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#1 居場所がない少年

「もう……こんな時間か」


午前2:06。病院全体の消灯時間から2時間が過ぎてもなお、俺─早瀬 直人(はやせ なおと)は眠れずにいた。


俺の病室は個室のため他の患者さんはいなくて、自分をさらけ出せる最後の場所となった。


スタンド型ライトをつけながら、俺は手鏡を覗き込む。


「醜いな……やっぱり」


映ったのは顔が包帯巻きにされている自分。目・鼻・口以外は全部包帯が巻かれているため、自分の顔であっても、はっきり思い出せる気がしない。


(もう、どれくらい経ったんだろ……)


久しぶりに深く感じる喪失感と共に、ベッドに横たわる。目を閉じれば、また何にもない一日がやってくる。ただ、それだけの繰り返し。こんな生活じゃなくて、もっと斬新な──


スタっ。


「おっとっと……」


ぼーっとしながら目を閉じていると、窓の方から物音が聞こえ、誰かの気配を感じた。恐る恐る、目を開けると、


長い白髪を揺らし、黒い服に身を包み、似合わないほどの大きな鎌を持っている俺と同じくらいの『少女』がいた。


「あれ?起こしちゃいました?」


俺と目が合ったのに気づくと、少女は「何事もなかった」かのように振る舞い、俺の前で立ち止まった。ベッドに横たわる俺は少女に見下ろされる形になった。


「もしかして……死神ってやつか?」


創作上のものでしか聞いた事のない『死神』。鎌を持ち、他者の命を奪うというやつだ。それに当てはまる人物が目の前にいる。


「ん〜、半分正解で半分不正解って感じですね」


少女は、ニヤリと不気味な笑みで答えながら話を続ける。


「そうでした。自己紹介が遅れましたね。私は彩乃(あやの)と申します。


──お客様の魂を案内しに来ました」


最後のセリフは、真剣なもので営業の人たちが見せる態度と同じようなものを感じた。


「案内……?」


聞いた事のない『魂の案内』。噂では、死神は命をただ刈り取るものだと思っていたが違うのか?


「はい案内でしゅ……失礼、案内です。お客様はもうじき、命を引き取られます」


『命を引き取られる』即ち、『死ぬ』ということ。


「……」


「驚いたりしないんですね。大方の人たちは、この言葉を聞くと暴れ回るらしいですが」


「別に人間。生きてれば最後は死ぬでしょ。それにこの状態は実質『死』と一緒ですし」


そう言いながら、俺は彩乃さんが入ってきた窓の外を見つめた。庭に堂々と生えている木から1枚、葉っぱが落ちた。


顔に大きな傷を負ってから俺の居場所はなくなった。だから、別に死んでもいいと思っていた。


「そう言われると何も言い返せませんね。……では、本題に入りましょうか」


軽く咳払いをした彩乃さんが脱線した話を戻した。


「本題……。魂の案内じゃないんですか?」


「魂の案内は最後の工程なんです。もうじき、案内をされるお客様に悔いが残らないようにお手伝いするのが私たちの役目なのです」


「悔いか……」


『悔い』という言葉を聞いても俺の胸に去来するものはなかった。


「悔いはないですね。もう、俺は諦めていますし」


俺がぽつりと呟くと彩乃さんは申し訳なさそうな顔をして聞いてきた。


「失礼を承知の上ですが……やはり、原因はそのお顔の包帯ですか?」


「概ね、そんな感じです。……もう、自分の顔すら思い出せないくらい……。」


「……そうですか」


俺の答えに彩乃さんは言葉を失っていた。確かにまだ、20も行ってない高校一年生の俺が、こんなことを言うとは思っていないだろうから。


重い空気が部屋を満たす中、彩乃さんが何かを閃いたのか、ぱぁ〜っと顔を明るくしてこう言った。


「では、他人のために、私と案内人の仕事をしませんか?」


「案内人の仕事って……出来るんですか?」


思いもよらぬ提案に俺は久々の好奇心を覚えた。


「はい。基本的に案内された魂は、決められた任期の仕事をしなければなりません。仕事の種類は多くありますが……自分に居場所がないと仰るお客様が案内人の仕事をすることで、何か得られるものがあると思います」


俺は、死んだら天国か地獄のどちらかに行くのかと思っていたが、検討違いらしい。


「地獄なんてありませんよ多分……」


「多分?」


「概ね、魂の案内されるお客様は一般の方なので、犯罪者となると……難しいかもしれませんね」


こっちの世界も現世と同じで、複雑な仕組みになっているらしい。そして、ふと疑問に思ったことが1つ。


「任期って言いましたが、その後はどうなるんですか?」


「私も聞いただけなので確証はありませんが……恐らくもう一度、人としての転生か魂を保ったまま、こっちの世界で過ごすことができるという感じですね」


「転生……」


この顔になってしまった人生は、もううんざりだ。だから、もう一度、やり直せるなら──だけど、失うのが怖い……


無意識のままか、震えていると彩乃さんが俺の手にそっと触れた。


「大丈夫です。お客様がどんな選択を選ぼうとも、私がサポートします」


その他人からかけられた温かい言葉が、俺の答えを出してくれた。


「決めました。俺は案内人として、自分のことを好きになりたいです」


この先の結末なんて分からない。それでも、直感が、この仕事がいい結末に導いてくれると言っている。


「では、決まりですね。私の手を握っててください。しばらく、触れていると魂だけ幽体離脱するため、そこから天界に行きましょう」


そう言われ、彩乃さんの手を握っていると身体が一気に軽くなった感じがした。そのまま、ベッドから立ち上がって後ろを振り向くと、目を閉じたまま横たわっている俺の本体が残っていた。


「あっちの貴方は、魂がない状態──『傀儡状態』ですね。ただ、心臓が動いているだけの、魂の抜け殻です」


彩乃さんによる簡易的な説明を受けたあと、俺は傀儡となった自分の身体に向かって一言、


「16年間、ありがとな」


と告げ、窓から夜の空へと身を委ねた。


「少し、ここで待っててください。私は戻って残った作業をしてきますので」


病院の入り口で、幽体となった俺は、彩乃さんの指示の元、待つこととなった。


「これから、どうなるんだろうな」


不安と好奇心が高まっていく中、俺は夜風に吹かれながら、そんなことを考えていた。


〜〜〜


「やっぱり……こうなるんですか」


私──彩乃は、先程までいたお客様の部屋に戻っていた。案の定、残っていたのは、魂の抜けた傀儡ではなく、心臓を一突きされた状態の傀儡だった。


依頼を受けた時に思ったのだ。『病気もない男の子が病室でいきなり死ぬなんてありえない』と。


「やはり、私の時と一緒……」


事故にあっただけでなく、病室に来て、確実に仕留めに来る。


──偶然ではなく、誰かの悪意によって引き起こされた惨劇。


私は、この事件の結末の行く末を暴くために案内人になったと言っても過言では無い。


──それに、あのお客様と一緒なら、暴ける気がしたのだ。

初めまして!空乃 猫丸です。基本的には『カクヨム』の方で、作品を投稿しておりますが、『なろう』の方でも始めました!これから、どうぞよろしくお願いいたします!

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