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空気な関係



 君だけが呼ぶ私の呼び方が好きだった。君の優しい声で呼ばれた私の名前は、なんだかとても可愛らしく思えて。



 “私は君に頼りすぎていた”ってことに今更気づいた。独り立ちをしようとしたけれど、それでも何度も君を振り返った。そのたび君はいつもと変わらず私を受け入れてくれた。




 君は私の幼なじみで、君が幸せになると嬉しいから、私は多分、君が好きな子と君が幸せになればいいと思った。ウソじゃないよ。だけど何か、時々胸の辺りがギューって痛くなったの。だけどいつまでも私のお世話係をしてちゃいけないから、知らないフリをした。それなのに、君がその人を好きじゃないって知ったとき、安心したの。ごめんね、私はズルイね。

   


 

 「俺、結衣菜のことが好きだよ。ずっと前から、結衣菜のことが大好きだよ」



 慎也は今まで見たことも無いような強い目で私を見つめてた。今までの私だったら<私も慎也のこと大好きだよ♪>なんて笑顔のまま返していた。


 だけど今はもう、そんな無邪気に慎也を傷つけることは出来ない。何故なら私は、その言葉の本当の意味を知ってしまったから。その証拠に黙って停止していた私の体はみるみるうちに熱を帯びて、それがなんだか無性にむかついて慎也を睨みつけた。



 「ウソ!」

 「うそじゃないよ」

 「絶対にうそ!」

 「だからウソじゃないって!」

 



 つい、ケンカ腰になると慎也も負けずに応戦を始めた。だからついカッとなって気付くと口が勝手に動いてた。


 「絶対ウソ!だって、夏美の方がいいに決まってる!クラスの男子の間では夏美すごい人気だもん、慎也だってきっと」

 「だから!俺はゆーが好きだって言っただろ!」

 

 握られた手に力がこもった。驚いて何も言えなくなると、ふてくされた顔の慎也はそっぽを向いた。



 「…もし、今夏美を好きになってたとしても……最後はどうせゆーのこと好きになってたよ」

 「…何それ…」

 「夏実だったらいくらでも恋愛相談のってやれる。けど、ゆ~に伊藤の話するだけでムカつくし」



 そ~いえばって思い当たる出来事を振り返って実感したらまた心臓の音が早くなった。



 「…それにさ、俺達ってお互い空気なんだろ?」



 そう、昔そんな話をしたことがあった。私達は気付いたら一緒にいるお互い空気みたいな存在で・・・




 「知ってる?空気が無くなったら人は死んじゃうんだよ?」



 私に向かって笑ってみせた慎也はもう一度手を握った。今度はさっきより、とても優しい力で。




 私達は空気だ。いつも一緒でにいて、それが当たり前になって時にその存在はとても軽いものに見えてしまうけれど、私達は空気だ。悔しいけど、今、そう思った。




 「ゆ~はそのままでいいよ。何にもしないでいいから、離れていくなよ。傍にいてよ」



 私をそっと抱きしめた慎也が、なんだか少し、可愛らしく感じた。昔の幼い手じゃない、大きくて、骨っぽくてゴツゴツして、力のある・・・でもまだ大人じゃない。男の子の手だ。少し頼りない腕の中で私はそれを深く感じることができた。





   …私、慎也のことが好きなんだ。




 そう思ったら何故か急に泣けてきた。どうしてか分からないけど、静かに涙が頬を伝った。もう何も、怖いことなんてないのに。



 「どうしたの?」



 慎也が顔を覗き込む。当たり前の慎也の問いにも答えることが出来なかった。

 静かに私を支えていた強い腕が、解かれていった。それに気づいて上を見上げると、いつもより幼くみえる笑顔の慎也がいた。



 「…ゆ~、チューしよっか♪」



 予想外のことに驚きを隠せず、赤くなる私を見て慎也は笑った。大きくて温かな慎也の手が私の頬を包むように触れた。逃げ場のない私はギュッと力を入れて目をつぶると、薄い慎也の唇の感触がリアルに伝わってきた。初めてのキスは涙の味がした。












 「朝倉!」



 朝、教室に入ると声をかけられて振り向くと、穏やかに笑う伊藤君がいた。後ろから感じる鋭い視線を無視して伊藤君に向き直る。



 「おめでとう♪それ言いたくてさ。そ~ゆ~気は無いんだけど、イヤミかな?」

 「ううん、ありがとう」



 心底安心したみたいに微笑んだ伊藤君が慎也の視線に気付いて笑った。



 「…一つだけ、言っておこうと思って。朝倉さ、まだ気にしてるだろう?俺がいったこと」




 そういわれてドキッとした。だってなんだかすごく、悪いことをした気がしてしまう。まして伊藤君はとてもいい人だし。



 「やっぱり。…なぁ朝倉、いいこと教えてやるよ。恋って、実った恋だけが幸せとは限らないんだ。俺さ、色々あったけど少しも後悔してないよ。…って、カッコつけてみたけどこれ、ある人の受け売りなんだ」



 チラリと相変わらず受験勉強にいそしむ夏美を見て伊藤君は微笑んだ。

 伊藤君は本当に、とてもいい人だ。心の底からそう思える。



 「ねぇ伊藤君、高校一緒に合格してさ、同じクラスになれるといいね♪」

 「おうっ!」

 「伊藤君、私も一緒よ♪忘れないでねぇ♪」



 後から騒がしく入ってきたともがわざとらしい声色を使って伊藤君をからかって、怒られている。その様子を見て笑ってると、チャイムが鳴って山さんが来る。

 「さぁ授業始めるぞー!」


                                


 最後まで読んで頂きありがとうございました。

「きっとずっと」完結になります。

 本当にありがとうございました。

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