世界の屋根
標高6000メートルを超えると、山はいよいよ人類を厳しく拒絶するようになる。現代のハイテク装備のない世界、酸素ボンベもない中でリースはスキルを駆使して挑む。期待が液化する温度の違いを利用して空気から酸素を分離、液体酸素を得た。それを収納にストックしておいたのだ。吸入が必要な時に取り出して使用すればいいのだ。
凍傷防止にも気を配って、メンバーの手足、指先が冷えないようにしていた。火の魔石を使った装備を試作、メンバーに装着させている。評判も良いので、商会でいつか売り出せるだろう。
それでも困難は訪れる。アルピニストでもない一般の冒険者に切り立った岩壁が立ちはだかる。
「あれを登るのか?迂回出来ないか?」
「そっちは雪崩が起きそうだからダメだよ、エスター。」
仕方ない。奥の手を使うか。
「エスター、ガイアの大穴の脱出でやったあれをやろう。」
「あれか!」
エスターはリースにおぶさった。重力操作スキルを使って浮くと、壁の上まで上昇する。
「浮いた!」
マグダレーナもびっくり。リースは重力スキルを繊細に操作して、着地点に移動する。続いてマグダレーナを運び上げる。
「こんなの初めてです♪」
空中を浮遊する初めての体験にはしゃぐマグダレーナ。次いでルクレツィア。
「お姫様抱っこは‥‥。してくれないんだね?」
「今は一般人だろ?」
呪詛の邪気に当てられて半病人になったり、高山病にかかったりのルクレツィアだったが、こんな冗談が言えるまでには回復していた。
45度を超える急斜面、オーバーハングの断崖絶壁、難所の連続を乗り越えてついに、頂上が目視できる位置に一行はたどり着いた。交代で酸素を吸いながら這いつくばるように進みながらようやく。
(まさかエベレスト登頂をすることになるとは‥‥。)
縦に二つに割れた大きな岩の前、ちょっとしたスペースがあった。ここが最後のビバーク場所になる。リースたちはテントを設営して、明日のアタックに向けての休息をとった。
いよいよ明日、ラストアタック。狭いテントに寝袋が四つ並んでいる。リースの隣、エスターの寝袋がモソモソ動いた。
「眠れないのか?」
リースが声をかけると、エスターが返事をした。
「まあな。ちょっと興奮してるな‥‥。君といると飽きないよ。次々と面白い出来事があって。」
「そりゃどうも。」
「なあリース。日の聖竜は精霊王の居場所を知っていると思うか?」
「分からない。でも、ヒントはくれそうな気がするんだ。」
「そうか‥‥。そうだな。」
「そうだよ。おやすみ、エスター。」
「おやすみ、リース。」




