大道芸
月日は過ぎ、僕らは12歳になった。
弟オルテガに剣士の才能があるのは間違いなかった。父とは目を合わせることもなくなり、僕は屋敷内で空気のような存在になっていた。
なんとなく、後継ぎは弟なのだろうと思っていた。ならば僕はどうするか。冒険者になろう。そのためにも鍛錬は欠かさずにいた。
運命の日。
一家そろって教会へ赴き、僕と弟は神託の儀に臨んだ。
「リースリング、祈りなさい。」
司祭の前に進み出て、僕は両膝をついて祈った。
「お告げがありました。そなたは…探索者、一般職である。」
聞いたことのないジョブ。誰もがポカンとしている。
「そなたは世界中を旅しなさいと神はおっしゃいました。」
司祭は続ける。
「固有スキルは、振動操作、じゃな。」
これも聞いたことがない。
「いったいそれは?」
「男爵殿、物を揺らすことができるようですな。」
「それが…何の役に立つ?」
「うむ、手品か大道芸のようなものかと。」
最近こちらの教区に来たばかりの司祭は僕の母を知らずに、迂闊にも大道芸と口にしてしまった。父は顔を真っ赤にして両手をきつく握り締め、プルプル震えた。
「もういい、次だッ!」
僕はその場から引きずられて脇へと追いやられた。
「オルテガ殿は、聖騎士。正義のためにその剣を振るうようにと、神はおっしゃいました。」
弟は聖騎士を授かった。
その後のことはあまり思い出したくない。
これが最後だと父に言われ、弟と木剣で打ち合いをした。
昨日とは別人の弟の剣に完敗。これが聖騎士の力なのか。
父の部屋に呼ばれ、僕は除籍されて平民になった。
貴族には兵役義務があるのだが、一般職では入れない部隊に配属されるからだという。
まあ、便利なタテマエである。
屋敷から追い出され、裏庭の小屋に住めと言われた。
いやなら黙って出て行けということか。
他所の貴族なら結構な数の金貨を持たせて送り出すのにな。
以前、庭師の住んでいたボロ小屋で、僕は呆然としていた。
どうしてこうなった?
硬いベッドに腰かけて頭を抱えていると、足音がした。
入口の扉を開くと、立ち去るメイドの後ろ姿が見えた。
扉の横に食事を載せたトレイが置いてあった。
一言もナシかよ…。
小さなテーブルにトレイを自分で置く。
野菜と肉のかけらが入った薄いスープと黒パン。
冷めてしまっている。
固いパンをぬるいスープに浸してかじると、涙が出てくる。
みじめだな。
「レンチン出来たらいいのにな。」
電子レンジを思い浮かべたとき、たくさんの記憶が一気に甦ってきた。




