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修羅場劇場



 健やかな時も、病めるときも、あきれるくらい私達は一緒にいた。私達はお互いを一番良く知り合ってると思ってる。だけど時々、ほんのたまに君が私の知らない所にいるような時がある。それが子供心に不安で仕方が無かった。今なら、「当たり前のこと」と分かるのに。

 私にだって、多分君が知らない顔がある。当たり前のことだけど、なんかそれが、ちょっぴり切なくて。

      


 「……だりぃ」


 正直者の朋が明らかに脱落して頬杖をついた。その言葉を山さんが見逃すはずがなかった。


 「森川!中学生活最後の文化祭だぞ!あんまり盛り下げるよ~なこと言うなよぉ!」



 窓の外を見るとお日様がギラギラ眩しくて、ひからびそうになった。そろそろ文化祭の季節。だけど、なんてゆ~か今時のお子さん方は冷めていて、こ~ゆので盛り上がれる人って少ない。


 「伊藤、お前学級委員なんだから盛り上げろ」


 なんて山さんに突然無茶振りをされて驚きを隠せない伊藤君を見かねた同じ学級委員の夏美が下敷きで風を送りながら「それは文化祭実行委員会の仕事です」と知らん顔してお喋りに夢中なお調子者の工藤恵介と佐藤美紀を「余計な仕事を増やすな」というように睨んだ。


 「・・・お化け屋敷かぁ」



 いつもよりボーッとした様子で慎也が呟くとなんとかやる気を出して活気づいて欲しい山さんは朋から慎也を標的に移した。



 「そうだ!楽しそうだろう?なぁ片岡?」


 それに早速気づいたらしい慎也はお得意の微笑みを山さんに向けた。あぁこれからまた冷戦が始まるのだろうか・・・。


 「・・・俺、お化け屋敷はちょっと」


 そんな事で引くなんてありえない山さんは慎也を見つめてニターッと笑う。絶対何か企んでる。じゃなきゃ山さんじゃない!


 「なんだなんだ、慎也がまさかお化け屋敷が怖いなんて言うんじゃないだろうなぁ?」

 「マジでか慎也?」

 「じゃあ私がずっと一緒にいてあげるね♪」



  文化祭実行委員会の二人はここでやっと睨みをきかされたせいか、クラスを盛り上げ始める。二人の一番お得意の賑やかし。確かにそれは、クラスを大いに盛り上げた。



 それきた。これは負けず嫌いの慎也が黙っていられないでしょう。一瞬静まり返ったクラス中が二人に釘付けだった。



 慎也を見ると、全く慌てた様子がない。何でだろう、おかしいなぁ。ふと、目が合った。慎也は私に向かって余裕の微笑みを見せた。・・・エヘ、なんかすごい嫌な予感♪


 「いや、そうじゃないんですけど…うちの嫁が駄目なんですよ。それ。なぁハニー?」

 「こっちに振らないで!」



 ・・・ウワァーイ予感的中♪なんだか今日は、ラッキーかも・・・って、そんな訳ない!笑顔で私を見た慎也を睨んだ。



 「そう暴れるなよ、そんなにお化け屋敷が怖い?」

 「そ、んなコト…」

 「やん、結衣菜ったら超可愛い♪」

 「大丈夫だよ。さぁおいで結衣菜、弱虫慎也なんか放っておいて俺が守ってやるから!」


 

 私がいくら慌てても、慎也は多分呼吸一つ乱していない。その余裕っぷりがなんだかムカつく。・・・そりゃあ、お化け屋敷は好きじゃない。いや、そんなに得意じゃない。あの薄暗い道とか、後ろから聞こえる唸り声みたいなのとか、それからそれから。あぁこれじゃ私がお化け屋敷駄目みたいじゃん。



 「もうっ!慎也なんか美紀とどこへでも行っちゃえばいいんだ!」



 修羅場劇場にクラスは盛大な盛り上がりを見せた。文化祭実行委員会め、なんて有能なんだろう。大きくため息をつくと視線を感じて振り向くと伊藤君が心配そうな顔でおろおろしながら私を見ていた。



 結局、って言うか何をしても動かしようがなかったんだけど、私達のクラスはお化け屋敷をやることに決定した。



 「ゆ~マジで大丈夫か?」

 「うわぁ~ん、そ~ゆ~こと聞くな馬鹿野郎!」

 「やっぱり駄目か。ほれ結衣菜、ウチの胸で泣いていいぞ!」




 授業中ダルそうに事の成り行きを見守っていた朋が芝居がかった様子で目の前に両手を広げた。私も負けずに飛びついていって、薄っぺらい胸に頭を預けて泣きまねをする。



 「私、好きよ。お化け屋敷」



 夏美は何か思い出したようにフッと笑った。最近、夏美が可愛くなった気がする。


 「へー意外だな」

 「人形だったり、人間だったりするけどすごい手が込んでるのよ、メイクとか」



 メイクについて語りだすお年頃の夏実に、慎也を生け贄にしてそそくさと朋と先に帰ることにした。


 「しっかしお前も大変だなぁ結衣菜」

 「まぁ結構慣れたけどね」



 遠回りしながらゆっくり歩くと、道の下には可愛らしいコスモスが咲いていて、ついそれを踏まないように慎重になる。朋のため息混じりの言葉に笑うと、頭を叩かれた。振り返ると朋はニッといたずらっ子みたいな満面の笑みで葉を見せて笑ってた。


 「ほら、下向くと幸せが見えなくなるんだぞ♪」

 「・・・わっすごい!」


 何も無かったはずの朋の手にハンカチを被せて、それを外した瞬間花が現れた。昨日テレビで見たマジックらしい。


 「コスモスだぁ♪」

 「お前にやるよ。一番好きな花なんだろ?」

 「大好き!私将来朋の奥さんになる♪」


 得意げに笑う朋に飛びついて感激を表現してみた。「うざっ」と笑いながらその手はしっかり私の背中を支えてくれていたから、やっぱり私は朋を好きだと思った。



 私にだって、慎也の知らないことがある。花なんかバラとチューリップ。それからヒマワリとタンポポ辺りしか知らない慎也は、私の大好きな花、コスモスを知らない。



 最後まで読んで頂いてありがとうございます。

ご指摘など頂ければ幸いです。

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