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化け猫と海に。  作者: 真川紅美
術者、呪われる。の巻
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術者、呪われる。の巻

 そして、騒々しいのを聞いて薄く目を開くと、化け猫と、常長と、その妻、リンがいた。

「こりゃ、ひどいな……」

「……」

 化け猫の怒っているらしい気配が感じられる。

「あんたがこんなもの持ってきたせいで!」

「確かにな。……呪詛に気づけなくて済まなかった。他意はない」

「わかっている。これは、ともなりの前世に向けられた呪詛。魂が同じだから、ともなりが呪詛を受けることになった」

「……前世?」

「陰陽師よ。孤独な陰陽師」

 化け猫は今、人の形をとっているらしい。そっと俺の髪を撫ぜる小さな手を取りたくて、でも、体はまだ動けなくて。

 もどかしい思いを抱いていると、化け猫は俺の手を取って握りしめた。それでも手には力は入らない。

「……どっちにせよ、俺がこれを持ってきたんだ。どうにかする。第一波はしのいだんだろう?」

「ぎりぎり。……年月が経っているせいで……強力になっているらしくて」

「……」

 常長は深くため息をついたようだった。俺の額に、太い指をおいて、霊脈を読んでいるようだった。

「……確かにな。ともなりじゃなければ、こんなの耐えられなかったな。今、神様の気がこいつの中を回っている」

「……神咒を唱えていた」

「そうだろうな。あと、地祇にも祈ったはずだ。……。荒魂だから、呪詛を抑えることができたんだろうな。……リン」

「私は、化け物専門だ。呪いとか、そういうのは専門じゃない」

「んでも呪いとかお前の聖具をよけるじゃないか」

「……そうだが……効くかわからないぞ」

「悪くなるってことはないだろ」

 楽観的な言葉に、リンがため息をつく。その気持ちはわかる。リンの気配が近寄って何かを首にかけられた。少しだけ体が楽になる。

「……どうするか、封印するか、無理やり祓うか」

「無理やり祓ったら?」

「化け猫、お前も一緒にあっちに行くことになるぞ」

「……それでいい」

 一瞬も迷いないその答えに、俺ももちろん、常長も言葉に詰まったようだった。

「いいのか?」

「わたしは死んでいて、ともなりは生きている。死者を守るために生者が犠牲になる理なんて、ありはしない」

 いつになく賢い言葉に、俺は、思わず瞼を開いていた。

「化け猫」

「……ともなり」

「俺は大丈夫だ」

「大丈夫じゃないだろ」

「……常長」

「俺は、化け猫ちゃんの意見に賛成だ。お前がどうかばおうと、お前は生きていて、化け猫ちゃんは死んでいる。それだけは曲げられない。祓うったって存在の消滅ってわけじゃない。こんだけ自我があって、霊力も強ければ、何もしなくとも、ちょっと暗示をかけてやるだけで転生しても記憶を取り戻せるだろう」

「いや」

 俺の前世の記憶が戻ったのは、皮肉にもあの呪詛をかけられた書物の、呪詛をかけた男の記憶を見てだ。それなりに霊力は強かったはずだった。

「お前の体の状態を見るに、もう持たない。今晩で決着つけるからな」

 常長は、呪詛を取り除くための準備をすると言い残して、リンをおいてどこかへ行ってしまった。

「……くそ」

 不覚だった。

 あの書物はどこにあるのかと目を巡らせれば、火鉢に投げられていた。もう、灰になっている。

「化け猫」

「いいの。あんたが死んじゃうぐらいだったら、わたしはおとなしく逝く」

 思いつめた目をしている化け猫の、人と変わらぬその姿に俺は重たい手を伸ばしていた。頬にはたどり着かず、端座している小さな膝に手が当たった。

「あなたを忘れても、逢いに行く」

 化け猫は、膝にある俺の手を取って俺の目を見てそういった。その黒々とした瞳に、幼さを残しながらも整ったかわいらしい面立ちに、俺の口は、言葉を、言霊をかたちどっていた。

「俺は、いつまでも待っている。この姿のまま」

 すると、脳内に暗い玄室が現れた。どこだろう。

 上に浮かび上がって、一つのお堂がある。お堂の下に玄室がある。寺か、神社か。

「ともなり!」

 化け猫の声にはっと我を取り戻して、瞬きをすると、泣きそうな顔をした化け猫がいた。

「ともなりだ。ともなりのままで、お前を待つ」

 その言葉に、化け猫は、言葉を失って、俺の顔をじっと見ていた。

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