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亡国王子の英雄冒険譚  作者: バッチョ


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2/4

天賦 未来視

 早朝、暖かな春の日差しが木々の間から俺を照らした。


「ハッ!」


 俺は木刀を握り締め、力強く振り下ろすとブオンと空を切る音を立てる。


「ふぅ、調子は良さそうだな」


 レインとの決闘まで差し迫っており、俺は体を温めて最高の状態で挑もうと森で調整していた。

 しかし彼女は、『皿洗いは私がやっておくから心配しなくていいわよ』と余裕そうな笑みを浮かべて朝食の後片付けに勤しんでいたのだった。


「思い出すだけで腹が立つぜ……」


 向こうは苦戦を強いられることなく、完勝できると確信しているようだった。

 確かにこれまでの稽古(けいこ)では彼女の全力を見ることなく、全敗してきた。


()()()をどれだけ活かせるか、だな……」


 己の右目を覆うように手の平を重ねた。


 ***


 約束の時間が訪れ、マイダスは目的地まで足を運ぶ。

 目的地は昔の山火事で木が生えていないため、彼らの稽古でよく利用していた場所だった。


「俺を育ててくれた場所で俺の成長を見届ける……我が母ながら(いき)なことしてくれる」


 これから人生を左右する戦いに挑もうというのに彼は驚くほど落ち着いていた。

 それはこの決闘は将来だけでなく、自分を育ててくれた母親へ成長を見せれる絶好の機会と捉えていた。


「見ててくれよ! 俺がどれだけ強くなったのか……」


 そう言って彼は坂道を一気に駆け上がる。


「マイダスが来たぞ!」


 目的の場所に姿を見せるとロログ村の村民たちが笑顔で彼を迎えた。


「えっ⁉ 何でみんながここに……?」


「それが決闘の事を話したら……」


「法国騎士になりたいのは立派だけど俺たちは心配だぞ!」 


 申し訳なさそうにレインが事情を話そうとするとダンテが口を開く。


「ボケっとしているからおばさん心配よ……」


「マイダスは警戒心薄いし、すぐに騙されちまいそうだ」


「都会は空気悪くて体調崩さんか心配だわい……」


「お姉ちゃんがいなくてもちゃんとお風呂入れるの?」


 ダンテの言葉を皮切りに村民らは口々にマイダスの身を案じた。


「みんな、って風呂ぐらい入れるわ!」


 感動していた彼だがメリッサの発言は即座に否定する。


「最後の手合わせになるかもだから二人きりで相手してあげたかったけど……私たちはこの村の人たちと一緒に育ってきた。だから、貴方の成長ぶりをこの人たちにも見せてあげて!」


 しかしレインも引き下がろうとはせず、強い意志を持ってマイダスに懇願した。


「そんなに(かしこ)まんなくていいよ。確かに俺はみんなに支えられて今日まで生きて来たんだ……」


 マイダスは決意を固め、(さや)から木刀を突き立てる。


「やろうぜ母ちゃん! 最後の手合わせだ!」


「マイダス……! ええ、掛かってきなさい」


 彼に呼応し、レインも木製の刀身を見せつけた。


「両者の合意が得られたので決闘を執り行います!」


 レインに頼まれていたダンテは審判役を務める。


「お互い勝利条件は相手を戦闘不能に追い込む、もしくは降参を言わせれば勝ちとします!」


「「「…………」」」


「――――始め!」


 対戦者を含め、緊張感漂う空間にダンテの怒号が響き渡り、マイダスとレインは走り出した。


 ***


「おらァ!」


 ガンッ、と大きな音を立てて力の押し合いが始まった。

 拮抗(きっこう)している中、俺は大きく一歩踏み込み母ちゃんを跳ね除ける。


「……!」


 体勢を崩している隙を突いて、腹部に目掛けて右から左へ木刀を振り動かす。

 しかし姿勢を安定させながら木刀を腹部に寄せて、簡単に防がれてしまう。


「追撃の判断は良いけど――――」


「ぐおぉ⁉」


 次の一手を考えている間に姿勢を整えられ、鋭い蹴りが俺の腹部に叩き込まれた。


「即決できない場合は後退、もしくは防御(ぼうぎょ)に専念しなさいと教えたはずよ?」


「そォ、だったけ……?」


「お手本見せてあげるわ、追撃だけどね!」


 呼吸を整える間もなく、無駄のない剣戟(けんげき)が俺を襲った。

 俺は反撃の糸口を探しながら防御に徹するが、一層の力を込めて木刀をぶつけられる。


「っ……⁉」


 殴るようにぶつけられた木刀はスルリと手から抜け落ち、丸腰(まるごし)になってしまう。


「これで終わりよ!」


 母ちゃんは剣を高く振り上げ、止めを刺そうとした。

 木刀が手元にない今、この場にいる誰もが『俺の敗北』を予感しただろう。


 だが、俺はこの瞬間を待っていた!


「【対象予知(フォート・アイズ)】」


 頃合いだと確信した俺は自身の天賦(てんぷ)を発動させ、()()()()()()()()()()()()(ひとみ)に映し出すと――――なぞるように母ちゃんの木刀が振り下ろされた。

 俺は振り下ろされる木刀の着地点、すなわち頭頂部を守ろうと迷うことなく両腕を挙げる。


「……なっ⁉」


 止めの一撃は咄嗟(とっさ)に挙げた両手の平によって受け止められ、驚きのあまり硬直した。

 俺は僅かな隙も見逃さまいと挟んだ木刀をこちらに引き寄せ、体勢を崩させるとお返しとばかりに腹部に中段蹴りをお見舞いする。


「ぐぅ!」


 蹴りの手応えは感じたが、即座に後退の決断を下されたせいでダウンさせるには浅かったようだ。

 しかし今の俺は落とした自分の木刀と手放した母ちゃんの木刀を持っている状況であり、奇襲としては成功と言って良いだろう。


「降参するなら今の内だぜ?」


「そんな事よりも貴方、まさか……」


「ん? ああ、俺の天賦の力だ!」


「マイダスが天賦だと⁉」

「レインも持っていたからもしかしたらと思っていたけどよ……」


 奇襲は成功して隠す理由が無くなった俺は大々的に宣言し、母ちゃんを含め村民たちは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべた。


 そうそう。その表情が見たかったんだ!


「どうして……どうして黙っていたの‼」


 真実を打ち明けられた愉悦(ゆえつ)に浸っている俺に対し、母ちゃんは激しい怒りを露わにした。


「えっ⁉ いや、その……」


 そ、そんなに怒らなくても――――。


「いいえ、今はそんな事が重要じゃない。貴方の天賦は何なの!」


「はいっ! 数秒後の未来を見れます!」


 凄まじい剣幕(けんまく)で尋ねられた俺は15年間も隠していた天賦特性を明かしてしまう。


「未来が見れる、それは本当ね?」


「本当です!」


「……はぁ、貴方を信じるわ。あと怒鳴(どな)ってごめんなさいね」


「いえいえこちらこそ、隠しててすみませんでした」


 ここまで怒るとは思っていなかったが、たった一人の家族にすら打ち明けてもらえなかったら母ちゃんのように怒るのも無理はないかもしれないな……。


「……んんと、決闘どうする?」


「雰囲気を壊したのはわたし、貴方が決めて」


「いや続けようぜ! 明日まで待てない!」


 延期したとしても木刀二本持ちでスタートできるか分からないし、何より俺の闘志が消えちゃいない!


「分かった。それに私も()()を見せるわ」


 そう言って母ちゃんはベルトに括られらた(さや)を手に取る。


「……本気、ね」


 持ち手は太く、形状も不格好で明らかに戦いにくいはず……なのに緊張感は増すばかり。


「【焦熱付与(しょうねつふよ)】」


 母ちゃんは淡々と天賦を発動させた。

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