いつの間にか、こいつのために、考えている自分がいた。どうしてだろうか。
腹回りを撫ぜてやりながら、俺は雨の音を聞きながらため息をついた。
「どうして、じゃないか」
俺自身、もう、この子に情を抱いてしまっているんだ。
あの時、胸に甘えてしまったあの日からだ。
寂しいもの同士、寄り添っていきたいと、思ってしまった。彼女は霊だ。もう年を取ることはなくても、俺は、年を取ってやがて死ぬ。早死にできればいいが、そうもできない。
俺の、この過剰な霊力は、神様の、この地に坐す地祇の加護を預かっているからなのだと。だが、普通の化生ならついた途端、消し飛んでいるはずなのに、化け猫は化け猫のままだ。
「神獣の類か……」
何か、突破口が見つかればいいな、と思ってそっとため息をついて、化け猫を掴みあげて寝ころんだ胸の上に乗せるともぞもぞと収まりのいいところ探ってこてんと体を預ける。
すりすりと甘える毛玉を撫ぜて、俺はため息をつく。
この問題に完璧に答えられるだろうか。
到底難しいだろうなと目を閉じて、考えることを放棄した俺は、早めだとは思いながらも、休息をとった。