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亡国王子の英雄冒険譚  作者: バッチョ


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熱気乱れる母子の戦い

「【対象予知(フォート・アイズ)】」


 マイダスも天賦(てんぷ)を発動させ、レインの一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに注視した。


(俺の天賦【未来視】は数秒先の未来が見えると言ったが、『視界内の意識を向けた対象物の動きを予知できる』が正確だ。だから呆然(ぼうぜん)と眺めているだけでは先程のような予知は出来ない……)


「……なんか暑くね?」

「まあ、日も昇って来たしな」


 マイダスは視界の端で(えり)を緩め、手で(あお)ぐ農夫たちに意識を向けるがすぐに視線を戻す。

 すると突如、彼女を含めて周囲の景色がぼやけ始める。


「……来る!」


 次の行動を予見(よけん)した数秒後、レインは力強く地面を蹴って鋭い突きがマイダスを襲う。

 先んじて知っていた彼は難なく回避するが、頬や額に汗を伝わらせた。

 しかし躱されると分かっていた彼女は新たな剣術を繰り出し、マイダスを防御に徹しさせる。


「あっつ……!」


 マイダスは二本の木刀と天賦の力で彼女の猛攻を上手く(しの)ぐが、苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。


「……今日は本当に暑いな! 何なんだよ今日はよぉ」


「お前知らないのか? レインさんの天賦を」


「ああ? 天賦を持っているのは知ってるよ。まあ息子相手に使う気は無いようだけどな」


「何言ってんだ、もう使ってんだろ」


「使ってるって……何にも起きてねぇじゃん! それともレインさんも未来が見える天賦なのかよ」


 「やっぱ知らねえじゃねェか! この()()が彼女の天賦なんだよ!」


(母ちゃんの天賦【熱付与】は剣などの無生物に熱エネルギーを与えることが出来る……)


「あっちぃなクソったれェ!」


 彼女の攻撃を的確に受け止めているが、高温の熱波まで受け止めることはできず心身ともに摩耗していった。


(攻撃を凌いでいるだけじゃこのまま体力を消耗して負けるだけ、どこかで仕掛けないと……!)


 自身の両目で剣戟(けんげき)(ほころ)びを見出そうとするマイダスだが、このまま勝ち切ろうとレインも攻撃の手を緩めるつもりは無かった。


「マイダス……」


 最初こそ彼らの決闘に乗り気だったメリッサだが、今では不安な面持ちで熱気乱れる戦いを眺めていた。


「……あの攻撃を防いでるマイダスもすげぇけどよ、やっぱ圧倒的だぜ」


「ああ、俺もレインさんと魔獣討伐に出向くことはあったが、あっという間に群れを壊滅(かいめつ)させてたからな」


「技量や膂力(りょりょく)も法国騎士と遜色(そんしょく)ないだろうし、おまけに天賦も授かっているときた……何でこんな村に居るの、あの人?」


「「さぁ?」」


「お前らァ! マイダスたちの決闘に集中せんか! あとこんな村言うな!」


「「「はぁい」」」


 怒りを露わにする村長に彼らは気の抜けた返事で返し、決闘の成り行きを見守った。


「……マイダス、そろそろ負けを認めてちょうだい。決闘とは言え、無駄に苦しませたくはないの」


 レインは距離を置いて降参を促す。


「む、無駄ぁ? 良い感じに汗かいて気持ちいいのに、無駄とは言わないでくれる……?」


 ボタボタと汗を垂らしながら軽口を叩くマイダス。


「……貴方が法国騎士になりたい想いはこの戦いで十分に伝わった、だからもうこれ以上無理をしないで!」


「ッ……⁉」


 母親の強い訴えにマイダスの固い決意が揺れ動かされてしまう。


(まあ正直、血豆できて手ェ痛いし、喉もカラカラで苦しいし、目も乾燥してクッソ苦しい……)


「……ったく、そんな甘い言葉掛けんなよなぁ。俺、そんな根性ねェんだから……」


(終わりたい、負けを認めたい――――けど、こんな不甲斐ない結果じゃ嫌なんだ!)


「フゥ――――ゥ! さぁ! 続きをしようぜ!」


 大きく息を吐いてマイダスは戦闘継続の意思を示す。


「……分かったわ、貴方が折れないのなら私が折ってあげる。夢も戦意も……」


 レインも(さや)を握りしめ、彼を睨みつけた。


 ***


「ドオオオ――――リャアァァ‼」


 すぐさま向かって来るや否や、マイダスは二本の木刀を地面に擦り付けて周囲を砂埃(すなぼこり)を舞わせた。


「どういうつもりなの……?」


(この子の天賦を考えれば私を見失うのは避けたいはず。何かの策……いいえ)


「乗ってあげるわ!」


 全てを受けようとレインは砂煙の中へ入る瞬間、一本の木刀が勢いよく投げ出される。


「ふっ……⁉ やっぱ馴染(なじ)むわ」


 咄嗟(とっさ)に持っていた鞘を投げ捨て、取られていた木刀を見事にキャッチした。

 しかし間髪入れずにもう一本の木刀を持ったマイダスが砂埃から姿を見せる。


「はっ!」


 下から上へ振り上げるマイダスの剣技に対し、レインは体重を活かして押し付けるように振り下ろす。


「ぐっ……!」


 正面の木刀投擲(とうてき)で意識を逸らし、下方から奇襲を掛けたマイダスだが、彼女を崩すには至らなかった。


(あとはこのまま押し切って――――)


 直後、勝ちを確信した彼女の頭部に(さや)が落下する。


「っ……⁉ あぁ……!」


 ガァン、と強い衝撃が頭が駆け巡ると力が抜けて膝を屈した。


(早く、早く立ち上がらないと……!)


 朦朧(もうろう)とする意識の中で保とうとするが、マイダスは彼女の肩を掴んで地面に押し倒した。


「俺の勝ちだ、母ちゃん!」


 彼女に(またが)り木刀を首元に突き立て、勝利を宣言するマイダス。


「……まだ、終わってない!」


「認めてくれ、俺の勝ちだ!」


「審判役の俺が言うのもなんだが認めてやったらどうだ! お前もう動けそうにないだろ!」


 どちらの勝利かと問われれば口を揃えてマイダスというだろうが、彼女は結果を受け入れず抵抗し続けた。


「いや! 嫌なのォ! 法国騎士だけは……!」


(わたしはただ貴方を死なせたくないだけ、なの……)


 抵抗から一転、レインは意識を消失する。


「母ちゃん……? 母ちゃん⁉ しっかりしてェ!」 


 マイダスは突然の状況に困惑(こんわく)しながら彼女を叫び続けた。

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