3話
三日目の朝。
王都全体の魔力循環は、完全に乱れていた。
結界の節点は次々と停止し、暴走する魔力は街の建物や通行人に牙を剥く。
悲鳴と衝撃が混ざり合い、かつての王都は廃墟の香りを漂わせていた。
その混乱の中で、私は静かに歩いた。
足取りは迷いなく、まるで森を散歩するかのように軽い。
突然、前方から低く落ち着いた声が響いた。
「その先は、我が国の領域だ」
振り返ると、整った装束の男——北方方面軍の将軍ディルクが立っていた。
圧倒的な存在感を纏いながらも、その視線は私個人をまっすぐに見つめていた。
「……お世話になります」
無駄な説明はせず、私は短く答える。爵位も、過去も、不要だった。
「行くか?」
軽く頷くと、ディルクは何も言わずに歩き出す。
その背を追い、私は初めて“誰かのためでなく、ただ自分の意思で歩く”ことを感じていた。
静かな森の中、互いに言葉は少ない。
しかし並んで歩く足音は、なぜか心地よく響いた。
ふと、ディルクが振り返らずに声をかけた。
「無理はするな」
たったそれだけの言葉。
だが私の胸に、微かに温かい違和感が残る。
——それが何かは、まだ分からない。
けれど、嫌ではない。
風がやわらかく頬を撫でる。
目を細め、私は前を向く。
過去を捨て、役目を終えた自分の人生を歩き始める。
そして、ふと思う。
この先を、完全に一人で歩くとも限らないのだと。
小さな微笑みが、自然と零れた。
それが、私の新しい一歩の始まりだった。




