海を見に。
それから数日、いられなかった分を取り戻すように共に過ごし、一つの約束を果たした。
遠くから、近くから、寄せては返す波の音を聞いていた。
「海だー!」
はしゃぎまわる美弥子に、智也はどこかあきれた顔をしていた。
真夏の海といえば、海水浴だが、いろいろめんどくさいと、人のいない穴場スポットを探して、脱がないものの浜辺を散策していた。
「こけるなよ」
「こけないよー」
穴場とはいえ、人はちらちらといる。それでも、平日では、学生しかいないようで、そんなに騒がしいことはなかった。
「智也ー!」
智也は、半そでのシャツに、ジーンズというラフな格好で、美弥子の後をゆっくりと歩いている。
「どうした?」
煙草をくわえて歩く智也は、ポケットに手を突っ込んで自分を待つ美弥子に追いついて、首を傾げた。
「すっごい様になってるんだけど」
「そうか?」
首を傾げた智也は、日に焼けたことのないような肌を日にさらし、美弥子をのぞき込んでいる。
「なんか、モデルみたい」
そういうと智也は首を傾げたまま瞬きをしていた。意味が分からなかったらしい。
「そういえばさ」
智也の手を引いて、美弥子は波打ち際を歩く。
「智也、いつ目覚めたの?」
見た感じ、そう、年が変わらないように見える。智也の若い面を見上げると、彼は、ああとうめいて煙草を手に持って灰を落とした。
「ほんの二年ほど前だな」
「二年? 私が生まれ変わったときじゃなくて?」
「……そうしたら、俺のほうがおじさんになるだろうが」
年の差十九歳差の、最近よく聞くおじ様×若者の図になる。
「でも、智也だったらイケメンなおじ様になってたと思うよ?」
さらりとほめるその言葉に、いくらカタカナ語になれていない智也でも意味が分かった。そっぽを向いて、照れを隠す智也に、美弥子の目がいたずらっぽい光を宿した。
「……でも、世間体ってやつがあるだろう。お前の生活になじめる程度になるまでに、お前が来ればいいと思って、早めに目覚めるように術の設定をしたんだ」
波の音を聞きながら二人並んで歩いて、近くに転がっていた大きな流木に腰を掛ける。
「なじめるって?」
「お前が転生した先の世界、世間は、もしかしたら、世の中の仕組み自体丸々変わっている可能性があっただろう? ……まるで異国に迷い込んでしまったかのように」
「……たしかに」
「常長は、異国に触れている人間だったからな。もしかしたら、この日ノ本の国も異国のようになってしまうのではないかと、……先見の明だな、そういっていた。実際その通りでな。……いくら、二年前に起きて、常長の子孫に世話を焼いてもらったとしても、戸惑いはぬぐえないな」
「たとえば?」
「車。あと、馬がいないこととか、……そうだな、においもだいぶ薄い」
目を細める智也に、美弥子はふっと笑った。
「その分、あたしは生まれてこれまで、この国に住んでいるからね。ちゃんとサポートできるよ?」
「……そうだな」
とりあえず、働き口を見つけて、戸籍をちょろまかした、というだけで、智也はよくやったのだ。それができる体制を作り上げた常長にも礼を言うべきだろう。