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化け猫と海に。  作者: 真川紅美
海を見に。
15/16

海を見に。

 それから数日、いられなかった分を取り戻すように共に過ごし、一つの約束を果たした。

 遠くから、近くから、寄せては返す波の音を聞いていた。

「海だー!」

 はしゃぎまわる美弥子に、智也はどこかあきれた顔をしていた。

 真夏の海といえば、海水浴だが、いろいろめんどくさいと、人のいない穴場スポットを探して、脱がないものの浜辺を散策していた。

「こけるなよ」

「こけないよー」

 穴場とはいえ、人はちらちらといる。それでも、平日では、学生しかいないようで、そんなに騒がしいことはなかった。

「智也ー!」

 智也は、半そでのシャツに、ジーンズというラフな格好で、美弥子の後をゆっくりと歩いている。

「どうした?」

 煙草をくわえて歩く智也は、ポケットに手を突っ込んで自分を待つ美弥子に追いついて、首を傾げた。

「すっごい様になってるんだけど」

「そうか?」

 首を傾げた智也は、日に焼けたことのないような肌を日にさらし、美弥子をのぞき込んでいる。

「なんか、モデルみたい」

 そういうと智也は首を傾げたまま瞬きをしていた。意味が分からなかったらしい。

「そういえばさ」

 智也の手を引いて、美弥子は波打ち際を歩く。

「智也、いつ目覚めたの?」

 見た感じ、そう、年が変わらないように見える。智也の若い面を見上げると、彼は、ああとうめいて煙草を手に持って灰を落とした。

「ほんの二年ほど前だな」

「二年? 私が生まれ変わったときじゃなくて?」

「……そうしたら、俺のほうがおじさんになるだろうが」

 年の差十九歳差の、最近よく聞くおじ様×若者の図になる。

「でも、智也だったらイケメンなおじ様になってたと思うよ?」

 さらりとほめるその言葉に、いくらカタカナ語になれていない智也でも意味が分かった。そっぽを向いて、照れを隠す智也に、美弥子の目がいたずらっぽい光を宿した。

「……でも、世間体ってやつがあるだろう。お前の生活になじめる程度になるまでに、お前が来ればいいと思って、早めに目覚めるように術の設定をしたんだ」

 波の音を聞きながら二人並んで歩いて、近くに転がっていた大きな流木に腰を掛ける。

「なじめるって?」

「お前が転生した先の世界、世間は、もしかしたら、世の中の仕組み自体丸々変わっている可能性があっただろう? ……まるで異国に迷い込んでしまったかのように」

「……たしかに」

「常長は、異国に触れている人間だったからな。もしかしたら、この日ノ本の国も異国のようになってしまうのではないかと、……先見の明だな、そういっていた。実際その通りでな。……いくら、二年前に起きて、常長の子孫に世話を焼いてもらったとしても、戸惑いはぬぐえないな」

「たとえば?」

「車。あと、馬がいないこととか、……そうだな、においもだいぶ薄い」

 目を細める智也に、美弥子はふっと笑った。

「その分、あたしは生まれてこれまで、この国に住んでいるからね。ちゃんとサポートできるよ?」

「……そうだな」

 とりあえず、働き口を見つけて、戸籍をちょろまかした、というだけで、智也はよくやったのだ。それができる体制を作り上げた常長にも礼を言うべきだろう。

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