愛すべき意地っぱり
ねぇ、私達は気づけば一緒に育ってきた。いつも隣にいて、それが当たり前だった。
ねぇ、私達って何かな?いつも一緒にいるけど家族ゃない。たくさん遊んだけど、友達とはちょっと違う気がする。ちょうどその間にあるような、そんな微妙な感じ。ねぇ、幼なじみって、何なんだろうね?
三人が保健室に行ってから、伊藤君だけが戻ってきた。二人がいなくなってから時間は経ってそろそろ昼休みになってしまう。
「ねぇ、夏美大丈夫かな?あんなクマ作って、倒れたし・・・もしかしたらさ、何か重い病気とか・・・ほら、あのクマ実はクマじゃなくて、ガンとかだったらど~しよ~」
もしかしたら、夏美は重い病気をかかえていたのかもしれない。時間が経つにつれそんな気がして授業が終わり意気揚々と席を立とうとする朋を呼び止めた。
「バーカ!あれはクマだ、それ以外にない!あんなクマ作る程寝れなけりゃ寝不足で倒れるにきまってんだろ!むしろここまでもったのが驚きだ」
私より少し背の高い朋の目を思わずジッと見つめると、ふーっとため息をつきながら優しい顔で頭を撫でてくれた。
「・・・そんな泣きそうな顔すんなって。明日になればケロッとして戻ってくるよ。慎也はきっと人がいいから夏美にずっとついて送ってくのかもしれないし。帰りにでも覗いてみよう?」
朋の優しい声を聞いて少し安心した。だけど、さすがに二人だってお昼になったらおなかが空くだろうなって思ったからパンとジュースを買って持って行ってあげることにした。
お昼の後の教室でお喋りに夢中な朋を置いて一人で保健室に向かった。驚かしてやろうと静かにそっと中に入ると夏美はもう目が覚めたみたいで、ひそひそと二人の話し声が聞こえてきた。
「勉強もいいけどさ、そんなになるまですることじゃない。ちゃんと眠なきゃ体持たないだろ」
「・・・分かってる。でもやらなきゃ落ち着かないの」
夏美と慎也の静かな声が交互に聞こえる。何か声をかけちゃいけないような気がして音を立てずに隠れた。だけどちょっとだけ内緒話を聞いたような気がして内心実はワクワクしてた。
「やればちゃんと結果が出るから、嬉しいの。皆も私を頼ってくれる。そのためにも、もっともっと頑張らなきゃいけない。知ってる片岡、私秘かに天才とか呼ばれてたりするんだから」
「・・・悪いけど、俺は夏実を天才だとは思わないよ。それから、そんなボロボロになって見てられない」
「ボロボロなんかじゃない、もっと頑張れるわ!放っておいて!」
「このまま行ったら倒れるだけじゃすまねぇぞ!」
夏美のごくたまに聞く張り詰めた声と、久しぶりに聞いた慎也の怒鳴り声。今日は、珍しい事ばかり起こる。息を殺して体育座りをした私は秘かに体を硬くしながら、それでもその場を離れられずにいた。
「・・・ごめん、もっとさ、力抜いていったら駄目?」
「・・・無理よ。皆が全力出してるときに私たけそんなことしたら、あっという間に私は普通になっちゃうの」
力なく呟く夏美はなんだかいつもの夏美じゃないみたい。慎也は昔と同じように、声を張りあげて怒った後はとびきり優しい声がする。
「皆と一緒に歩いたら駄目?皆さ、夏実を天才とか言う奴も見せないだけで人の何倍も夏実が努力した結果そこにいるって本当は知ってると思う。そろそろ意地張んないでいいじゃん」
「何それ?」
「この意地っ張り。必死こいて頑張ってるくせに誰にも見せないで来たから、そろそろ限界なんだよ。あきらめろ」
「・・・私、なんかバカみたいじゃない」
「今頃気付いたんだ。けど、そのバカに助けられる奴結構多いよ。今までもこれからも。それで良くない?」
「・・・大変よ、私がバカみたいに手ぇ貸さなきゃ動けない奴いっぱいいんだから!」
ふっきれたような涙混じりの夏実の声を聞いてとりあえずそっと体育座りのまま胸を撫で下ろした。
「そ。今日とりあえず帰り送るからさ、明日はちゃんと来て!ゆ~辺りは本当のバカだから夏実がガンにでもかかったとか妄想して今頃大慌てだろうし」
・・・・・・ウフフ。当たってらぁ。そ~言えば慎也の勘ってすごく良く当たる。私はとりあえずばれないうちに静かに退散することにした。だけどもし、私がこのとき退散しないで、次の夏美の言葉を聞いていたなら、何か違っていたかもしれない。
「きっとそうよ。あんたの勘なんて普段は信じないけど、結衣菜のことになると百発百中だもんね」
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