4話
森を抜けると、視界が開けた。
遠くに小さな街が見える。瓦屋根と石畳の静かな町並み。
王都とは違い、人々の暮らしが息づいているのがわかる。
ディルクは立ち止まり、私に軽く視線を向けた。
「ここまでなら安全だ。あとは自由に行動していい」
その言葉は、今まで誰からも得られなかった“選択権”を示すものだった。
誰かの命令でも、役目でもない。純粋に、自分の意志で歩ける場所。
「ありがとうございます」
思わず口にした。自然と出た感謝の言葉。
ディルクは少し微笑み、肩をすくめて答える。
「理由は必要ない。困っている者がいたから、助けただけだ」
その簡潔さと正直さに、私は少し驚く。
自分の価値を問われず、ただ“ここにいる私”を見てくれる人がいる——
それが、こんなにも安心するものだとは思わなかった。
しばらく歩くと、町の人々がこちらを見つめる。
目は驚きと警戒が混ざっていたが、ディルクの存在感に圧倒され、誰も声をかけてこない。
私は小さく息を吐き、深く視線を巡らせる。
ここでなら、自分の時間を取り戻せる。
魔術も権力も、断罪も、もう関係ない。
そして、ふとディルクの歩幅と自分の足並みが自然に揃っていることに気づく。
——誰かと並んで歩くこと。
——それが、少しだけ心地よい。
わずかに、心の奥に芽生えた違和感。
それが何なのかは分からない。
けれど、決して悪いものではない。
風が木々を揺らし、柔らかく頬を撫でた。
私は前を見据え、歩き出す。
自分の人生を、自分の意思で。
そして、確かに感じる——
この先は、完全に一人で歩くとは限らないのだ、と。
小さな微笑みが、自然と零れる。
それが、私の新しい未来の始まりだった。




