「大丈夫なふり」
窓の向こう。
夜空の端が、少しだけ明るくなり始めていた。
午前二時十七分。
部屋を照らしているのは、スマホの小さな光だけだった。
「大丈夫。」
今日だけで、もう五回目だった。
誰に聞かれたわけでもないのに、
自分に言い聞かせるようにつぶやく言葉。
本当は、全然大丈夫じゃなかった。
友達の楽しそうな写真を見ているだけで、
心のどこかが静かに沈んでいく。
『どうして、自分だけ置いていかれてる気がするんだろう。』
みんな前に進んでいるように見える。
自分の道をちゃんと知っているように見える。
でも、自分だけが霧の中を歩いている気がした。
誰にも言えなかった。
弱いと思われるのが怖かったから。
だから、もっと笑った。
平気なふりをした。
何でもない顔を覚えた。
だけど、一人になるたびに、
心は少しずつ重くなっていった。
その夜も、窓を開けた。
冷たい夜風が、静かな部屋に流れ込む。
遠くに見えるコンビニの灯りが、
なぜか少しだけ温かく見えた。
その時、ふと思った。
『ここまで、ちゃんと生きてきたんだな。』
完璧じゃなくてもいい。
うまくいかない日があってもいい。
少し遅くても、遠回りしてもいい。
止まらずに、ここまで来たことは、
ちゃんと意味がある。
彼は小さく息を吐いて、
初めて自分に言った。
「今日も……思ったより頑張ったな。」
窓の向こう。
夜空の端が、少しだけ明るくなり始めていた。
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一文
「一番苦しい夜ほど、夜明けの直前は静かだった。」
止まらずに、ここまで来たことは、
ちゃんと意味がある。




