ガイアの大穴
リースとエスターは、ギルド近くの酒場にいた。
「昇級を断るとは、変わった男だ。」
エスターはリースが断ったのが不思議だったようだ。
「いや、だからさっき言ったけど。」
リースはエールを一口飲んだ。
G級冒険者が木製タグを指すメイプルと呼ばれるのは、平民の象徴だからだ。Fに上がるのは稀、その上に上がるのはもっと稀。もし僕がそれをやったら目立つに決まっている。
「ところで、さっきちょっと小耳に挟んだのだが。」
エスターは話題を変えた。
「ここから砂漠をもっと南に進んだ先に、ガイアの大穴という場所があるらしい。」
「聞いたことがあるね。」
「どうやって行けばいいだろうか?」
「行っても何もないらしいよ。なんか大きな穴があるだけで。」
「どうしても行きたいんだ。知ってることがあれば教えてほしい。」
何か事情がありそうだ。
「わかりました。じゃあ、明日まで待ってもらえるかな。」
二人は再会を約束して、この日はそこで別れた。
翌日、エスターは船着き場へ連れていかれた。そこには、先日の船の半分以下の長さのプレジャーボートが待っていた。
「これは?」
「領主のハンティング用ボート。彼にはひとつ貸しがあったから、すんなり借りられたw」
リースはニヤリと笑った。
「すごいな、君は!」
リースの行動力には驚かされるばかりだ。
「実を言うと。」
リースは真顔になった。
「僕も行ってみたかったんだよね。」
船はすぐ出港した。領主のものだというボートは、先の貨物船の倍以上の速度で砂漠を疾走していく。
「さすが金持ちの船だなあ。思ったより速いねー。」
リースは上機嫌でハンドルを操作する。
「これなら、こないだのように飛び移って来れないな。エスターは寝てていいよ。」
小型船なのでキャビンも広くはないが、そこは富裕層のボートである。内装は豪華で、ふかふかのソファーベッドやバーカウンター、ミニキッチンと設備は充実している。
食事になると、リースはスキルの保管庫からいろいろ取り出してテーブルに並べた。空調の効いたキャビンで食事をしていると、ここが灼熱の砂漠だということを忘れそうになる。
「保管庫スキルというのはすごいな。商人はズルいよ。」
リースが何もない所からパンを取り出すと、エスターは驚く。それを人間レンチンで温めて出すと、エスターは目を丸くした。お湯を沸かしてお茶を淹れたり、ピッチャーの水を冷やしたりするリース。エスターの反応が面白くて、アイスクリームを作ってみる。
「アイスクリームというのか?何なのだこれは!」
火魔法や水魔法は使い手が多数いるし、エルフの精霊魔法ならイフリートやフェンリルを使役する。でも、リースはスキルで温めたり冷やしたりする。
「魔法が使えなくても、物を温める方法はあるのさ。」
両手を擦り合わせて温かくさせて、ようやくエスターに納得してもらえた。
5日後、二人は目的地にたどりついた。




