慎也と結衣菜
「あたし達、気づいたらいつも一緒にいて、なんかそれが当たり前で、まるでお互い空気みたいな存在だよね」
いつだったか、広く青い海を眺めながらそう言った。隣にいた君は、今までに見たこともないような顔で、私を見た。
「そ~だな」
君の返事を聞いた私は満足気に微笑んで、大きく伸びをした。優しい風が私の頬を撫でる。私達を取り巻く空気は、今日も誰にも気づかれず当たり前のようにそこにいた。
勉強も授業も、あんまり好きじゃない。でも学校は好き。授業が始まる前の賑わいとか、昼休みとか。中でも1番好きなのは、放課後のお喋り…かな?何ともなくて、とりとめなのない話がいつまでも盛り上がるこの時間。窓の外に見える青空は、いつの間にか夕焼けに変っていた。キレイなオレンジ色が私達を染めていく。
「あ~あ。私も彼氏とか欲しいなぁ」
教室の椅子にだらしなく座って伸びをするのは遠藤夏実。(エンドウ・ナツミ)天文部部長の秀才は寝不足がちの目をだるそうに開けて眩しそうに夕焼け空を見つめた。
「彼氏とか言う前にさ、お前寝ろ!」
椅子から立ち上がった森川朋がぶっちゃけクマの出来た夏実の顔を半端あきれるように見た。ちょっと…かなり?男っぽい言動の天文部副部長。
「そーだよ、夏実受験生だからってやつれ過ぎ!」
「寝たいけど、私だって色々あんの。まぁさ、彼氏っつーか旦那のいる結衣菜には分からないだろうけど?」
夏実はだるそうに頬杖を付いてクマの出来た目にイヤな笑顔を浮かべてこっちを見た。
「・・・い、いないよ私!そんな人本当に全然!!」
そう言って否定したのに、二人は私に向かってとても面白いものを見るような目と不気味な笑いを見せた。
「何言ってんだよ、この道十四年の付き合いだろ?」
ニヤリと朋が不適な笑みを浮かべるむ。ああどうしよう。一度否定してしまったもののその相手が誰だか私にもハッキリ分かってしまった。けどこ~いうのって今更何もいえないので、そっと二人から目を反らして静かに助けを待つことにした。
ドタドタドタ……廊下の方から聞き覚えのある足音が聞こえてくる。私、朝倉結衣菜はその足音に待ってましたとばかりに反応して、扉の方に振り返った。
「ゆ~悪い、遅くなって!帰るぞ」
「うわ~っ慎也~!二人がいじめるの!」
ガラッと開いた扉から顔を出した男子生徒に私は泣きついた。
「おぉど~した?朋に夏実がイジメたのか?」
「慎也~、ど~にかしろよお前の嫁のせいで夏実が寝不足なんだぜ?」
私達の様子を見てさっきのニヤついた笑顔をひっこめないままの朋が堂々と机に腰を下ろした。
「うわっ!何その目!マジでヤバイって!」
けれど彼はそんな男らしい朋よりも夏実に近づいて見事なクマをまじまじと見つめた。
「うっるさいわね、夫婦揃ったんだからさっさと帰りなさいよ」
クマに触れようとした手はうるさそうに払いのけられて、一息ついた夏美が鞄から無造作に参考書を取り出した。
「ちゃんと寝てるのか?」
「受験生が誰かさんたちみたいに毎日色艶のいい顔してられないの」
「良かったなゆい、褒められたぞ」
夏美が参考書を広げながら言った言葉にあぐらをかいたままの朋が豪快に笑った。
「私のことなの?」
反論しようとすると隣にいた慎也が「違いねぇ」と私のほっぺたを摘んだ。
「…夏実さ、寝てんのかな?」
「あんまし寝てないみたい。ほら、天文部だしきっと毎晩お星様みてるんだよ」
いつも、なんでもない世間話をしながら帰る。私とこいつ、片岡慎也は、幼馴染だ。本当に生まれてからずっと一緒で、なんとなくクラスが離れたときもあったけど今でもこ~やって、約束も無しに一緒に帰る。
「ゆ~さ、お前からも言ってやれよ。絶対そのうちぶっ倒れる」
「…私が言って聞いてくれると思う?」
「きやすめでも言わないよりはいいだろう」
確かに夏美は限度を知らない頑張り屋だから誰かが止めないといけないと、とは思う。でも、止めたら意地になって加速する気もする。どうしたら良いか考えたら腕組して唸っていたみたいで笑われた。
「でも、家に着いたら私たち見てないし何度言ったって絶対勉強すると思うんだ」
「さっき参考書出したのも無意識だぞ」
「…そうだ、ねぇ慎也授業中に寝かせるのはどう?それなら私達ちゃんといるから逆らえないし♪」
名案を思いついたと思ったら大きくため息をついて落胆された。思わず肩からずれり落ちた鞄を慌てて持ち上げる。
「そりゃ意味ねぇだろう」
「いい案だと思ったんだけどなぁ」
「いい案なもんか。寝た夏美だけじゃなく俺達まで早速職員室に呼び出しくらうぞ。にしても、何でそう睡眠時間削ってるのかね?」
「夏美天文部の部長になったんだって。こないだ星の本とか持ってたし、家でも双眼鏡使って見てたりするのかも」
「望遠鏡な!双眼鏡で見えるのは隣の家の着替えくらいだし」
「慎也じゃないもん。そんなことしないよ」
別に好きとかじゃなくて、恋人でもないけど、これだけ一緒にいたらよく皆からからかわれて、それも慣れっこだからテキトウに交わしていける。私と慎也は、そんな仲
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