友達の好きな人
君と私は、いくら一緒にいても違う人間だから、ずっと一緒にいることは出来ない。そんなの知っていた。だけどきっとどこかで分かっていなかった。私と君はどんなに離れても、いつもと変わらず窓を開ければ優しい笑顔の君に会えると思っていた。私達はずっと変わらず、このまま幼なじみという微妙な関係を保っていける、そう信じていた。
「慎也をどう思う?」
いつもと変わらない昼休み。五時間目は自習になっていたので皆揃ってお昼を食べていたら、突然朋が立ち上がり、私の手を引き、廊下に連れ出した。周りに人がいないことを確認して、朋は改めて私に向き直った。何が起こったのか分からずキョトンとした私に発せられた言葉は、それだった。
「…いきなりどうしたの?」
やっとのことで口の中にあったおかずを飲み込んだ私は、そう言うのが精一杯だった。けれど朋は、何故だかいつもと違う真剣な顔をしていた。
「…なぁ結衣菜、答えてくれよ」
だから私は、自分も分からない質問の答えを探すしかなかった。そうして私なりに考えを巡らせて出てきたのが、目の前に広がる大きな海と、隣にいる慎也。いつのことだかも覚えていないけど、私達はそこで話をしていた。そう、あれは……
「…なんてゆ~か、私と慎也っていつも一緒にいるじゃない?それが当たり前ってゆ~か。気づいたらいるって感じで、お互い空気みたいな感じ?」
あの場所で私達はお互いを空気のようだと言った。いつも一緒にいるのが当たり前で、特別何の意識もしないようなもの。だから空気。
私の答えを聞いて朋はホッと胸を撫で下ろした。そうかと思うと今度はとてもキラキラした目で私を見つめる。
「なぁ、お前にも協力してほしいんだけど!」
「…はぁ」
さっきから朋の話が全く読めないでいる私には、そうとしか答えようがなかった。一体朋は、何を考えているんだろう?
「…夏美がさ、どうも慎也のこと好きらしいんだ」
少し照れたように、鼻の頭を抑える朋が言う。もちろんこの廊下には、夏美も慎也も、他聞かれて困るような人は誰もいない。朋はまるで自分のことのように嬉しそうにちょっと頬を染めながら話をする。
「なんかこの頃さ、夏美の奴雰囲気違うな~って思ってたの。けど、やっぱ聞けねぇじゃん?受験のせいかもしれないし。で、ウチずっと夏美見て分かったんだ!あれはもう相当惚れてるね!」
たしかに最近夏美は、今までと何か違う。上手く言えないけど、いつもどこかにあったピリッて感じの部分が無くなってフワッって感じ。
朋との話を終えて、教室に戻ると、「予想通り」というか「さすが私の幼なじみ」と言えばいいのか。半分広げたままになっていた私のお弁当箱は見事にスッカラカンになっていた。
「おかえり!」
私達に向かって言い手を上げたその右手が最後のデザートのリンゴをつまみ、口の中へと放り投げた。夏美はその様子を半分呆れ顔で見ていた。
「慎也のバカー!私のお弁当なんだから、食べないでよ!」
「何言ってんだよゆ~。弁当ほったらかしにして遊びに行ったから片付けてやったんだろう?」
「遊びになんか行ってないよ。それに5分も経ってないじゃない!」
「…しょ~がないだろう。我慢出来なかったんだ」
視線を外した慎也が場違いにほんのり頬を染めてみせる。
「我慢しろー!」
“夏美恋物語それゆけ協力隊”のメンバーは朋と私、それから何故か伊藤君が入っていた。多分、ノリで朋が連れてきたんだろう。可愛そうに。慎也に一番近いポジションにいる私の最初に任務は「それとなく、慎也に夏美の話題を多くだすこと」朋…じゃなかった。隊長いわく、慎也は私とまるで正反対に妙に勘が働くからもしかしたら夏美のこと、何か感付いているかもしれない、と。ボロが出そうな私は、もうそれだけでいいって。なんだかムカつく気もするけど、帰り道、とりあえず私は任務を遂行することにした。
「……!」
……しまった。夏美ってそ~いえばこの頃慎也と付きっ切りで勉強してるから、なんてゆ~か、話題がない!あぁ困った!おぉ困った!一人で苦悩して頭を抱えていると、ふと慎也が歩くのを止めた。
「…どうかしたの?」
視線を感じて慎也の方を見ると、慎也は私の目をジッと見つめてきた。そんで、離した。
「…ゆ~さ、伊藤とは仲いいの?」
いきなり予想もつかない質問をされても、困った。そ~いえば最近、慎也は伊藤君のことをよく口にする。いや前に「伊藤の話はするな」って言てた。
「最近はよく朋と伊藤君と三人で勉強会するんだ♪伊藤君丁寧に説明してくれるから
分かりやすいよ」
そう言うと慎也は「そうか」と言ったきり、しばらく黙った。
「…ゆ~は、伊藤のこと…好きか?」
「好きだよ。超いい人だもん♪」
私に答えに慎也は大きなため息をついて、小さく笑った。それから何か言った気がしたけど、私には分からなかった。
「・・・伊藤も可愛そうに」
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