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土曜日のお出かけ



 私達は幼なじみ。高校時代に大親友だったというお母さん同士がこの社宅であるマンションで再会を果たした頃私達は「ママ」とも言えない赤ちゃんだった。お互いの家をまるで我が家のように行き来してはちょっと兄弟みたいに育った。でも本当は違うのを分かってた。


 友達じゃなくて、家族じゃなくて、恋人じゃなくて、幼なじみっていう微妙な関係が私は大好きだった。だけどそれって、何か違ったのかもしれないね。

   



 

 「快晴快晴!こんな天気のいい日には出掛けるに限るね。あれ、ゆ~ちゃんったら何怒ってんの?」



 マンションの階段を軽やかに下りる慎也の背中にそっと悪態をついてみる。確かに、顔を上げると雲ひとつない青空とサンサンの日の光が輝いている。


 土曜日。昨日、私は明日学校が休みだから張り切って夜更かしをした。見たい深夜番組もたくさんあったし、とっても楽しい夜だった。何より楽しかったのは朝になってもあのウルサイ目覚ましの音を聞かなくていいってとこ。だから私がベットに入ったのは正直日付が変わってしまってからだ。



 「私眠い。そんなに出掛けたいなら一人で行ってよね」

 「そんな冷たいこと言わないで、たこ焼きでもおごってやるから」

 「・・・たこ焼き、そんなに好きじゃない」



 幸せに眠りについた私は、大きな慎也の声で目が覚めた。お母さんは今日も仕事で、お父さんははとっくに起きて買い物にでも行ったらしくて誰もいなかったけど。

 不機嫌な私をよそに慎也はすこぶるご機嫌。大きく伸びをして前を歩く。ブツブツ文句を言いながら付いて行く。もう慣れてしまった。いつものことだから。


 「・・・だいたい、朝っぱらから乙女の部屋に忍び込むなんて不法侵入だと思う!」

 「乙女の部屋に不法侵入ねぇ。そりゃ悪かったよ乙女」



 大げさに首を捻るフリをして慎也はフッと笑って「ほれ、行くぞ乙女」と私を呼んだ。どうやら“乙女”のフレーズが気に入ったらしい。



 「ねぇ、そ~いえばどこ行くの?」

 「まぁまぁ、乙女。黙って付いて来なさいな♪」



 慎也と私の外出?は、多分少し変わってる。ほとんどの場合、何を見るでもなく、何処に行くでもなく、ただ歩く。ふとした瞬間、曲がり角を曲がってみたり。きまぐれでついた駅から電車に乗って迷子になったり。小学生の時、一度だけ一日がかりで帰って大騒ぎされたこともあった。



 「お、何かいい匂いがする」



 そう言った慎也は曲がり角を右に曲がった。こ~ゆ~のはむしろ、散歩っていうのかもしれない。私は少し小走りになって慎也に追いついた。



 「・・・たこ焼き・・・」

 「ゆ~はあんま好きじゃないんだよな?いらない?」

 「ううん!いるいる!欲しい!」



 追いついた先には移動販売みたいな車でおじさんがたこ焼きを作っていた。



 「お~風が気持ちいな。なぁゆ~?」

 「・・・そうだけど」



 たこ焼きを買ってから、少し歩いて原っぱみたいな何もない草だけが生えた場所にたどり着き、腰を下ろした。



 「まだご機嫌斜めなのか、乙女は」

 「・・・そうじゃないけど」



 何か、納得いかないっていうか。慎也とこうして出掛ける時は、いつも決まって何の予告もなしにいきなり「出掛けよう」と言われて、こ~やって振り回される。それなのに毎回、怒る気を無くしてしまう。



 「ヤベェ・・・なんか眠くなってきた」



 そう言った慎也の方を見ると確かにもう目が半分も開いてなかった。



 「子供みたい」

 「俺さ、マジ今日三時間も寝てないんだよね・・・」

 「だったら、寝れば良かったのに」

 「だって、こんないい天気久々じゃん。ここで寝てちゃ損だと思ってさ・・・」



 そういい終わらないうちに草の上に寝っころがった慎也は静かに目を閉じた。細くて、柔らかい髪が光の角度によって茶色に見える。まるで子供みたいに安らかな寝顔は昔と変わらない。割と長めのまつ毛とか、二重のまぶたが実は羨ましい。



 「・・・もう、乙女を退屈させちゃいけないんだぞ」



 そう呟きながらそっと猫っ毛の髪にそっと触れるとやっぱり昔と同じとても柔らかな感触がある。私はこの髪が昔から好きだったりする。気持ちのいい風を受けながら、私もなんだか眠気がしてきた。




 最後まで読んで頂きありがとうございました。

ご指摘など頂ければ幸いです。

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