実際にあったざまぁの道具にされた話
「キー!やってられないわ!言いがかりをつけられた!山田君、今日は帰るから伝えておきなさい!」
「はい、増田さん・・・」
俺は山田、人事に抜擢されたとは聞こえが良いが問題のある方の補助にまわされた。増田さん。30代くらいの女性で派遣か契約か、バイトなのか分からない。興味もない。
正社員ではないだろう。ちょくちょく早退したり休むからな・・・・
今日も帰った理由は・・・
『増田さん。休憩取り過ぎ!』
との意見が匿名で寄せられたからだ。
事務方の休憩は個人ごとで昼休み以外は午前中10分、午後10分、好きな時間に取りなさい状態だ。
増田さんはタバコ休憩を頻繁に入れる。建物の外に行くから・・・・
それに健康保険や会社独自の手当や税控除なんかを担当している。
たかが人事だが、年末調整のお知らせを各部署に配布して指揮を執ったりする。
それに分からない事を知っているから時には各部署の長も一目をおく状態らしい。
増田さんが長年やっているから、まあ、我が儘が多少通る状態になっているらしい。
補助についたが少しも教えてもらえない。
まるで当てつけのように補助に俺が来たから関係も劣悪だ。
『山田君は大卒だから自分で調べなさいね!』
『はい・・・』
そんな状態だった。
「就業規則でも読むか・・・」
だが、肝心の仕事に関係する箇所は・・・
‘’別紙を参照’’
と書かれている。
別紙は・・・増田さんの机の中だ。鍵をかけてやがる。
もう、仕事が出来ない。
定時になり。家に帰って義姉に愚痴をこぼした。
「・・・という理由で仕事にならないのです」
「馬鹿ね・・」
義姉は短大卒、法律事務所で働いている。
義母の連れ子だ。
美人だが毎日見れば飽きる。それに姉と言うものは弟を男として見ていないから女性に対する幻想を木っ端微塵に打砕く存在らしい。
学生時代、姉のいる友人がこんなことを言っていた。
『山田、うちの姉ちゃん。風呂上がりバスタオル一枚で台所に来てさ・・』
『牛乳、牛乳』
って、冷蔵庫を開けて飲み出したのだ。
俺がいるのに・・・
『クハー、風呂上がりの牛乳はいいわ!』
『姉ちゃん!直に口をつけるなよ。母ちゃんに言うぞ!』
『あら、大輝、いたの?』
『いるだろう!』
・・・・・・・・
「皆は羨ましいと言うけど嫌だよ!もっとこう漫画のような優しい姉が欲しい!」
俺は手を取って激しく共感した。
「山本・・・分かる。分かるよ!俺の義姉なんかは下着を部屋で干しているから洗濯機に下着があったら、部屋に投げ込んでおいてと言っていた」
「「分かるー!」」
話はそれた。
義姉の話では・・・
「会社の規則なんて、公務員の手引き書を見れば大丈夫よ」
「民間会社だよ」
「労働基準法はね。公務員で最も具現化されているの。理想の会社組織をまず自分からねということらしいわ」
公務員の実務の手引き書、
本当にあった。通勤手当の手引き、扶養の実務関係。
「最も馬鹿な人種は法律家よ。法律があるから守られていると疑いもしない。マムの言葉よ。法律と実務はズレがあるわ」
マム、義姉が働いている法律事務所の女弁護士をそう呼んでいる。
自らを馬鹿と言っているから出来る人なのだろう。
手引き書を読んでそれを会社の別紙に当てはめたら、まあ、当たっていた。
手引き書は具体例が書かれているから分かりやすい。
例えば。
「佐伯さん。通勤は徒歩でしたよね。通勤手当は出ませんよ」
「増田さんは出ると言っていたぞ!ワシは健康診断で血圧が引っかかって歩く事にしたのだ」
「なるほど、でも、規則上、例え百キロ歩いても通勤手当は出ません。自転車なら二キロからです。通勤手当の判定は直線距離です」
「何故だ?」
「さあ、そうなっているからです。自転車の整備、保険がかかるからではないですか?」
「そうか。なら、ワシはどうしたらよい」
「はい、実務の例を見ると、月の半数以上、自転車を使えば認められます。しかし、通勤で事故に遭われたとき労災の認定がありますから、面倒でも通勤の地図二つ提出お願いします」
「う~む。月2000円だからな。健康のために歩くにしよう」
「納得頂けて有難いです」
通勤手段の見直しの時に役にたった。
増田さんはそれにチャチャを入れだした。
「あら、山田君の言うとおりだったら、駅からこの事業所まで直線で2キロないわ!皆、取り消さなければいけないわね!」
この事業所の最寄りの駅から自転車で通勤する人達がいる。
グーグルで距離を調べたら1.8キロだ。
通勤手当の認定は直線距離だ。しかし、実際の道は違う。だから皆2キロ以上と認識して出していたのだ。
「それは本社に問い合わせたら認めると言っていました」
「規則は規則でしょう!」
お前が今まで認定していたのだろう。
「いいですか?通勤手当は通勤にかかった費用の一部償還です。会社が独自に判断したらそれで良いのです。」
「話にならないわ!」
また、帰った。
いろいろな相談が持ち込まれるようになった。
「内縁の妻を保険に入れたいのだが・・・出来るか?」
「はい、出来ます。しかし、証明書は町内会長の一筆が欲しいです。書式は見本を出しますね」
「な、何だって増田さんは証明する書類がないから出来ないと言っていたぞ!」
増田さんは横でプルプル震えている。もうこのとき人事は山田に相談が広まっていたらしい。
「私も分からないことが多々ありますから、一応、本社に問い合わさせて下さい。税控除、扶養手当、いろいろありますから奥様の収入を証明する書類の提出もお願いすることになります」
「分かった。待つ!」
「ちょっと、何故、結婚しないのよ!結婚したらスッと書類が通るのに!」
さすがにこのときは増田さんに意見をした。
「家庭の事情に口を挟まない方がいいですよ・・・」
「私はきちんとした両親に育てられたのよ!」
「き、きちんとした両親?何だよ!俺はきちんとしていないと言うのか?」
どうやら、この方は複雑な事情で結婚を親に反対されているらしい。
親の許可が出るまで籍は入れないとか噂で聞いた。
公務員の手引き書を見たら、まあ、いろいろな事例が書かれていた。
国民的日曜夕方のアニメのようにすんなり行かない家庭が多いらしい。
体感的には五十人いれば一人は何かしらある。
俺の家庭もそうだ。
この発言あたりから、増田さんは居場所をなくして、更に事態が最悪な状態だったと分かった。
年末調整の時だ。年配の社員が人事に相談に来た。
「あの、住宅控除をしたいのだが書類をもらいたい」
「いえ、それはローンを組んだ銀行から支給される書類です」
「はあ?」
どうも話が通じない。
事情を聞いたら・・・
「投資用マンションですか?」
「そうだ・・・が出ないのか?」
「出ません。住宅控除の対象はあくまでも自ら居住に供する目的の住居です」
住宅控除、ローンを組んだら年末に所得税が一部返って来る制度だ。
「はああああ!増田さんがそう言っていたぞ」
「わ、私は言っていませんよ!投資用マンションとは言わなかったではないですか?」
「いや、言った!」
どうやら水かけ論になったようだ。
駆け出しは誰でも失敗はする。しかし、人事や金関係の職場は新人でも失敗は許されない。
不用意な発言は身を滅ぼすとこの時に学んだ。
結局、増田さんは・・・支社長に呼ばれて。個人間のトラブルには言及されなかったが・・・・
「・・・君は今までよく働いてくれたが休みすぎだ。点滅する蛍光灯はいらないのだよ。蛍光灯が点滅したら新しくするだろう。替え時だ」
的確なたとえを言われて人事を外された。
「そ、そんな解雇ですか?」
「いや、職務を外されてもらう。裁判に備えなさい」
住宅控除の件で訴えると息巻いているらしい。
その後、どうなったかは分からない。何故ならば増田さんは自ら退職したからだ。
それから問題行動の話が出てきた。
「あのおばさん。差し押さえをくらったことを皆に言いふらした・・・」
「俺の出身地区が同和だって言いふらしていた・・・いや、俺は運動には関係していないのに、誰にも差別されていないのに・・・」
「わ、私なんか、シングルマザーだって馬鹿にされたわ。事故で亡くなった姉の子供を引き取ったのに・・・どうせ貴女の婚外子でしょう?って・・・」
「「「ざまぁ」」」
という声が社内に響いていた。
俺は大卒だからとの理由で補助に入れられたらしい。
「まさか、あの女史に逆らえるとはな」
「いえ、根拠があったから言えたのですよ。でなければ萎縮しただけでした」
結果としてざまぁの道具になったのか?
だが、本当の功績者は義姉だ。
YouTubであの泣きながら釈明させられている議員の謝罪会見を見せられて・・・
‘’ウワ~ン。せっかく議員になれたのに~’’
『いい?政務活動費と通勤手当は同じよ。おざなりに処理したら勝の未来の姿よ』
『はい・・・』
ある議員が毎日関西や東京に出張していたと新幹線代を請求した事件だ。
義姉の部屋で号泣会見を見せられた。少しも色っぽくない。
感謝の印に義姉にスイーツでも買って帰ろうと思う。
最後までお読み頂き有難うございました。




